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勤務弁護士の労働者性と社会保険―契約名,勤務実態と裁判例から考える加入判断(AI作成)

第1 勤務弁護士の労働者性と社会保険は制度ごとに確認する

1 委任契約という名称だけで労働者性は決まらない

法律事務所に所属する弁護士が労働者に当たるかどうかは,「イソ弁」「アソシエイト」「カウンセル」という呼称だけでは決まらない。
契約書が委任契約又は業務委託契約という表題になっていても,実際に誰の指揮監督の下で働き,何に対して報酬を受けているかを検討する必要がある。

労働基準法9条は職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用され,賃金を支払われる者を労働者とし,労働契約法2条1項・6条も使用されて労働することと賃金の支払を基礎にしている。
弁護士資格があることや法律業務に専門的な裁量があることだけで,これらの法律の適用が一律に排除されるとはいえない。

2 最初に区別する5つの制度

「社会保険に入れるか」という相談では,労働契約上の地位と各保険の資格を分けて整理する必要がある。
健康保険・厚生年金の事業所適用と個人の資格,雇用保険の資格,労災保険の保護範囲は,それぞれ根拠と追加要件が異なる。

制度・問題判断の出発点別に確認すること
労働基準法・労働契約法指揮監督の下での労務提供と報酬の労務対償性労働時間,賃金,解雇・雇止め,無期転換など,求める保護の要件
健康保険健康保険法3条の適用事業所に使用される者に当たるか勤務条件,法定の適用除外,弁護士国保継続の適用除外承認
厚生年金厚生年金保険法9条の適用事業所に使用される者に当たるか年齢,勤務条件,法定の適用除外。健康保険の適用除外承認とは別の問題である
雇用保険適用事業に雇用される労働者に当たるか所定労働時間,雇用見込み,法定の適用除外
労災保険通常の労働者として保護されるか業務・通勤との関係。労働者でない者の特別加入は別に確認する

この表は相談事項を分けるためのものであり,各制度の加入要件をすべて列挙したものではない。
事務所の形態別の加入義務は,弁護士・法律事務所の社会保険で整理している。

第2 労働者性を判断するために確認する勤務実態

1 案件を断る自由と業務遂行上の指揮監督

厚生労働省の労働者性の説明は,使用従属性を個別の事情から総合判断する立場を示している。
勤務弁護士の相談では,案件の割当てについて承諾が必要なのか,断った場合に報酬減額や評価上の不利益があるのか,実際に断った例があるのかを確認する。

書面で「受諾は自由」と定めるだけでは,運用を確認したことにはならない。
反対に,依頼された仕事をいつも受けていたという事実だけでも,拒否する自由がなかったと直ちに決まるわけではない。

業務上の指示については,成果物の品質確認や依頼者との調整と,日常の業務配分,作業方法,優先順位,報告方法に対する具体的な命令を区別する。
専門職であるため法的判断を自ら行う場面があっても,それ以外の勤務管理まで独立していたかは別に確認する必要がある。

2 勤務時間・場所とタイムシートの目的

出退勤時刻,事務所への出勤,外出,在宅勤務,休暇に関する定めが,実際にどのように運用されているかを確認する。
休暇について連絡するだけなのか,承認が必要なのか,無断で休んだ場合にどのような取扱いを受けるのかが重要である。

タイムシートは,依頼者への請求のために案件別の作業時間を記録するものと,勤務時間を管理するものとで意味が異なる。
記録の名称だけで判断せず,入力対象,承認者,訂正指示,目標時間,報酬や評価との関係を調べるべきである。

3 報酬,自己の顧客,費用及び危険負担

固定報酬,出来高報酬,欠勤控除,時間外の手当,売上げによる増減について,契約上の定めと実際の支払を照合する。
固定報酬であることだけで労働者性が確定するわけではなく,高額報酬であることだけで否定されるわけでもない。

自己の顧客を自由に受任できるか,受任契約の当事者は誰か,報酬を誰が決定し回収するか,事務所への経費負担や業務上の損失負担があるかも確認する。
源泉徴収,弁護士会費の負担,設備の提供などは参考事情となるが,一つの事情だけで実質的な使用関係の有無を決めるべきではない。

第3 勤務弁護士の労働者性を否定した令和7年の裁判例

1 東京地裁令和7年2月13日判決の事案と結論

東京地裁令和7年2月13日判決(令和5年(ワ)第7211号,判例秘書L08030032,判例タイムズ1541号183頁)は,法律事務所で勤務した弁護士が労働契約上の地位,契約終了後の報酬及び弁護士会費の支払を求めた事件である。
原告は,有期の契約が労働契約に当たり,労働契約法18条1項による無期転換が生じたと主張した。

裁判所は,原告が高度な専門性と豊富な経験を有し,合理的な裁量に従って業務を遂行していたことなどから,使用従属関係を認めず,労働契約法2条1項の労働者に当たらないとして請求を棄却した。
このため,無期転換の規定も適用されないとした。

2 東京高裁令和7年9月25日判決で重視された事情

控訴審の東京高裁令和7年9月25日判決(令和7年(ネ)第1102号,判例秘書L08020496)は,原判決の認定・判断を一部補正して引用し,控訴を棄却した。
以下は,当事者の主張ではなく,判決が認定・評価した事情である。

原告は,従前から担当していた顧客を移籍先に紹介し,その顧客からの継続的な依頼が期待されていた。
当初はアソシエイトとして入所したが,その後カウンセルとなり,自己が紹介した顧客の案件を中心として業務に当たっていた。

高裁は,顧客案件の割合,ビラブルアワーの変動,ノルマが課されていなかったこと,案件参加について承諾を得る仕組み及び証言などを検討し,仕事の依頼を拒む自由があったと認めた。
また,パートナーによる最終的なレビューがあっても,具体的な業務遂行は原告の専門性と合理的な裁量に委ねられていたと評価した。

報酬については,ビラブルアワーが大きく変動しても基準報酬が変わらないことなどを踏まえ,この事案では労務対償性を認めなかった。
これは,あらゆる月額固定報酬が賃金ではないという判断ではなく,顧客の紹介,専門性,案件選択の自由等を伴う具体的な契約関係についての判断である。

3 組織への組入れに関する控訴審の説示

控訴人は,高度専門職については,他人の事業組織への組入れを重要な判断要素とすべきであると主張した。
高裁は,事業組織への組入れは労働組合法上の労働者性を判断する基本的な要素である一方,労働契約法上の使用従属関係を明らかにする判断基準として有用とは認められないと説示した。

ただし,昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告には,業務の性質上具体的な指揮命令になじまない場合に,事業組織への組入れから一般的な指揮監督を認めた裁判例を参考とする説明がある。
この報告と高裁判決の説示は区別して読み,専門職の相談でも,具体的な指示,服務規律,人事評価,業務選択の自由等の証拠を集める必要がある。

4 この裁判例から導けない結論

この事件は,勤務弁護士一般を労働者から除外したものではない。
自己の顧客を有する経験豊富なカウンセルについての認定を,顧客を持たず日々の案件配分や勤務管理に従う若手弁護士にそのまま当てはめることはできない。

第一審判決には雇用保険・労災保険・厚生年金保険に加入していなかったという事実が記載されているが,これらの保険の加入義務や資格確認処分の適法性を判断した事件ではない。
未加入の事実を,裁判所が未加入を適法と認めたという意味に置き換えてはならない。

両判決の全文は判例秘書で確認した。
裁判所の裁判例検索では各事件番号による検索で該当結果がなく,今回の確認範囲では裁判所HP未掲載として扱うが,判決の不存在を意味するものではない。
判決確定の有無及び上告審の結果は,今回確認した一次資料からは確定していない。

第4 労働者性を検討した後の保険別の確認

1 健康保険・厚生年金は適用事業所と使用関係を確認する

健康保険法3条及び厚生年金保険法9条・12条の要件に従い,事務所が適用事業所か,その弁護士が使用される者か,法定の適用除外に当たるかを順に検討する。
日本年金機構の説明も,雇用契約書の有無にかかわらず,働いて労務の対償として給与等を受ける常用的使用関係を確認することとしている。

労働契約法上の労働者性についての判断だけで,健康保険・厚生年金の資格が自動的に決まると扱うべきではない。
日本年金機構は,従業員を雇わず役員報酬を受ける法人の事業主の例でも,事業所の適用と事業主の資格取得の手続を必要としている。
労働法上の労働者と保険法上の被保険者の範囲を,同じものと決めつけないことが重要である。

短時間勤務の場合は,使用関係の実態に加え,所定労働時間・日数,事業所の区分等について対象期間に施行されている要件を確認する。
過去の未加入期間を調べる際に,現在の適用基準をそのまま過去に遡って当てはめることはできない。

2 弁護士国保への加入は労働者性の結論ではない

弁護士国保に加入していることから,労働者ではない,厚生年金にも加入しなくてよい,と結論付けることはできない。
健康保険の適用除外承認を受けて弁護士国保を継続する場合でも,厚生年金の資格は別に確認する。

保険を選ぶ際の比較は,弁護士国保と協会けんぽの違いを参照されたい。
承認の要否,期限及び手続は,弁護士国保を続けるための健康保険適用除外承認で説明している。

3 雇用保険では雇用関係と適用基準を確認する

厚生労働省の雇用保険の説明は,事業主の支配・規律の下で労働を提供し,その対価を受ける雇用関係を基礎としている。
一般的な加入基準は,週の所定労働時間が20時間以上であり,31日以上の雇用が見込まれることであるが,適用除外等も別に確認する必要がある。

基準を満たす場合の加入は,事務所又は本人が自由に免除できるものではない。
「弁護士は業務委託として扱っている」という説明だけで終えず,勤務実態と雇用保険資格取得等確認通知書を照合するべきである。

4 労災保険では通常の労働者と特別加入を区別する

厚生労働省の労働保険の説明は,短時間勤務者を含むすべての労働者を労災保険の対象としている。
雇用保険の週20時間という一般的な加入基準を,労災保険にも流用してはならない。

通常の労働者としての保護と,労働者ではない者の特別加入は別の仕組みである。
事故が起きた場合は,労働者性だけでなく,業務・通勤との関係や加入区分を確認する。
事務所が成立手続をしていなかった場合の請求も含め,手続の説明は次の未加入の記事を参照されたい。

第5 勤務弁護士本人と法律事務所が保存すべき資料

1 契約時の説明と勤務実態を対応させる

採用通知,契約書,各年の更新書面,報酬条件,内部規則及び就業規則について,適用されていた時期を整理する。
契約締結時に何を説明されたかという問題と,その後どのように働いていたかという問題は,分けて記録する必要がある。

案件の割当てと承諾・拒否のメール,作業方法の指示,報告・承認の記録,休暇の申請・連絡,評価資料及び報酬明細を,該当する判断要素ごとに対応させると検討しやすい。
依頼者の秘密を含む資料は,必要な範囲を特定し,保管・提出方法を検討するべきである。

2 肩書や未加入の結果から逆算しない

パートナーという肩書があっても,出資,業務執行権,利益・損失の負担及び実際の勤務内容を調べる必要がある。
弁護士法人の法律上の社員と,単に「社員」と呼ばれる勤務者とを混同しないことも重要である。

また,保険に加入していないという結果だけを理由に,使用関係がないと決めつけてはならない。
適用事業所の確認,個人の資格,届出の有無を分けて調べ,どこで判断又は手続が食い違ったかを明らかにするべきである。

3 確認先と請求の目的を分ける

労働基準法の適用や労働条件については,労働基準監督署等への相談を検討する。
労働契約上の地位,報酬・賃金,無期転換等を争う場合は,その請求に即して労働契約法上の要件と証拠を整理する必要がある。

健康保険・厚生年金については年金事務所や保険者,雇用保険についてはハローワーク,労災給付については労働基準監督署等に,それぞれ対象制度と期間を特定して確認する。
日本年金機構の資格確認請求の案内など,正式な確認手続を用いることも検討する。

未加入の是正,遡及加入及び証拠の月別整理は,勤務弁護士・法律事務所職員の社会保険未加入で説明している。
資格が確定した後の精算を,労働者性を検討する前から一律に決めるべきではない。

第6 労働組合法の労働者性と一次資料の読み方

1 団体交渉の問題は別に検討する

労働組合法3条の労働者の定義は,労働契約法2条1項と同じ文言ではない。
平成23年7月25日の厚生労働省通知及び研究会報告も,業務委託や独立自営業者の団体交渉・不当労働行為の問題を対象として,労働組合法の趣旨・目的に即した判断要素を示している。

労働契約法上の労働者性が否定されたというだけで,労働組合法上も当然に労働者ではないと扱うことはできない。
ただし,本記事で紹介した高裁判決が,当事者について労働組合法上の労働者性を肯定したわけでもない。

2 確認済みの資料と未確認の事項

本記事は,令和8年10月4日時点で,e-Govに掲載された労働基準法・労働契約法・健康保険法・厚生年金保険法・労働組合法の該当条文,厚生労働省・日本年金機構の上記資料及び判例秘書の第一審・控訴審判決全文を確認して作成したものである。
裁判例の結論と,その前提となる勤務実態,適用された法律,判断されていない社会保険の問題を区別して記載した。

個別の勤務弁護士の資格は,その事務所の形態,契約及び勤務実態を調べなければ確定しない。
裁判例の上告審の結果や確定状況,個々の弁護士についての保険資格は,本記事から確認できる事実として扱うべきではない。