第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,令和8年10月5日から,所有権の保存又は移転の登記等を申請する際に「国籍等」を申し出ることになった制度を扱う。
売買,贈与,相続等で不動産の所有権の登記名義人になる人が対象であり,日本国籍の人も含まれる。
調査基準日は令和8年9月26日である。
改正省令,法務省民事局長通達,法務省のウェブサイト及び法務局の記載例は原本を取得して確認し,条文はe-Gov法令検索で確認した。
国籍等の申出は,令和7年4月21日に始まった「検索用情報」の申出の項目が一つ増えたものである。
検索用情報の申出と,それを使った職権による住所等変更登記(スマート変更登記)の全体像は,令和8年4月から義務化された不動産の住所等変更登記――期限,過料及びスマート変更登記で説明している。
2 結論
①令和8年10月5日以後に所有権の保存又は移転の登記等を申請するときは,所有権の登記名義人となる申請人について,氏名,氏名の振り仮名,住所,生年月日及び電子メールアドレスに加えて,国籍等を申請書に書く。
②国籍等とは,国籍の属する国,又は台湾若しくはヨルダン川西岸地区及びガザ地区をいう。
③国外に住所がある人も,国籍等を含めて申し出る必要がある。
④国籍等を証する情報として,日本国籍の人は,本籍地が記載された住民票の写し又は戸籍の附票の写し等を提供する。
⑤日本に住所がある日本国籍の人が住所を証する情報として住民票コードを提供し,登記官が住基ネットで日本国籍を確認できたときは,国籍等を証する情報は要らない。
⑥相続登記では,法務局の記載例が,日本国籍の相続人については相続人の戸籍の証明書で足りるとしている。
⑦申請書に「日本以外」「国籍不明」と書くことはできず,国籍等を書かなければ補正を求められる。
⑧国籍等は登記事項証明書には表示されず,登記所の内部情報として管理される。
第2 制度の概要
1 根拠となる省令と施行日
根拠は,不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号)である。
この省令は令和8年3月31日に公布され,附則で令和8年10月5日から施行するとされている。
あわせて,法務省民事局長は,令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」で,登記官の取扱いを示している。
以下,この通達を「令和8年通達」という。
主な改正点は,次のとおりである。
①検索用情報管理ファイルに記録する事項に国籍等を加えた(改正後の不動産登記規則158条の38第1項6号)。
②登記の申請と同時にする検索用情報の申出の項目に国籍等を加えた(同規則158条の39第1項6号)。
③国籍等を証する情報の提供を求めた(同条2項)。
④国外に住所がある人も,検索用情報の申出の対象にした(同条1項及び158条の40第1項から「国内に住所を有する」との限定を削除)。
⑤登記官が所有権の登記名義人の国籍等を確認したときは,職権で検索用情報管理ファイルに記録するものとした(同規則158条の40第18項)。
2 国籍等の意味
国籍等とは,所有権の登記名義人となる者の国籍の属する国,又は出入国管理及び難民認定法2条5号ロに規定する地域をいう(改正後の不動産登記規則158条の38第1項6号)。
同号ロの地域は,出入国管理及び難民認定法施行令1条により,台湾並びにヨルダン川西岸地区及びガザ地区とされている。
令和8年通達は,具体的な国名については外務省ウェブサイトの「国・地域」に掲げられているものを記録するとしている。
在日韓国・朝鮮人及び台湾出身者の国籍・地域表示については,「朝鮮籍」とは何か――「韓国」「朝鮮」の国籍・地域表示と実体国籍の違い及び台湾人の国籍・地域表示――在留カード・住民票・戸籍,台湾旅券及び中華民国国籍の違いで説明している。
3 制度の目的
令和8年通達は,所有権の登記名義人の国籍を登記所が把握することについて,二つの目的を挙げている。
一つは,国土の適切な利用及び管理の観点から,外国人による不動産保有の実態を把握することである。
もう一つは,相続登記を適正かつ円滑に行うことである。
後者は,相続の準拠法が被相続人の国籍で決まることによる。
法の適用に関する通則法36条は,「相続は、被相続人の本国法による。」と定めている。
登記名義人が亡くなったときに誰が相続人になり,どれだけの割合で相続するかは,その人の本国法によって決まるので,国籍の情報は相続登記の前提になる。
令和8年通達は,記録された国籍等は内部情報として保有するもので,不動産登記法に基づく公開の対象ではないとしている。
他方で,不動産ベース・レジストリに提供することを通じて,行政機関の間の情報連携に活用される見込みであるとも述べている。
4 検索用情報の申出との関係
検索用情報は,令和7年4月21日から,所有権の保存又は移転の登記等の申請と同時に申し出るものとされている。
現行の不動産登記規則158条の39第1項は,申し出る事項として,①氏名,②氏名の振り仮名(日本の国籍を有しない者はローマ字で表示したもの),③住所,④出生の年月日,⑤電子メールアドレスを定めている。
令和8年10月5日からは,これに⑥国籍等が加わる。
登記官は,検索用情報を使って住基ネットに照会し,氏名や住所の変更を把握したときは,本人の申出がある場合に限り,職権で住所等の変更の登記をすることができる(不動産登記法76条の6)。
国籍等は,この職権による変更の登記のためではなく,前記3の目的のために加えられた項目である。
第3 誰が申し出るか
1 対象となる登記
国籍等を含む検索用情報を申し出るのは,次の登記を申請する場合である(改正後の不動産登記規則158条の39第1項)。
①所有権の保存の登記
②所有権の移転の登記
③合体による登記等(所有権の登記を併せて申請するときに限る。)
④所有権の更正の登記(その登記によって所有権の登記名義人となる者があるときに限る。)
売買,贈与,財産分与,相続,遺贈等,登記原因は問わない。
申し出るのは,所有権の登記名義人となる者が,その登記の申請人である場合に限られる。
2 自然人に限られる
検索用情報管理ファイルは,所有権の登記名義人のうち自然人である者について備えるものとされている(不動産登記規則158条の38第1項)。
法務省の記載例でも,株式会社が権利者となる部分には会社法人等番号を書き,国籍等の欄はない。
3 国外に住所がある人
現行の不動産登記規則158条の39第1項は,所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有するときに限って検索用情報の申出を求めている。
改正省令はこの限定を削ったので,令和8年10月5日からは,国外に住所がある人も国籍等を含む検索用情報を申し出ることになる。
令和8年通達も,国外に住所を有するときも国籍等を含めた検索用情報を申し出る必要があるとしている。
もっとも,法務省のウェブサイトは,海外居住者は検索用情報の申出をしても職権による住所等変更登記の対象にならないと案内している。
国外に住所がある人は,氏名又は住所が変わったときに自分で変更の登記を申請する必要がある点は変わらない。
4 申請人でない人
法務省のウェブサイトは,所有権の登記名義人となる者が登記の申請人でない場合,例えば代位者が登記を申請する場合には,その者の検索用情報を申し出ることはできないと説明している。
この場合は,代位による登記が終わった後に,所有権の登記名義人本人が単独で申し出ることができる(第6)。
第4 申請書の書き方
1 記載例
法務省は,令和8年10月5日以降に所有権の移転の登記を書面で申請する場合の記載例を公表している。
その記載例では,権利者ごとに,住所・持分・氏名の下に次の欄を設けている。
| 欄 | 日本国籍の人 | 外国籍の人 |
|---|---|---|
| 氏名 | 法務 太郎 | ジョン・スミス(JOHN SMITH) |
| 氏名ふりがな | ほうむ たろう | 原則として不要(ローマ字氏名を書き,氏名に併記される) |
| 生年月日 | 平成10年10月10日 | 1998年10月10日 |
| 国籍等 | 日本 | アメリカ合衆国 |
| メールアドレス | 本人だけが使うもの | 本人だけが使うもの |
表のうち,メールアドレスを本人だけが使うものとする点と,外国籍の人のふりがな欄の扱いは,法務省のウェブサイト及び法務局の相続の記載例の説明による。
法務省のウェブサイトは,外国籍の人が通称名を氏名として申請する場合や,外国人住民票にローマ字氏名の記載がない場合には,ローマ字氏名に代えて氏名の振り仮名を書くとしている。
添付情報の欄には,登記原因証明情報,住所証明情報等と並べて「国籍等を証する情報」を書く。
国外に住所がある人については,国内連絡先を記載する例になっている。
相続の場合の記載例は,法務局の「不動産登記の申請書様式について」に,相続の類型ごとに,令和8年10月5日以降に申請する場合の様式と記載例として別に掲載されている。
相続人が申請人になる場合も,申請人である相続人ごとに氏名ふりがな,生年月日,国籍等及びメールアドレスを書き,申請人でない相続人については要らない。
2 書いてはならない記載
令和8年通達は,登記所の検索用情報管理ファイルについて,日本国籍の人は「日本」と記録するとしている。
添付情報から日本国籍を有しないことは明らかだが,申出がない等の理由でどの国籍等か分からない人は「日本以外」と,添付情報から国籍が分からない人は「国籍不明」と記録し,無国籍の人は「無国籍」と記録する。
二つ以上の国籍を持つことが申請情報と添付情報から確認できたときは,その全部を記録する。
ただし,「日本以外」「国籍不明」は,登記所が申出のない場合等に便宜的に記録するための区分である。
申請書に「日本以外」又は「国籍不明」と書いて提出することはできない(令和8年通達第2の2(1)カ)。
3 書かなかった場合
申請書に国籍等が書かれていなかったときは,登記官は補正を求める(令和8年通達第2の2(1)ク)。
国籍等を提供する意思がないことを申請書で明らかにしている場合も,同じく補正を求めるとされている。
登記官が定めた期間内に補正されなかったときは,添付情報から分かる国籍等を記録するとされている。
第5 国籍等を証する情報
1 原則
国籍等を申し出るときは,国籍等を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報を提供する(改正後の不動産登記規則158条の39第2項本文)。
公務員が職務上作成した情報がない場合は,これに代わるべき情報を提供する。
氏名の振り仮名と生年月日を証する情報の提供を求める現行の定めに,国籍等が加わった形である。
2 日本国籍の人
令和8年通達は,日本の国籍を証する情報の例として,本籍地が記載された住民票の写しと戸籍の附票の写しを挙げている。
法務省のウェブサイトも同じ例を挙げている。
市町村長は,特別の請求がない限り,本籍(戸籍の表示)や住民票コードの記載を省略した住民票の写しを交付することができる(住民基本台帳法12条5項,7条5号・13号)。
本籍の記載を省略した住民票の写しでは日本国籍を示せないので,国籍等を証する情報を兼ねさせるなら,本籍の記載のある住民票の写しを請求しておく。
3 住民票コードによる省略
日本に住所があり,日本国籍の人については,住民票コードで国籍等を証する情報を省略できる場合がある。
令和8年通達は,住所を証する情報として住民票コードが提供され,登記官が住基ネット情報を確認する際に日本の国籍を有する者であることを把握できたときは,本籍地が記載された住民票の写し等の提供は要しないとしている(改正後の不動産登記規則158条の39第2項ただし書)。
住民票コードも,住民票の写しを請求するときに記載を求めなければ省略されることがあるので,住民票コードの記載のある写しを請求して確かめておく(前記2の住民基本台帳法12条5項)。
4 外国籍の人
令和8年通達は,外国籍を証する情報の例として,次のものを挙げている。
①国籍又は地域が記載された住民票の写し
②旅券の写し
③在留カードの写し
④特別永住者証明書の写し
法務省のウェブサイトは,旅券の写しについて日本語訳文も求めている。
旅券の写し等を提供するときは,申出人が写しに原本と相違ない旨の証明をすれば足り,原本還付の手続(不動産登記規則55条)は要らない(令和8年通達第2の2(1)オ)。
有効期限のある旅券は,有効期限を過ぎたものを国籍等を証する情報とすることはできない。
5 相続登記の場合
法務局が公表している相続登記の記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)は,国籍等を証する情報について,日本国籍の相続人は,相続人であることが分かる相続人の戸籍全部(個人)事項証明書で足り,重ねて提出する必要はないとしている。
相続登記では,相続人であることを示すために相続人の戸籍の証明書を添付するのが通常なので,これが国籍等を証する情報を兼ねることになる。
これに対し,法定相続情報一覧図の写しを提出して戸籍の添付に代える場合(不動産登記規則37条の3第1項)に,その写しで国籍等も証明できるかは,令和8年通達,法務省のウェブサイト及び法務局の記載例のいずれにも記載がない。
本記事の調査の範囲では,この扱いを定めた公表資料は確認できなかった。
一覧図の写しで相続登記を申請するときは,本籍の記載のある相続人の住民票の写しを添付するか,住民票コードを記載しておくのが安全である。
相続させる遺言による相続登記を弁護士が代理する場合の申請書の書き方は,相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出で説明している。
第6 既に登記名義人である人の単独申出
1 単独申出
既に所有権の登記名義人である人は,登記の申請とは別に,登記官に対し,自分の検索用情報を検索用情報管理ファイルに記録するよう申し出ることができる(不動産登記規則158条の40第1項)。
改正省令は,この単独申出についても「国内に住所を有する」との限定を削った。
令和8年通達は,これにより,既に登記名義人である人について国籍等を新たに記録し,又は帰化,国籍喪失,国籍離脱,国籍選択等で国籍等が変わったときに変更後の国籍等を記録することができるようになったとしている。
2 添付情報と却下
単独申出で国籍等を申し出る場合の添付情報は,登記の申請と同時にする申出の場合と同じである(令和8年通達第2の2(2)イ)。
審査の結果,申し出た国籍等を確認することができないときは,申出は却下される。
3 登記官による職権の記録
登記官は,所有権の登記名義人の国籍等を確認したときは,その国籍等と登記記録を特定するために必要な事項を検索用情報管理ファイルに記録するものとされた(改正後の不動産登記規則158条の40第18項)。
第7 施行の前後の注意点
1 申請日で様式が変わる
改正省令には,施行日のほかに経過措置の定めはない。
法務局は,令和8年10月5日以降に申請する場合の様式と記載例を,従来のものとは別に公表している。
申請書を作ってから提出するまでに日が空くときは,提出する日を基準に,国籍等の欄の要否を確かめる。
2 システムの改修
令和8年通達は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフト等は施行日に合わせて国籍等を入力できるよう改修される予定であるとしている。
他方で,国籍等を記録する検索用情報管理ファイルに関する登記情報システムの改修は施行日以降に完了する見込みであり,それまでの間に申し出られた国籍等の取扱いは別途連絡するとしている。
3 登記事項証明書には表示されない
国籍等は,登記記録ではなく検索用情報管理ファイルに記録される内部情報である(第2の3)。
そのため,登記事項証明書を取っても,所有者の国籍等は表示されない。
第8 関連記事
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⑥「朝鮮籍」とは何か――「韓国」「朝鮮」の国籍・地域表示と実体国籍の違い
⑦台湾人の国籍・地域表示――在留カード・住民票・戸籍,台湾旅券及び中華民国国籍の違い
⑧不動産登記の主要判例・調査資料・関連記事一覧
第9 出典
1 法令
①法務省「不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号)」(令和8年3月31日公布)
②e-Gov法令検索「不動産登記規則」158条の38,158条の39,158条の40,37条の3,55条
③e-Gov法令検索「不動産登記法」76条の6
④e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」36条
⑤e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法施行令」1条
⑥e-Gov法令検索「住民基本台帳法」7条,12条(いずれも令和8年9月26日確認)
2 法務省・法務局の資料
①法務省民事局長通達「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」(令和8年9月4日付け法務省民二第872号)
②法務省「検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)」
③法務省「令和8年10月5日以降に所有権の移転の登記の申請をする場合の記載例」
④法務局「不動産登記の申請書様式について」(所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)の記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)を含む。)
⑤法務局「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)」