第1 選任制度の全体像
1 この記事の対象
事業者は,事業場の業種及び常時使用する労働者数に応じて,総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者,産業医,安全衛生推進者又は衛生推進者を選任する必要がある。
本記事は,令和8年9月2日現在の労働安全衛生法,労働安全衛生法施行令及び労働安全衛生規則に基づき,これらの選任基準,資格,職務,巡視,届出及び罰則を整理するものである。
選任義務は,企業全体の人数ではなく,工場,支店,店舗等の「事業場」を単位として判断する。
同じ会社に複数の事業場がある場合,各事業場について業種及び労働者数を確認する必要がある。
2 常時使用する労働者数の数え方
厚生労働省は,「常時使用する労働者の数」とは,日雇労働者,パートタイマー等の臨時的労働者を含む,常態として使用する労働者の数であるとしている。
派遣中の労働者は,原則として派遣先と派遣元の双方で数えるが,安全管理者については選任義務が派遣先事業場にだけ課されるため,派遣先において数える。
3 六つの役割の比較
| 役割 | 主な選任対象 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 総括安全衛生管理者 | 業種に応じて常時100人,300人又は1000人以上 | 安全管理者,衛生管理者等を指揮し,安全衛生業務を統括する。 |
| 安全管理者 | 法定の業種で常時50人以上 | 安全に関する技術的事項を管理する。 |
| 衛生管理者 | 全業種で常時50人以上 | 衛生に関する技術的事項を管理する。 |
| 産業医 | 全業種で常時50人以上 | 医学的立場から労働者の健康管理等を行う。 |
| 安全衛生推進者 | 安全管理者の選任対象業種で常時10人以上50人未満 | 安全及び衛生に関する業務を担当する。 |
| 衛生推進者 | 上記以外の業種で常時10人以上50人未満 | 衛生に関する業務を担当する。 |
安全管理者,衛生管理者及び産業医は,いずれも常時50人以上のすべての事業場で一律に必要となるわけではない。
安全管理者は業種による限定があるのに対し,衛生管理者及び産業医は業種を問わず必要となる点に注意を要する。
4 選任期限及び届出
総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医は,選任すべき事由が生じた日から14日以内に選任し,遅滞なく所轄労働基準監督署長へ報告する必要がある。
令和7年1月1日以降,これらの選任報告を含む労働安全衛生関係の一部手続は,原則として電子申請によることが義務化されている。
安全衛生推進者及び衛生推進者も,選任すべき事由が生じた日から14日以内に選任する必要があるが,労働基準監督署長への選任報告は不要である。
ただし,選任した者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示するなどして,関係労働者に周知しなければならない。
第2 総括安全衛生管理者
1 選任が必要となる事業場
総括安全衛生管理者の選任基準は,次のとおりである。
| 業種 | 常時使用する労働者数 |
|---|---|
| 林業,鉱業,建設業,運送業及び清掃業 | 100人以上 |
| 製造業(物の加工業を含む。),電気業,ガス業,熱供給業,水道業,通信業,各種商品卸売業,家具・建具・じゅう器等卸売業,各種商品小売業,家具・建具・じゅう器小売業,燃料小売業,旅館業,ゴルフ場業,自動車整備業及び機械修理業 | 300人以上 |
| その他の業種 | 1000人以上 |
2 資格及び職務
総括安全衛生管理者には,特別の免許又は国家資格は要求されていない。
もっとも,事業の実施を実質的に統括管理する権限及び責任を有する者を選任しなければならないため,形式的な肩書だけで判断することはできない。
総括安全衛生管理者は,安全管理者,衛生管理者又は労働安全衛生法第25条の2第2項に基づく技術的事項を管理する者を指揮するとともに,労働者の危険又は健康障害を防止する措置,安全衛生教育,健康診断その他の健康保持増進措置,労働災害原因の調査及び再発防止対策等を統括管理する。
総括安全衛生管理者が旅行,疾病等により職務を行うことができないときは,代理者を選任する必要がある。
第3 安全管理者
1 選任が必要となる業種及び規模
安全管理者は,常時50人以上の労働者を使用する事業場のうち,次の業種で選任する必要がある。
①林業,鉱業,建設業,運送業及び清掃業
②製造業(物の加工業を含む。),電気業,ガス業,熱供給業,水道業,通信業,各種商品卸売業,家具・建具・じゅう器等卸売業,各種商品小売業,家具・建具・じゅう器小売業,燃料小売業,旅館業,ゴルフ場業,自動車整備業及び機械修理業
2 資格
安全管理者は,安全管理者選任時研修を修了し,大学又は高等専門学校の理科系課程卒業後2年以上,高等学校又は中等教育学校の理科系課程卒業後4年以上等の産業安全の実務経験を有する者のほか,労働安全コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者から選任する。
学歴,専攻,実務経験及び研修の組合せには細かな要件があるため,個別の候補者について法令及び研修実施機関の案内を確認する必要がある。
3 専属と専任
安全管理者は,原則としてその事業場に専属の者を選任する。
安全管理者を2人以上選任する場合において,そのうち1人を労働安全コンサルタントから選任するときは,当該コンサルタントについて専属要件の例外が認められる。
「専属」はその事業場に所属することを意味し,「専任」は通常の勤務時間を専ら安全管理者の職務に充てることを意味する。
次の事業場では,安全管理者のうち少なくとも1人を専任とする必要がある。
| 業種等 | 常時使用する労働者数等 |
|---|---|
| 建設業,有機化学工業製品製造業及び石油製品製造業 | 300人以上 |
| 無機化学工業製品製造業,化学肥料製造業,道路貨物運送業及び港湾運送業 | 500人以上 |
| 紙・パルプ製造業,鉄鋼業及び造船業 | 1000人以上 |
| その他の安全管理者選任対象業種 | 2000人以上で,過去3年間の休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場 |
4 職務,巡視及び権限
安全管理者は,総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち,安全に関する技術的事項を管理する。
事業者は,安全管理者に対し,安全措置をなし得る権限を与えなければならない。
安全管理者は,作業場等を巡視し,設備,作業方法等に危険のおそれがあるときは,直ちにその危険を防止するため必要な措置を講じる。
労働安全衛生規則は安全管理者の巡視頻度を一律に定めていないが,職務を実効的に行える頻度で巡視する必要がある。
第4 衛生管理者
1 選任人数及び資格
衛生管理者は,業種を問わず,常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任する必要がある。
必要人数は,事業場の規模に応じて次のとおりである。
| 常時使用する労働者数 | 衛生管理者数 |
|---|---|
| 50人以上200人以下 | 1人以上 |
| 200人を超え500人以下 | 2人以上 |
| 500人を超え1000人以下 | 3人以上 |
| 1000人を超え2000人以下 | 4人以上 |
| 2000人を超え3000人以下 | 5人以上 |
| 3000人を超える場合 | 6人以上 |
農林畜水産業,鉱業,建設業,製造業,電気業,ガス業,水道業,熱供給業,運送業,自動車整備業,機械修理業,医療業及び清掃業では,第一種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許を有する者,又は医師,歯科医師,労働衛生コンサルタント等から選任する。
その他の業種では,第二種衛生管理者免許を有する者も選任できる。
2 専属,専任及び衛生工学衛生管理者
衛生管理者は,原則としてその事業場に専属の者を選任する。
衛生管理者を2人以上選任する場合において,そのうち1人を労働衛生コンサルタントから選任するときは,当該コンサルタントについて専属要件の例外が認められる。
常時1000人を超える労働者を使用する事業場では,衛生管理者のうち少なくとも1人を専任とする必要がある。
また,常時500人を超える労働者を使用し,かつ,法定の有害業務に常時30人以上を従事させる事業場でも,少なくとも1人を専任とする必要がある。
常時500人を超える労働者を使用し,法定の特に有害な業務に常時30人以上を従事させる事業場では,衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者免許を有する者から選任する必要がある。
専任要件の対象となる有害業務と,衛生工学衛生管理者の選任要件となる業務とは同一ではないため,労働安全衛生規則第7条第1項第5号及び第6号を個別に確認する必要がある。
3 職務,巡視及び権限
衛生管理者は,総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち,衛生に関する技術的事項を管理する。
事業者は,衛生管理者に対し,衛生措置をなし得る権限を与えなければならない。
衛生管理者は,少なくとも毎週1回作業場等を巡視し,設備,作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは,直ちに労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じる。
第5 産業医
1 選任人数,専属及び欠格事由
産業医は,業種を問わず,常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任する必要がある。
常時3000人を超える労働者を使用する事業場では,2人以上を選任する必要がある。
常時1000人以上の労働者を使用する事業場,又は法定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場では,その事業場に専属の産業医を選任する必要がある。
産業医は,労働者の健康管理等を行うのに必要な医学的知識について,厚生労働省令で定める要件を備えた医師でなければならない。
また,法人の代表者,個人事業者又は事業場で事業の実施を統括管理する者を,原則として当該事業場の産業医に選任することはできない。
2 資格要件
産業医の資格要件には,厚生労働大臣が定める研修を修了したこと,産業医養成課程を設置する大学等で所定の課程を修めて卒業したこと,労働衛生コンサルタント試験の保健衛生区分に合格したこと,大学で労働衛生に関する科目を担当する教授,准教授又は常勤講師であること等がある。
3 職務,情報提供,勧告及び権限
産業医の職務には,健康診断及び面接指導等の実施並びに結果に基づく措置,作業環境の維持管理,作業管理,健康教育,健康相談,労働者の健康障害の原因調査及び再発防止措置等で,医学に関する専門的知識を必要とするものが含まれる。
事業者は,産業医がこれらの職務を行うために必要な情報を提供し,産業医に必要な権限を与えなければならない。
産業医は,労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは,事業者に対し,労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。
事業者は勧告を尊重し,勧告の内容等を記録して3年間保存するとともに,安全衛生委員会等へ報告する必要がある。
4 巡視及び50人未満の事業場
産業医は,原則として少なくとも毎月1回作業場等を巡視し,作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは,直ちに労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じる。
もっとも,産業医に所定の情報が毎月提供され,事業者の同意がある場合には,巡視頻度を少なくとも2か月に1回とすることができる。
常時50人未満の労働者を使用する事業場には産業医の選任義務はない。
ただし,事業者は,労働者の健康管理等の全部又は一部を行うのに必要な医学的知識を有する医師又は保健師に実施させるよう努めるとともに,国の援助を利用するなどして適切な健康管理を行うよう努めなければならない。
第6 安全衛生推進者及び衛生推進者
1 選任が必要となる事業場
安全衛生推進者又は衛生推進者は,常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場で選任する。
安全管理者の選任対象業種では安全衛生推進者を選任し,それ以外の業種では衛生推進者を選任する。
常時10人未満の事業場にはこれらの選任義務はないが,事業者の安全衛生上の義務そのものがなくなるわけではない。
2 能力,専属及び周知
安全衛生推進者又は衛生推進者は,登録安全衛生推進者等養成講習を修了した者その他必要な能力を有すると認められる者から選任する。
原則としてその事業場に専属の者を選任するが,労働安全コンサルタント,労働衛生コンサルタント等には例外がある。
選任すべき事由が生じた日から14日以内に選任し,氏名を事業場の見やすい箇所に掲示するなどして関係労働者に周知する。
労働基準監督署長への選任報告は不要である。
3 職務及び能力向上教育
安全衛生推進者は,安全衛生業務のうち,労働者の危険又は健康障害を防止する措置,安全衛生教育,健康診断その他の健康保持増進措置,労働災害原因の調査及び再発防止対策等を担当する。
衛生推進者は,これらのうち衛生に関する業務を担当する。
事業者は,安全管理者,衛生管理者,安全衛生推進者,衛生推進者等に対し,能力向上を図るための教育,講習等を行い,又は受ける機会を与えるよう努めなければならない。
第7 未選任の罰則及び統括安全衛生責任者との違い
1 未選任の罰則
総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者又は産業医を法定の要件に従って選任しなかった者は,50万円以下の罰金に処せられることがある。
法人の代表者,代理人,使用人その他の従業者が法人の業務に関して違反行為をした場合,行為者だけでなく法人にも罰金刑が科されることがある。
2 統括安全衛生責任者との違い
総括安全衛生管理者と統括安全衛生責任者は,名称が似ているものの別の制度である。
総括安全衛生管理者は,一つの事業場における事業者側の安全衛生管理を統括する者である。
これに対し,統括安全衛生責任者は,建設業及び造船業の元方事業者が,複数の請負人の労働者と自社の労働者が同一の場所で作業する一定規模の現場で,混在作業による労働災害を防止するため選任する者である。
建設工事の種類によって常時30人以上又は50人以上という規模要件が定められており,本記事で扱う事業場ごとの管理者等とは選任場面が異なる。
第8 労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタントの試験区分
安全管理者及び衛生管理者の資格要件等に関係する労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験は,公益財団法人安全衛生技術試験協会が実施している。
労働安全コンサルタント試験の区分は,機械,電気,化学,土木及び建築であり,労働衛生コンサルタント試験の区分は,保健衛生及び労働衛生工学である。
受験資格,試験科目及び申請方法は改定され得るため,受験時点の試験協会の案内を確認する必要がある。
第9 関連記事
労働安全衛生法に関するメモは,本記事の上位に当たる法令全体の索引記事である。
従業員に対する健康診断では,産業医の職務とも関係する健康診断の実施及び事後措置を扱っている。
私傷病休職の開始及び使用者の安全配慮義務等では,労働者の健康情報に関係する別の制度を扱っている。
第10 出典・参考資料
1 法令
e-Gov法令検索・労働安全衛生法
e-Gov法令検索・労働安全衛生法施行令
e-Gov法令検索・労働安全衛生規則
2 行政資料及び試験案内
厚生労働省「事業場の規模を判断するときの『常時使用する労働者の数』はどのように数えるのでしょうか。」
厚生労働省「安全衛生推進者(衛生推進者)について教えて下さい。」
東京労働局「安全管理者・衛生管理者・産業医・総括安全衛生管理者の選任」
東京労働局「令和7年1月1日より労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」
奈良労働局「安全衛生管理の手引」
公益財団法人安全衛生技術試験協会「労働安全コンサルタント試験の紹介」
公益財団法人安全衛生技術試験協会「労働衛生コンサルタント試験の紹介」