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会社の書類や物を持ち出して隠した・捨てたときの不法領得の意思―窃盗・詐欺と横領で判例の定式が違う理由(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 この記事の対象

(1) 問題となる場面

社員や元社員が,会社の書類,データを記録した媒体その他の物を持ち出して自宅に隠したり,捨てたりすることがある。
このとき,「捨てるつもりで持ち出したのなら窃盗にはならないのではないか」,「隠しただけでも横領になるのか」という問題が生じる。
本記事は,窃盗罪,詐欺罪及び横領罪に共通して必要とされる不法領得の意思について,罪ごとに判例の定式が異なることを,最高裁判所の判例を中心に整理する。

(2) 資料と基準日

法令は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文により確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載された判決全文により確認した。
学説・実務の整理として,前田雅英編集代表『条解刑法〔第3版〕』(弘文堂,平成25年)を参照した。

2 結論

①窃盗罪の不法領得の意思について,最高裁判所は,権利者を排除し,他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用し又は処分する意思と定義している。
②そのため,他人が占有する物を専ら捨てる又は隠す目的で持ち去った場合には,窃盗罪が成立しないことがあり,詐欺罪でも,だまし取った書類を廃棄するだけの意思であった事案で不法領得の意思が否定されている。
③これに対し,横領罪の不法領得の意思について,最高裁判所は,委託の任務に背いて,権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思と定義しており,「経済的用法に従い」という限定がない。
④したがって,任されて保管していた会社の物を隠した場合に,窃盗罪や詐欺罪の判例をそのまま当てはめて「隠すだけなら犯罪にならない」と判断することはできず,持ち出した時点での占有,委託の内容,目的及び処分の態様を罪ごとに分けて検討する必要がある。

第2 不法領得の意思とは

1 条文に書かれていない要件

刑法235条は,「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」と定める。
刑法252条1項は,「自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。」と定め,刑法253条は,「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。」と定める。
いずれの条文にも「不法領得の意思」という文言はないが,判例は,窃盗罪や横領罪などの領得罪が成立するためには,故意のほかに不法領得の意思が必要であるとしている。

2 窃盗罪の定式―最高裁判所昭和26年7月13日判決

最高裁判所第二小法廷昭和26年7月13日判決(昭和26年(れ)第347号,刑集5巻8号1437頁)は,「刑法上窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいうのであつて、永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としない」と判示した。
同判決の事案は,追跡を受けて逃走中の被告人らが,対岸に着けば乗り捨てるつもりで他人の船を漕ぎ出したというものであり,同判決は,乗り捨てる意思であっても不法領得の意思がなかったとはいえないとした。

3 二つの要素の役割

この定式は,権利者を排除する意思という部分と,経済的用法に従って利用し又は処分する意思という部分から成っている。
『条解刑法〔第3版〕』719頁~720頁は,前者が一時的な無断使用(いわゆる使用窃盗)を処罰しない機能を果たし,後者が毀棄・隠匿の罪と区別する基準としての機能を果たすとされていると説明している。
同書720頁は,「経済的用法」は厳密に文字どおりの意味である必要はなく,その物の本来の用途にかなった利用や,財物から生じる何らかの効用を享受することを含む趣旨で理解されていることも紹介している。

第3 捨てる・隠す目的で持ち去った場合(窃盗罪・詐欺罪)

1 最高裁判所昭和28年4月7日判決

(1) 事案と判断

最高裁判所第三小法廷昭和28年4月7日判決(昭和26年(あ)第2169号,刑集7巻4号762頁)は,農業協同組合の販売主任と倉庫係が,保管中の政府所有米の俵数が不足していたため,在庫の俵数のつじつまを合わせる目的で,倉庫内の各俵から米を少しずつ抜き取り,倉庫の外には持ち出さずに新しい俵を作って同じ場所に積んでおいた事案である。
同判決は,抜き取られた米は終始組合長の事実上の支配の内部にとどまっていたとして,財物に対する事実上の支配の奪取がないとした。
また,被告人らには「抜取つた米を、実質的に自分のもののようにして、利用処分する意思はすこしもなかつた」として,不法領得の意思も欠くとし,窃盗罪の成立を否定して無罪とした。

(2) 同判決が説明した大審院の判例

同判決は,弁護人が援用した大審院大正4年5月21日判決(刑録21輯663頁)について,小学校の教員が,校長に含むところがあってその責任問題を起こそうとして,校長の管理する場所から教育勅語の謄本等を取り出し,自分の受持教室の天井裏に隠匿した事件であると説明している。
そして,同大審院判決は,「単タ物ヲ毀壊又ハ隠匿スル意思ヲ以テ他人ノ支配内ニ存スル物ヲ奪取スル行為ハ領得ノ意思ニ出テサルヲ以テ窃盗罪ヲ構成セサル」という理由で,窃盗罪の成立を否定したものであると述べている。
他人が管理する書類を,困らせる目的で持ち出して隠した場合について,窃盗罪を否定した先例として紹介されている例である。

2 大阪高等裁判所平成13年3月14日判決

大阪高等裁判所平成13年3月14日判決(平成12年(う)第1359号,高等裁判所刑事判例集54巻1号1頁)は,被害者を車内に監禁した被告人らが,被害者からかばんや携帯電話を取り上げ,その後,これらを川に投棄した事案である。
同判決は,取り上げた意図が,被害者が携帯電話で助けを呼ぶのを封じること等にあったとして,「被告人ら自身が,かばんや携帯電話それ自体の価値を獲得したり,用法に従って使用したりする意思があったとはいえない」とし,窃盗罪の成立を否定した原判決の判断に誤りはないとした。
その上で,取り上げた時点では器物損壊罪の「損壊」にも当たらないが,その後に川へ投棄した行為は「損壊」に当たるとした。
同判決は,「窃盗罪と器物損壊罪との間に一般にそのような補完的な関係があるとみることはできない」とも述べており,不法領得の意思が否定された場合に直ちに毀棄罪が成立するわけではないことを示している。

3 最高裁判所平成16年11月30日決定(詐欺罪)

最高裁判所第一小法廷平成16年11月30日決定(平成16年(あ)第761号,刑集58巻8号1005頁)は,被告人が,内容虚偽の支払督促を申し立て,共犯者が債務者を装って郵便配達員から支払督促正本等を受け取り,すぐに廃棄した事案である。
同決定は,「郵便配達員を欺いて交付を受けた支払督促正本等について,廃棄するだけで外に何らかの用途に利用,処分する意思がなかった場合には,支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできないというべきであり,このことは,郵便配達員からの受領行為を財産的利得を得るための手段の一つとして行ったときであっても異ならないと解するのが相当である。」とした。
詐欺罪の成立は否定されたが,同決定は,郵便送達報告書の受領者欄に他人である受送達者本人の氏名を記載した行為について,有印私文書偽造罪の成立を認めている。
最終的に財産的な利益を得る目的があっても,だまし取った物そのものを捨てるだけの意思であれば,その物についての不法領得の意思は否定される例である。

第4 任されて保管していた物の場合(横領罪)

1 最高裁判所昭和24年3月8日判決

最高裁判所第三小法廷昭和24年3月8日判決(昭和23年(れ)第1412号,刑集3巻3号276頁)は,「横領罪の成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において不法に処分したものを後日に補填する意志が行為当時にあつたからとて横領罪の成立を妨げるものでもない。」と判示した。
同判決の事案は,農業会長が,農家から寄託を受けて保管していた供出米を,魚かすとの交換のために他に送付したというものである。

2 「経済的用法」の限定がないこと

窃盗罪の定式と比べると,横領罪の定式には「経済的用法に従い」という限定がなく,自己の利益を図る意図も必要とされていない。
『条解刑法〔第3版〕』807頁~808頁は,この点から,一般には横領罪の不法領得の意思は窃盗罪のそれよりも広いと理解されており,判例の定義に従えば,単に毀棄・隠匿するだけの意思も不法領得の意思に当たることになるといってもよいと説明している。
同書807頁は,横領罪に不法領得の意思を特に必要としない見解(越権行為説)に立てば,毀棄・隠匿の意思で処分した場合にも横領罪が成立するとされていることも紹介している。
もっとも,同書808頁は,単に一時使用の目的で権限を越えて使用しただけの場合には,判例の定義によっても一般に不法領得の意思は認め難いであろうとしている。

3 専ら本人のためにした場合―最高裁判所昭和28年12月25日判決

最高裁判所第二小法廷昭和28年12月25日判決(昭和26年(あ)第5052号,刑集7巻13号2721頁)は,組合長が,定款に違反し,総会及び理事会の議決を経ずに独断で組合名義の事業を営み,これに組合の資金を支出した事案である。
同判決は,「右支出が専ら本人たる組合自身のためになされたものと認められる場合には、被告人は不法領得の意思を欠くものであつて、業務上横領罪を構成しないと解するのが相当である。」として,支出が誰のためにされたかを判断しなかった原判決を破棄した。
権限を越えた処分であっても,それが専ら所有者自身のためにされたのであれば,横領罪の不法領得の意思は否定されることになる。

4 保管中の現金を隠匿した例―東京高等裁判所昭和56年12月24日判決

東京高等裁判所昭和56年12月24日判決(昭和56年(う)第1024号,高等裁判所刑事判例集34巻4号461頁)は,会社の代表取締役が,業務上保管していた会社の現金15億2000万円を隠匿した事案である。
同判決は,前記の最高裁判所昭和24年3月8日判決と昭和28年12月25日判決を引用した上で,本件では「隠匿という特異な保管形態から直ちに被告人の不法領得の意思を推認することなく、いかなる意図のもとでこれを隠匿するに至つたかの動機にまで立ちいつて審究することが必要であり」とした。
そして,被告人が会社の金員を「専ら被告人の意思によつて自由に処分することのできるような形において個人的な支配下に置いたことは、Aの代表取締役たる被告人の任務に反し、権限を逸脱した行為であるというほかはない」として,隠匿の意思を表明した時点でその全額について不法領得の意思を認め,業務上横領罪の成立を認めた原判決を維持した。
隠匿は,それ自体で横領罪の成否を決めるものではないが,委託された物を所有者の支配から外して自分の支配下に置く態様として,不法領得の意思を認める事情になり得ることが分かる。

第5 罪ごとの比較

罪ごとに,占有の起点,判例の定式及び捨てる・隠す目的の扱いを比べると,次のとおりである。

罪名占有の起点判例の定式捨てる・隠す目的の扱い
窃盗罪他人の占有を奪って取得する権利者を排除し,経済的用法に従い利用・処分する意思(最高裁昭和26年7月13日判決)専ら毀棄・隠匿の目的なら不法領得の意思が否定され得る(最高裁昭和28年4月7日判決が紹介する大審院判例,大阪高裁平成13年3月14日判決)
詐欺罪相手方をだまして交付を受ける交付を受けた物を何らかの用途に利用・処分する意思があるかが問われた(最高裁平成16年11月30日決定)廃棄するだけで外に利用・処分する意思がなければ否定(同決定)
横領罪・業務上横領罪委託を受けて既に自分が占有している委託の任務に背き,権限なく所有者でなければできないような処分をする意思(最高裁昭和24年3月8日判決)経済的用法の限定がなく,隠匿も任務違背の処分として不法領得の意思を認める事情になり得る(東京高裁昭和56年12月24日判決)。専ら本人のためなら否定(最高裁昭和28年12月25日判決)

この表のとおり,同じ「不法領得の意思」という言葉でも,他人の占有を奪って取得する犯罪と,委託を受けて保管している物を処分する犯罪とでは,判例が用いる定式が異なる。
窃盗罪や詐欺罪で不法領得の意思を否定した判例を,委託を受けて保管していた物の隠匿や廃棄の事案へ,そのまま移すことはできない。

第6 会社の書類を持ち出して自宅に隠した場合の検討順序

1 持ち出した時点で誰が占有していたか

最初に,持ち出した時点で,その書類や物を誰が事実上支配していたかを確認する。
他の者の占有を奪ったのであれば窃盗罪が,自分が委託を受けて占有していたのであれば横領罪又は業務上横領罪が問題となる。
上司と一緒に管理していた場合の考え方は,一緒に管理していたお金や物を一人が持ち出したとき―窃盗罪か横領罪か,共同占有と親族相盗例(刑法244条)の裁判例で整理している。

2 委託の内容

横領罪が問題となる場合は,その書類をどこで,どの目的のために保管することを任されていたか,職場の外へ持ち出すことが許されていたかを確認する。
許可された範囲で一時的に持ち帰っただけであれば,任務に背いた処分とはいえないことがある。
他方,保管場所から持ち出して自宅で隠し続け,会社が利用できない状態に置いたのであれば,委託の任務に背いて所有者でなければできないような処分をしたかが問題となる。

3 目的と処分の態様

窃盗罪が問題となる場合は,持ち去った物を自分で利用し又は処分する意思があったのか,専ら捨てる又は隠す目的だったのかが,不法領得の意思の有無を左右し得る。
横領罪が問題となる場合は,隠匿の目的が専ら会社自身のためであったのか,自分の不正の発覚を防ぐなど自分の都合のためであったのか,会社が書類を利用できない期間や態様がどうであったかを確認する。
いずれの場合も,本人の説明だけでなく,持出しの時刻,保管場所,持ち出した後の扱い及び発覚までの経過といった客観的な事実から判断されることになる。
社内で事実を確認する手順は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査-初動,証拠保全,事情聴取及び調査の限界で整理している。

4 公用文書等毀棄罪との関係

刑法258条は,「公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。」と定める。
最高裁判所第三小法廷昭和38年12月24日判決(昭和37年(あ)第1191号,刑集17巻12号2485頁)は,公務所の用に供する文書とは,作成者や作成の目的等にかかわりなく,現に公務所において使用に供され,又は使用の目的をもって保管されている文書を総称するとした。
最高裁判所第一小法廷昭和52年7月14日判決(昭和51年(あ)第1202号,刑集31巻4号713頁)は,公務員が職務権限に基づいて作成中の文書であっても,文書としての意味・内容を備えるに至った以上は,これに当たるとした。
『条解刑法〔第3版〕』828頁~829頁は,毀棄の意義については文書の効用を害することとする見解が判例・通説であり,物質的な損壊を伴わない隠匿もこれに含まれると説明している。
そのため,役所などの公務所で保管されている文書を持ち出して隠した場合には,公用文書等毀棄罪も問題となる。
委託を受けて保管していた公用文書の隠匿について,業務上横領罪と公用文書等毀棄罪がどのような関係に立つかを直接判断した最高裁判所の判例は,今回の調査では確認できなかった。

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第8 出典

1 法令

①e-Gov法令検索・刑法(235条,252条,253条,258条)

2 裁判例

①最高裁昭和24年3月8日第三小法廷判決・昭和23年(れ)第1412号・刑集3巻3号276頁
②最高裁昭和26年7月13日第二小法廷判決・昭和26年(れ)第347号・刑集5巻8号1437頁
③最高裁昭和28年4月7日第三小法廷判決・昭和26年(あ)第2169号・刑集7巻4号762頁
④最高裁昭和28年12月25日第二小法廷判決・昭和26年(あ)第5052号・刑集7巻13号2721頁
⑤最高裁昭和38年12月24日第三小法廷判決・昭和37年(あ)第1191号・刑集17巻12号2485頁
⑥最高裁昭和52年7月14日第一小法廷判決・昭和51年(あ)第1202号・刑集31巻4号713頁
⑦東京高裁昭和56年12月24日判決・昭和56年(う)第1024号・高刑集34巻4号461頁
⑧大阪高裁平成13年3月14日判決・平成12年(う)第1359号・高刑集54巻1号1頁
⑨最高裁平成16年11月30日第一小法廷決定・平成16年(あ)第761号・刑集58巻8号1005頁

3 文献

①前田雅英編集代表『条解刑法〔第3版〕』(弘文堂,平成25年)719頁~720頁,807頁~808頁,828頁~829頁