メインコンテンツへスキップ
       

約束手形利用廃止と支払条件の見直し―取適法・支払告示・銀行期限(AI作成)

第1 三つの期限を混同しない

約束手形の利用廃止を進める際は,令和8年1月1日,令和8年9月30日及び令和9年3月31日という三つの日付を区別する必要がある。
それぞれは,取適法の施行,多くの金融機関が設定した最終振出期限及び電子交換所における手形・小切手の交換終了という異なる事柄に関する日付である。

令和8年1月1日は,中小受託取引適正化法(以下「取適法」という。)の施行日である。
同日以後に行われた取適法対象の発注では,手形サイトの長短を問わず,約束手形による支払自体が禁止される。

令和8年9月30日は,公正取引委員会及び中小企業庁が令和8年9月2日に公表した要請文で,多くの金融機関が手形・小切手の最終振出期限として設定していると説明された日である。
全金融機関に共通する法定期限ではないため,自社が利用する金融機関の受付期限を個別に確認しなければならない。

令和9年3月31日は,電子交換所における手形・小切手の交換終了日である。
手形法が廃止される日でも,手形債権が一律に消滅する日でもない。

第2 取適法対象発注では手形払自体が禁止される

1 発注日で新旧法を分ける

取適法の手形払禁止は,令和8年1月1日以後に行われた対象発注に適用される。
同日前の発注には原則として改正前の下請法が適用されるため,支払日だけで新旧法を振り分けてはならない。

取適法の対象となるかは,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託,役務提供委託又は特定運送委託のいずれに当たるかを確認した上で,資本金基準を確認し,それで決まらない場合に従業員基準を確認して判断する。
通常の商品購入や自社利用の役務など,対象となる委託に当たらない取引まで一律に処理する必要はない。

2 支払期日は受領日等から数える

取適法3条は,給付を受領した日から起算して60日の期間内で,かつ,できる限り短い期間内に支払期日を定めることを求める。
役務提供委託では,役務が提供された日が起算点となる。

請求書の到着,検査の終了,締日,元請からの入金又は従前の手形満期を起算点へ置き換えることはできない。
受注者から支払時期の希望が示された場合や,当事者間に合意がある場合でも,それだけで取適法違反が解消するわけではない(公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q77~Q79)。

3 電子化するだけでは足りない

取適法5条1項2号は,手形だけでなく,支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段も支払遅延に含める。
電子記録債権,一括決済方式又はファクタリングに切り替えても,受注者が支払期日までに代金全額の現金を取得できない設計は原則として認められない。

公正取引委員会のQ&Aは,満期日が支払期日より後で,受注者が割引操作をしなければ支払期日に現金を得られない仕組みについて,発注者が割引料を負担しても支払遅延に当たるとしている。
受取手数料その他の費用を受注者へ負担させることも,当事者間の合意の有無にかかわらず問題となる(同Q&A・Q80~Q82)。

第3 令和9年施行の支払告示は取適法の単純な規模拡張ではない

1 対象取引と施行日

製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和8年公正取引委員会告示第3号。以下「支払告示」という。)は,令和9年4月1日に施行される。
対象となる「製造委託等」は取適法2条6項の取引類型と同じであるが,取適法の資本金基準又は従業員基準を満たすことは要件とされていない。

もっとも,支払告示は取適法の全ての義務及び禁止行為を規模要件外の取引へ広げる制度ではない。
支払告示が規制するのは,対象となる製造委託等について,正当な理由なく,受領日又は役務提供日から60日を経過した後も代金を支払わない行為である。

2 取引上の地位が劣るかを個別に判断する

支払告示は,受託事業者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる場合を除外している。
したがって,資本金又は従業員数だけで適用を決めることはできない。

支払告示の運用基準は,①委託事業者に対する取引依存度,②委託事業者の市場における地位,③取引先変更の可能性,④その委託取引を行う必要性を総合考慮するとしている。
取引基本契約だけでなく,売上構成,代替取引先,設備・人員の専用性及び取引継続の必要性を確認することになる。

3 正当な理由は形式的な合意だけでは足りない

運用基準は,支払期日について事前の実質的な協議により合意し,60日を超えることに合理的な理由がある場合などを,正当な理由が認められ得る例としている。
発注者が一方的に定めた支払条件,形式的な同意書又は業界慣行だけで,当然に正当な理由が認められるわけではない。

受託事業者の事前の同意を得た上で,60日超の支払に伴う金利負担その他の損失を補填することなども例示されている。
実務では,協議の経過,合理的理由,受託者の同意及び損失補填の内容を記録しておく必要がある。

第4 令和8年9月2日要請には三つの層がある

1 法的義務・施行準備・行政要請を分ける

公正取引委員会及び中小企業庁は,令和8年9月2日,約束手形等の利用の廃止及び支払の適正化に向けた取組等に関する要請を公表した。
この要請は,①施行済みの取適法上の法的義務,②令和9年4月1日に施行される支払告示への準備,③これらの対象外の取引も含めた支払条件改善の行政上の要請を重ねて示したものである。

したがって,要請文に書かれた全ての事項を,同一の法律上の禁止行為又は同一の制裁根拠として説明するのは正確でない。
法令上の義務,施行前の告示への準備及び望ましい取引慣行を分けて契約書,社内通知及び記事へ反映する必要がある。

2 制度対象外でも60日以内化と現金払化が求められている

要請は,取適法又は支払告示の対象とならない取引についても,受領日又は役務提供日から60日以内のできる限り短い期間で支払うこと,可能な限り現金で支払うこと及び手形から電子的決済手段へ移行することを求めている。
これらは,制度対象外の取引を直ちに取適法違反とするものではないが,サプライチェーン全体の支払方針を見直す基準となる。

製作期間が長い大型機械や建設工事等については,着手金又は中間金を支払い,受注者が完成前の費用を一方的に負担しないよう配慮することも求められている。
公正取引委員会及び中小企業庁は,金融機関並びに事業者を所管する行政機関に対し,支払条件の変更に伴う資金需要へ柔軟に対応するよう併せて要請している。

第5 銀行期限を確認して決済実務を切り替える

1 電子交換所の交換終了日

全国銀行協会は,電子交換所における手形・小切手の交換を令和9年3月31日に終了するとしている。
これは銀行間の交換制度に関する期限であり,個々の金融機関がそれ以前に受付又は発行を終えることを妨げない。

また,全国銀行協会は,手形・小切手以外の残存する証券類の交換を継続した後,電子交換所自体を令和11年6月29日に終了する方針を示している。
手形・小切手の交換終了と,電子交換所そのものの終了を同じ日と説明してはならない。

2 最終振出期限は金融機関ごとに確認する

令和8年9月2日の要請文は,多くの金融機関が令和8年9月30日を手形・小切手の最終振出期限として設定していると説明する。
しかし,同日は法令が一律に定めた期限ではなく,最終交付日,最終発行受付日,最終取立受付日その他の実務上の締切りも金融機関ごとに異なり得る。

企業は,取引金融機関ごとに,①手形帳・小切手帳の発行終了日,②振出・交付できる最終日,③取立受付の最終日,④未使用用紙の取扱い,⑤代替する振込又は電子記録債権の申込期限を確認すべきである。
相手方金融機関の取扱いにも影響されるため,自社側だけでなく主要取引先の移行予定も確認する必要がある。

3 紙から電子への置換えで終わらせない

手形を電子記録債権に置き換えても,満期日が遅く,受注者に割引操作又は費用負担を求めるなら,取適法上の問題は残る。
支払方法の名称ではなく,受注者が法定の支払期日までに,何らの追加行為又は費用負担なしに代金全額の現金を得られるかを確認することが重要である。

資金繰りは,従前の手形サイトを前提としたままでは足りない。
発注から受領,検収,請求及び支払までの工程を取引類型別に並べ,月別の追加資金需要,金融機関との融資協議,取引先への変更通知及びシステム改修を同時に進める必要がある。

第6 企業実務の確認表

支払条件の棚卸しでは,次の事項を取引単位で確認する。

①発注日と,適用される旧下請法又は取適法。
②取引類型,資本金,従業員数及び支払告示で問題となる取引上の地位。
③受領日又は役務提供日,法定の支払期日及び実支払日。
④紙の手形の有無,電子記録債権等の満期日及び受注者の現金化操作の要否。
⑤受取手数料,割引料,振込手数料その他の費用負担と,支払期日の純受取額。
⑥利用金融機関の発行・取立受付期限,未使用用紙及び代替決済の申込期限。
⑦長期製作取引における着手金・中間金と,費用負担の時期。
⑧支払条件変更に伴う月別資金需要,融資枠,社内決裁及び取引先通知。

契約書だけを確認して終わらせず,発注システム,支払マスタ,実際の入出金,金融機関の案内及び取引先への通知を相互に照合する必要がある。
違反の疑いを把握した場合は,履歴を上書きせずに証拠を保全し,対象取引と不利益額を確定した上で,行為の停止,代金・遅延利息等の支払,再発防止及び自発的申出の要否を検討する。

第7 関連記事

取適法の適用範囲,義務及び禁止行為の全体像は,中小受託取引適正化法(取適法・旧下請法)に関するメモ書き(AI作成)で整理している。
委託事業者の社内実務は,中小受託取引適正化法(取適法)の企業実務を参照されたい。

手形サイト規制の沿革及び取適法上の手形払禁止は,取適法における手形払の禁止と手形通達の沿革(AI作成)で説明している。
電子記録債権そのものの仕組みは,電子記録債権とは―でんさいの仕組み,譲渡・保証・支払不能(AI作成)を参照されたい。

第8 出典

1 法令

製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法,昭和31年法律第120号,e-Gov法令検索)2条,3条,5条及び6条。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法,昭和22年法律第54号,e-Gov法令検索)2条9項6号及び19条。

2 公正取引委員会及び中小企業庁の資料

①公正取引委員会・中小企業庁「約束手形等の利用の廃止及び支払の適正化に向けた取組等に関する要請」(令和8年9月2日)。
②公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q77~Q83。
③公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」
④公正取引委員会「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(令和8年公正取引委員会告示第3号,令和8年6月18日指定,令和9年4月1日施行)。
⑤公正取引委員会「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法の運用基準」(令和9年4月1日施行)。

3 決済制度の資料

①全国銀行協会「手形・小切手機能の全面的な電子化」
②全国銀行協会「電子交換所」