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敵国条項の削除決議は何を決めたか-1995年・2005年の原文,中国の投票及び批准との違い(AI作成)

第1 削除の意思を示す決議と,憲章改正の発効は異なる

平成7年の総会決議50/52は,敵国条項が時代遅れとなったことを認識し,将来の憲章改正手続を開始する意図を表明した。
平成17年の総会決議60/1「2005年世界サミット成果文書」は,敵国への言及を削除する決意を示した。
いずれも重要な文書であるが,その採択日に国連憲章の本文から敵国への言及が消えたという意味ではない。

本記事は令和8年10月4日を調査基準日として,2つの決議の該当箇所,平成7年の国別投票及び憲章108条の手続を説明する。
併せて,国連の実務資料及び日本政府の説明から,削除の意思表明とその実施を時点別に確認する。

第2 平成7年の決議50/52は何を述べたか

1 前文の死文化の認識

平成7年12月11日採択の決議50/52の前文は,世界の大きな変化を踏まえ,53条,77条及び107条の敵国条項が時代遅れとなったことを認識している。
原文の「have become obsolete」は,時代遅れとなったという意味であり,日本政府が死文化の認識を説明する際に用いる箇所である。
また,前文は,これらの条項の対象とされた国が国連加盟国となり,国連の取組にとって価値ある存在となっていることにも言及している。

2 本文3項の将来の改正手続

(1) 改正手続を開始する意図

本文3項は,憲章108条の手続を将来の最も早い適切な会期に開始する意図を表明している。
「Expresses its intention to initiate」という表現は,手続開始の意図を示すものであり,この時点で改正の発効を宣言したものではない。
前文にも,憲章改正に伴う複雑な過程を考慮する旨が書かれている。

(2) 将来に向けた改正の対象

3項は,53条,77条及び107条の敵国条項の削除によって,将来に向けて効力を持つ憲章改正を行うという内容である。
英語の「with prospective effect」は,その将来に向けた効力を示す表現である。
決議の前文と本文を通して読むと,死文化の認識と正式な改正手続を別に扱っていることが分かる。

第3 中国は平成7年の決議に賛成したのか

1 賛成155,反対0,棄権3

国連の公式投票記録に対応する平成7年12月11日の国連会議報道GA/9031・附属書Ⅰには,賛成155,反対0,棄権3と記載されている。
附属書Ⅰの国別一覧には中国が賛成国として掲載されている。
主要な確認結果は次のとおりである。

確認対象平成7年12月11日の投票
中国賛成
安保理の他の常任理事国フランス,ロシア,英国,米国も賛成
日本及びドイツともに賛成
反対0
棄権キューバ,朝鮮民主主義人民共和国,リビア

この表の棄権国は,当該決議の附属書Ⅰの記載に基づく。
同じ会議報道の別の決議の投票表と混同してはならない。

2 賛成票から導けることの限界

中国が平成7年の当該決議に賛成したことは確認できる。
しかし,この投票は,後に採択される具体的な憲章改正文を中国が国内手続に従って批准したことを示すものではない。
また,当時の賛成票と現在の外交発信は時点が異なるため,現在の立場を投票だけから推定することもできない。

第4 平成17年の決議60/1は何を決めたか

1 177項の削除の決意

平成17年9月16日採択の決議60/1177項は,平成7年の決議及び関連する総会での議論を踏まえ,53条,77条及び107条の敵国への言及を削除する決意を示す。
「we resolve to delete references to “enemy States”」という原文は,敵国への言及を削除するという決意の表明である。
該当箇所は資料上38頁・PDF38頁にあり,文書の末尾に採択日も記載されている。

2 コンセンサス採択と個別投票の区別

令和8年9月29日の茂木外務大臣会見は,この成果文書が中国を含むコンセンサスで採択されたと説明している。
これは日本政府による採択の説明として示すものである。
平成7年のような国別賛否の投票表と同一視し,「中国が平成17年に賛成票を投じた」と表現することは避ける必要がある。

第5 削除決議,改正文の採択及び批准はどう違うか

1 108条の採択要件

憲章108条は,改正が総会の構成国の3分の2の多数で採択されることを求める。
分母は総会の構成国であり,単に出席して投票する国の3分の2という説明ではない。
削除への意思を表明した既存決議と,この条文に基づき具体的な憲章改正を採択する段階を区別する必要がある。

2 批准と発効の要件

(1) 各国の憲法上の手続による批准

改正は,国連加盟国の3分の2が,各自の憲法上の手続に従って批准した時に効力を生ずる。
総会での賛成票と国内の批准は異なる行為であり,決議への賛成票をそのまま批准済みの証拠として扱うことはできない。

(2) すべての安保理常任理事国を含むこと

批准した国には,安保理のすべての常任理事国が含まれなければならない。
この条件は批准段階のものであり,総会の投票に安保理と同じ拒否権が置かれているという意味ではない。
常任理事国の批准が必要であることと,現実に特定の一国が削除を阻止したことは,異なる命題である。

第6 その後の公的資料は実施状況をどう説明したか

1 国連の実務資料が確認する平成12年から平成21年まで

国連法務局の『国連諸機関の実務の総覧』補遺第10号・107条は,2000年から2009年を対象とする資料である。
同資料の末尾は,その対象期間中,決議60/1の177項を実施する措置は取られなかったと記載している。
これは当該期間についての実施状況の説明であり,2010年以降の交渉経過を網羅的に証明するものではない。

2 日本政府の方針の推移

資料の時点確認できる説明
平成18年外交青書首脳レベルの成果文書に削除が初めて明確に盛り込まれ,国連改革の動向を踏まえて削除を目指す。
令和6年6月28日政府答弁平成7年・平成17年の文書を踏まえ,援用する余地はないとの考えを示す。
令和7年6月24日政府答弁敵国への言及の削除を求める方針を示す一方,連携の具体的内容や各国の考え方等への回答を差し控える。
令和8年9月29日外相会見援用を否定し,中国の過去の賛成・コンセンサス採択に触れ,安保理改革と併せて削除に取り組む。

これらの資料から,日本政府が援用を否定しつつ正式な削除を目指していることは確認できる。
一方,令和7年の答弁は具体的な外交上の内容への回答を差し控えており,これだけで未削除の原因を特定の国の妨害に断定することはできない。
令和8年10月4日に確認した国連広報センターの憲章本文には,敵国への言及が引き続き掲載されている。

日本政府の援用否定と中国側の令和8年の発信,現在の武力行使の判断枠組みについては,敵国条項の死文化・未削除と日中の公式見解で説明している。

第7 出典・参考資料

①国連総会「決議50/52」(平成7年12月11日採択,12月15日発行)前文及び本文3項,資料上3頁・PDF3頁。
②国連「会議報道GA/9031」(平成7年12月11日)採択の説明及び附属書Ⅰの国別投票一覧。対応する公式投票記録の文書番号はA/RES/50/52である。
③国連総会「決議60/1・2005年世界サミット成果文書」(平成17年9月16日採択)177項,資料上38頁・PDF38頁。
④国連法務局「憲章108条」及び『国連諸機関の実務の総覧・補遺第10号(2000年~2009年)107条』「NOTE」,PDF1頁(掲載版はAdvance version)。
⑤外務省『平成18年外交青書』第3章「旧敵国条項の削除」,内閣の令和6年6月28日答弁書,令和7年6月24日答弁書及び外務省「茂木外務大臣会見記録」(令和8年9月29日)旧敵国条項への回答。