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正式発注前の先行合意書の作り方―要員予約,試作・資材手配,中止時の費用精算と業種別条項例(AI作成)

第1 本契約を留保しても準備の約束は別に必要である

正式発注前に技術者を確保し,試作品を作り,又は専用資材を注文するなら,何が未確定なのかと,準備行為について何を約束するのかを分ける必要がある。
本契約を締結しない可能性があることを伝えるだけでは,準備を依頼した範囲,対価及び中止時の精算は決まらない。
本記事は,企業の法務・営業・調達担当者が先行合意を作るための条項例を示すものである。基準日は令和8年10月4日であり,条項例は当事者間の調整を要する提案である。

1 三種類の請求を分ける

① 本契約が成立したことに基づく契約代金の請求
② 独立して成立した準備発注,又は予約枠の確保に対する対価の請求
③ 交渉時の誤説明等によって生じた損害の賠償請求

②は,準備合意の対象と対価を約束したことが出発点となる。③は,注意義務違反,因果関係及び損害等を別に検討する。
契約代金を請求できないから準備費用も請求できないとか,固定給与が追加損害として認められなかったから予約対価の合意も無効であるとはいえない。

2 判例から読み取れる範囲

東京地裁令和6年1月31日判決(令和4年(ワ)第25702号,判例秘書・判例番号L07930368)は,個別契約の成立を否定しながら,発注が確定した旨の説明と未確定事情の説明欠如を理由に,不法行為による損害賠償を認めた。
再委託先に対する11日分の待機費用51万4250円の支払義務及び弁護士費用5万円が認められた一方,自社人件費等については具体的な追加負担や裏付けが問題となった。待機費用を支払済みと認定した判決ではない。
これは本記事の予約料条項を判断した判決ではなく,すべての破談で準備費用全額が認められるというものでもない。

最高裁平成19年2月27日判決(平成17年(受)第869号)も,契約締結への過大な期待を抱かせて開発・製造に費用を投じさせた経過における注意義務違反を認めたが,損害等について予備的請求部分を破棄して差し戻した。最高裁が準備費用全額を終局的に認容したと紹介すべきではない。

第2 共通条項は対象,承認,精算を具体化する

1 本契約との関係

条項例:「量産又は本開発に係る契約は,別途合意する正式発注手続により成立する。本合意は,別紙に記載した準備作業及び予約枠の確保について独立して効力を有する。上流契約の不成立によって本契約が成立しない場合にも,本合意に基づく既履行分の対価及び中止時の精算義務は,別紙に明記した条件を除き消滅しない。」

準備対価も上流発注を条件にするなら,条件,判断期限及び不成立時の扱いを準備着手前に明示する。ただし,適用法令に反する費用転嫁を許す条項にはできない。
既に口頭又はメールで合意が成立している場合,後から成立留保条項を作って過去の合意を一方的に消すことはできない。変更について改めて合意する必要がある。

2 作業と予約枠

条項例:「乙は,別紙に定める調査,試作及び資材手配のみを行う。予約枠は,役割,人数又は設備能力,期間及び他案件との併用の可否によって特定する。予約対価は月額又は日額○円とし,実作業の対価と区別する。本契約に移行した場合の充当額は○円とする。」

予約枠の確保が対価の対象なら,空けておくべき能力,重複販売の可否,充当及び解除後の再販売を具体化する。予約料という名称だけで,実態のない対価や二重請求が正当化されるわけではない。

3 第三者への発注と追加承認

条項例:「乙は,取消不能となる第三者発注について,品目,数量,金額,取消期限及び中止時の負担を甲に事前提示し,甲の指定承認者による記録可能な承認を得る。合意済みの範囲又は予算を超える発注は,追加承認があるまで行わない。甲の回答期限を○日とし,回答がない場合は当該追加手配を停止する。」

予算上限は,新たな発注を止めるための管理基準として使う。発注者の都合による変更・中止について,法令上負担すべき既発生費用まで上限だけで切り捨てる文言は避ける。

4 中止,精算及び残存物

条項例:「中止通知を受領した乙は,取消し又は転用による負担の軽減を検討し,甲に報告する。精算対象は,既履行の対価,合意済みの予約対価及び承認済みの取消不能な第三者費用とし,返金,転用回収額及び重複する請求を控除する。乙は根拠資料を○日以内に提示し,甲乙は争いのない部分の支払を先行させる。残存物の所有,引渡し,保管料及び処分承認は別紙に定める。」

この例はすべての損害賠償を実費に限定するものではない。債務不履行による損害,請負の完成前解除等の法的な請求根拠と,精算合意の範囲を別に確認する。
秘密保持,成果物の利用権,預かった資料の返却及び終了後の証拠保存も決める。

5 権限と記録

条項例:「甲乙は,準備発注,追加承認及び中止通知の権限者と通知先を別紙で指定する。権限者の変更は相手方への通知により管理する。自動送信による通知については,対象文書の版,承認者,承認日時及び送信結果を保存する。」

営業担当者の交渉窓口,費用を承認する者,契約を成立させる者を区別する。電子契約サービスの操作権限があるだけで,法人を拘束する契約権限があるとは限らない。

第3 業種に応じて先行作業の切り方を変える

1 IT開発・運用支援

調査,環境構築,試作,技術者の予約及び本開発を分ける。請負か準委任かは契約名だけで決めず,成果完成義務,業務内容及び対価の対象を読む。
条項例:「先行作業は現状調査及び開発環境の準備とし,本開発の成果完成を含まない。予約枠の確保と実作業時間を別記録とし,双方の確認を経て月次精算する。要件又は期間を変更する場合は,追加費用及び要員の再配置を協議する。」

IPAのアジャイル開発モデル契約は準委任を前提に,変更・問題解消の協議と第22条の解除・精算を扱う。モデルを採用していない契約へ自動適用されるものではない。
民法の請負については641条,準委任については648条,648条の2,649条,650条,651条及び656条等を,報酬の方式に応じて検討する。解除できることと無償で解除できることは異なる。

2 製造・試作・金型

需要予測,試作・金型の独立発注及び量産の確定発注を分ける。
条項例:「需要予測は量産数量の確約を含まない。ただし,別紙の試作及び金型製作は本合意による独立発注とする。専用資材について,承認数量,取消期限及び転用可能性を記録する。中止時は既製作分,取消不能費用及び転用回収額を項目ごとに確認する。」

公取委の取適法Q&AのQ72は需要予測と正式発注を区別し,Q130・Q133は発注者都合の取消し・変更に伴う費用負担を説明している。適用される取引では,受注者に責任がないのに既発生費用等を負担させる扱いが問題となる。
金型の所有権が発注者に移るか,受注者が保管を続けるか,廃棄を誰が承認するかは,費用精算と合わせて定める。

3 広告・映像・デザイン等の制作

企画調査,初稿,撮影日程,外部スタッフ及び最終成果物を分ける。
条項例:「先行発注は企画調査及び初稿作成に限る。撮影場所・出演者等の取消料が発生する手配は,取消条件を提示した上で事前承認を得る。中止までの成果物の引渡しと利用許諾の範囲は,精算する対価と対応させる。」

取適法の適用は,取引内容,委託者・受託者の規模等によって確認する。情報成果物の制作であれば,契約名が委任であるだけで適用を排除できない。
フリーランスへの委託では,取引条件の明示,禁止行為の適用期間,継続的業務委託の解除・不更新に関する予告等を別途確認する。
公取委のフリーランス法Q&AのQ107~Q109・Q114によると,対象となる6か月以上の業務委託等の解除・不更新には原則30日前の予告が必要であるが,適用要件と例外がある。予告義務違反と民事上の解除の効力も同一ではない。

4 建設

設計・調査の先行委託と,工事の着手を区別する。先行合意という名称で,必要な契約書面等を整えずに工事へ着手してよいわけではない。
条項例:「先行対象は別紙の調査及び資材手配とする。工事の範囲,代金,工期その他の法定事項を定めた契約書面等を整えるまでは,当該工事に着手しない。中止又は延期時は,承認済み資材,保管,仮設及び再手配に伴う負担と工期を協議する。」

国交省の標準請負契約約款の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第33条は,完成前の注文者による中止・解除と,それに伴う損害賠償を扱う。採用した約款と個別修正の有無を確認する。
建設業法令遵守ガイドラインの着工前の契約書面等に関する説明も確認すべきであり,実費だけの精算条項が常に十分な補償になるとはいえない。

5 労働者派遣

準備費用の合意と,法26条の個別派遣契約及び派遣労働者の雇用処理を分ける。一般派遣で特定の労働者を事前面接・選別するような予約の仕組みにしない。
条項例:「派遣契約の中途解除に際しては,法令及び派遣先指針に従い,就業機会の確保,解除の申入れ,雇用安定措置及び費用負担を協議する。休業手当等の対象期間,算定資料,双方の帰責及び負担割合を精算書に記載する。」

令和8年10月1日適用の業務取扱要領第5の2及び派遣先指針第2の6は,派遣先都合の解除に伴う就業機会・損害賠償等を具体化している。「相当の猶予期間」と,解雇予告に関係する30日分等の負担を混同しない。
企業間の精算によって,派遣労働者本人の権利を放棄させることはできない。

第4 精算書と社内手続の作り方

1 費目を証拠に対応させる

精算欄記載する内容・資料
既履行の対価対象作業,期間,検収又は確認記録,合意した計算方法
予約対価予約能力,期間,併用条件,拘束実績,本契約への充当
第三者費用承認記録,注文・取消条件,請求書,支払又は債務の根拠
軽減・控除取消し,返金,転用回収額,他の請求との重複
残存物所有,引渡し,保管及び廃棄の承認
争いのある請求請求根拠,帰責,因果関係及び協議期限

通常給与を計算表に載せるだけで,交渉上の損害が証明されるわけではない。他方,準備作業や予約の対価を合意した場合には,何を対価の対象としたかを示す。
資料は相手方の検討に必要な範囲で提示し,労働者や第三者の個人情報・秘密情報を不用意に開示しない。

2 着手と中止の前に法務へ戻す

営業・調達担当者は,確定と伝える前に上流条件と承認状況を確認する。受注側は,第三者への取消不能な確約前に,準備発注の範囲と精算条項を確認する。
法務担当者は,取適法,フリーランス法,建設業法,労働者派遣法等の適用,契約類型及び既存合意との関係を確認する。
費用上限を超える手配,相手方の権限不明,成立日の不一致又は費用負担の争いが生じた時点で,追加手配を停止し,根拠資料を保存して協議する。

第5 関連記事と出典の確認範囲

発注確定と言われて要員を確保したのに破談になったら及び口頭の合意と契約書では,成立の留保と交渉上の責任を扱っている。
製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイント及び派遣労働者の退職・欠員補充・労働者派遣契約の途中解除も参照されたい。

法的な説明は,本文で示した民法,官公庁資料及びモデル契約の該当箇所による。IPAモデルは2025年4月8日更新の契約本文,民間建設工事標準約款(甲)は令和7年12月2日改正・同月12日施行の第33条等を確認した。
東京地裁令和6年判決は判例秘書の本文全体を,最高裁平成19年判決は裁判所公開本文を先行検討で確認した。東京地裁判決の控訴・確定状況及び後続裁判例は未確認である。
業種別の例は,行政資料にそのまま掲載された条項や裁判所が有効性を保証した条項ではない。取引内容,適用法令及び交渉経過に応じて調整する必要がある。