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元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)

傷病により従前の業務を通常どおり遂行できなくなった社員について,元の仕事ができないという一事から労務の受領を拒むことはできない。他方,職種を限定する合意がある場合には,別の業務への配置を一方的に命じることもできない。以下では,この二つの制約の関係を整理する。

第1 他の業務への配置可能性

最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第1230号・片山組事件)は,職種等を限定しない契約について,現に命じられた業務を十分にできなくても,現実に配置される可能性のある他の業務を遂行でき,その提供を申し出ている場合には,契約に沿った労務提供があるとした。

最高裁は,他業務への配置可能性を十分に検討しなかった原判決を破棄し,差し戻している。

同事件は自宅治療を命じられた期間の賃金等が問題となったものであり,休職期間満了時の復職要件を直接判断した事件ではない。

実務上は,契約上の職種限定,本人の能力・経験,企業の規模及び実際の配置・異動の状況を確認し,元の仕事ができないという理由だけで検討を終えないことが重要である。

治療と就業の両立支援指針5(5)ウは,職場復帰の可否について,①主治医の意見を求め,②これを産業医等に提供して意見を聴取し(産業医等がいない場合は主治医から提供を受けた情報を参考とし),③本人の意向を確認し,④復帰予定の職場の意見を聴取した上で,⑤これらを総合的に勘案し,配置転換も含めた職場復帰の可否を判断する,という順序を示している。

ただし,同判決から,存在しない仕事を常に新設する義務まで導くことはできない。

配置可能性を工程・動作ごとに確認する

他の業務への配置可能性は,「事務」「検査」「軽作業」といった職務名だけでは判断できない。現に存在する職務について,担当工程,必要な動作,危険要因及び実施可能な配慮を整理し,社員の現在の機能と照合する。

確認段階具体的に記録する事項
①職務の洗出し雇用契約上の職種・勤務地の範囲,本人の能力・経験,各事業場に現に存在する職務,欠員及び過去の配置・異動の実情。
②工程・動作立位・座位・歩行の時間,重量と取扱回数,持上げ高さ,前屈・中腰・ひねり,両手操作,階段・段差,暑熱・振動,車両・危険機械及び緊急時の退避。
③必要な機能歩行・平衡,握力・巧緻性,疼痛と疲労,注意・判断・反応速度及び作業後又は翌日までの回復。
④実施可能な配慮補助具,二人作業,工程変更,作業量又は時間の短縮,休憩,監督,危険作業の除外及び一時的な配置変更。
⑤判断と見直し可能な職務と不可能な職務,その理由,配慮の実施可能性,実施期間及び再評価日。

座って行う検査又は事務補助であっても,長時間座位,作業場所までの歩行,製品又は書類の持運び,段差,機械への接近若しくは緊急避難が必要であれば,当然に安全な軽作業となるわけではない。仕事の名称ではなく,実際の工程全体を確認する必要がある。

「軽作業がない」と判断する場合は,検討した職務・事業場,危険要因,業務分担の変更,補助具,二人作業,短時間勤務及び配置転換の可否と,採用できない具体的理由を記録する。主治医又は産業医等には,この職務情報を示した上で,通常業務,軽減業務,禁止業務及び再評価時期について意見を求める。

一時的な配慮又は既存業務の再配分を検討することと,会社に恒常的な新職務を創設することとは区別する。また,現時点で配置困難であっても,症状又は職場条件が変化する可能性があるときは再評価日を定める。

他方,最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決(令和5年(受)第604号)は,職種や業務内容を限定する合意がある場合,労働者の同意を得ずにされた異なる職種等への配置転換命令について,使用者が命令権を有することを前提として権利濫用に当たらないとした原審の判断には違法があるとして,原判決を破棄し差し戻した。

同判決は私傷病休職の事件ではないが,休職回避のために別業務への配置を検討する際にも,限定合意に反する命令をすることと,本人との合意によって別業務に従事する可能性を検討することを区別する必要がある。

職種限定があることだけから,他業務の検討が全て不要になるとも,元の職務ができなければ直ちに退職となるともいえない。

労働基準法施行規則5条1項1号の3及び厚生労働省の改正案内によれば,令和6年4月1日以降,契約締結時及び有期契約更新時の労働条件明示では,就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲も対象となっている。

労働条件通知書だけでなく,採用時の説明や個別合意も確認するのが適切であり,この改正は全ての在職者に休職開始時の通知書再交付を一律に命じる制度ではない。

障害者である労働者については,障害者雇用促進法36条の3の措置も検討対象となるが,過重な負担となる場合の例外がある。

同法2条1号は,障害者を,身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため,長期にわたり,職業生活に相当の制限を受け,又は職業生活を営むことが著しく困難な者と定義しており,障害者手帳の交付や特定の病名の確定診断を要件としていない。

したがって,診断が確定していない段階であっても,心身の機能の障害によって職業生活に長期の制限が生じている場合には,同法36条の3による措置の要否を検討する余地がある。

具体的職務についての能力と行政上の認定の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力の記事で説明している。

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第3 出典・参考資料

1 法令

⑦e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」2条,36条の3

⑪e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条1項1号の3,24条の7

2 裁判例

②最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決・平成7年(オ)第1230号・集民188号1頁(片山組事件)。

判決本文4頁~5頁。

⑥最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決・令和5年(受)第604号・集民271号109頁。

判決本文2頁~3頁。

3 法令に基づく指針

①厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)。

特に2,3(8),4(4),5(1)~(5),5(5)ウ・エ,5(7)~(8)。告示原文は厚生労働省告示第28号。

4 公的な解説・行政資料

⑨厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」。
⑩厚生労働省「職場における腰痛予防対策の推進について」。重量物,取扱回数,作業姿勢,立ち作業,座り作業,車両運転等の職務負荷を具体化するために参照した。