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医学部入試の得点調整と損害賠償―東京医大・順天堂など7判決の受験慰謝料と不合格慰謝料(AI作成)

第1 医学部入試の得点調整をめぐる判決の全体像

平成30年に,複数の大学の医学部入試で,受験者の性別や浪人年数・年齢によって得点を調整し,又は合格判定の基準を変えていたことが明らかになった。
その後,受験者本人による損害賠償請求と,特定適格消費者団体による共通義務確認の訴えが起こされ,判決が出ている。
本記事は,裁判所ウェブサイトと判例秘書で本文を確認できた7件の判決を,違法とされた理由,損害として認められたもの,訴訟で注意すべき点に分けて整理する。
本記事では,得点の調整と合格判定基準の差を併せて「得点調整等」という。
これらの判決で問題となった入試は,いずれも平成30年度以前のものである。

基準日は令和8年10月25日である。
東京地裁令和4年9月9日判決が控訴され,東京高裁令和5年5月30日判決で変更されたことを除き,各判決の上訴の有無と確定の有無は確認していない。
判決が大学名を伏せているものは,本記事でも大学名を書かない。
ここで扱うのは私立大学の医学部入試をめぐる民事の判決であり,入試に関係した文部科学省幹部の刑事事件は扱わない。

判決大学訴えの種類主な判断
東京地裁令和2年3月6日判決東京医科大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下
東京地裁令和3年9月17日判決順天堂大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下
東京地裁令和4年5月19日判決順天堂大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料30万円と,入学検定料・受験者本人の交通費・宿泊費
東京地裁令和4年9月9日判決東京医科大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料20万円,不合格慰謝料100万円~150万円(控訴人の分は控訴審で変更)
東京高裁令和5年5月30日判決東京医科大学損害賠償(控訴審)不合格慰謝料を200万円~300万円とし,予備校費用の一部を認容
東京地裁令和5年8月10日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償年齢を理由とする不合格判定につき慰謝料150万円(ほかに記者会見での発言につき10万円)
東京地裁令和5年12月25日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償女性受験者への得点調整につき受験慰謝料40万円,合格の相当程度の可能性があった者は140万円(受験の分を含む)

第2 得点調整等はなぜ違法とされたか

1 判決は私立大学にも公法上の規定の趣旨の尊重を求めた

憲法14条1項は,「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定める。
教育基本法4条1項は,「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」と定める。
大学設置基準2条の2は,入学者の選抜を「公正かつ妥当な方法により、適切な体制を整えて行うものとする。」と定めている。

東京地裁令和4年9月9日判決は,私立大学を設置する学校法人も,入学者の選抜に当たり,憲法並びに教育基本法及び学校教育法をはじめとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負うとした。
そのうえで,小論文試験の点数に性別と高校卒業からの経過年数に応じて差をつけた措置について,「性別という自らの努力や意思によっては変えることのできない属性を理由として、女性の受験者を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反する」とし,「公正かつ妥当な方法」による入学者の選抜とはいえないと判断した。
順天堂大学の損害賠償の判決(東京地裁令和4年5月19日判決)と東京地裁令和5年12月25日判決も,私立大学が公法上の諸規定の趣旨を尊重すべき立場にあることを前提に,女性受験者を不利に扱った判定基準や得点調整を不合理な差別と評価している。

2 不法行為の構成は受験校を選択する自由の侵害

東京地裁令和4年9月9日判決は,得点の調整を公表しないまま受験させた行為を,受験者が「自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして、原告らに対する不法行為に該当する」とした。
東京地裁令和4年5月19日判決は,大学には受験者が誤った情報の下で出願を決めることがないよう必要な情報を提供すべき信義則上の義務があったとし,判定基準を秘して受験させた行為は,受験するか否か,他の大学を受験するか否かについての意思決定の自由を侵害する不法行為に当たるとした。
東京地裁令和5年12月25日判決は,入試で合理性を欠く差別を受けないという利益を,大学選択の意思決定の自由の基盤をなすものと位置づけている。

これら3件の判決では,得点調整等によって合否が変わったかどうかにかかわらず,調整のある試験を受験した原告らについて不法行為の成立が認められている。
合否が変わった者には,これに加えて不合格とされたことによる精神的苦痛が問題となる。
なお,共通義務確認の2件の判決は,属性による調整や判定基準を事前に告知し,又は明らかにすべき信義則上の義務に反したという構成をとっている。

3 控訴審は不合格とされた者への差別的取扱い自体も不法行為とした

東京高裁令和5年5月30日判決(東京医科大学の控訴審)は,第一審の構成を補正した。
得点の調整を公表せずに学生を募集し,調整を実施した行為は,合否への影響の有無にかかわらず受験校を選択する自由を侵害する不法行為に当たるとともに,調整がなければ合格と判定されていたのに不合格とされた者との関係では,「性別による不合理な差別的な取扱いとして不法行為に該当する」とした。
そのうえで,不合格とされた者は大学へ入学する地位ないし資格を失ったものとして,慰謝料を第一審より増額した。

4 年齢を理由とする不合格判定も違法とされた

東京地裁令和5年8月10日判決は,社会人経験のある男性受験者について,合否判定基準を大きく上回る成績であったのに,その基準を適用せずに不合格とした判定を,年齢という属性を理由とする不利益な取扱いと認めた。
判決は,募集要項に年齢を合否判定の考慮要素とする記載がなかったことも踏まえ,「年齢という属性を理由に本件併用方式不合格判定を行ったことは、被告の裁量を逸脱するものであって違法であり、不法行為を構成する。」と判断した。
判決が違法としたのは,募集要項で示していないのに,一律に適用されるべき基準を外し,又は浪人年数による基準を適用した点であり,年齢の考慮そのものを一律に不合理な差別と断定したものではないと読める。

第3 損害として認められたもの・認められなかったもの

1 入学検定料・交通費・宿泊費

損害賠償の第一審判決4件は,いずれも受験料(入学検定料)を損害と認めている。
東京医科大学と順天堂大学の損害賠償の判決及び東京地裁令和5年8月10日判決は,得点調整等を知っていれば受験しなかったという理由で,入学検定料を損害とした。
試験会場への交通費と必要な宿泊費も,東京地裁令和4年5月19日判決,東京地裁令和4年9月9日判決及び東京地裁令和5年12月25日判決で損害と認められ,東京地裁令和5年8月10日判決でも交通費が認められた。

付添人の費用は判決で扱いが分かれた。
東京地裁令和4年9月9日判決は,遠方から受験した受験者に保護者等が同伴することは不合理とはいえないとして,付き添った者の交通費・宿泊費も損害と認めた。
これに対し,東京地裁令和4年5月19日判決は,保護者の同行がなければ受験が困難であったとまではいえないとして,同行した母親の交通費・宿泊費の相当因果関係を否定した。

2 受験したこと自体についての慰謝料

次の判決では,合否に影響がなかった受験者にも,差別的な扱いのある試験を受験させられたことについて慰謝料が認められている。
東京地裁令和4年9月9日判決は「原告ら各自につき1年度当たり20万円」とし,東京高裁令和5年5月30日判決もこの額を維持した。
東京地裁令和4年5月19日判決は「原告ら1名につき1年度の受験当たり30万円」とした。
東京地裁令和5年12月25日判決は,受験したこと自体による精神的損害を1人当たり40万円とした。

額を左右した事情として,東京地裁令和4年9月9日判決は,大学が一律に調整を行うためのシステムを廃止するなどの是正措置を講じたことを含む一切の事情を考慮した。
東京地裁令和4年5月19日判決は,判定基準の廃止と是正措置の実施について,原告らの精神的苦痛を一定程度緩和する意味合いを持つとしている。

3 不合格とされたことについての慰謝料

判決不合格慰謝料の額判断の要点と考慮された事情
東京地裁令和4年9月9日判決受験慰謝料に加えて1人当たり150万円(繰上合格の順位より上位となる可能性があった者は100万円)第三者委員会の新たな合格者選定名簿で繰上合格の最低順位より上位であったか
東京高裁令和5年5月30日判決300万円(1人は200万円)追加合格の決定を受けていない者も,名簿の順位から本来合格と判定されるべきであったと認めた。他大学への進学で費用が増えたこと,浪人を余儀なくされたこと,第二志望に合格するまでの不安も考慮
東京地裁令和5年8月10日判決150万円合否判定基準を大きく上回っていたのに年齢を理由に不合格とされたこと,別の方式で二次試験の受験機会を失ったこと
東京地裁令和5年12月25日判決140万円(受験したこと自体の分を含む)調整がなければ繰上合格の最終位と同位で,合格の「相当程度の可能性」にとどまること

東京地裁令和5年12月25日判決は,調整を除いた順位が繰上合格の最終位と同じであり,辞退者の動向等のわずかな差で結果が変わりうること,第三者委員会の報告書でも,その年度に男女で80点の点差が生じていた受験者の割合は第2次試験受験者のうち多くとも約93%にとどまり100%ではないことから,合格の蓋然性までは認めず,相当程度の可能性があったにとどまるとした。
東京地裁令和4年5月19日判決は,二次試験の受験機会を奪われたとの主張について,判定基準がなければ最終合格に至っていた蓋然性が立証されていないとして,受験慰謝料とは別に評価しなかった。
これらの判決からみると,合格の可能性をどこまで立証できるかが,慰謝料の額を大きく左右するといえる。

4 他大学との学費の差額,逸失利益,予備校費用

東京地裁令和4年9月9日判決は,原告らは得点の調整を知っていれば受験しなかったという前提に立つ以上,その大学に入学していたことを前提とする損害は認められないとして,他大学との学費の差額,医師としての稼働が1年遅れたことによる逸失利益,予備校費用をいずれも否定した。

東京高裁令和5年5月30日判決は,結論を一部変えた。
学費の差額は,大学ごとに施設やカリキュラム等が違うので直ちに損害とはいえず,逸失利益も,医師国家試験に不合格となる可能性や医師に定年がないこと等から相当因果関係を否定した。
そのうえで,進学・在籍費用の高い他大学に進学したことや浪人を余儀なくされたことは,不合格慰謝料の算定で考慮するとした。
予備校費用については,「予備校費用のうち150万円の限度で本件不法行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。」とした。

東京地裁令和5年8月10日判決は,不合格になったことで学費の支出を免れたから損益相殺すべきであるという大学の主張を,認められた損害は受験料,交通費及び慰謝料であるとして退けた。
同判決は,大学の記者会見での発言についても別に不法行為を認め,慰謝料10万円を認めている。

第4 訴訟で注意すべき点

1 受験年度ごとに請求を特定し,時効に注意する

東京高裁令和5年5月30日判決は,請求の訴訟物を受験した年度の入学試験に関する不法行為に基づく損害賠償請求権としてとらえ,損害の費目ごとに訴訟物が異なるわけではないとした。
同判決では,受験した年度を誤って訴えを起こした控訴人が,控訴審で正しい年度の請求に変更したところ,不法行為による損害及び加害者を知った時から3年が経過していたとして,消滅時効(判決は民法724条1号を挙げている)の完成が認められた。
受験年度を確認することが困難であったと認めるべき特段の事情はないとして,時効の援用が権利の濫用に当たるとの主張も退けられ,この控訴人の請求はすべて認められなかった。

他方,同じ判決は,訴えを起こした時に一部請求であることを明示していなかった控訴人については,控訴審で不合格慰謝料と他大学との学費等の差額(判決のいう納付金差額)を加えて請求を拡張しても,訴えの提起による時効中断の効力は請求権全部に及ぶとして,時効の完成を否定した。
受験票等で受験した年度と試験の種類を確かめ,一部請求とするかどうかを訴えの提起の段階で検討しておく必要がある。

2 大学の補償の申出や追加の合格判定との関係

東京地裁令和4年9月9日判決は,大学が追加の合格判定や補償を申し出たから不合格慰謝料は生じないという主張を退けた。
入学意思の有無を確認されたが入学の意向を示さなかった者や,10万円の補償の申出に応じなかった者についても,精神的苦痛が慰謝されたとはいえないとしている。

3 共通義務確認の訴えでは対象が限られた

東京医科大学と順天堂大学については,特定適格消費者団体が共通義務確認の訴えを起こした。
両判決は,入学検定料,送金手数料,郵送料等の定型的な費用と,対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬・費用については大学の支払義務を確認した。
受験に要した旅費・宿泊費については,簡易確定手続で対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難である(消費者裁判手続特例法3条4項)として,訴えを却下した。

両判決の当時の同法3条2項6号は,精神上の苦痛を受けたことによる損害を共通義務確認の訴えの対象から除いており,除外に限定はなかった。
現行の同号は,令和4年法律第59号による改正(令和5年10月1日施行)により,その額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者に共通し,かつ,財産的な請求と併せて請求され共通する事実上の原因に基づくもの又は事業者の故意によって生じたものに当たる場合を,除外の対象から外している。
もっとも,同法附則3条2項により,不法行為に基づく請求については,改正後の同号は施行日以後に行われた加害行為に係る請求に適用され,施行日前の加害行為には従前の例による。
平成30年度以前の入試をめぐる請求には,改正後の同号は適用されない。

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第6 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「日本国憲法」14条1項。
②e-Gov法令検索「教育基本法」(平成18年法律第120号)4条1項。
③e-Gov法令検索「大学設置基準」(昭和31年文部省令第28号)2条の2(令和8年9月4日施行版。平成30年6月29日施行版の同条も「公正かつ妥当な方法により、適切な体制を整えて行う」との文言を含む)。
④e-Gov法令検索「消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」2条4号,3条2項6号及び同条4項(令和8年5月21日施行版。3条2項6号は平成29年10月1日施行版及び令和5年6月16日施行版と比較)並びに附則(令和4年法律第59号)1条1号・3条2項(施行日は同法令検索の改正履歴の令和5年10月1日施行版による)。
⑤e-Gov法令検索「民法」724条1号。

2 裁判例

①東京地裁令和2年3月6日判決(平成30年(ワ)第38776号)。裁判所ウェブサイト
②東京地裁令和3年9月17日判決(令和元年(ワ)第28088号)。裁判所ウェブサイト
③東京地裁令和4年5月19日判決(令和元年(ワ)第16146号)。裁判所ウェブサイト
④東京地裁令和4年9月9日判決(平成31年(ワ)第7175号ほか)。裁判所ウェブサイト
⑤東京高裁令和5年5月30日判決(令和4年(ネ)第4774号)。裁判所ウェブサイト
⑥東京地裁令和5年8月10日判決(令和元年(ワ)第34855号)。裁判所ウェブサイト
⑦東京地裁令和5年12月25日判決(令和2年(ワ)第26002号,判例秘書の判例番号 L07832874)