第1 面会できない理由を最初に確認する
1 入所と面会制限は別の判断である
高齢者が特別養護老人ホームに入所した後,家族が面会を断られても,入所の法的根拠と面会を断る根拠は同じとは限らない。
老人福祉法11条1項2号の入所措置又は3号の養護委託がある場合に限り,高齢者虐待防止法13条に基づく養護者との面会制限が問題となる。
契約による施設入所や病院への入院の場合,高齢者虐待防止法13条をそのまま面会制限の根拠にはできない。
家族は,まず「誰が,いつ,誰を対象に,どの根拠で,どの範囲の面会を制限したか」を確認する必要がある。
口頭で「市の方針」「施設の方針」と説明された場合も,市町村長又は施設長による13条の決定なのか,施設管理上の対応なのか,本人の意思に基づく対応なのかを分けて尋ねる。
2 根拠ごとに確認事項が変わる
13条に基づく面会制限では,老人福祉法11条1項2号又は3号の措置,決定者,対象者,通知書,理由及び不服申立ての教示を確認する。
施設管理上の対応では,施設の判断者,安全上の理由,期間及び市町村との役割分担を確認する。
本人の意思による面会拒否では,本人の現在の意思とその確認方法を確かめる。
契約入所又は入院中の制限では,契約,施設管理又は医療上の根拠と判断者を確認する。
以上は手続を見分けるための整理であり,個別の面会を当然に認めるものではない。
高齢者本人の意思と安全は,いずれの場合にも確認する。
第2 13条に基づく面会制限の要件と手続
1 対象者と措置の種類
高齢者虐待防止法13条は,養護者による虐待を受けた高齢者について老人福祉法11条1項2号又は3号の措置が採られた場合に,市町村長又は当該措置に係る養介護施設の長が,虐待の防止及び本人の保護の観点から,虐待を行った養護者との面会を制限できると定める。
家族であるというだけで全員が13条の対象者になるわけではない。
老人福祉法10条の4による措置,契約入所及び入院については,この13条の前提を満たすかを別に確認する。
2 弁明,理由及び不服申立ての教示
厚生労働省の令和8年3月改訂マニュアルは,13条に基づく面会制限の決定を行政処分として扱い,行政手続法に従う必要があると説明する。
原則として処分前に高齢者及び養護者に弁明の機会を与え,処分の内容と具体的な理由を書面で示し,審査請求・取消訴訟について教示する。
公益上緊急に処分する必要があるときは弁明の機会を省略でき,差し迫った必要があるときは同時の理由提示も省略できるが,後者の場合は原則として処分後相当の期間内に理由を書面で示す必要がある。
したがって,事前手続がなかった場合も,緊急性の説明,通知書,理由書及び教示の有無を確認する。
行政不服審査法18条による審査請求は,原則として処分を知った日の翌日から3か月以内かつ処分の日の翌日から1年以内である。
行政事件訴訟法14条による取消訴訟は,原則として処分を知った日から6か月以内かつ処分の日から1年以内である。
期間の例外や起算点は個別に確認する。
第3 施設の対応と大阪市の公開資料
1 施設管理上の対応を区別する
厚労省マニュアルは,契約入所や入院には13条に基づく面会制限の規定がない一方,施設が管理上の権限で面会を制限する場合があると説明する。
施設の対応を直ちに13条の処分と扱って審査請求をするのではなく,施設長の判断なのか,市町村からの依頼なのか,面会を断る具体的理由と期間を確認する。
入所先の秘匿が必要とされる場合もあり,住所の開示と面会方法の調整は分けて検討する。
2 公開された大阪市の運用文書から確認できること
大阪市福祉局「やむを得ない事由による措置関係事務」(令和5年4月)は,措置開始の決定通知と措置廃止の事務を分けて示している。
大阪市「高齢者虐待対応マニュアル」(令和6年4月改訂版)は,面会の可否を本人の意思,心身の状態及び養護者の状況から検討し,施設と保健福祉センターが対応を調整する流れを記載している。
これらは山中弁護士ブログに公開された大阪市の情報公開文書であり,記載された運用の時点は令和5年又は令和6年である。
現行の全国共通の手続は,令和8年3月改訂の厚労省マニュアルと法令で確認する。
第4 面会制限の期間と見直し
1 本人の意思と危険性を再評価する
厚労省マニュアルは,面会制限を決める際に,当面の期間,定期的な評価の時期及び解除の要件を検討するよう求めている。
解除の判断では,本人に面会の意思があるか,心身の状態が安定しているか,養護者の態度や生活状況が変化したかなどを総合的に確認する。
判断の対象は制限開始時だけではなく,見直し時点の事情である。
2 段階的な面会方法
面会が可能と判断されても,直ちに制限を全面的に解除するとは限らない。
厚労省マニュアルは,職員同席,時間を区切った面会,施設以外の場所での一時的な面会など,安全を確保した段階的な方法を挙げる。
家族が見直しを求めるときは,本人の意思確認の方法,次の評価時期,面会を試行する条件,立会者及び実施後の評価方法を尋ねると,判断の焦点が明確になる。
第5 入所措置,後見及び費用との関係
面会制限の見直しと,老人福祉法11条による入所措置の廃止は,別の判断である。
また,成年後見人等の選任は,契約を支援する主体を確保する事情となるが,厚労省マニュアルは,選任だけで一律に措置を契約へ切り替えたり面会制限を解除したりしないよう留意を求めている。
老人福祉法28条に基づく費用徴収の決定も,面会制限とは名宛人と争う対象を分けて検討する。
措置入所の要件と家族の手続は,親への虐待を疑われた家族が措置入所・面会制限に直面したときにできることで,措置制度の全体は,老人福祉法の「やむを得ない事由による措置」で整理している。
第6 出典
1 法令・国の資料
高齢者虐待防止法9条・13条,老人福祉法11条・28条,行政手続法13条・14条,行政不服審査法18条・82条及び行政事件訴訟法14条・46条。
厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」令和8年3月改訂・第Ⅱ章74~77頁。
2 大阪市の公開文書
大阪市福祉局「やむを得ない事由による措置関係事務」令和5年4月。
大阪市「高齢者虐待対応マニュアル」令和6年4月改訂版。