目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 日医医賠責の基本1 対象となる会員2 対象となる事故と支払限度額3 紛争処理の流れ第3 日医医賠責だけでは足りない場面1 請求額100万円以下と免責金額100万円2 医療法人に対する請求3 日本医師会A会員以外の医師の責任(カット払い)4 高額賠償と刑事事件5 場面ごとの整理第4 日医医賠責特約保険1 加入できる会員と対象となる医療施設2 支払限度額と免責金額3 掛金と加入の時期4 支払例に見る法人責任第5 医療事故が起きたときの初動1 報告の前に確かめること2 医師会・保険会社の承認なしに賠償を約束しない3 謝罪と過失の評価を分ける4 カルテに追記・修正をしない5 勤務医と病院の責任6 勤務医の補助参加と訴訟告知第6 相談を受けたときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 保険制度2 裁判例3 法令
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,診療所や病院の医師が患者又は遺族から損害賠償を求められたときに,日本医師会医師賠償責任保険(以下「日医医賠責」という。)でどこまで賄えるか,どこに穴があるか,及び保険や医師会に報告する前後で医師と医療機関が気を付けることを扱う。
日医医賠責と日医医賠責特約保険の内容は,令和8年9月28日に日本医師会のウェブサイトで確認した。
免責金額を埋める都道府県医師会の保険については,日本医師会が作成した案内資料(令和5年3月。日本医師会のウェブサイトではなく地区医師会のウェブサイトに掲載されているもの)と,大阪府・愛知県・岡山県・東京都・福岡県の各医師会の資料(一部は関係団体のウェブサイトに掲載されたもの)で,同日に確認した。
条文は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した。
保険の具体的な支払の可否は,日本医師会医師特別約款等の約款と,事案ごとの審査で決まる。
本記事は制度の骨格を説明するものであり,個別の事故で保険金が支払われるかどうかを判断するものではない。
2 結論
①日医医賠責は,日本医師会のA会員(A①,A②(B),A②(C))を対象とし,個別の加入手続は要らない。
対象は,医療行為によって生じた身体の障害について損害賠償を請求され,その請求額が100万円を超えるものであり,支払限度額は1事故1億円,保険期間中3億円,免責金額は1事故100万円である。
②日医医賠責だけでは,少なくとも次の場面に穴がある。
請求額が100万円以下の請求,免責金額の100万円,医療法人(一人医師医療法人を除く。)に対する請求,日本医師会A会員以外の医師に責任がある部分(いわゆる「カット払い」)及び1億円を超える賠償である。
③日医医賠責特約保険(任意加入)は,法人に対する請求(A会員が理事又は管理者である法人で,対象となる医療施設のものに限る。),カット払い及び高額賠償を補い,支払限度額は日医医賠責と合算して1事故3億円,保険期間中9億円である。
免責金額の100万円は,都道府県医師会が用意する100万円を支払限度額とする団体保険(通称「100万円保険」)で補うことになる(日本医師会の案内資料(令和5年3月)と,大阪府・愛知県・岡山県・東京都の各医師会の資料)。
請求額が100万円以下の請求も,大阪府・岡山県・東京都の資料では,この保険の対象とされている。
④医療事故が起きたときは,医師会・保険会社の承認なしに賠償を約束せず,まず所属の医師会に連絡する。
あわせて,記録を保全し,事実と評価を分けて整理する。
患者への謝罪と,法的な過失の有無の評価は別の事柄であり,訴訟で過失を基礎づける事実を認める陳述をすれば,その事実は証明を要しないものになる(民事訴訟法179条)。
⑤カルテには,事故の後に追記や修正をしない。
訂正が必要なときは,元の記載を残し,訂正者,日時及び理由が分かる形で行う。
裁判例には,カルテの改ざんを,説明義務違反とは別個の不法行為として慰謝料の対象にしたものがある。
⑥勤務医と病院の関係では,病院が使用者責任や債務不履行責任を負うことが多く,公立病院では国家賠償法の問題にもなる。
勤務医が病院の訴訟に補助参加すると,その訴訟の裁判の効力(参加的効力)を受ける。
第2 日医医賠責の基本
1 対象となる会員
日本医師会のウェブサイトは,日医医賠責を,日本医師会が契約者となり,A会員のすべてを対象とした医師賠償責任保険であり,個別加入手続きは不要であると説明している。
対象となるA会員は次のとおりである。
①A①:病院・診療所の開設者,管理者及びそれに準ずる会員
(続きを読む...)医師賠償責任保険(日医医賠責)の仕組みと医療事故の初動―請求額100万円以下の扱い,1事故1億円の上限,カット払い,特約保険及び過失の認め方(AI作成)