第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,派遣就業中の労働者が退職する場合に,派遣元と派遣労働者との労働契約,派遣元と派遣先との個別派遣契約,欠員補充及び契約途中の解除をどのように区別して処理すべきかを説明するものである。
令和8年9月10日現在の民法,労働基準法,労働契約法,労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。
2 結論
派遣労働者の退職,その労働者の派遣就業の終了及び派遣元・派遣先間の個別派遣契約の終了は,同じ出来事ではない。
派遣労働者が派遣元を退職しても,個別派遣契約が当然に消滅するとは限らず,派遣元が代替労働者を派遣するのか,派遣先が欠員補充を不要とするのか,個別派遣契約を合意解除するのかを別に決める必要がある。
派遣先の都合で契約期間満了前に個別派遣契約を解除するときは,労働者派遣法29条の2及び派遣先指針に基づく雇用安定措置が問題となる。
他方,派遣労働者自身の退職を契機として契約を終了する場合は,派遣先都合の解除と機械的に同一視せず,退職の原因,代替派遣の可否及び当事者間の合意を確認する。
第2 最初に分ける四つの日付と三つの契約
1 四つの日付
最初に,①派遣元へ退職を申し出た日,②派遣元との雇用契約が終了する日,③派遣先での最終就業日及び④個別派遣契約が終了する日を分ける。
派遣先がその労働者を直接雇用するときは,⑤直接雇用の開始日も加え,日付の前後関係を一覧表にする。
退職申出日と雇用終了日は同日とは限らず,最終就業日と雇用終了日も一致するとは限らない。
有給休暇の取得,貸与品の返却,引継ぎ,社会保険及び雇用保険の手続がある場合は,最後に出勤した日だけで雇用終了日を決めない。
2 三つの契約
確認する契約は,①派遣元と派遣労働者との労働契約,②派遣元と派遣先との基本契約及び③具体的な派遣期間・人数・就業条件を定める個別派遣契約である。
派遣先が直接雇用する場合は,④派遣先と労働者との新しい労働契約及び⑤職業紹介又は紹介手数料に関する合意も加わる。
各契約は当事者が異なる。
一つの契約が終了したことから,他の契約も当然に終了したと推論せず,各契約の期間,解除条項,更新条項,欠員補充条項及び変更方法を確認する。
3 法26条上の労働者派遣契約
厚生労働省の業務取扱要領は,継続的な基本契約と,個々の就業条件を定める個別契約を併用する方式では,労働者派遣法26条の「労働者派遣契約」は後者の個別契約であると説明している。
したがって,中途解除時の法定措置を検討するときは,基本契約の解約日だけでなく,対象となる個別派遣契約の期間及び終了処理を特定する必要がある。
第3 派遣労働者が退職するとき
1 無期労働契約
期間の定めのない雇用について,民法627条1項は,各当事者がいつでも解約を申し入れることができ,原則として申入れの日から2週間を経過することにより雇用が終了すると定める。
もっとも,就業規則又は労働契約に退職手続が定められていることがあるため,派遣労働者は派遣先だけに退職意思を伝えるのではなく,雇用主である派遣元に明確に申し出て,受領日及び退職日を記録する必要がある。
「法律上は必ず1か月前」と一律に説明することは正確ではない。
1か月前という期間が,派遣元の就業規則,派遣元・派遣先間の中途解除条項又は基本契約の更新拒絶条項のいずれに書かれているかを確認する。
2 有期労働契約
期間の定めのある雇用では,民法628条により,やむを得ない事由があるときは期間途中でも直ちに解除できるが,その事由が一方当事者の過失により生じた場合には損害賠償の問題が生じ得る。
労働契約法17条1項は,使用者が有期労働契約の期間途中で労働者を解雇するには,やむを得ない事由を要すると定める。
労働基準法137条は,一定の事業の完了に必要な期間を定める契約等の例外を除き,1年を超える有期労働契約を締結した労働者について,契約初日から1年経過後は使用者へ申し出ることにより退職できる旨を定める。
契約期間,開始日,同法14条1項の例外該当性及び退職理由を確認せず,「有期だから辞められない」又は「いつでも即日退職できる」と決めない。
3 派遣先は退職日を決める当事者ではない
派遣労働者の雇用主は派遣元である。
派遣先は本人の転職意思を尊重しつつも,派遣元への退職申出を代行したり,派遣元との雇用終了前の就労を当然の前提として採用日を決めたりしない。
直接雇用を予定するときは,派遣元との雇用終了日,個別派遣契約の終了日又は合意解除日,職業紹介手続及び直接雇用開始日を相互に整合させる。
形式上別の求人へ応募させても,実際の採用提案及び交渉経過が消えるわけではない。
第4 退職しても個別派遣契約が当然終了しない理由
1 個別契約は通常,派遣人数と就業条件を定める
労働者派遣法26条は,派遣契約の締結に際し,業務内容,就業場所,指揮命令者,派遣期間,就業日及び就業時間等を定め,内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めることを求めている。
紹介予定派遣を除く通常の派遣では,派遣先は契約締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないよう努めなければならない。
個別契約が一人の派遣を予定していても,契約上の給付が特定の個人だけによる履行なのか,同等の要件を満たす代替労働者によって履行できるのかは,契約文言及び業務の性質による。
対象労働者の退職だけで契約終了と決めず,派遣人数,資格・技能,交代手続及び派遣先の受入条件を読む。
2 個人の派遣就業終了と会社間契約の終了
退職により当該労働者を派遣できなくなった場合,派遣元は,派遣先に最終就業日及び代替派遣の可否を連絡する。
派遣先は,代替労働者を必要とするか,業務自体が不要となったか,契約期間を短縮して終了するかを回答する。
会社間契約を終了させる場合は,「退職したので自動終了」とだけ記録せず,対象契約,終了日,未精算料金,貸与品,機密情報,損害負担及び相互の追加請求の有無を確認する。
基本契約を存続させ,対象となる個別契約だけを終了する場合は,その点も明記する。
3 解除は将来に向かって効力を生ずる
労働者派遣法29条は,労働者派遣契約の解除が将来に向かってのみ効力を生ずると定める。
解除前に実施された派遣就業,派遣料金,時間外就業,苦情処理及び秘密保持等の問題まで,解除により過去に遡って消えるわけではない。
終了合意には,終了日までの就業実績及び料金の確定方法を定める。
派遣先管理台帳から派遣元へ通知される実績と請求明細を照合し,解除後に過去の実績を修正するときは修正理由及び承認者を残す。
第5 欠員補充の判断と手続
1 最初に基本契約と個別契約を読む
欠員補充については,派遣元が当然に代替要員を派遣できるとも,派遣先が当然に同一人物の継続就業を請求できるとも限らない。
基本契約又は個別契約に,交代事由,事前通知,後任者の資格・経験,派遣先の承認手続,補充までの期間及び料金の扱いが定められているかを確認する。
契約に明文がない場合は,個別契約が定める業務,人数及び期間,従前の交代実績並びに業務継続の必要性を踏まえて協議する。
派遣先が特定の個人だけを理由なく選別する運用にならないよう,必要な能力及び就業条件を客観化する。
2 派遣元から連絡する事項
派遣元は,個人情報の取扱いに注意しつつ,①最終就業予定日,②欠員が生じる期間,③後任派遣の可否及び見込み時期,④後任者が満たす資格・技能,⑤引継ぎ方法並びに⑥法35条の通知及び就業条件明示の更新要否を整理する。
退職理由の詳細を本人の同意なく必要以上に派遣先へ伝えない。
後任者が決まった場合は,派遣元から派遣先への法35条の通知,派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳を対象者ごとに更新する。
個別契約の人数,期間又は業務内容が変わる場合は,通知だけで済ませず個別契約の変更も行う。
3 派遣先が補充を不要とするとき
派遣先が業務縮小,採用又は内製化等を理由に後任を不要とする場合,その意思を派遣元へ明確に伝える。
個別契約の残期間があるときは,後任不要の連絡が派遣先都合の途中解除に当たるのか,派遣元との合意解除となるのかを整理する。
「代替不要」という一言だけでは,残期間の料金又は雇用安定費用の扱いが不明確となる。
終了日,費用負担,解除理由及び清算条件を記載した合意書又は相互に対応する書面を作成する。
第6 派遣先都合による個別契約の途中解除
1 契約で定めるべき雇用安定措置
労働者派遣法26条1項8号は,派遣契約の解除時における新たな就業機会の確保,休業手当等の費用負担その他の雇用安定措置を契約事項とする。
同法29条の2は,派遣先の都合による解除に当たり,派遣先に新たな就業機会の確保,休業手当等の費用負担その他必要な措置を求める。
契約書では,「関係法令に従う」とだけ書くのではなく,解除申入れの方法,新たな就業先の検討,費用の対象,計算方法,資料提出及び協議期限をできる限り具体化する。
派遣労働者の雇用を守るための措置と,派遣元・派遣先間の一般的な違約金は区別する。
2 事前申入れは一律に30日前ではない
派遣先指針は,専ら派遣先に起因する事由で期間満了前に解除しようとする場合,派遣元の合意を得るとともに,相当の猶予期間をもって事前に申し入れるよう求めている。
ここでは,すべての契約について「法律上30日前」とする固定期間は示されていない。
指針に現れる30日という数字は,相当の猶予を置かない解除のため派遣元がやむを得ず労働者を解雇し,解雇予告をしない場合等の損害額の例示に関係する。
したがって,派遣先の解除申入れ,派遣元による解雇予告及び労働者による退職予告を混同しない。
3 新たな就業機会と費用負担
派遣労働者の責に帰すべき事由以外の理由で期間満了前に契約を解除する場合,派遣先は関連会社での就業をあっせんするなど,新たな就業機会の確保を図る。
派遣先の責に帰すべき事由による解除で就業機会を確保できないときは,派遣元が休業させること等により生じた損害について,少なくとも休業手当又は解雇予告手当等に相当する額以上の賠償が問題となる。
休業手当は,労働基準法26条により,使用者の責に帰すべき事由による休業について平均賃金の100分の60以上を労働者へ支払う制度である。
派遣先から派遣元への損害賠償額と,派遣元が労働者へ支払う休業手当を同一の債務とみなさず,実際の就業確保,休業,賃金支払及び解雇の有無を確認する。
4 解除理由の明示
派遣先が期間満了前に契約を解除し,派遣元から請求を受けたときは,派遣先指針に従い解除理由を明らかにする。
理由は,「都合により」だけでなく,業務終了,事業縮小,契約条件違反,安全上の問題その他の判断根拠が分かる程度に記録する。
解除原因に派遣元・派遣先双方の事情がある場合は,責任を一方に決め付けず,各事情と因果関係を整理する。
派遣労働者の責任を理由とする場合も,具体的行為,指導,苦情処理,改善機会及び契約違反との関係を証拠化する。
第7 派遣元側の雇用処理
1 派遣契約終了と解雇は別である
個別派遣契約が終了しても,派遣元と派遣労働者との労働契約が当然に終了するわけではない。
無期雇用派遣労働者については次の派遣先,派遣元内の業務又は休業を検討し,有期雇用派遣労働者についても雇用期間と個別派遣契約期間を照合する。
使用者が有期労働契約の期間途中で解雇するには,労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要となる。
解雇に進む場合は,労働基準法20条の解雇予告又は解雇予告手当,解雇権濫用法理及び雇止めの規律も別途確認する。
2 雇用安定措置
一定の有期雇用派遣労働者が派遣終了後も就業を希望する場合,労働者派遣法30条の雇用安定措置が問題となる。
派遣先への直接雇用の依頼,他の派遣先の提供,派遣元での無期雇用その他の措置について,本人の希望を聴取し,対象者及び就業期間に応じて義務又は努力義務の内容を確認する。
希望の聴取日時及び内容並びに実施した措置と結果は,派遣元管理台帳へ記録する。
本人が自発的に退職するときも,雇用安定措置を希望していたか,退職が派遣契約終了の通告後に生じたものか等,経緯を確認する。
第8 証拠化と実務手順
1 取得する資料
①署名又は電子締結済みの基本契約及び変更契約,②対象期間の個別派遣契約,③派遣元と派遣労働者との労働契約・労働条件通知書,④就業規則,⑤退職届又は退職申出記録,⑥法35条の通知,⑦両管理台帳,⑧勤怠記録,⑨代替派遣又は後任不要の連絡並びに⑩解除・清算合意を取得する。
直接雇用が関係するときは,採用提案,職業紹介,手数料表,覚書及び直接雇用契約も取得する。
交渉稿又は未署名の最終案は,締結済み契約と区別して保管する。
2 時系列表を作る
時系列表には,日付,行為者,対象契約,出来事,根拠資料及び未確認事項を記載する。
少なくとも,退職申出,派遣元の受領,派遣先への連絡,最終就業,後任提案,後任不要の回答,解除申入れ,解除合意及び清算を分ける。
メールの件名又は口頭説明だけで合意内容を確定せず,本文,添付ファイル,送受信時刻及び返信関係を確認する。
終了日又は費用負担が一致しないときは,保存前に当事者間で確認書を作成する。
3 終了合意に記載する事項
終了合意には,①対象となる基本契約・個別契約,②終了日,③最終就業日,④後任派遣の有無,⑤終了日までの料金,⑥休業手当等に係る費用,⑦貸与品・データ・機密情報,⑧苦情・事故等の継続対応及び⑨追加請求の有無を記載する。
派遣先が対象労働者を雇用する場合は,紹介手数料又は解決金の法的根拠,金額,支払日及び精算範囲も記載する。
「一切解決」条項を置くときは,対象となる契約及び請求を限定し,労働者本人の権利まで企業間合意で処分したような文言にしない。
第9 関連記事
「派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用」では,派遣先の立場から,基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用を一つのチェックリストとして説明している。
「労働者派遣契約書と管理台帳の確認方法-基本契約・個別契約・通知書の違い(AI作成)」では,労働者派遣に関する六種類の文書と確認順序を説明している。
「派遣元・派遣先管理台帳-法定記載事項,通知及び保存期間(AI作成)」では,両管理台帳の作成単位,記載事項,通知及び保存方法を説明している。
「派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)」では,派遣先による直接雇用及び金銭条項を説明している。
「有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルール(AI作成)」では,有期労働契約の期間途中の終了及び雇止めを説明している。
第10 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「労働者派遣法」26条,29条,29条の2,30条,35条及び37条。
②e-Gov法令検索「民法」627条及び628条。
③e-Gov法令検索「労働基準法」20条,26条及び137条。
④e-Gov法令検索「労働契約法」16条,17条及び19条。
2 厚生労働省資料
①厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」,令和8年7月31日適用版。
②同要領・第5「労働者派遣契約」,123頁~129頁。
③同要領・第6「派遣元事業主の講ずべき措置等」,157頁~166頁及び235頁~240頁。
④同要領・第7「派遣先の講ずべき措置等」,271頁~272頁及び309頁~310頁。
⑤「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」。
⑥「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の6。
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また,本記事固有の裁判例は引用しておらず,判例秘書の検索結果を法令及び行政解釈の代わりとして用いていない。