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金型・治具の無償保管を解消する実務―保管料・返却・廃棄承認と図面の取扱い(AI作成)

第1 型の保管と製造委託を一緒に確認する

量産に使った金型や治具について,次の発注時期が決まらないまま受注者の倉庫で保管が続き,返却も廃棄も進まないことがある。
この問題は,型の所有者を確認するだけでは解決しない。
誰のために保管しているか,誰が廃棄を決められるか,保管期間中の費用を誰が負担するかを確認する必要がある。

本記事は令和8年9月10日現在の法令及び公正取引委員会の公表資料に基づき,取適法対象の製造委託に伴う型等の保管を中心に説明する。
台帳,費用計算及び協議手順は,本記事が示す実務上の提案である。
制度全体は,取適法の企業実務を参照されたい。

第2 所有権と事実上の管理を区別する

公取委Q&A・Q119は,部品等の発注を長期間行わない等の事情があるにもかかわらず,保管費用を支払わずに型等を保管させる場合には,不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあるとしている。
同Q&Aの型等には,金型,木型,治具,検具及び製造設備等が含まれる。

発注者所有の型だけでなく,他の者が所有し,発注者が事実上管理している型も対象となる。
例えば,受注者所有であっても,廃棄に発注者の承認が必要な場合が挙げられている。
「受注者の資産だから,保管料は一切支払わない」という処理は適切でない。

他方,型等の保管に関するこの説明と,取適法2条1項によってその型・工具自体の製造委託が対象となる範囲は,区別する必要がある。
同項が対象とするのは,所定の物品等の製造に専ら用いる成形用の型や特殊な工具等であり,あらゆる汎用機械の購入を一律に製造委託とするものではない(取適法2条1項運用基準第2の1-1)。

第3 1年間の無償保管期間があるわけではない

Q119には,長期間発注がない場合のほか,受注者が廃棄・引取りを希望している場合,次回の具体的な発注時期を示せない場合,再使用が想定されていない場合が挙げられている。
これらは個別の事情を示すものであり,最終稼働から1年間は常に無償保管を求めてよいという基準ではない。

また,受注者が請求していないことを理由として,当然に保管費用の支払が不要になるわけではない。
同Q&Aは,請求の有無にかかわらず保管期間に応じた費用を支払う必要があること,保管の継続と廃棄・回収について協議すべきことを示している。

保管費用の対象となる期間について,同Q&Aは型等を用いる部品等の発注が行われていない期間と説明している。
稼働状況の常時把握が過度な負担となる場合には,双方の協議により年度ごとの発注状況を確認し,当該年度の保管期間に応じた費用をまとめて支払う方法も許容される。
これを,型そのものの製造代金の支払を年末まで繰り延べてよいという意味に広げてはならない(公取委Q&A・Q119)。

第4 最初に作る型の台帳

区分記録する内容
特定型番号,名称,写真,対応する部品・製品,保管場所
権利・管理所有者,製作費の負担者,廃棄・移転の承認者
稼働最終発注日,最終使用日,今後の発注・補修用部品の予定
現状数量,寸法,占有面積,重量,劣化・補修の状況
費用倉庫,運送,点検,防錆,補修等の費目と資料
協議保管・返却・廃棄の希望,照会日,回答,合意内容
終了処理引取り日,廃棄日,写真・証明書,関連データの処理

製作費を誰が支払ったかと,所有権が誰に帰属するかは,契約等によって確認する。
台帳には分からない項目を推測で埋めず,所有権未確認,承認条項未確認等と記録する。
補修用部品の供給義務がある場合も,供給期間と型の保管条件が対応しているかを確かめる。

第5 保管費用の協議を具体化する

1 外部倉庫の賃料だけに限定しない

公取委は,保管費用として,自社倉庫の使用料相当額,外部倉庫の使用料,倉庫等への運送費及びメンテナンス費用等を挙げている。
自社倉庫に空きがあることだけで,経済的な負担がないと扱わない。
実際の費目と期間を整理し,同じ費用を重ねて計上しない方法で協議する(Q119)。

2 費用計算の説明例

協議用の計算表としては,保管場所の費用を占有面積等で配分し,これに個別の運送・点検・防錆等の費用を加える方法が考えられる。
これは法定の計算式ではなく,双方が根拠を確認するための一例である。
面積単価,配分方法,対象期間,作業内容及び証憑を示し,一方だけの算定を当然の確定額としない。

部品単価に保管費が含まれると主張する場合は,含まれる費目,対象期間及び数量の前提を確認する。
発注が止まった後も同じ条件で賄われるのかは別問題である。
型の製作費,部品の加工代金,稼働中の維持費及び発注がない期間の保管費を分けると,重複と不足を見つけやすい。

3 過去の保管費と将来の条件を分ける

既に無償保管が続いている場合は,最終発注,廃棄・引取りの申入れ,回答及び費用の資料を整理する。
過去の負担の是正と,将来の有償保管条件・回収予定を別欄で協議することが望ましい。

取適法上の違反評価・原状回復と,裁判で保管費を請求する場合の契約上その他の請求根拠,金額及び時効は,同じ問題ではない。
行政資料の費目例だけから,個別の民事請求額が当然に確定すると扱わない。

4 過去の保管費を是正対象とした勧告

過去分の負担が行政上の是正対象となった例として,令和8年9月3日の株式会社ニチリンに対する勧告がある。
公表資料は,長期間発注のない金型等の無償保管について,一部費用等978万9525円が支払われ,残る費用の支払等が勧告されたことを示している。
ただし,同件の適用法は経過措置による改正前の下請法であり,勧告日が令和8年だからという理由で現行取適法による処分と記載してはならない。
また,この公表額や調査対象期間は,民事請求の単価や消滅時効を一般的に定めるものではない。

5 民事請求の根拠を分けて組み立てる

根拠成立のために確認する事項金額の考え方・弱点
保管料の合意明示又は黙示の有償合意,単価,対象型,開始日,支払期日合意額が出発点となる。後から請求書を出しただけでは過去の合意を作れない。
商法512条の相当報酬商人が営業の範囲内で他人のために保管等をしたこと,無償又は代金内包の合意の有無相当な報酬の立証が必要となる。従前の無償合意や製品代金に含めた事情は相手方の反論となる。
寄託に伴う必要費寄託関係,実際に支出した保管・保存のための必要費,未精算額民法665条・650条1項等を検討する。自社スペースの市場賃料相当額や利益が当然に全額必要費となるわけではない。
受領遅滞による増加費用返還義務の履行の提供,相手方の受領拒否・受領不能,それによる費用増加民法413条2項を検討する。適切な返還提供前の全期間の費用を,この条文だけで請求することはできない。
債務不履行・不法行為引取り等の義務と違反,又は違法な負担転嫁・故意過失,因果関係及び損害民法415条・709条等による。取適法上問題があるという評価から,私法上の損害額が自動的に確定するわけではない。
不当利得等法律上の原因のない相手方の利得,受注者の損失及び対応関係民法703条等を検討する。有効な無償合意がある場合は,そのままでは法律上の原因がないとはいえない。

根拠条文は民法及び商法で確認した。
同じ保管について複数の構成が考えられても,同一費用をそれぞれ全額加算して請求することはできない。
訴訟では,主位的・予備的な請求原因と,それぞれの請求期間・算定根拠を明確に分けるべきである。

事務管理に基づく費用償還は,そもそも契約上の義務なく他人の事務を管理したといえるかを確認する必要がある。
民法697条・702条の要件を検討し,本人の意思に反する管理の場合には現存利益の限度という問題もあるため,保管料請求の万能な代替構成とは扱わない。

6 無償合意がある場合の処理

「無償保管の合意があるから,行政法上も常に問題がない」という説明は適切でない。
一方,「取適法上問題があるから,無償合意は当然に無効で,過去分の市場賃料をすべて請求できる」という説明も飛躍がある。
契約の範囲・期間の解釈,公序良俗等による効力の問題,取引上の優越性や受注者の負担の実態を具体的に検討する必要がある。

製造期間中の必要保管まで製品代金に織り込んでいたのか,量産終了後の長期保管も含めていたのか,補修品供給義務と保管期間の合意があったのかを区別する。
過去分について契約解釈上の争いがあっても,将来の保管料,返還日又は廃棄方法の合意を先行して整えることはできる。
その際,将来分の合意が過去分の請求権放棄や全面的な清算と読まれないように留保を明記する。

7 金額立証のための台帳と証拠

①型ごとの識別資料として,型番号,写真,図面番号,寸法,重量,所有者,発注者,保管場所,廃棄承認権限者及び他の製品への転用可能性を一覧化する。
同じ型を複数の顧客に用いる場合は,どの顧客にどの費用を配賦するかも示す。

②期間の資料として,最終発注日,最終使用日,量産終了通知,補修品の供給予定,保管要請,返還・廃棄の照会,相手方の回答及び各通知の到達を並べる。
「発注がなくなった日」と「相当報酬の発生開始日」又は「受領遅滞の開始日」が当然に一致するとは扱わない。

③費用の資料として,賃貸借契約,賃料請求書,床面積図,棚や通路の配賦根拠,倉庫業者の見積書,運送・防錆・点検の請求書,作業日報及び人件費資料を保存する。
自社所有倉庫の場合,費用の実額による積上げと,第三者の倉庫料等による使用料相当額の評価を区別する。

④精算の資料として,既払保管料,製品代金に含めた額,他の顧客の負担額,補助金等の扱い及びスクラップ売却額を確認する。
全社の倉庫費を一社に集中させる計算,賃料と同じ施設の減価償却費の二重計上,通常作業と保管作業の人件費の重複は避ける。

8 保管費・作業費・運送費の計算例

仮に,配賦対象となる倉庫の月額費用が32万円,対応する有効面積が400㎡,対象型の合理的な配賦面積が30㎡,請求対象期間が24か月であるとする。
通路等を対象型の面積に配賦する場合は,全体の面積と費用の配賦方法も整合させる。

費目計算金額
保管場所32万円÷400㎡×30㎡×24か月57万6000円
点検・防錆等の作業月2時間×時間単価3000円×24か月14万4000円
実施済みの運送証憑で確認できる実額4万円
既払額の控除重複を避けるための控除マイナス8万円
合計57万6000円+14万4000円+4万円-8万円68万円

この例は説明のための計算であり,公定料金でも裁判所の認定相場でもない。
相当報酬を求める場合には市場の保管料や契約実務も資料となる一方,必要費の償還を求める場合には実際に支出した必要費であることが中心となる。
同じ表を用いる場合でも,請求根拠ごとに採用できる費目と期間を検討し,営業上の利益を当然に必要費へ加算しない。

9 時効と権利保全

現行民法166条による債権の消滅時効は,権利を行使できることを知った時から5年,又は権利を行使できる時から10年という二つの期間を確認する必要がある。
月額保管料であれば各支払期日の特定が重要であり,まとめて請求書を発行した日からすべての時効が新たに始まるものではない。
古い保管や合意については令和2年4月1日施行の債権法改正の経過措置及び旧法上の期間を別途確認し,一律に現行法の5年で計算しない。

催告は民法150条の完成猶予の問題となるが,同じ催告を繰り返せば無期限に猶予されるわけではない。
書面による協議合意,債務の承認,裁判上の請求等は,それぞれ成立要件と効果を確認する必要がある。
単に「担当者と話し合っている」「行政機関へ相談した」という事情だけで民事上の時効が止まると考えてはならない。
根拠は民法147条・150条~152条・166条・724条である。

第6 返却・廃棄は回答期限と実行まで決める

型の整理では,①保管対象の確認,②継続保管・回収・廃棄の選択,③費用・実施日の合意,④搬出又は廃棄,⑤台帳の更新という順序が考えられる。
回答期限だけを定めても,実施者,運送費,積込み及び廃棄費用が決まっていなければ,処理は進まない。

選択合意しておく内容
保管を継続対象,期間,費用,支払日,見直し日,再使用時の点検
発注者等が回収引取り先,実施日,搬出担当,運送費,受領確認
廃棄所有者・承認権者の承認,実施者,費用,証明方法
結論が出ない再協議日,暫定保管の費用,社内の上位担当者への連絡

交渉文案としては,「対象型について,保管継続,回収又は廃棄のいずれとするかを協議し,実施日及び費用負担を書面又は電磁的方法により定める」といった骨格が考えられる。
返信がないことを直ちに廃棄の承認と扱わず,所有権,合意内容及び承認権限を確かめる必要がある。
過去の合意だけでは処分できない場合の通知・保管継続の対応は,個別に検討する。

1 所有権と処分権限を確認する

所有者,製作費の負担者,取引上の発注者,貸与者及び廃棄承認者は一致するとは限らない。
発注者より上流の完成品メーカーが所有し,発注者には廃棄を承認する権限がない場合も想定して,所有権を示す契約・貸与台帳等と権限を確認する必要がある。
型自体の処分と,図面・加工データ・営業秘密の削除は別の対象であり,一方の承認だけで他方の処分まで承認されたとは扱わない。

相手方所有の型は,保管料が未払であるという理由だけで受注者の所有物になるものではない。
受注者所有の型でも,供給義務や保管義務,担保設定,共有関係等が残っていれば,直ちに自由な処分ができるとは限らない。

2 無回答後の廃棄を違法としなかった裁判例

東京高等裁判所平成16年6月23日判決・平成15年(ネ)第5898号は,金型の廃棄に関する主張を判断している。
相手方が送った「指示まで保管するよう求める書面」は一方的な書面であり,それだけから指示書なしに廃棄しない合意があったとは認められないとした。
また,対象商品の取引が途絶えた後,処理方法を問い合わせ,指示がなければ廃棄する旨を通知したのに何ら指示がなかったという事情の下で,当該廃棄を違法とはいえないとした(PDF実頁3頁)。

これは,保管合意の認定,取引終了,通知及び無回答という具体的事情を踏まえた判断である。
一定日数の通知だけであらゆる金型を適法に廃棄できるという一般的なルールや,無回答を常に所有権放棄とみなす法理を示した判決ではない。
特に,明示の廃棄承認条項,補修品供給義務,上流企業の所有権又は紛争中の証拠保全がある場合には,その違いを検討する必要がある。

3 返還の提供と増加費用を記録する

寄託で返還時期の定めがない場合には,民法663条1項により受寄者からいつでも返還できるという規律がある。
返還時期の定めがある場合には同条2項の問題となり,製造契約や補修品供給契約を含む継続的な取引関係では,寄託の条文だけで全体を終了できるとは限らない。
返還場所も民法664条と契約の定めを確認する。

返還の提供は,相手方が現実に受け取れる内容で行う必要がある。
型番号・数量・状態,引渡場所,荷役方法,引渡可能日及び担当窓口を示し,必要な準備を整える。
相手方があらかじめ受領を拒んでいる場合や,受領に相手方の行為を要する場合は,民法493条ただし書による提供を検討するが,抽象的に「取りに来てほしい」と一度伝えただけで必ず足りるとはいえない。

適切な提供後の受領遅滞による増加費用は,民法413条2項の検討対象となる。
そのため,提供前からの通常保管費,提供後に増えた外部倉庫・再運送等の費用,その他の損害を分けて記録する必要がある。
無償保管中であっても,商人が営業の範囲内で受託した場合の注意義務は商法595条で確認し,単に無償であるという理由で保管水準を下げない。

4 第三者倉庫・供託・競売代価の供託

外部倉庫に移せば,それだけで返還義務が消滅するわけではない。
寄託物を第三者に保管させることについては民法658条2項の承諾又はやむを得ない事由等を確認し,運送・保管中の危険,秘密保持及び費用負担を整理する。

受領拒否等がある場合,民法494条の弁済供託を検討できる。
金型のように通常の供託所で扱いにくい物については,民法495条2項に基づく供託所の指定・保管者の選任,及び非訟事件手続法94条による裁判手続が問題となる。
物を任意の倉庫へ移すことと,供託としての要件を満たすことは別である。

民法497条は,供託に適しない,滅失・損傷等のおそれがある,保存に過分の費用を要する等の場合について,裁判所の許可を得て競売し,その代価を供託する手続を定める。
許可事件は非訟事件手続法95条による。
これは裁判所の許可を要する換価・供託の手続であり,受注者が自己判断でスクラップ処分し,代金だけを保管しておけばよいという制度ではない。

根拠は民法494条~497条・658条及び非訟事件手続法94条・95条である。
専用品で売却価値がない場合,秘密情報を含み競売に適さない場合,処分費が売却代金を上回る場合には,競売代価の供託が実務上適切に機能するかを個別に検討する必要がある。
競売が困難であることから,直ちに無断廃棄が許されるという結論にはならない。

5 引取り・撤去請求と留置権

合意による処分ができず,保管の継続も困難である場合には,相手方の引取り義務・撤去義務の根拠と,義務者及び対象物を特定して履行を求めることが考えられる。
必要に応じて,具体的な撤去義務等を命じる債務名義を取得し,民事執行法171条の代替執行等による実現を検討する。
引取りを求めたことだけで,当然に廃棄の代替執行まで認められるわけではなく,請求内容と執行可能性を検討する必要がある。

未払保管費については,民法295条の留置権や商法521条の商事留置権が成立する余地がある。
ただし,債権の弁済期,目的物との関係,商事留置権における債務者所有の要件等を確認する必要がある。
上流企業所有の型を,別法人である発注者への売掛金のため当然に留置できるとはいえない。

留置権は,無断使用・処分や所有権取得を当然に認める制度ではない。
民法298条の義務及び民事執行法195条の手続を確認する必要がある。
また,返還を求めながら自ら引渡しを拒んでいる場合には,その後の費用が相手方の受領遅滞によって増えたといえるかが問題になるため,保管解消と回収確保の方針を整合させる。

6 保管継続・返還・処分の通知書案

【件名:金型等の保管継続・返還・処分方法及び保管費用に関する協議のお願い】

別紙一覧の金型等について,最終の発注・使用状況及び現在の保管状況をお知らせします。
所有者及び処分権限者を確認の上,〔回答期限〕までに,①有償での保管継続,②指定日における返還・引取り,③権限ある者による廃棄承認のいずれを希望されるか,ご回答ください。
保管継続の場合は,対象物,予定期間,費用及び今後の発注見通しを協議したいと考えています。

返還をご希望の場合,当社は〔場所〕において,別紙の状態の金型等を〔引渡可能日・時間帯〕に引き渡す準備が可能です。
運送,荷役,受領者及び費用負担についてご連絡ください。
既に返還義務の履行として準備が完了している場合には,その事実と受領に必要な条件を別途具体的に記載します。

これまでに生じた保管費用等については,別紙の期間・算定根拠に基づいて協議を求めます。
今後の保管又は返還等について合意する場合も,別途明示的に合意しない限り,過去分の費用に関する当社の主張を放棄する趣旨ではありません。

期限までにご回答がない場合には,再度の協議の申入れ,費用請求及び法令上認められる供託・裁判手続等を検討します。
本書への無回答だけをもって,廃棄の承認又は所有権の放棄があったものとして処理することは予定していません。

回答期限には対象数,移送の難易度及び従前の協議状況に応じた相当な期間を置く。
例えば20営業日という期間を使う場合も,それは個別の提案であり法定期限ではない。
このひな形自体が民法493条の履行の提供を完成させるものではなく,実際の準備・通知内容と到達を別途確認する必要がある。

第7 型の納入と図面・CADデータの引渡しを分ける

1 図面が発注内容に含まれていたか

公取委Q&A・Q120は,発注時に明示した給付に含まれていない図面を,型の納入時に無償で提出させることについて,不当な経済上の利益の提供要請のおそれを指摘している。
図面も必要なら,別途の対価で買い取るか,あらかじめ図面を発注内容に含め,十分な協議によってその対価も含む代金を定める必要がある。
Q121は,知的財産権の譲渡・許諾の範囲を発注明示の内容に含めることも示している(公取委Q&A)。

納品物を「図面一式」とだけ定めると,閲覧用PDF,編集可能なCADデータ,加工条件,検査データ及び製造ノウハウのどこまでを含むか争いになる。
ファイル形式,対象の版,提供範囲及び価格を具体化することが望ましい。

2 物の所有権と情報の利用権は別に決める

型を買い取ったことから,受注者の全ての技術情報を自由に取得・利用できるとの結論は出ない。
図面・データについても,納入義務,知的財産権の譲渡・許諾,第三者への開示,再委託及び他製品への流用を分けて合意する。
既存のノウハウを対象から除外する場合には,何を除外するかを一覧化しておくとよい。

著作物に当たる図面等の著作権を譲渡する場合には,著作権法59条・61条の著作者人格権と譲渡範囲の規律も確認する。
ただし,情報の保護が全て著作権だけで決まるわけではないため,秘密保持・利用目的の制限を契約で整える必要がある。
知財紛争の責任分担は,特許保証と知財紛争の責任転嫁で説明している。

第8 基本契約と社内運用に反映する

型の管理条件は,製造委託の基本契約,型の貸与・保管に関する合意及び個別の台帳が同じ内容になるよう整える。
契約終了後も補修用部品の供給が続く場合には,その期間と保管条件を明示し,供給義務だけが残って保管費用が決まらない状態を避ける。

発注者側では購買担当者だけでなく,設計,品質保証,資産管理及び経理の間で回収・廃棄を決められるようにする。
受注者側では,製造現場の保管実態と契約担当者の認識が一致するよう定期的に台帳を確認する。
契約終了時の精算全体は,受注者側の取引基本契約審査を参照されたい。

第9 出典

取適法(e-Gov)2条1項,4条,5条2項2号。
公正取引委員会・取適法運用基準第2の1-1,第4の7。
公正取引委員会・取適法Q&AQ119~121。
公正取引委員会・中小企業庁・特許庁「知財取引指針」及び契約書ひな形(令和8年6月24日公表)。
著作権法(e-Gov)59条,61条。

民法(e-Gov),147条,150条~152条,166条,295条,298条,413条,415条,493条~497条,650条,658条,663条~665条,697条,702条~704条,709条及び724条。
商法(e-Gov),512条,521条及び595条。
非訟事件手続法(e-Gov),94条・95条,及び民事執行法(e-Gov),171条・195条。
東京高等裁判所平成16年6月23日判決・平成15年(ネ)第5898号,PDF実頁3頁。
公正取引委員会・株式会社ニチリンに対する勧告(令和8年9月3日)。