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違法な目的で預かったお金を使い込むと横領罪になるか―不法原因給付(民法708条)と横領罪・詐欺罪の判例(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

賄賂に使うために預かったお金や,盗品を売って得た代金のように,違法な目的や取引に関係するお金を預かった人が,そのお金を自分のために使ってしまうことがある。
このような場合,預けた人は,民法708条により,預けたお金の返還を民事上請求できないことがある。
本記事は,預けた人が民事上返還を請求できない場合でも使い込んだ人に横領罪が成立するのか,また,違法な取引の相手方をだまして財物を交付させた場合に詐欺罪が成立するのかについて,最高裁判所の判例を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月27日であり,条文はe-Gov法令検索で,判例は裁判所ウェブサイトの裁判要旨及び全文で確認し,裁判例の検索には判例秘書も用いた。

2 結論

①民法708条本文は,不法な原因のために給付をした者は,その給付したものの返還を請求することができないと定めている。
②最高裁判所は,民事について,不法原因給付に当たる贈与の履行をした贈与者が返還を請求できないことの反射的効果として,目的物の所有権は受贈者に帰属するとした(昭和45年大法廷判決)。
③他方,刑事について,最高裁判所は,横領罪の目的物は犯人の占有する他人の物であれば足り,給付者が民法上返還を請求できることは要件ではないとして,贈賄のために預かった資金を領得した者や,盗品の売却代金を着服した者に横領罪を認めている(昭和23年判決,昭和36年判決)。
④違法な取引の相手方をだました場合について,最高裁判所は,相手方の財物交付が不法の原因に基づくもので民法上返還等を請求できない場合でも,詐欺罪の成立は妨げられないとしている(昭和25年判決)。
⑤昭和45年大法廷判決の後の最高裁判所の判例として,令和4年判決は,農地法に違反する方法で登記名義を預かった者が土地を売却した事案について,委託関係の成立過程に農地法違反があることのみから横領罪の成立を否定すべきではないとした。
⑥令和4年判決は民法708条や不法原因給付の語を用いておらず,昭和45年大法廷判決の後に,不法原因給付に当たる物の横領罪の成否を正面から判断した最高裁判所の判例は,今回の調査の範囲では確認できなかった。

第2 民法708条の不法原因給付

1 条文

民法708条は,「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。」と定めている。
民法90条は,「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と定めている。
公序良俗に反する契約は無効であるが,その契約に基づいて既に渡した物については,民法708条により返還を請求できないことがある。

2 返還を請求できないことの反射として所有権が移るとした大法廷判決

最高裁昭和45年10月21日大法廷判決(昭和41年(オ)第436号,民集24巻11号1560頁)は,不法の原因により未登記建物を贈与して引き渡した事案である。
同判決は,民法708条について,「みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したもの」とした。
その上で,給付者は,不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく,目的物の所有権が自己にあることを理由として給付した物の返還を請求することも許されないとした。

裁判所ウェブサイトに掲載された同判決の裁判要旨三は,「建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、右建物の所有権は、受贈者に帰属するに至ると解するのが相当である。」というものである。

3 不法性を比べて民法708条を適用しなかった判決

最高裁昭和29年8月31日第三小法廷判決(昭和27年(オ)第13号,民集8巻8号1557頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,「消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第九〇条および第七〇八条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。」というものである。
このように,給付した側の不法が相手方の不法に比べてきわめて微弱な場合には,民法708条によって返還請求が否定されないことがある。

第3 横領罪の「他人の物」と不法原因給付

1 条文

刑法252条1項は,「自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。」と定めている。
刑法253条は,「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。」と定めている。
預けた人が民事上返還を請求できない場合に,預かった物が横領罪の「他人の物」に当たるかが問題となる。

2 贈賄のための資金を預かった者の領得(昭和23年判決)

最高裁昭和23年6月5日第二小法廷判決(昭和23年(れ)第89号,刑集2巻7号641頁)は,贈賄のためにその資金を預かった者の領得行為が問題となった事案である。
裁判所ウェブサイトに掲載された同判決の裁判要旨一は,「不法原因の爲め給付をした者はその給付したものの返還を請求することができないことは、民法第七〇八條の規定するところであるが刑法第二五二條第一項の横領罪の目的物は單に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであつて必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求し得べきものであることを要件としていないのである。」というものである。

最高裁昭和27年5月20日第三小法廷判決(昭和25年(あ)第1946号,集刑64号597頁)も,贈賄のための費用を委託されて保管中の者の領得行為について,裁判要旨で「民法上不法原因のため給付者が、その給付したものの返還を請求することが出来ない場合においても、その保管者がこれを不法に領得した以上、横領罪が成立することは、つとに当裁判所の判例の示すところである。」としている。

3 盗品の売却代金の着服(昭和36年判決)

最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決(昭和33年(あ)第319号,刑集15巻9号1580頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,「窃盗犯人から賍物の牙保を依頼されてその交付を受けた牙保者が、その売却代金をほしいままに着服した場合は、横領罪が成立する。」というものである。
同判決は,理由の中で,「刑法二五二条一項の横領罪の目的物は、単に犯人の占有する他人の物であることを以つて足るのであつて、その物の給付者において、民法上犯人に対しその返還を請求し得べきものであることを要件としない」と述べ,昭和23年判決等を引用している。
そして,「所論金員は、窃盗犯人たる第一審相被告人Aにおいて、牙保者たる被告人に対しその返還を請求し得ないとしても、被告人が自己以外の者のためにこれを占有して居るのであるから、その占有中これを着服した以上、横領の罪責を免れ得ない」とした。

牙保(盗品の売買の周旋)自体が盗品等に関する罪に当たることは,盗品だと後から知ったとき―盗品等に関する罪の成立時期と,中古品の買取り・委託販売の注意点で整理している。

4 民事の大法廷判決との関係

昭和23年判決,昭和27年判決及び昭和36年判決は,いずれも昭和45年大法廷判決より前のものである。
昭和45年大法廷判決は,贈与の履行として建物を引き渡した場合について,返還を請求できないことの反射的効果として所有権が受贈者に帰属するとしたものである。

5 委託関係の成立過程に違法がある場合(令和4年判決)

最高裁令和4年4月18日第二小法廷判決(令和2年(あ)第131号,刑集76巻4号191頁)は,農地の売買に当たり,農地法所定の許可を得るために登記名義を一旦被告人側の組合とし,後に買主側へ移転する約束で土地を預かっていた被告人が,無断で土地を第三者に売却したとして起訴された事案である。
原判決は,農地法所定の許可を受けていない買主に所有権は移転しないから,買主を被害者とする横領罪は成立し得ないとして,被告人を無罪とした。
これに対し,同判決は,このような場面では,農地の所有者である売主が,買主が土地の占有(登記名義の保有)を第三者に委託することを許容し,その権限を付与しているものと認められるとして,「委託者が物の所有者でなくとも、刑法252条1項の横領罪が成立し得ると解するのが相当である」とした。
また,第三者の名義を用いて農地法所定の許可を得ることなどは農地法に違反する行為であるとしつつ,「農地法の趣旨は、耕作者の地位の安定や農業生産の増大を図るという点にあり、これに違反することが直ちに公序良俗に反するとまではいえない」と述べ,「委託関係の成立過程に農地法違反があるということのみから刑法252条1項の横領罪の成立を否定すべきものとは解されない」とした。
その上で,同判決は,原判決が高等裁判所の判例と相反する判断をしたとして原判決を破棄し,被告人が自己の出捐で土地の所有権を取得したと主張していた点について原判決が判断していなかったことから,この点を審理させるため,事件を東京高等裁判所に差し戻した。

同判決は,委託関係の成立過程に法令違反がある場合の横領罪の成否を扱ったものであるが,判決理由の中で民法708条や不法原因給付の語は用いていない。
また,判例秘書で「不法原因給付」及び「横領」の語を含む昭和45年10月22日以降の刑事の裁判例を検索したところ8件が表示されたが(令和8年9月27日),横領罪の成否について不法原因給付の点を判断したものは見当たらなかった(8件には令和4年判決を含む)。
このため,昭和45年大法廷判決の後に,不法原因給付に当たる物の横領罪の成否を正面から判断した最高裁判所の判例は,今回の調査の範囲では確認できなかった。

第4 違法な取引の相手方をだました場合(詐欺罪)

1 条文

刑法246条1項は,「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。」と定めている。

2 闇取引であったとしても詐欺罪は成立するとした判決(昭和25年判決)

最高裁昭和25年7月4日第三小法廷判決(昭和25年(れ)第231号,刑集4巻7号1168頁)は,被害者による綿糸の処分が統制法規に違反するいわゆる闇取引であったとしても,詐欺罪が成立するかが問題となった事案である。
同判決は,「欺罔手段によつて相手方の財物に対する支配権を侵害した以上、たとい相手方の財物交付が不法の原因に基いたものであつて民法上その返還又は損害賠償を請求することができない場合であつても詐欺罪の成立をさまたげるものではない」とした。
また,「社会秩序をみだす点においては所謂闇取引の際に行われた欺罔手段でも通常の取引の場合と何等異るところはない。」とも述べている。

第5 判例の整理

場面民事上の返還請求刑事上の扱い
不法の原因で建物を贈与して引き渡した返還を請求できず,所有権は受贈者に帰属する(昭和45年大法廷判決)刑事事件ではない
贈賄のための資金を預かった者が領得した給付者は民法708条により返還を請求できない場合がある横領罪が成立する(昭和23年判決,昭和27年判決)
盗品の売却を依頼された者が代金を着服した窃盗犯人が返還を請求し得ないとしても横領罪を免れない(昭和36年判決)
相手方をだまして財物を交付させた(相手方の交付が闇取引であったとしても)民法上返還等を請求できない場合であっても詐欺罪の成立は妨げられない(昭和25年判決)
農地法に違反する方法で登記名義を預かった者が土地を売却した判断していない(判決は,農地法違反が直ちに公序良俗に反するとまではいえないとした)農地法違反のみから横領罪の成立を否定すべきではない(令和4年判決)

第6 司法試験での出題

平成14年度の旧司法試験論文式試験の刑法第2問は,詐欺により取得した宝石の売却を依頼された者が,事情を知った後にこれを売却し,代金の一部を自己の借金の返済に使った事例について,その罪責を問うものであった。
法務省が公表した出題趣旨は,同問が「財産犯,殊に盗品等に関する罪,横領罪,詐欺罪の成立要件の理解を問うもの」であり,「成立する犯罪の相互関係の把握も重視している」としている。
問題と出題趣旨は,法務省ウェブサイトの論文式試験問題・出題趣旨のページに掲載されている。

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第8 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民法」90条及び708条
②e-Gov法令検索「刑法」246条1項,252条1項及び253条
(いずれも令和8年9月27日確認)

2 裁判例

①最高裁昭和23年6月5日第二小法廷判決・昭和23年(れ)第89号・刑集2巻7号641頁(裁判所ウェブサイト)
②最高裁昭和25年7月4日第三小法廷判決・昭和25年(れ)第231号・刑集4巻7号1168頁(裁判所ウェブサイト)
③最高裁昭和27年5月20日第三小法廷判決・昭和25年(あ)第1946号・集刑64号597頁(裁判所ウェブサイト)
④最高裁昭和29年8月31日第三小法廷判決・昭和27年(オ)第13号・民集8巻8号1557頁(裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決・昭和33年(あ)第319号・刑集15巻9号1580頁(裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁昭和45年10月21日大法廷判決・昭和41年(オ)第436号・民集24巻11号1560頁(裁判所ウェブサイト)
⑦最高裁令和4年4月18日第二小法廷判決・令和2年(あ)第131号・刑集76巻4号191頁(裁判所ウェブサイト)

3 判例秘書による検索

①「不法原因給付」及び「横領」の語を含む刑事の裁判例(裁判年月日:昭和45年10月22日から令和8年9月27日まで)=8件(令和8年9月27日検索)

4 試験問題

①法務省「論文式試験問題・出題趣旨」のうち平成14年度の問題及び出題趣旨(令和8年9月27日閲覧)