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フレックスタイム制の残業代と不足時間―清算期間・繰越し・途中退職の注意点(AI作成)

第1 フレックスタイム制でも残業代は発生する

フレックスタイム制は,あらかじめ定めた期間の総労働時間の範囲で,労働者が各日の始業・終業時刻を決める制度である。
労働時間を記録しなくてよい制度でも,残業代を払わなくてよい制度でもない。
本記事は,令和8年10月27日を基準に,適法に導入されたフレックスタイム制の時間清算と賃金支払を説明する。

給与計算では,①制度の導入要件,②協定上の総労働時間,③法定労働時間の総枠,④不足・超過時間の取扱い,⑤途中入社・退職等による適用期間の短縮を,順に確認する必要がある。
とりわけ,会社が定める所定時間を超えたことと,労働基準法上の割増賃金が必要な時間外労働になったことは,同じではない。

第2 就業規則と労使協定で定める事項

1 始業・終業時刻を労働者に委ねる

労働基準法32条の3は,就業規則その他これに準ずるものにより,始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねることを要件としている。
さらに,過半数労働組合又は過半数代表者との書面による労使協定が必要である。
名称だけをフレックスタイム制とし,実際には始業・終業時刻を一律に指定する運用には注意を要する。

2 清算期間・総労働時間・標準となる1日の時間

労使協定では,対象労働者の範囲,清算期間及び清算期間における総労働時間などを定める。
清算期間の起算日は,就業規則等又は労使協定で明らかにする。
清算期間は3か月以内であり,1か月を超える場合には協定の有効期間を定め,労働基準監督署長への届出も必要となる。
コアタイムやフレキシブルタイムを設けるときは,それぞれの開始・終了時刻も定める。

標準となる1日の労働時間も協定事項である。
これは,1日単位の年次有給休暇を取得した場合の賃金清算等に使う時間であり,毎日の実労働時間を固定する趣旨ではない。
1日単位の年休取得日については,標準となる1日の労働時間を加えて賃金清算する。
実労働時間を基礎とする法定時間外労働の計算とは,区別する必要がある。

制度の根拠は,労働基準法32条の3並びに労働基準法施行規則12条の3及び25条の2である。
厚生労働省の手引きは,協定事項と年休取得日の取扱いを6頁~10頁で説明している。

第3 清算期間が1か月以内の場合の残業代

1 所定時間と法定の総枠を分ける

原則となる週40時間制の場合,清算期間の法定労働時間の総枠は,40時間にその期間の暦日数を掛け,7で割って求める。
この総枠を超える実労働時間は,法定時間外労働となる。
適法なフレックスタイム制では,ある日に8時間,又はある週に40時間を超えたという理由だけで,その超過時間が直ちに法定時間外労働となるわけではない。

例えば,28日間の清算期間であれば,原則的な総枠は160時間である。
協定上の総労働時間が140時間で実労働が150時間であった場合,所定の140時間を超えた10時間の賃金精算は必要になるが,そのことだけで10時間全部が法定時間外労働になるわけではない。
実労働が165時間であれば,総枠を超える5時間が法定時間外労働となる。
所定時間を超える部分について法定基準より有利な割増支払を約束していれば,その定めも確認する必要がある。

2 休日労働・深夜労働は別に確認する

フレックスタイム制であっても,法定休日の労働や深夜労働に関する割増賃金の問題は残る。
時間外・休日労働を行わせる場合の36協定も,フレックスタイム制の労使協定で代用されるものではない。
清算表では,法定休日労働,深夜労働及び通常の労働時間を区別し,同じ時間の二重計上にも注意する必要がある。
同じ時間を同じ時間外労働として二重に数えないことと,時間外労働が深夜に及ぶ場合に深夜割増を加算することは,別の問題である。
法定休日に働いた時間は,清算期間の総枠による時間外労働の計算とは別枠で扱う。

なお,常時10人未満の労働者を使用する商業等には週44時間の特例があるが,清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制には適用されない。
本記事の数値例は,この特例によらない週40時間制を前提としている。

完全週休2日制の対象者については,労働基準法32条の3第3項の書面協定により,清算期間内の所定労働日数に8時間を掛けた時間を限度とする特例もある。
本記事の総枠の式は,この特例を採用していない場合の原則を説明している。
実際の計算では,対象者と協定内容を確認する必要がある。

第4 清算期間が1か月を超える場合の二段階の計算

1 各1か月の週平均50時間を先に確認する

清算期間が1か月を超える場合には,清算期間を起算日から1か月ごとに区分し,各区分について週平均50時間を超える実労働時間を計算する。
その区分が1か月に満たないときも,当該区分の暦日数に応じて計算する。
この段階で発生する法定時間外労働の割増賃金は,その月に対応する賃金支払日に支払う必要があり,清算期間の最後まで一括して待てるわけではない。

各区分の基準時間は,50時間×当該区分の暦日数÷7で求める。
給与計算担当者は,清算期間の起算日と通常の給与締切日が一致しているかを最初に確認し,対象期間を取り違えないようにする必要がある。

2 清算期間全体の総枠超過から既算入分を除く

次に,清算期間全体について週平均40時間の法定労働時間の総枠を計算し,実労働時間の総計と比較する。
総枠を超える時間から,各1か月の週平均50時間超として既に時間外労働に算入した時間を差し引き,残る時間外労働を清算期間の最後に精算する。
月ごとの50時間基準と期間全体の40時間基準を二重に加算してはならない。

厚生労働省の手引きは,この二段階の方法を13頁~15頁で図示している。
月ごとの割増賃金を支払ったことと,清算期間全体の精算が終わったことを区別して記録すると,未払いや二重払いを発見しやすい。

第5 不足時間と超過時間を翌期へ繰り越せるか

1 不足時間の繰越しには条件がある

厚生労働省の手引き5頁は,清算期間の総労働時間に不足がある場合,当期分の賃金を支払い,不足時間を翌清算期間の総労働時間に加えて働かせる取扱いを,翌期の法定労働時間の総枠を超えない範囲で認めている。
不足があるから無制限に翌期へ上乗せできるという説明ではない。

例えば,週40時間制で翌期も28日間,所定の総労働時間140時間とする場合,当期の不足10時間を加えた150時間は,翌期の法定の総枠160時間以内に収まる。
一方,翌期の所定時間を既に160時間に設定しているのに,更に10時間を足す取扱いは,この条件を満たさない。
繰越しの有無,賃金清算の方法及び対象となる不足の範囲を規程で明確にし,当期にどの時間分の賃金を払ったかを残すことが実務上望ましい。

2 超過時間の賃金を翌期へ先送りしない

これに対し,総労働時間を超えて働いた時間を翌期の所定時間から差し引くことにより,当期の超過分の賃金支払を先送りする取扱いは認められない。
昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号の通達は,このような取扱いを労働基準法24条に抵触すると説明している。
不足時間を翌期へ加える場合の行政上の取扱いと,超過時間の賃金を翌期へ回す場合とを,同じ繰越制度として扱わないことが重要である。

3 会社の事情で働けなかった場合を区別する

不足時間が生じた原因も確認する必要がある。
会社が仕事を与えなかったなど,使用者の責めに帰すべき事由による休業に当たる場合には,労働基準法26条の休業手当が問題となる。
労働者の判断による不足時間と一律に扱い,単に欠勤控除又は翌期への上乗せをすれば足りるとはいえない。

賃金控除をする場合には,賃金規程・労使協定・個別契約の内容,既に支払った賃金及び不足の原因を確認する。
不足時間があるという事実だけから,退職時の給与で自由に相殺できると決めつけるべきではない。

第6 途中入社・退職・異動がある場合

清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制について,その期間より短い期間しか労働しなかった場合には,労働基準法32条の3の2による清算を確認する。
労働した期間を平均して週40時間を超える部分について割増賃金を支払う仕組みであり,清算期間全体の所定時間だけを基準に残業の有無を決めることはできない。
ただし,同条は,別途法定時間外労働等として計算される時間を除く仕組みであるから,既に割増対象に算入した時間を重ねて数えないようにする必要がある。

異動先でもフレックスタイム制を採っている場合に,異動前後の時間を当然に通算できるわけではない。
厚生労働省の手引き21頁は,労使協定を異にする事業場への異動について,清算期間が同じであっても通算できないと説明している。
通常の労働時間制へ移る場合も含め,適用する協定と制度が変わる日を確定し,それぞれの期間について清算を確認する必要がある。

入退社・異動がある場合は,①適用期間の初日と末日,②その期間の暦日数,③実労働時間,④既に時間外として計上した時間,⑤既払賃金を1枚の清算資料にまとめることが実務上望ましい。
給与締切日の到来だけで計算を打ち切らず,適用期間の短縮によって追加の支払が生じないかを確認する。

第7 会社と労働者が残しておきたい資料

会社側では,就業規則,労使協定,賃金規程,勤怠記録及び給与計算結果を対応させ,月ごとの50時間基準による支払と,清算期間全体の精算を追える状態にしておくことが望ましい。
不足時間の処理については,繰越し・控除の根拠だけでなく,なぜ不足が生じたかも記録する。

労働者側では,制度名だけで残業代の有無を判断せず,清算期間,総労働時間,勤怠記録及び給与明細を確認する。
会社への照会では,未払額を直ちに断定するより,どの期間の,どの時間を,どの基準で精算したかを示す資料を求めると,争点を絞りやすい。

就業規則の変更手続については,就業規則の基本と変更,裁量労働制との違いについては,裁量労働制の令和6年4月改正も参照されたい。
フレックスタイム制と裁量労働制は,労働時間の計算方法も導入要件も異なる制度である。

第8 出典

① 労働基準法24条,26条,32条の3,32条の3の2,36条,37条。

② 労働基準法施行規則12条の2,12条の3,25条の2。

③ 厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」5頁,6頁~10頁,13頁~16頁,21頁~22頁。

④ 厚生労働省昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号のフレックスタイム制に関する説明(2(2)ホ)。