第1 休職通知で伝える事項
休職を命じるときは,適用する条項と期間だけでなく,賃金の取扱い,連絡の方法,復職の手続及び満了時の取扱いを,交付した日付とともに書面で残しておく必要がある。
後に効力が争われる場面では,発令時にどの条項を適用し,本人に何を説明したかが確認されることになり,書面に残っていない事項は,発令の時点で会社がそのように判断していたことを示しにくくなるからである。
治療と就業の両立支援指針5(5)アは,長期休業の開始前に,制度,賃金,手続,休業可能期間及び職場復帰の手順を説明する対応を示している。
同アは,これらの情報提供とともに休業申請書類を提出させて休業を開始することを示しており,また,治療の見込みが立てやすい傷病の場合には,休業開始の時点で主治医や産業医等の専門的な助言を得ながら休業終了の目安も把握することを示している。休職への移行に本人の申請を要するのか,会社の命令によるのかは規程ごとに異なるため,自社の手続と照合する。
説明の食い違いを防ぐため,次の事項を通知書又は説明書にまとめ,本人に交付した内容と日付を残す。
| 項目 | 通知・説明する内容 |
|---|---|
| ①根拠と開始日 | 適用する規程,休職事由,休職開始日及びその算定の基礎。 |
| ②期間 | 満了予定日,延長の有無と条件,再休職時の通算方法。診断書の記載期間を超えて期間を定める場合は,その期間を定めた根拠。 |
| ③金銭 | 給与の取扱い,傷病手当金の申請手順,社会保険料の本人負担分及び住民税の支払方法。 |
| ④連絡 | 担当窓口,連絡方法,予定する連絡時期,病状により連絡が難しい場合の相談方法。 |
| ⑤復職 | 期間の途中でも復職を申し出られること,復職を申し出る時期,必要な資料,医師の意見を踏まえた判断の手順,及び申出を受けてから会社が判断するまでに通常要する期間の目安。 |
| ⑥試し出勤 | 制度の有無,目的,対象者,申出方法,実施前に定める条件・提出書類及び正式な復職判定との関係。 |
| ⑦満了時の取扱い | 適用規程の内容と,復職の可否を判断するための確認事項。 |
発令日,本人への交付日・到達日,休職開始日及び満了日は区別する。年休,半日年休,会社休日又は欠勤期間の算定が確定していない段階では,休職開始日及び満了日を確定した日付として記載せず,算定中であることと確定後の通知方法を示す。
算定根拠を確認した後,開始日,満了日及び計算過程を書面で通知する。当初の案から変更した場合は,変更理由,説明日及び本人に交付した最終版を記録する。
新たな診断書が提出され,療養を要する期間が従前より長くなっても,既に通知した休職期間が当然に変更されるわけではない。会社は,就業規則の適用条項,延長又は区分変更の可否,休職満了日,必要な復職手続及び本人への説明を別に検討する。
反対に,休職期間が満了するからといって,医学的に復職可能になるわけでもない。診断書の療養期間,主治医の復職意見,産業医等の意見及び会社の人事判断を分け,通知内容を変更するときは変更日と根拠を書面に残す。
もっとも,記載を増やすほど紛争を防げるわけではない。会社の規程の解釈を通知書に詳しく書いても就業規則の内容は変わらず,本人に交付した書面の文言は,後に個別に取り上げられることもある。療養中の本人が読む負担も考え,本人に交付する書面には,適用条項,期間の根拠,本人が取り得る手続及び会社が行う対応を正確に記載し,規程の解釈を検討した経過は社内の記録として残す方法もある。
治療と就業の両立支援指針4(4)ア(イ)④は,試し出勤制度を,長期休業者の円滑な職場復帰を支援するために事業主が自主的に設ける勤務制度と位置付けている。
会社に制度がある場合は,休職開始時に,制度の目的,対象者,申出窓口,申出時期及び提出を求める資料を説明し,具体的な利用可否と実施条件は休職開始時に固定せず,回復状況,職務内容及び医学的意見を踏まえて実施前に決めることを明確にする。
実施する場合は,開始前に本人の意向並びに主治医及び産業医等の意見を確認し,目的,期間,出勤日,時間,場所,行う活動と禁止業務,指揮命令者,給与,交通費及び社会保険上の取扱い,事故時の連絡・受診方法,健康情報の取扱者,中止基準及び評価日を個別の実施計画に記載する。
この計画は休職開始時の一般的な制度説明と区別し,実施条件を変更した場合は変更内容と本人への説明日も記録する。
試し出勤の実施計画は,復職可能と判断した後に必要に応じて作成する職場復帰支援プランとは,目的と作成時点が異なる。
試し出勤の結果は復職判断の資料の一つであり,主治医及び産業医等の意見,本人の意向,復帰予定職場の意見,実際の職務及び配置転換の可能性等と併せて総合的に検討する。
自然退職条項では,「退職するための条件」と「条件が成立した場合の退職日」を分けて記載する。例えば,適用規程が「休職期間の満了時までに休職事由が消滅しないときは,満了日をもって退職する」と定めている場合,満了した事実だけで足りるわけではない。他方,その条項が有効に適用され,満了時に退職要件が成立していれば,規程上の退職日は満了日となる。「休職満了日=自然退職日ではない」とだけ記載するのは,条件と日付の区別が伝わりにくい。
このような規程であることを確認した上での説明例は,「休職期間の満了日は○年○月○日です。満了時までに休職事由が消滅せず,就業規則第○条の退職要件を満たす場合は,同条により満了日をもって退職となります。復職を希望する場合の申出・資料提出の手順は次のとおりです。」となる。満了日,適用条項及び復職手順は,実際の規程と計算結果に合わせて記載する。
満了前に復職申出と必要な資料を確認し,主治医・産業医等の意見,本人の意向,実際の職務,配置可能性及び必要な配慮を踏まえて審査する。その結果と理由,適用条項,満了日,退職要件の成否及び要件が成立する場合の退職日を,書面で説明する方法が適切である。会社内部の決裁日,通知の作成日,本人への到達日及び規程上の退職日を混同しない。
自然退職の通知は,適用条項により生じる効果を説明する通知なのか,通知自体が終了要件となるのかを区別する。「会社が後日退職を決めた日が必ず退職日になる」とも,「通知がなくてもどの規程でも満了日で終了する」とも一律には説明できない。満了後に審査・通知する場合も,会社側の手続の遅れだけを本人の復職不能の根拠とせず,満了時の状態,復職申出の経緯,規程及び個別の合意を確認する。
以上の通知・記録の方法は,本記事が提案する実務上の手順である。厚生労働省「退職・解雇に関するルール」が説明する休職期間満了と労務提供能力の関係も踏まえ,開始時に将来の自然退職を無条件で確定しないことが重要である。
満了時の退職条項を説明することと,将来の退職扱いの有効性を確定することは別である。
実務上は,開始時の通知だけで結論を固定せず,満了時の状態と適用規程,現実的な配置可能性を改めて確認し,解雇による場合は労働契約法16条等の規制を検討する必要がある。
通知書を受け取ったことの確認と,不利益な労働条件変更や将来の退職への同意は区別する。
給与や復職後の勤務条件を変更する合意を求める場合は,変更前後の内容,不利益の程度及び選択肢を説明し,検討の機会を確保するのが適切である。
最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(平成25年(受)第2595号・山梨県民信用組合事件)は,賃金・退職金の不利益変更への同意について,署名等だけでなく,不利益の内容・程度,経緯,情報提供・説明等から,自由意思に基づくものと認める合理的理由が客観的に存在するかを判断すべきものとし,原判決を破棄して差し戻した。
説明書や合意書を修正した場合は,旧案と最終案の相違点,説明日及び交付した版も記録する。
合意の有無だけでなく,労働契約法8条~12条に基づき,就業規則を下回る条件となっていないか等も別途確認する必要がある。
診断書の作成日,療養期間,復職可能日及び休職期間の区別は,休業診断書をどう読むか――作成日,療養期間,専門科検査,復職可能日及び産業医意見の区別(AI作成)で整理している。
通知の金銭欄は,月給,昇給,賞与,退職金及び役職・等級に分け,根拠条項と確認できた取扱いを示す。
例えば,休職中の昇給停止が規程にある場合も,復職後の再開時期や未実施分の扱いまで当然に決まるとは限らない。
賞与の特例が未確定なら,ゼロと断定せず,照会先と回答予定を伝える方法が考えられる。
役付の解任を予定する場合は,役職を外すこと,役職手当の支給終了,資格・等級の引下げ及び基本給の変更を分けて説明する。
通知書の受領確認だけを,各措置や減額への同意として扱わない。
具体的な支給額・勤続算入・税務用の期間計算は,休職中の賞与・退職金と退職所得控除の記事を参照されたい。
第2 関連記事
休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。
就業規則の記載事項・作成届出・周知・変更は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)で説明している。
試し出勤の給与・労災・傷病手当金の取扱いは,休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)で整理している。
第3 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「労働契約法」5条,7条~10条,12条,16条
2 裁判例
⑦最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決・平成25年(受)第2595号・民集70巻2号123頁(山梨県民信用組合事件)。
判決本文7頁~10頁。
3 法令に基づく指針
①厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)。
特に2,3(8),4(4),5(1)~(5),5(5)ウ・エ,5(7)~(8)。告示原文は厚生労働省告示第28号。
4 公的な解説・行政資料
③厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改訂)12頁~13頁,19頁~20頁(PDF14頁~15頁,21頁~22頁)。
5 実務書
①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。
休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。
著者の実務上の提案を一律の法的義務とせず,本記事が提案する手順は公開の法令・判決・行政資料を踏まえて記載した。