休職を命じる場面では,どの休職事由を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間が満了したときの効果まで変わることがある。長期欠勤を要件とする号と,会社の判断による号とが併記された規程では,先にどちらを使うかが,後に退職へ至る経路を左右する。以下では,規程の確認事項と,二つの号の接続の問題を整理する。
第1 会社の規程と本人の適用条件
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)16頁は,休職の定義,期間の制限及び復職等について労働基準法に定めはないと説明している。
したがって,同モデルの空欄を埋めた期間が法律上の標準になるわけではなく,まず自社の就業規則,雇用契約及び適用対象を確認する。
労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合の契約内容への取込みを定めている。
実務上は,休職事由,必要な欠勤日数,勤続期間による違い,申請又は命令の手続,休職期間及び再休職時の通算規定に加え,休職中の賃金の取扱いと復職手続の適用対象を確認し,今回の事実がどの条項に該当するかを記録しておくのが適切である。
欠勤中の社員に休職者向けの復職条項をそのまま適用できるとは限らないため,休職への移行に命令を要するのか,自動的に移行するのかを確認するとともに,診断書提出や医師面談については健康管理に関する別の条項の有無と適用条件も確認する。
休職事由が複数の号に分かれている場合,どの号を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間満了時の効果も変わることがある。長期欠勤を要件とする号については満了時に退職とする一方,会社の判断による号については満了時に復職を命じるものとする規程もあるため,退職に至る経路がどの号を経由するかを,発令の時点で確認する。
あわせて,会社の判断による号の休職を先に命じると,その期間の不就労は労働義務が免除された状態であって「欠勤」ではないため,長期欠勤を要件とする号の日数が積み上がらなくなることがある。早期に休職を命じるほど後にその号を適用できなくなるという関係が生じ得るので,二つの号の接続を先に確認する。なお,通知書に規程の文言の読替えを記載しても,就業規則の内容が変わるわけではない。会社の解釈を示すのであれば,その理由も併せて記載する。
休職制度の不備が見つかった場合でも,今回の事案に対応するために休職期間を短縮したり,再休職の通算条件や復職要件を不利益に変更したりして,そのまま適用できるわけではない。
労働契約法9条及び10条により,合意のない就業規則による不利益変更は原則として認められず,例外的に変更が認められるには,変更後の規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性及び交渉の状況等に照らした合理性が必要となる。
現在適用される規程とその周知状況を確認する作業と,将来に向けて制度を整備する作業を分け,就業規則の変更では変更しないとした個別合意の有無も確認する必要がある。
東京高裁平成7年8月30日判決(平成6年(ネ)第2275号・富国生命事件)は,復職後に約3か月通常勤務をしていた社員について,未治癒で症状が再燃する可能性があるだけでは当該規則の休職事由に当たらないとして,会社の控訴を棄却した。
この判決は当該就業規則と勤務状況についての判断であり,病気なら休職させられるとも,本人が働きたいと言えば必ず就業させるとも述べていない。
なお,同事件では,会社が業務外の傷病として扱う一方,労働者側は業務起因性を争っていた。事案の位置づけを確認せずに引用すると,争点を取り違えることになる。
第2 関連記事
休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。
就業規則の記載事項・作成届出・周知・変更は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)で説明している。
通知書に記載すべき事項は,休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)で整理している。
休職に入る日と年次有給休暇の関係は,休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)で整理している。
第3 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「労働契約法」7条,9条,10条
2 裁判例
①東京高裁平成7年8月30日判決・平成6年(ネ)第2275号(富国生命事件)。
判決本文PDF1頁~3頁。
3 公的な解説・行政資料
①厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)16頁。
規程例と解説であり,各社の就業規則そのものではない。
4 実務書
①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。
休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。
著者の実務上の提案を一律の法的義務とせず,本記事が提案する手順は公開の法令・判決・行政資料を踏まえて記載した。