第1 問題の所在
役員賞与について,支給額と支給日を決めて税務署に届け出た後,資金繰りや業績の変化を理由に一部だけ支払ったり,支払日を変更したりすることがある。
その場合,決議と届出が存在するだけで損金算入が認められるわけではない。
届出内容,変更の理由・手続,実際の支給を,対象となる役員と職務執行期間ごとに照合する必要がある。
本稿は法人税法上の一般的な要件を整理する。
個別年度への適用は,その年度に適用される法令・通達と事実関係を確認して判断する。
第2 事前確定届出給与の基本要件
1 所定の時期と確定した額
法人税法34条1項2号は,役員給与のうち,所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与について,届出など所定の要件を定めている。
役員賞与という会計上の名称だけでは,この要件を満たすかどうかは決まらない。
過大な役員給与の損金不算入など,同条の別の制限も残る。
2 当初の届出期限
以下は届出を要する金銭給与を対象とする。
非同族会社が定期給与を支給しない役員に金銭給与を支給する場合など,届出不要の例外もある。
法人税法施行令69条と国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」によれば,通常は,株主総会等の決議日(決議日が職務執行開始日より後なら職務執行開始日)から1か月を経過する日と,会計期間開始日から4か月を経過する日のうち,早い日までに届け出る。
申告期限延長の指定を受けた法人などには,4か月に代わる期限もある。
新設法人などには別の期限があるため,設立日,職務執行開始日,決議日を先に確定する。
第3 届出額・支給日と実際の支払が違うとき
1 減額・不支給
法人税基本通達9-2-14は,事前確定届出給与として届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合,原則としてその支給額の全額が損金不算入となる旨を示している。
「届出額より少ないので,支払った部分だけは当然に損金となる」という扱いはできない。
不支給の場合も,実際に交付がないことと,未払計上・支払義務・他の支給回への影響とを分けて確認する。
2 支給日の変更
所定の支給時期も要件である。
予定日に支払わず後日に振り込んだ場合は,単に最終的な金額が一致したという理由だけで届出どおりの支給とはいえない。
決議書・届出書に記した支給日と振込記録を照合し,変更の理由,制度上許される変更の範囲と届出期限を調べる。
業績悪化改定事由による変更届出は支給額の減額等を対象とするため,支給日だけの延期を当然に認めるものではない。
3 年2回など複数回の支給
複数回の支給を定めたときは,各支給を単独で見るだけでなく,同じ役員の同じ職務執行期間について,決議と届出がどのように組まれているかを確認する。
一回の不一致が他の支給回にどう影響するかは,決議内容,届出内容,実際の支払及び変更手続を確認せずに断定できない。
第4 業績悪化などによる変更届出
1 変更が認められる理由
届出後の変更には,役員の職制上の地位の変更などに伴う臨時改定事由と,経営状況が著しく悪化したことなどを理由とする業績悪化改定事由に応じた手続がある。
業績悪化改定事由による変更では,減額する場合が対象となる。
法人税基本通達9-2-13は定期同額給与について,一時的な資金繰りの都合や単なる業績目標の未達は業績悪化改定事由に含まれないと説明している。
法人税法施行令69条は事前確定届出給与の変更届出にも業績悪化改定事由を用いており,この点を確認する必要がある。
2 変更届出の期限
変更理由ごとに期限が違う。
法人税法施行令69条と国税庁「No.5211」により,臨時改定事由の場合はその事由が生じた日から1か月を経過する日までに届け出る。
業績悪化改定事由の場合は,変更決議日から1か月を経過する日が原則の期限となる。
ただし,変更前の届出による支給日のうち変更決議日後に最初に到来する日が,その1か月を経過する日より前にある場合は,当該支給日の前日が期限となる。
届出後に事後的な議事録を作ることでは,期限内の変更届出に代えられない。
第5 紛争を防ぐための資料確認
次の順序で,同一の役員・職務執行期間について資料を並べると,税務上の不一致と会社法上・労務上の支払義務を混同しにくい。
1. 定款,株主総会・取締役会等の議事録,役員の就任日と職務執行開始日を確認する。
2. 当初の届出書,受付記録,届出期限,対象役員,支給額,支給日を確認する。
3. 変更理由が生じた時期を示す客観資料,変更決議,変更届出書と受付記録を確認する。
4. 給与台帳,源泉徴収関係資料,会計仕訳,銀行の振込記録を照合する。
5. 未払又は不支給については,会社と役員の間の権利義務,税務上の損金算入,源泉徴収をそれぞれ検討する。
これらの資料がそろわない段階で,損金算入の可否を確定的に説明しないことが重要である。
第6 従業員の決算賞与との違い
従業員の決算賞与には,未払賞与の損金算入時期や支給日在籍要件といった別の論点がある。
役員給与の事前確定届出給与と同じ要件で処理しない。
従業員側の論点は,決算賞与の支給日在籍要件と税務―退職者への支給義務,未払賞与の損金算入及び源泉徴収(AI作成)を参照されたい。
第7 出典
– 法人税法34条
– 法人税法施行令69条
– 国税庁「No.5211 役員に対する給与」
– 法人税基本通達9-2-13
– 法人税基本通達9-2-14