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平成22年度最高裁民事破棄判決等の実情―67判決・3決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

平成22年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」は,個別判例の結論を並べた資料ではなく,最高裁が原審のどの判断工程を問題としたかを横断的に検討できる資料である。
本記事では,破棄判決67件・破棄決定3件の全体像を示した上で,手続入口,当事者・請求,適用規範,事実認定の推論鎖,法律効果・計算,救済・差戻し後という六段階の監査手順に整理する。

第1 対象資料と読み方

1 対象は平成22年中の最高裁民事事件である

田中秀幸・倉地康弘「最高裁民事破棄判決等の実情―平成22年度―」(判例時報2115号,2116号及び2118号)は,平成22年中に最高裁で終局した民事・行政・労働事件のうち,破棄判決及び破棄決定を中心に整理したものである。
「年度」と題されているが,対象期間を会計年度と読み替えてはならない。

2 年次論文と一次資料を区別する

年次論文は,事件の所在,破棄理由及び原審の誤りを把握するための有力な二次資料である。しかし,個別事件の判示,射程,反対意見及び現在の実務への当てはめは,裁判所が公表する判決・決定本文又は判例秘書等の判決・決定本文で確認する必要がある。
本記事で示す件数は年次論文の集計に基づく。個別判例については,後記第8のとおり,裁判所公表本文を確認したもの,後続の裁判所公表判例による引用を確認したもの,判例秘書の収録メタデータだけを確認したものを区別した。

第2 平成22年の件数と破棄の内訳

1 新受・既済件数

区分件数留意点
新受・上告事件2566件形式上の事件数
新受・上告受理申立て事件2988件形式上の事件数
並行申立てを1件換算した新受3493件上告と受理申立ての重複を調整した値
既済・上告事件2315件形式上の事件数
既済・上告受理申立て事件2750件形式上の事件数
並行申立てを1件換算した既済3196件上告と受理申立ての重複を調整した値
許可抗告新受58件・既済47件通常上告等とは別の母集団

上告事件と上告受理申立て事件の単純合計は,新受5554件,既済5085件である。ただし,同一事件について両方が申し立てられる場合があるため,事件数の比較には調整済みの3493件・3196件を用いる必要がある。

2 破棄判決67件・破棄決定3件

破棄判決は67件であり,論旨による破棄62件,職権による破棄5件である。民集登載20件,集民登載32件,いずれにも登載されないもの15件である。
結論は,破棄差戻し38件,破棄自判28件,一部差戻し・一部自判1件である。破棄決定3件はいずれも論旨に基づく破棄自判であり,文書提出命令関係2件と振替株式関係1件を含む。

破棄判決67件を調整済み既済3196件で割ると約2.1%,破棄決定3件を既済許可抗告47件で割ると約6.4%である。しかし,これは平成22年中の処理統計であって,上告人又は申立人の勝訴率ではない。破棄差戻しも最終勝訴を意味しない。

第3 原判決を六段階で監査する

分野を問わず,原判決の監査順序を次の六段階に固定すると,破棄理由と差戻し後の準備を接続しやすい。

①手続入口:当事者適格,必要的共同訴訟,訴えの利益,管轄,通知,対抗要件その他の職権調査事項を本案より先に確認する。
②当事者・請求・主張:誰が誰に対し,どの権利又は手続上の地位を,どの請求原因・抗弁・再抗弁で争うかを分ける。
③適用規範:原審が法令,制度目的,契約構造又は最高裁規範のどこを取り違えたかを一文にする。
④事実認定の推論鎖:「基礎事実→中間推認→最終認定」に分解し,各矢印を支える証拠と経験則を示す。
⑤法律効果・計算:無効,取消し,対抗不能,返還,損害,課税対象,元本的部分及び収益的部分を分ける。
⑥救済と差戻し後:破棄自判か破棄差戻しかを確認し,最高裁が確定した規範と,未確定の事実・因果関係・損害・特段の事情を分ける。

第4 手続入口と証拠評価の重要判例

1 固有必要的共同訴訟と不利益変更

最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決(平成20年(オ)第999号,民集64巻2号498頁)は,共同相続人全員の間で合一にのみ確定すべき相続人たる地位不存在確認請求を固有必要的共同訴訟とした上で,合一確定に必要な限度では,原告が上訴又は附帯上訴をしていなくても原判決を当事者に不利益に変更できるとした。
「誰が控訴したか」だけで処分範囲を決めず,訴訟共同の類型,判決効の合一確定,上訴不可分及び各当事者に対する審理の程度を先に図示する必要がある。詳しくは,民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加で整理している。

2 説明書面の存在と契約前の交付は別である

最高裁平成22年7月16日第二小法廷判決(平成21年(受)第120号,集民234号307頁)は,公正証書に説明書面の交付を確認する条項があり,借主がその内容を承認していたとしても,そのことだけから,定期建物賃貸借の契約締結前に別個の説明書面が実際に交付されたと認定することは経験則又は採証法則に反するとした。
書面の内容,交付又は提供の日時,受領者,説明担当者及び契約締結との先後関係を別々の要証事実として立証する必要がある。平成24年9月13日判決が扱った「契約書と説明書面を同一書面で足りるか」という問題と混同してはならない。詳しくは,貸主から定期借家契約への切替えを打診された借家人の注意事項で整理している。

第5 権利・価値を主体別・時間軸で分解する

1 所有権留保と別除権

最高裁平成22年6月4日第二小法廷判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁)は,販売会社,信販会社及び買主の三者関係において,信販会社が独自に有する留保所有権を民事再生手続で行使するための対抗要件を扱った。
「所有権留保」という名称だけで結論を出さず,誰のどの債権を担保する権利か,所有権がどの合意により誰から誰へ移転するか,手続開始時の登録名義は誰かを分ける必要がある。後続判例による事案の区別を含む実務上の整理は,倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理を参照されたい。

2 相続時の価値と取得後の収益

最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決(平成20年(行ヒ)第16号,民集64巻5号1277頁)は,年金払特約付き生命保険の年金について,相続税の課税対象となった年金受給権の経済的価値に対応する部分と,その後の運用収益的部分を区別した。
「相続税が課されたから後の受領額は全部所得税の課税対象外である」と一括せず,受給権取得時の現在価値,各年の受領額,元本的回収部分及び収益的部分を時間軸で分ける必要がある。当時の所得税法9条1項15号は,現行法では同項17号に相当する。詳しくは,弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金解約,国債,年金等の実務で整理している。

第6 許可抗告では本案前の資格・通知・提出義務を確認する

最高裁平成22年12月7日第三小法廷決定(平成22年(許)第9号,民集64巻8号2003頁)は,振替株式について会社が株主たる地位を争う場合,株式買取価格決定申立事件の審理終結までに個別株主通知がされることを要するとした。
価格評価に入る前に,申立資格,個別株主通知,通知の相手方及び時期を確認する必要がある。

平成22年の破棄決定3件のうち2件は文書提出命令関係である。文書の内容の有利・不利より先に,提出義務,自己利用文書該当性,除外事由,特定の程度及び手続終結時までに満たすべき要件を確認する。関連判例は,文書提出命令に関する最高裁判例で整理している。

第7 相談・上訴・差戻し後のチェックリスト

①相談開始時は,当事者関係図と契約・権利移転図を別々に作り,職権調査事項,前置手続,通知,期間及び対抗要件を本案前に確認する。
②証拠評価では,要証事実ごとに直接証拠,間接事実及び反対事実を分け,「基礎事実→中間推認→最終認定」の各矢印に経験則があるかを検証する。
③上告・上告受理申立てでは,単なる事実誤認との表現にとどめず,経験則・論理則違反,法令解釈の誤り,判断遺脱,理由不備・食違い又は審理不尽という法的誤りに翻訳し,結論への影響を示す。
④差戻し後は,最高裁が拘束的に示した規範と未確定の事実を分け,最高裁が否定した推論を別の証拠で補えるか,損害額,因果関係,相殺,時効及び特段の事情のうち何が残るかを一覧化する。

第8 資料の確認状況と限界

①年次論文:判例時報2115号,2116号及び2118号掲載の全39頁を確認した。ただし,これは二次資料である。
②裁判所公表本文を確認した事件:平成20年(オ)第999号,平成21年(受)第120号及び平成22年(許)第9号のほか,本記事中に裁判所リンクを付した事件を確認した。
③後続の裁判所公表判例による引用・位置付けを確認した事件:平成21年(受)第284号の所有権留保事件,平成20年(行ヒ)第16号の年金課税事件及び文書提出命令関係の一部である。
④判例秘書:平成20年(オ)第999号は文献番号L06510016,平成21年(受)第120号はL06510084,平成21年(受)第284号はL06510071,平成20年(行ヒ)第16号はL06510078として,事件名,裁判日及び裁判体の収録メタデータを確認した。今回は判例秘書本文との逐語突合まではしていない。
⑤未確認範囲:67判決・3決定の全件について,裁判所公表本文又は判例秘書本文との逐語突合をしたものではない。判例検索で見つからないこと又は今回検索していないことを,判決不存在又はデータベース未収録とは評価していない。

現行法へ適用するときは,民事訴訟法,借地借家法,民事再生法及び所得税法の現行条文,施行日,経過措置並びに後続判例を具体的案件ごとに再確認する必要がある。