第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳について,作成主体,作成単位,法定記載事項,記載時期,派遣元への通知,保存期間及び電磁的保存の方法を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。
2 結論
派遣元管理台帳は派遣元が雇用管理のために作成し,派遣先管理台帳は派遣先が就業実態を把握して派遣元へ通知するために作成する。
両者は記載事項が重なるが同じ帳票ではなく,一方の写しを保存するだけでは,他方の法定義務を当然に履行したことにはならない。
保存期間はいずれも3年間であり,原則として対象となる労働者派遣の終了日が起算点となる。
派遣先は,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,業務及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知し,派遣元から請求されたときは遅滞なく通知する。
第2 二つの管理台帳の役割
1 派遣元管理台帳
労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,派遣就業について派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
厚生労働省の業務取扱要領は,派遣元管理台帳を,派遣元が派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うためのものと説明している。
予定された派遣条件だけでなく,苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング及び雇用安定措置も記録する。
派遣先から通知された就業実績が予定と異なる場合は,通知を受ける都度,異なる実績を記載する必要がある。
2 派遣先管理台帳
労働者派遣法42条は,派遣先に対し,派遣就業について派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
同要領は,派遣先管理台帳の目的を,就業日・労働時間等の実態を的確に把握するとともに,記載内容を派遣元へ通知し,派遣元の適正な雇用管理に役立てることとしている。
派遣先管理台帳は,個別派遣契約に記載された予定を転記するだけの書類ではない。
実際の就業日,始業・終業時刻,休憩時間及び従事した業務等を記録する必要がある。
3 個別契約及び通知書との違い
個別派遣契約は,派遣元・派遣先が具体的な派遣の予定条件を定める契約である。
派遣元から派遣先への労働者派遣法35条の通知は,その条件の下で実際に派遣される労働者の氏名,有期・無期の別及び社会保険等の加入状況等を知らせるものである。
これに対し,管理台帳は継続的な記録であり,日々の実績,苦情及び措置等が後から追加される。
個別契約,法35条の通知及び両管理台帳を対象者・期間ごとに照合することで,予定と実績の差が分かる。
第3 派遣元管理台帳の作成単位と記載時期
1 事業所ごと・労働者ごとに作成する
派遣元管理台帳は,派遣元事業主の事業所ごとに作成し,派遣労働者ごとに記録する。
厚生労働省の業務取扱要領は,雇用管理を円滑に行うため,有期雇用労働者と無期雇用労働者に分けて作成するものとしている。
労働基準法上の労働者名簿又は賃金台帳と合わせて調製することはできる。
もっとも,各帳票の法定記載事項及び保存期間が満たされていることを確認し,名称を統合したことだけで履行済みと判断しない。
2 原則として派遣前に記載する事項
派遣元管理台帳は,記載事項が確定する都度記載する。
苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング,雇用安定措置の希望聴取及び実施内容を除く基本的な事項は,労働者派遣をする際にはあらかじめ記載しておく必要がある。
後から一括して台帳を作る運用では,派遣開始時点の契約,通知及び雇用状況を正確に再現できないおそれがある。
個別契約及び法35条の通知を起点として台帳を作成し,変更が生じる都度履歴を残す。
3 出来事の都度記載する事項
苦情の申出及び処理はその都度,教育訓練及びキャリアコンサルティングは実施の都度,雇用安定措置は希望の聴取又は措置実施の都度記載する。
派遣先から就業実績の通知を受け,予定された就業時間等と異なるときは,通知を受ける都度,その実績を記載する。
単に最新値で上書きすると,いつ,なぜ変更されたか分からなくなる。
変更前の値,変更日,根拠となる通知及び入力者を追跡できる形で管理することが望ましい。
第4 派遣元管理台帳の法定記載事項
1 本人・雇用区分及び派遣先
派遣元管理台帳の記載事項は,労働者派遣法37条1項及び同法施行規則31条に定められている。
本人及び雇用区分に関する事項は,①派遣労働者の氏名,②協定対象派遣労働者であるか否か,③無期雇用又は有期雇用の別及び有期の場合の労働契約期間並びに④60歳以上の者であるか否かである。
派遣先に関する事項は,⑤派遣先の氏名又は名称,⑥派遣先事業所の名称並びに⑦所在地その他の派遣就業場所及び組織単位である。
商号変更又は事業所移転があった場合は,対象時点の表示と変更履歴を残す。
2 派遣期間・就業条件及び実績
就業に関する事項は,⑧労働者派遣の期間及び派遣就業をする日,⑨始業・終業時刻,⑩従事する業務の種類並びに⑪業務に伴う責任の程度である。
業務は可能な限り具体的に記載し,責任の程度は権限の範囲,役職及び部下の有無等が分かるようにする。
個別契約の予定と派遣先から通知された実績が異なる場合は,実績を反映する。
労働時間を合計時間だけで管理せず,派遣先から通知される日ごとの始業・終業及び休憩と照合する。
3 苦情・紹介予定派遣及び責任者
⑫苦情の申出年月日,内容及び処理状況,⑬紹介予定派遣の場合の職業紹介時期・内容,採否結果及び不採用等の理由並びに⑭派遣元責任者・派遣先責任者に関する事項を記載する。
苦情の記録は,申出を受けたことを理由とする不利益取扱いを防ぎ,過去の苦情に応じた対応を行うための資料でもある。
紹介予定派遣と通常派遣の台帳は,別々に管理することが適当とされている。
一般派遣の途中から紹介予定派遣へ変更した場合は,合意時以後の契約変更及び台帳上の区分を明確にし,過去に遡って表示を変更しない。
4 例外業務・社会保険・教育訓練・雇用安定措置
⑮契約上認められた所定外の日又は時間延長の上限,⑯期間制限を受けない派遣の該当事項,⑰健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格取得届提出の有無及び未提出理由を記載する。
さらに,⑱段階的・体系的教育訓練の日時と内容,⑲キャリアコンサルティングの実施日と内容,⑳雇用安定措置について聴取した希望の内容並びに㉑実施した雇用安定措置の日付,内容及び結果を記載する。
派遣先へ直接雇用を依頼した場合は,派遣先の受入れ可否も記録する。
第5 派遣先管理台帳の作成単位と例外
1 事業所等ごと・労働者ごとに作成する
派遣先管理台帳は,派遣労働者が就業する事業所その他の就業場所ごとに作成し,派遣労働者ごとに記録する。
本社で全事業所分を一括管理する場合でも,法定の作成単位ごとに対象者及び記録を抽出できる状態にする。
労働者の氏名及び派遣元名称等は受入れ開始時までに記載し,日ごとの始業・終業時刻及び休憩時間は,一般にその日の就業終了後に遅滞なく記載する。
苦情処理は,申出及び処理の都度記載する。
2 小規模事業所等の作成不要の場合
労働者派遣法施行規則35条3項により,当該事業所等の派遣労働者数と派遣先が雇用する労働者数との合計が5人以下の場合,派遣先管理台帳の作成及び記載を要しない。
「派遣労働者が5人以下」ではなく,派遣先の雇用労働者を加えた合計で判定する点に注意が必要である。
判定単位及び人数の基準時点を記録し,作成不要と判断した根拠を残す。
作成義務がない場合でも,労働時間管理,苦情処理及び派遣元への必要な情報提供まで不要になるわけではない。
第6 派遣先管理台帳の法定記載事項
1 本人・派遣元及び雇用区分
派遣先管理台帳の記載事項は,労働者派遣法42条1項及び同法施行規則36条に定められている。
①派遣労働者の氏名,②派遣元事業主の氏名又は名称,③派遣元事業所の名称,④同事業所の所在地,⑤協定対象派遣労働者であるか否か並びに⑥無期雇用又は有期雇用の別を記載する。
派遣元から受けた法35条の通知と照合し,対象者の交代又は雇用区分の変更があれば,旧対象者と新対象者を区別して更新する。
2 就業実績,業務及び場所
⑦派遣就業をした日,⑧日ごとの始業・終業時刻及び休憩時間,⑨実際に従事した業務の種類,⑩業務に伴う責任の程度並びに⑪就業した事業所の名称・所在地その他の就業場所及び組織単位を記載する。
派遣契約に定めた時間をそのまま毎日複写するのではなく,遅刻,早退,残業,休日就業及び休憩変更を含む実績を記録する。
契約外業務又は契約外の組織での就業を把握した場合は,台帳だけを書き換えるのではなく,指揮命令及び個別契約の是正も行う。
3 苦情・紹介予定派遣・教育訓練及び責任者
⑫苦情の申出年月日,内容及び処理状況,⑬紹介予定派遣の場合の特定行為,採否結果及び不採用等の理由,⑭派遣先が行った教育訓練の日時・内容並びに⑮派遣先責任者・派遣元責任者に関する事項を記載する。
苦情処理事項は台帳へ記載するだけでなく,その内容を派遣元へ通知する。
教育訓練は,計画的なOJT及び業務外で行うoff-JTの実施を対象者及び日時と結び付けて記録する。
4 期間制限の例外及び社会保険
⑯60歳以上の者,有期プロジェクト,日数限定業務,育児休業等の代替及び介護休業等の代替など,期間制限を受けない派遣に関する所定事項を記載する。
⑰派遣元から通知を受けた健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格取得届提出の有無及び未提出の場合の具体的理由を記載する。
社会保険等の届出が未了で後に提出された場合は,提出済みであることを確認して更新する。
マイナンバー,保険者番号その他の不要な識別情報を台帳へ転記しない。
第7 派遣先から派遣元への通知
1 定期通知の対象事項
派遣先は,派遣先管理台帳のうち,①派遣労働者の氏名,②派遣就業をした日,③日ごとの始業・終業時刻及び休憩時間,④従事した業務の種類,⑤業務に伴う責任の程度並びに⑥就業場所及び組織単位を派遣元へ通知する。
これは,労働者派遣法42条3項及び同法施行規則38条による通知である。
派遣元名称や社会保険の届出状況など,派遣先管理台帳の全項目を毎月通知する仕組みではない。
もっとも,苦情処理については,法40条1項及び指針に基づく別の通知・連携も必要となる。
2 通知の頻度と方法
定期通知は,1か月ごとに1回以上,一定の期日を定めて,派遣労働者ごとに行う。
方法は,書面の交付,ファクシミリ又は電子メール等であり,受信者が記録を出力して書面を作成できる方法を用いる。
派遣元から請求があった場合は,定期通知日を待たず,遅滞なく通知する。
締日と通知日を社内手順に定め,担当者不在又は月末休日でも遅れない運用を作る。
3 通知内容の照合
派遣先は,勤怠システム,入退館記録,業務日報及び指揮命令者の確認により,就業実績を確定する。
派遣元は,受け取った通知を派遣元管理台帳及び賃金計算と照合し,予定と異なるときは実績を反映する。
両社の締め時刻,休憩控除及び端数処理が異なる場合は,差異を放置せず,個別契約及び労働時間法制に適合する処理を確認する。
訂正通知では,対象者,対象日,旧値,新値,訂正理由及び訂正日を残す。
第8 保存期間と電磁的保存
1 保存期間は3年間である
派遣元管理台帳は労働者派遣法37条2項により,派遣先管理台帳は同法42条2項により,いずれも3年間保存する。
起算日は,対象となる派遣労働者についての労働者派遣の終了日である。
派遣先管理台帳では,派遣元から通知を受けた派遣期間の終了日が起算点となり,契約が更新された場合は更新に伴い通知された派遣期間の終了日となる。
単なる最終出勤日,退職届提出日又は会社間の基本契約終了日を機械的に起算点としない。
2 派遣元管理台帳の起算日に関する注意
派遣元管理台帳でも,更新後は更新に伴い定められた対象者の派遣期間終了日が基準となる。
同一労働者を同一の就業場所及び組織単位へ再び派遣する場合,前の派遣終了から次の開始までが3か月以下であるときは,一定の例外を除き,保存期間の計算上「労働者派遣の終了」と扱わないとする行政上の取扱いがある。
短い空白期間を利用して古い台帳を廃棄せず,再派遣の場所・組織単位及び空白期間を確認する。
紹介予定派遣とそれ以外の派遣は,別々に管理することが適当である。
3 電磁的記録による作成・保存
管理台帳は,所要事項が記録されていれば電磁的に作成・保存できる。
作成された電磁的記録をファイル等で保存する方法のほか,書面をスキャナで読み取って電磁的記録として保存する方法が示されている。
必要に応じ,記録された事項を直ちに明瞭かつ整然と表示し,書面を作成できる状態にする必要がある。
アクセス権,変更履歴,バックアップ及び退職者アカウントに依存しない閲覧手段を整え,保存期間内に読めなくならないようにする。
第9 点検方法と証拠上の限界
1 対象者と期間を合わせて照合する
台帳点検では,派遣労働者の氏名又は社内識別子,派遣先事業所,就業場所,組織単位及び対象期間を合わせる。
同姓同名,派遣先内の異動,契約更新又は派遣元の商号変更がある場合は,別人又は別期間の記録を混在させない。
個別契約,法35条の通知,派遣元管理台帳,派遣先管理台帳,勤怠及び請求明細を横に並べる。
予定と実績の差について,契約変更,残業承認,交代通知又は訂正記録があるかを確認する。
2 台帳だけでは証明できない事項
管理台帳は,就業実態及び法定措置を検討する重要な資料であるが,基本契約全文の合意,変更契約の成立,派遣労働者の退職意思,個別派遣契約の解除合意又は紹介手数料の支払合意を単独で証明するものではない。
台帳に「派遣終了」と記載されていても,それが最終就業,対象者の交代,個別契約の期間満了又は合意解除のいずれを意味するかを確認する。
契約書,通知,退職届,解除合意書,メール及び請求・支払記録を併せて評価する。
3 社内点検用チェックリスト
①作成主体及び作成単位が正しいか,②対象者・期間が特定できるか,③法定記載事項が欠けていないか,④契約の予定と実績を区別しているか,⑤出来事の都度更新しているかを確認する。
⑥派遣先から派遣元への月次通知があるか,⑦訂正履歴があるか,⑧3年間の起算点が正しいか,⑨電磁的記録を直ちに表示・出力できるか,⑩個人情報のアクセス権と廃棄時期が適切かも確認する。
不備を発見した場合は,事実に反する日付で遡及作成せず,判明日,確認資料,補正内容及び補正者を記録する。
行政調査又は紛争が始まっている場合は,原記録を保存した上で補足説明を別記する。
第10 関連記事
「派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用」では,派遣先の立場から,基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用を一つのチェックリストとして説明している。
「労働者派遣契約書と管理台帳の確認方法-基本契約・個別契約・通知書の違い(AI作成)」では,労働者派遣に関する六種類の文書と確認順序を説明している。
「派遣労働者の退職・欠員補充・労働者派遣契約の途中解除(AI作成)」では,退職後の欠員補充及び個別派遣契約の終了処理を説明している。
「労働者派遣法の基本-禁止業務,期間制限,派遣契約及び違法派遣(AIリライト)」では,労働者派遣法の基本構造及び期間制限を説明している。
「派遣元・派遣先管理台帳の不備-指導,改善命令,事業停止,許可取消し及び罰則(AI作成)」では,台帳の未作成,記載・保存・通知漏れに対する指導,行政処分及び罰則並びに発見後の是正手順を説明している。
第11 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「労働者派遣法」35条,37条,40条及び42条。
②e-Gov法令検索「労働者派遣法施行規則」30条~32条及び35条~38条。
2 厚生労働省資料
①厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」,令和8年7月31日適用版。
②同要領・第6「派遣元事業主の講ずべき措置等」,235頁~240頁。
③同要領・第7「派遣先の講ずべき措置等」,294頁~299頁。
④「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」。
⑤「派遣先が講ずべき措置に関する指針」。
本記事では,法令及び厚生労働省の現行資料を制度説明の根拠とした。
提供を受けた個別企業の管理台帳,契約書及び交渉経過は,公開記事の事実又は法解釈の根拠として使用しておらず,本記事固有の裁判例も引用していない。