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休職・欠勤中の社員に受診を命じられるか――指示に従う義務の根拠,指定医の受診及び拒まれた場合の対応(AI作成)

社員が療養中で,会社が医学的な資料を得たい場面では,本人に受診や情報提供を求めることになる。本人が応じない場合に,何を根拠にどこまで求められるかは,休職中か欠勤中かによって使える条項が異なり,裁判例の射程も限られている。以下では,その順序と限界を整理する。

第1 受診を求める場面と拒まれた場合の対応

本人が受診や追加の情報提供に応じない場合も,確認の目的,不足している事項及び規程上の根拠を示し,より限定した確認方法を検討する。

検討の順序としては,裁判例を参照する前に,自社の規程に,休職者に限らず適用される健康管理上の条項がないかを確認する。傷病による欠勤が一定日数以上に及ぶ場合の診断書提出義務,会社が必要と認めた場合に指定医の診断を受けさせることができる旨の定め,健康管理上必要と認めたときに受診及び結果の報告を命じることができる旨の定めが置かれていることがある。復職手続に関する条項が休職者にしか及ばないのに対し,これらは在籍者一般に及ぶ形で置かれていることが多い。その場合,拒否したときの効果が定められているかも併せて確認する。

精神的不調による欠勤が疑われるときは,直ちに懲戒の問題として処理しないことが重要である。

受診や資料提出が進まないときは,本人が拒否しているのか,病状,費用,予約事情又は説明の不明確さによって対応できないのかを確認する。

必要性を説明し,質問範囲の限定や提出時期の調整等を検討した経緯も記録する。

受診命令の有効性,取得できる医療情報の範囲,労務提供能力及び懲戒・雇用終了の有効性は,それぞれ検討すべき問題である。

受診を求める措置そのものの適否は,懲戒の適否とは別に検討する。最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決(昭和58年(オ)第1408号・集民147号237頁)は,健康管理規程等により労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務がある職員について,当該検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を肯定し得る限り,病院又は担当医師の指定及び実施時期の指示を含めて,これに従う義務があるとした。

したがって,受診を求める場合は,①労働契約上その指示に従う義務の根拠と,②求める検査又は面談が目的との関係で合理性・相当性を有することを,それぞれ確認する必要がある。

もっとも,就業規則に定めがなければおよそ求められないというわけではない。東京高裁昭和61年11月13日判決(昭和59年(行コ)第74号・労働判例487号66頁。裁判所HP未掲載)は,休職中の従業員が自らの疾病は業務に起因すると主張したのに対し,会社が専門医を指定して受診を指示した事案について,就業規則等に指定医受診の定めがないことを前提としつつ,労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であるとして,指定医の受診を指示することができ,労働者はこれに応ずる義務があるとした。同判決は,最高裁昭和63年9月8日第一小法廷判決(昭和62年(行ツ)第32号,第33号・労働判例530号13頁。裁判所HP未掲載)により維持されている。

ただし,同事件で合理的かつ相当な理由が認められたのは,業務起因性の有無が以後の処遇に直接影響したことに加え,本人が当初提出した診断書を作成した医師自身が,会社に対して業務に起因するものではないと説明したという食い違いがあったためである。また,同事件は労働組合法7条の不当労働行為の成否が争われたものであり,受診の指示に関する判断は理由中でされている。会社と主治医の判断が食い違っていない段階について,同判決から一般に指定医の受診を求め得るとまでいうことはできない。

会社が自らの判断のために指定医の受診を求めるときは,費用を会社負担とし,主治医の受診とは建付けを分けておくと,措置の相当性を説明しやすい。

最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・日本ヒューレット・パッカード事件)は,当該精神的不調の下での欠勤について,健康診断や治療・休職等の検討を経ずに行った諭旨退職を,懲戒事由を欠くものとして無効とした。

この判決は,あらゆる受診拒否や欠勤を免責する判断ではなく,当該欠勤の原因・経緯と会社の対応を踏まえたものである。

なお,労働安全衛生法68条及び同規則61条による就業禁止は,病気一般を対象とするものではなく,規則に定める疾病等に該当するかが問題となる。

同規則による就業禁止には,あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴く必要があり,安全確保の措置を検討することと,無給休職の根拠・期間を決めることは分けて考えるべきである。

この点,治療と就業の両立支援指針2は,同法68条及び同規則61条1項の就業禁止について,これらの規定が「当該労働者の疾病の種類,程度及びこれらについての産業医等の意見を勘案の上,可能な限り配置転換,作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし,やむを得ない場合に限り就業を禁止するものとする趣旨であり,種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものである」としている。同指針は,労働安全衛生法62条が,中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者について,心身の条件に応じた適正な配置を求めていることにも言及している。

1 指定医の受診と診療情報提供への同意を分ける

会社が指定する医師の診察を受けることと,主治医が保有する診療情報を会社の産業医等へ提供することは,別の行為である。受診指示に労働契約上の根拠がある場合でも,それだけで主治医に対する無制限の照会に同意したことにはならない。

病歴その他の健康情報は要配慮個人情報に当たり得る。会社が主治医への照会を求める場合は,①復職判断又は就業上の配慮という利用目的,②不足している情報,③質問項目,④対象期間,⑤提供先と実際の取扱者,⑥保存期間,⑦本人経由の意見書等の代替方法を具体化し,判断に必要な範囲を超えて取得しないことが重要である。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」も,主治医の診断書だけでは情報が不足する場合,産業医等が労働者の同意を得た上で,職場復帰支援に必要な内容を主治医から収集する流れを示している。

2 拒否と条件付き同意への対応

本人が情報提供依頼書の一部削除,対象期間の限定又は質問項目の修正を求めた場合は,直ちに全面的な拒否と扱わず,修正を求める理由と,修正後も必要な情報を得られるかを確認する。会社の質問が過大又は曖昧であれば限定し,本人経由の主治医意見書,産業医面談,追加診断書その他の方法で不足情報を補えるかも検討する。

他方,会社が具体的な職務と不足情報を示し,必要な範囲に限定した照会又は代替方法を提示したにもかかわらず,本人が合理的な理由を示さず全ての確認に応じない場合は,復職可能性を判断する資料が不足することになる。受診又は情報提供への非協力を直ちに懲戒事由とすることと,休職事由が消滅したかを判断できないことは区別すべきである。

3 協成事件から分かることと分からないこと

協成事件(東京地方裁判所令和6年5月28日判決)は,主治医の復職可診断書,産業医が求めた診療情報及び休職期間満了の関係が問題となった事例として紹介されている。

もっとも,同事件を,主治医の診断書は常に不十分である,産業医の意見が常に優先する,又は条件付き同意は常に拒否として扱われるという一般ルールにすることはできない。必要情報,照会文言,本人の説明と代替提案,具体的職務,就業規則及び会社の判断過程を事件ごとに確認する必要がある。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

健康診断の対象者・検査項目・費用・事後措置は,従業員の健康診断-対象者・検査項目・費用・事後措置(AIリライト)で説明している。

産業医等の選任基準は,安全衛生管理体制の選任基準-総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医等(AIリライト)で説明している。

受診命令以外の業務命令(残業命令,通常業務外の作業命令等)を拒否した社員への懲戒の考え方は,「静かな退職」の社員に会社は何ができるか―最低限の勤務,業務命令違反及び勤務成績不良の区別(AI作成)で整理している。

第3 出典・参考資料

1 法令

①e-Gov法令検索「労働契約法」5条,7条~10条,12条,16条

⑤e-Gov法令検索「労働安全衛生法」68条,104条及び同規則61条

2 裁判例

③最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決・平成23年(受)第903号・集民240号237頁(日本ヒューレット・パッカード事件)。

判決本文1頁~2頁。

⑧最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決・昭和58年(オ)第1408号・集民147号237頁。

判決本文10頁~11頁。

⑨東京高裁昭和61年11月13日判決・昭和59年(行コ)第74号・労働判例487号66頁,及びその上告審である最高裁昭和63年9月8日第一小法廷判決・昭和62年(行ツ)第32号,第33号・労働判例530号13頁。

いずれも裁判所HP未掲載であり,判例秘書で全文を確認した。

⑩協成事件・東京地方裁判所令和6年5月28日判決。労働判例ジャーナル152号の公開目次及び労働新聞社の判例紹介で掲載及び概要を確認した。判決全文は未確認であるため,固有の事実及び判断は二次資料による紹介として記載した。

3 法令に基づく指針

①厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)。

特に2,3(8),4(4),5(1)~(5),5(5)ウ・エ,5(7)~(8)。告示原文は厚生労働省告示第28号。

4 実務書

①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。

休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。

著者の実務上の提案を一律の法的義務とせず,本記事が提案する手順は公開の法令・判決・行政資料を踏まえて記載した。