目次
1 昭和41年3月の手形通達
2 平成28年12月の手形通達
3 令和3年3月の手形通達
4 令和6年11月1日実施の指導基準
5 約束手形は廃止される予定であること
6 不渡異議申立預託金
7 全銀協の電子交換所(令和4年11月4日業務開始)
8 関連記事その他
1 昭和41年3月の手形通達
(1) 昭和40年6月10日法律法律第125号による下請法の改正により,「下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。」(割引困難な手形の交付)が親事業者の禁止事項となりました。
(2) 昭和41年3月に出た「下請代金の支払手形のサイト短縮について」 (繊維業以外の団体には同月11日付,繊維業の団体には同月31日付)において,親事業者は,下請代金の支払のために振り出す手形のサイトを原則として,繊維業については90日以内,その他の業種については 120 日以内とするとともに,下請法の趣旨を踏まえ,サイトを更に短縮するよう努力するものとされました。
2 平成28年12月の手形通達
(1) 「下請代金の支払手段について」(平成28年12月14日付の中小企業庁長官及び公正取引委員会事務総長の通達)は以下の要請をしています(1ないし3を①ないし③に変えています。)。
① 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
② 手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。
③ 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、繊維業90日以内、その他の業種120 日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること。
(2) 中小企業庁HPの「FAQ「下請代金の支払手段について」」には「◯「将来的に」の期間については、現在のところ5~6年程度を想定しています。」という記載がありました(「約束手形に関する論点について」(令和2年9月14日付の中小企業庁事務局の文書)参照)。
3 令和3年3月の手形通達
(1) 「下請代金の支払手段について」(令和3年3月31日付の中小企業庁長官及び公正取引委員会事務総長の通達)は以下の要請をしています(1ないし4を①ないし④に変えています。)。
① 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
② 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
③ 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
④ 前記①から③までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。
(2) 中小企業庁HPの「研究会」に載ってある約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書(令和3年3月15日付)では,平成28年の手形通達の改正及び約束手形の利用の廃止が提言されていました(同報告書15頁及び16頁参照)。
(3) 中小企業庁HPの「FAQ「下請代金の支払手段について」」には以下の記載があります。
Q10:新通達の記中3において「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」、「将来的には」といった記載を削除した趣旨を教えてください。
旧通達では「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」とすることにより、従来の「割引を受けることが困難であると認められる手形」等の期間を緩めることがないのは当然のこととして、さらに、下請事業者が直面している現状を踏まえ、将来的に60日以内に短縮するよう努めることを要請したものです。
その一方で、令和元年度のフォローアップ調査によれば、下請代金を手形等で支払う場合の手形等のサイトについて、「90日超120日以内」(繊維業では「60日超90日以内」)と回答した割合が、多くの業種でおおむね過半数を占めており、60日以内と回答した割合も2割に留まっているなど、改善は道半ばとなっています。
このため、新通達では、「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然」、「将来的には」といった記載を削除することにより、手形等のサイトを60日以内に短縮することを強く求めるものです。
(4) 「弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。」の「新手形通達(「下請代金の支払手段について」)について」(2021年4月17日付)には以下の記載があります。
「強く求める」という説明も意味がよくわかりませんが(行政指導にも、強い求めと、弱い求めがあるのでしょうか?)、この説明と、
「3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
4 前記・・・3・・・の要請内容については、・・・おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。」
の部分をあわせて読むならば、要は、3年以内に手形サイトを60日にすることを「強く求める」ということであって、少なくとも新手形通達では、3年後からは60日を超える手形が違法になると宣言しているわけでもない、とも読めます。
4 令和6年11月実施の指導基準
(1)ア 中小企業庁及び公正取引委員会は,令和6年11月1日以降につき,サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることとしています(公正取引委員会HPの「(令和6年4月30日)「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」 の発出について」に載ってある「手形等のサイトの短縮への対応について」(令和6年4月30日付の中小企業庁事業環境部長及び公正取引委員会事務総局官房審議官の通知)参照)。
イ 改正までの経緯については「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」(令和6年2月の公正取引委員会の文書)が分かりやすいです。
(2)ア 公正取引委員会HPの「(令和4年2月16日)手形等のサイトの短縮について」には以下の記載がありました。
公正取引委員会は,中小事業者の取引条件の改善を図る観点から,下請法等の一層の運用強化に向けた取組を進めており,その取組の一環として,令和3年3月31日に,公正取引委員会と中小企業庁との連名で,関係事業者団体約1,400団体に対して,おおむね3年以内を目途として可能な限り速やかに手形等のサイトを60日以内とすることなど,下請代金の支払の適正化に関する要請を行いました。
また,当該要請に伴い,令和6年を目途として,サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることを前提に,下請法の運用の見直しを検討することとしています。
イ 「弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。」の「新手形通達(「下請代金の支払手段について」)について」(2021年4月17日付)には以下の記載があります。
下請法4条2項2号(割引困難な手形による決済の禁止)では、
「2 親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。
二 下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。」
と定められています。
つまり、だめなのは、
「一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形」
で支払うことです。
・約束手形等の交付から満期日までの期間の短縮を事業者団体に要請します (METI/経済産業省)https://t.co/1uR1vugeTL
11月以降、下請法上の運用が変更され、下請代金支払の期間が60日を超える約束手形や電子記録債権の交付、一括決済方式による支払は、行政指導対象に。周知用のポスター公開。 pic.twitter.com/M7tOoE2Owi
— 日本法令【公式】 (@horei_news) May 10, 2024
5 約束手形は廃止される予定であること
(1) 「取引適正化に向けた5つの取組について」(令和4年2月10日付けの中小企業庁の文書)には「2026年の手形交換所における約束手形の取扱い廃止の検討(2月中に金融業界に検討を依頼) 」と書いてあります。
(2)ア 下請中小企業振興法3条1項に基づく「振興基準」(令和4年7月29日施行)には,「約束手形は、できる限り利用しないよう努めるものとする。また、約束手形の利用を廃止するに当たっては、できる限り現金による支払いに切り替えるよう努めるものとする。」と書いてあります。
イ 弁護士植村幸也公式ブログの「下請中小企業振興法の振興基準の法的効力」には「多くの企業にとっては、振興基準は無意味、ということになります。」と書いてあります。
(3)ア 電子記録債権法は平成20年12月1日に施行されました。
イ 金融庁HPの「電子記録債権」と題するパンフレットには「 手形法は、ジュネーブ統一手形条約に基づいて制定されたものですから、手形の無券面化は、同条約を廃棄しない限り困難です。」と書いてあります。
ウ オレンジ法律事務所HPに「元銀行員の田村が解説「電子記録債権と手形債権の比較」」が載っています。
エ 全銀協HPに「手形・小切手機能の電子化状況に関する調査報告書(2022 年度) 」(2023年3月31日付)が載っています。
(4) OB360°の「約束手形廃止に向けて企業がとるべき対応とは?代替案「でんさい」の特徴や導入時の注意点も解説」には「「でんさい」対応システムが手形処理で発生する業務の自動化に対応できれば、その利便性や生産性向上の効果はすぐに体感できるはずです。」と書いてあります。
6 不渡異議申立預託金
(1) 最高裁昭和45年10月23日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
不渡異議申立提供金の預託金は、不渡手形の債務者が、銀行取引停止処分を免れるため、不渡異議申立とのそのための金員の提供とを依頼し、その費用として提供金に相当する金員を支払銀行に預託したものであつて、右提供金が必要とされる趣旨は、手形債務者に支払の資力があることを明らかにし、異議申立が濫用されることを防止するにあるのであつて、特定の手形債権の支払を担保するにあるのではない。したがって、手形債権者が当然に右預託金を取得しうる地位を有するものではなく、また、支払銀行にとつて預託金返還請求権が相殺の期待をもちえないものとすることもできず、支払銀行が自己の反対債権をもつて右返還請求権と相殺することが委任契約に違反するものとも解しがたい(最高裁判所昭和四三年(オ)第七七八号、同四五年六月一八日第一小法廷判決参照)
(2) 一般財団法人とうほう地域総合研究所HPに載ってある「手形異議申立預託金に対する差押」には「裁判等により手形所持人が手形債務者から手形金の支払を受ける権利のあることが確定したとしても、手形所持人は、当然に異議申立預託金から優先弁済を受けることができるわけではありません。」と書いてあります。
(3)ア 異議申立提供金は以下の場合に返還してもらえます(電子交換所規則46条)。
① 不渡事故が解消し、持出銀行から交換所に不渡事故解消届が提出された場合
② 別口の不渡により取引停止処分が行われた場合
③ 支払銀行から不渡報告への掲載または取引停止処分を受けることもやむを得ないものとして異議申立の取下げの請求があった場合
④ 異議申立をした日から起算して2年を経過した場合
⑤ 当該振出人等が死亡した場合
⑥ 当該手形の支払義務のないことが裁判(調停、裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものを含む。)により確定した場合
⑦ 持出銀行から交換所に支払義務確定届または差押命令送達届が提出された場合
⑧ 支払銀行に預金保険法(昭和 46 年法律第 34 号)に定める保険事故が生じた場合
イ 電子交換所規則施行細則44条は「異議申立の手続の終了および異議申立預託金の返還許可」について定めています。
7 全銀協の電子交換所(令和4年11月4日業務開始)
(1) 全銀協HPの「電子交換所の交換決済開始のお知らせ」(2022年11月4日付)には以下の記載があります。
一般社団法人全国銀行協会(会長:半沢淳一 三菱UFJ銀行頭取)が設置・運営する電子交換所は、本日から予定どおり交換決済を開始しましたので、お知らせいたします。
これまで、各金融機関はお客さまから持ち込まれた手形等を各地の手形交換所に持ち寄り交換決済を行ってきましたが、本日以降は、手形等のイメージデータを金融機関間で相互に送受信することにより交換決済が完結することとなります。これにより、金融機関事務の効率化はもとより、自然災害等への耐久性向上や決済期間短縮による顧客利便性向上などさまざまなメリットが期待できます。
(2)ア 全銀協HPの「電子交換所の設立について」(2019年6月13日付)に電子交換所イメージ図が載っていますし,「電子交換所」に「電子交換所設立のご案内」と題するパンフレットが載っています。
イ 全銀協HPの「電子交換所規則・施行細則」に「電子交換所規則」及び「電子交換所規則施行細則」が載っています。
(3) 全銀協HPの「手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会」に,調査報告書,手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画等が載っています。
8 関連記事その他
(1) 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(令和4年1月26日最終改正)には以下の記載があります。
法第4条第1項第2号で禁止されている支払遅延とは,「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」である。「支払期日」は法第2条の2により,下請代金の支払期日は,「給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して,60日の期間内において,かつ,できる限り短い期間内において,定められなければならない」とされている。「支払期日」を計算する場合の起算日は「給付を受領した日」であることから,納入以後に行われる検査や最終ユーザーへの提供等を基準として支払期日を定める制度を採っている場合には,制度上支払遅延が生じることのないよう,納入以後に要する期間を見込んだ支払制度とする必要がある。
(2)ア 下請法4条1項2号の「支払」には手形払による支払も含まれますから,下請事業者からすれば,支払期日(納品から60日以内)+手形サイトを経て,支払を受けられることになります(弁護士法人中央総合法律事務所HPの「令和3年3月に出された下請代金の支払方法に関する通達について」参照)。
イ 親事業者としては,納品から60日以内に手形払すらしなかった場合,60日を経過した日から支払をする日までの期間について,年14.6%の遅延損害金を支払う必要があります(下請法4条の2・下請法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 下請法に関するメモ書き