「療養を要する」「就労可能」とだけ記載された診断書では,就業の可否を判断する材料が足りない。会社が実際の作業と実施可能な配慮を伝えたうえで,制限の内容と,その制限を続ける期間とを分けて尋ねる必要がある。以下では,主治医に提供する情報と,尋ねる事項を整理する。
第1 医師に伝える仕事と尋ねる事項
治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,仕事の情報を主治医に伝えて意見を得た上で,産業医等の意見,本人の意向及び職場の状況を踏まえて事業主が判断する流れを示している。
産業医等がいない場合は主治医から提供された情報を参考とするのであって,会社だけで医学的な判断を代行するという意味ではない。
なお,令和7年5月14日に公布された労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により,労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化される。施行日は公布後3年以内の政令で定める日とされており,現時点では未施行であるが,小規模事業場の健康管理体制は今後変わることになる。
「療養を要する」「就労可能」との記載だけでは判断に必要な情報が不足する場合,次の事項を確認する。
質問は休職又は就業のどちらかへ誘導せず,実際の作業と実施可能な配慮を示した上で行う。
| 確認する事項 | 医師に伝える情報・尋ねる内容 |
|---|---|
| ①作業内容と負荷 | 実際の作業,作業時間,反復の程度,通勤,安全上の危険を伝える。 |
| ②可能な勤務の条件 | 通常勤務,時間短縮,作業の変更等について,就業の可否と必要な条件を尋ねる。 |
| ③制限の程度と期間 | 時間・作業量等の制限と,その制限を続ける期間を分けて尋ねる。 |
| ④再評価の時期 | 次に判断を見直す時期と,症状が変化した場合の対応を確認する。 |
| ⑤判断の基準日と未了の検査 | 診断書の作成日・診察日を確認し,その後に予定する専門科受診又は検査と,結果判明後に再回答できる時期を尋ねる。 |
診断書の作成後に専門科受診又は検査が予定されている場合,その結果は当該診断書に反映されていないため,現在の就業意見と今後確認される事項を分けて扱う。
また,「○日まで休業を要する」との記載は,翌日から従前業務に制限なく復職できるとの意見と同じではない。復職判定に必要な資料の提出時期と,会社が判断する時期を別に設定する。
例えば,残業時間の上限が示されていても,その制限がいつまで続くかは別の情報である。
同指針5(4)が措置の内容と実施時期・期間を分けて示していることを踏まえ,制限の内容だけでなく,見直しの予定も記録しておくのが適切である。
勤務情報を主治医に提供する際は,本人と事実関係を確認し,通常勤務の内容に加え,実際に検討できる短時間勤務や作業変更等の選択肢も示す。
1 主治医,産業医等及び事業主の役割
医師の意見が食い違う場合は,主治医か産業医かという立場だけで優劣を決めず,それぞれが把握した業務内容,診察又は面談の時点,可能とする勤務条件及び判断理由を確認する。
| 関係者 | 主に把握する事項 | 不足しやすい事項 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 主治医 | 疾病,症状,治療,服薬,医学的な制限 | 実際の職務負荷,配置可能性,職場環境 | 勤務情報提供書を示し,可能な勤務条件,避けるべき作業及び再評価時期を尋ねる。 |
| 産業医等 | 医学的情報と職務との適合性,就業上の措置 | 主治医が把握する詳細な治療経過 | 本人の同意を得て必要な情報を収集し,具体的職務と照合する。 |
| 事業主 | 契約上の職務,配置,勤務制度,職場の受入状況 | 疾病の診断及び治療上の専門判断 | 主治医・産業医等の意見,本人の希望及び職場の状況を総合し,判断理由を記録する。 |
主治医の「復職可」は重要な資料であるが,その前提となる職務,勤務時間及び配慮が明らかでないときは,予定される職務を継続して遂行できるかについて追加確認が必要となる。反対に,会社又は産業医が主治医の意見を無視してよいという意味でもない。
2 診療情報提供への同意と追加照会
不足する勤務情報を補い,本人の同意が必要な照会はその範囲を明らかにして追加意見を求めた上で,会社が判断の理由を記録するのが適切である。照会では,目的,質問項目,対象期間,提供先,取扱者及び保存期間を示し,診療録全体を一律に求めない。
専門科の検査を別の医療機関が行う場合は,従前の同意書が新しい照会先を含むかを確認し,含まない場合又は目的が変わる場合は,追加又は更新した同意を得る。
本人又は担当者から主治医の口頭説明を聞いた場合は,重要な職場情報として記録しつつ,最終判断に用いる内容は書面又は本人同意のある照会で確認する。人事担当者又は管理監督者には,就業制限,配慮内容,措置期間,再評価日及び緊急時対応など,役割の遂行に必要な範囲を共有する。
本人が一部の文言削除又は範囲限定を求めたときは,その理由を確認し,必要な情報を失わずに修正できるか,別の意見書又は面談で代替できるかを検討する。詳しくは,復職審査における診療情報提供への同意拒否・条件付き同意と休職期間満了―協成事件で説明している。
実務上は,診断書等の提出期限,費用の取扱い及び予約が取れない場合の連絡方法も事前に整理しておくとよい。
複数の医療機関又は診療科へ照会する場合は,同意書について,実際の照会先,照会目的,質問事項,回答を求める期間及び情報の取扱者を照会先ごとに具体化する。本人が同意した範囲を超えて病歴全体の提供を求めない。
これは円滑な運用の提案であり,全ての診断書費用が当然に使用者負担となるという意味ではない。
具体的な書式としては,厚生労働省の勤務情報提供の様式例と主治医意見の様式例が参考になる。
3 製造業・危険作業で具体化する事項
製造業その他の危険作業では,職種名又は「現場作業」という説明だけでは,主治医が職務との適合性を判断できない。会社は,通常業務と現実に実施できる軽減措置を,次のような工程・動作単位で示す。
| 区分 | 主治医等に伝える具体的事項 |
|---|---|
| 重量物・反復動作 | 取扱重量だけでなく,1時間又は1日当たりの回数,持上げ元と置き先の高さ,運搬距離,把持方法,押す・引く動作及び二人作業又は補助具の可否。 |
| 姿勢・移動 | 前屈,中腰,ひねり,しゃがみ,連続する立位・座位・歩行の時間,階段,段差,滑りやすい床面及び休憩場所までの移動。 |
| 作業環境 | 暑熱・寒冷,振動,騒音,粉じん,保護具の重量及び着脱,単独作業並びに緊急時の退避経路。 |
| 安全上重要な操作 | 車両運転,危険機械,高所,火気,緊急停止操作及び異常時に必要となる反応速度・注意力・両手両足の操作。 |
| 尋ねる機能と条件 | 歩行・平衡・転倒危険,握力・巧緻性,立位・座位の持続,疼痛と疲労,注意・判断及び反応について,通常作業,軽減作業,禁止作業,時間短縮,休憩,監督の要否及び再評価時期を尋ねる。 |
病名又は診断書の結論だけでなく,本人が申告する症状,会社が観察した歩行・作業等の事実及び医師の医学的判断を区別して記録する。片側の手足が正常であること,短時間の動作ができたこと又は一日事故がなかったことだけから,反復作業,緊急操作又は通常勤務の安全性を肯定しない。
服薬については,眠気,注意力低下,眼のかすみ,めまい,突然の睡眠又は意識消失等が,通勤時の運転,危険な機械操作及び高所作業に影響しないかを,添付文書又は患者向医薬品ガイドと処方医・薬剤師の説明によって確認する。会社が本人に自己判断で休薬又は減量させるのではなく,必要な作業制限を医師等に具体的に尋ねる。
「座り仕事」も,長時間座位,職場内の移動,製品の持運び又は緊急退避が必要であれば当然に安全な軽作業となるわけではない。名称ではなく,実在する業務の工程と危険要因を基準に判断する。
連続する診断書の比較,未了の検査,復職可能日及び休職期間との区別は,休業診断書をどう読むか――作成日,療養期間,専門科検査,復職可能日及び産業医意見の区別(AI作成)で整理している。
第2 関連記事
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危険作業を含む試し出勤の設計は,試し出勤が有効な場合と有効でない場合-疾患別・職種別の復職判断(AI作成)で整理している。
本人が受診や情報提供に応じない場合は,休職・欠勤中の社員に受診を命じられるか――指示に従う義務の根拠,指定医の受診及び拒まれた場合の対応(AI作成)で整理している。
第3 出典・参考資料
1 法令に基づく指針
①厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)。
特に2,3(8),4(4),5(1)~(5),5(5)ウ・エ,5(7)~(8)。告示原文は厚生労働省告示第28号。
2 公的な解説・行政資料
⑤厚生労働省「勤務情報提供書(様式例)」及び「主治医意見書(様式例)」。
⑥厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」。主治医の診断書だけでは情報が不足する場合の,本人同意を前提とした必要情報の収集及びプライバシーへの配慮を参照した。
⑦厚生労働省「職場における腰痛予防対策の推進について」。重量物,取扱回数,作業姿勢,立ち作業,座り作業,車両運転等の具体化に参照した。
⑧独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「服用中は車の運転をしてはいけない薬がある理由」及び「薬の使用中に車の運転をしてよいかを確認する方法」。
3 実務書
①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。
休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。
著者の実務上の提案を一律の法的義務とせず,本記事が提案する手順は公開の法令・判決・行政資料を踏まえて記載した。