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個人宅で働く家政婦の労災―家事使用人の適用除外,家事支援従事者の特別加入と東京高裁令和6年9月19日判決(AI作成)

第1 家事使用人には労働基準法が適用されない

1 労働基準法116条2項

労働基準法116条2項は,「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と定める。
個人の家庭に直接雇われて家事を行う家政婦(家政夫)は,原則としてこの「家事使用人」に当たる。

厚生労働省の報道発表「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」(令和6年2月8日)は,個人宅に出向き,家庭と直接労働契約を結び,その指示のもと家事一般に従事する家事使用人は,労働契約法の適用は受けるが,労働基準法が適用除外とされていると説明している。
労働契約法21条が適用除外とするのは,国家公務員・地方公務員と,同居の親族のみを使用する場合の労働契約であり,家事使用人は除かれていない。
そのため,家庭は,使用者として,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負う(同法5条)。

2 労災保険も適用されない

労災保険の給付も,家事使用人には及ばないというのが行政の取扱いである。
厚生労働省労働基準局長の平成30年2月8日付け基発0208第1号「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」は,「家政婦紹介所の紹介等により個人家庭に使用されるために家事使用人として労働基準法及び労災法が適用されない者」がいることを前提に,後記の特別加入制度を設けた理由を説明している。
後記第3の事件でも,労働基準監督署長は,家政婦が「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労災保険法は適用されないという理由で,遺族補償給付等を不支給とした。

家庭で働く人がけがをし,又は過労で倒れたときに,労災保険の給付を受けられるかどうかは,①その人が誰に雇われていたか(家庭か,会社か),②家庭に雇われていたなら特別加入をしていたか,の2点で大きく分かれる。

第2 平成30年4月からの家事支援従事者の特別加入

1 制度の新設

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日)は,平成30年4月1日から,個人家庭に雇用され,家事,育児等の作業に従事する者を特別加入制度の対象とすると記載していた。
それまでは,家事使用人のうち介護サービスを提供する者(介護作業従事者)だけが特別加入の対象であった。
同じ時期の制度変更全体と現在の数値は,平成30年4月の厚生労働省制度変更で整理している。

前記の平成30年通達は,その理由として,家事,育児等の支援サービスの需要の増大が見込まれること,家事使用人は介護サービスと家事,育児等の作業を同時に行うことが多く,就労形態や災害の発生状況が介護作業従事者と類似していることを挙げている。

現行の労働者災害補償保険法施行規則46条の18第5号ロは,特別加入の対象となる作業として,「炊事、洗濯、掃除、買物、児童の日常生活上の世話及び必要な保護その他家庭において日常生活を営むのに必要な行為」を掲げている。
平成30年通達によれば,掃除には家具等の清掃が,児童の世話には送迎が,日常生活に必要な行為には裁縫,荷造り,荷物の受取り,寝具の整備,庭の手入れ等が含まれる。
報酬を得ないボランティアは対象とならず,交通費等の実費弁償は報酬に含まれない。

2 加入の方法と保険料

一人親方等と同様に,特別加入は団体を通じて行う。
労働者災害補償保険法35条1項は,特定作業従事者の団体が申請をして政府の承認があったときは,その団体を適用事業及び事業主とみなし,構成員を労働者とみなすと定めている。
平成30年通達によれば,第2種特別加入保険料率は1000分の5(作業の種類の番号は特18)で,介護作業と家事支援作業の両方に従事する人が別々に保険料を負担することはない。
同通達は,保険料は特別加入者自身が負担するのが原則であるが,家事支援従事者については,使用している個人家庭が実質的に負担する場合があるとしている。

特別加入団体の選び方,給付基礎日額及び保険料率の現在の一覧は,労災保険の特別加入制度で整理している。

3 紹介所と訪問介護事業所を兼ねる事業者に登録している人

平成30年通達は,有料職業紹介事業と介護保険法の指定居宅サービス事業を併せて行う事業者について,次のとおり説明している。
①指定居宅サービス事業者に労働者として使用される訪問介護員(ホームヘルパー)であっても,同じ事業者の紹介で個人家庭に使用され,介護保険の給付の対象とならないサービスを提供する人は,特別加入の対象となる。
②その人が特別加入した場合,指定居宅サービス事業者の労働者として業務をしている際の災害は労働者として,個人家庭に使用されて家事支援作業をしている際の災害は特別加入者として,労災保険の適用を受ける。

この説明は,同じ人が同じ家庭で,会社の労働者としての仕事と,家庭に雇われた家事使用人としての仕事を併せて行う場面を前提にしている。
次の判決は,まさにこの場面で,家事の部分まで会社の業務と認めたものである。

第3 東京高裁令和6年9月19日判決

1 事案

東京高裁令和6年9月19日判決(令和4年(行コ)第290号)の事案は,次のとおりである(判決の認定による)。

訪問介護事業と家政婦紹介あっせん事業等を営む会社に,家政婦兼訪問介護ヘルパーとして登録していた女性が,平成27年5月20日から27日朝までの7日間,要介護者の自宅に住み込み,介護保険による訪問介護サービスを提供する業務(介護業務)と,家政婦として家事及び介護を行う業務(家事業務)に従事した。
女性は勤務終了後ほどなく急性心筋梗塞又は心停止を発症し,翌28日未明に死亡が確認された。
夫が遺族補償給付と葬祭料を請求したところ,渋谷労働基準監督署長は,女性が労働基準法116条2項の「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労災保険法は適用されないとして,不支給とした。

2 第一審は請求を棄却した

第一審の東京地裁令和4年9月29日判決(令和2年(行ウ)第89号)は,家事業務は要介護者の息子との間の雇用契約に基づく業務であって会社の業務ではないとし,家事業務との関係では女性は家事使用人に当たると判断した。
他方,介護業務との関係では会社の労働者であって家事使用人に当たらないから,家事使用人に該当することのみを理由とした処分には,同項の適用を誤った違法があるとした。

もっとも,第一審は,国が訴訟で追加した「業務起因性がない」という処分理由を許した。
そして,家事業務の過重性は業務起因性の判断で考慮される事情にならないとして,介護業務だけでは業務起因性が認められないとし,請求を棄却した。
第一審は,家事使用人に該当すると判断して棄却したのではなく,処分理由の追加によって処分を維持したものである点に注意を要する。

3 控訴審は家事業務も会社の業務と認めた

控訴審判決は,第一審判決を取り消し,不支給処分を取り消した。
家事使用人に当たるかの判断で重視されたのは,次の事実である。

①会社と女性との間にも,女性と要介護者又はその息子との間にも,雇用契約書は作られていなかった。
②会社が作った「求人票兼労働条件通知書」の日給1万6000円は,家事業務と介護業務の双方に対する賃金であり,家事業務の賃金は,日給から介護業務の賃金として算出したものを差し引いて決められていた。
③介護業務としての食事の準備と家事業務としての食事の準備を同じ時間帯に行うなど,二つの業務は時間的にも質的にも区別することが困難であった。
④会社は,業務指示書で,介護保険の計画の時間外の業務や,庭・車庫の掃除等の明らかに家事業務に当たる業務についても指示をしていた。

判決は,これらの事情から,会社と女性が,介護業務と家事業務の双方を業務内容とし,午前5時から翌日午前0時までを労働時間とし,日給1万6000円とする雇用契約を結んだと認めた。
そのうえで,「本件家事業務は、本件介護業務とともに、本件会社との雇用契約に基づき、本件会社の業務として行われたものであり、家庭内の私的領域に国家的規制や監督を行うことが不適切であるという労基法116条2項の趣旨は妥当しないから、本件介護業務はもとより、本件家事業務についても、亡Aが同項所定の『家事使用人』に当たるものとは認められない。」と判断した。

業務起因性については,女性が7日間に合計105時間(時間外65時間)の業務に従事し,深夜にもおむつ交換が必要で6時間以上の睡眠を連続して取れず,休日のない連続勤務で,勤務間の休息も11時間未満であり,専用の部屋も与えられていなかったと認定した。
そして,脳・心臓疾患の認定基準にいう「短期間の過重業務」に当たるとして業務起因性を認め,国が追加した処分理由を踏まえても処分は違法であるとした。

4 判決の射程

控訴審判決は,国の主張が「本件に特有の事実関係を踏まえたものではな」いとして退けており,判断は契約書の不存在,賃金の一体的な決め方,会社による業務指示といった事実に基づいている。
家庭が紹介所の紹介を受けて家政婦と直接雇用契約を結び,家庭が賃金を決めて指示を出している場合にまで,この判決から直ちに家事使用人に当たらないとはいえない。
判決の確定の有無は,裁判所ウェブサイトの掲載情報からは確認できず,この記事では確認していない。

第4 家庭・事業者・働く人が確認すること

次の確認事項は,前記の通達・ガイドライン・判決を踏まえた実務上の整理である。

1 契約の相手方と業務指示

①誰が求人票・労働条件通知書を作り,賃金を決めているか
②家事と介護(又は会社の他の業務)の賃金・時間が区分されているか
③業務の指示を家庭が出しているか,会社が出しているか
④雇用契約書がどの当事者の間で作られているか

控訴審判決が重視したのはこれらの事実であり,事後に家庭との契約だったと説明しても,書面と実態が会社の業務を示していれば結論は変わり得る。

2 家庭が直接雇う場合

厚生労働省の「家事使用人の雇用ガイドライン」のリーフレットは,家庭が家事使用人と話し合って,就業場所,業務の内容,就業時間・休憩時間,報酬等の労働契約の条件を書面又は電子メール等で明示すること,就業日ごとの始業・終業時刻を記録することを勧めている。
また,業務に関連して家庭や第三者に損害を与えた場合に備える損害保険と,業務が原因でけがや病気をした場合に備える災害補償保険(労災保険の特別加入を含む)の加入の有無を,家事使用人又は紹介所に事前に確認するよう求めている。

労災保険が適用されない以上,特別加入も民間の保険もないまま事故が起きると,働く人の補償は,家庭に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求に頼ることになる。
家庭の側から見ても,雇う前に特別加入の有無を確かめることが紛争の予防になる。

3 事故が起きたとき

労災保険の給付を請求して不支給とされた場合は,審査請求・再審査請求と取消訴訟で争うことになる。
手続は労災保険の審査請求及び再審査請求を参照されたい。
遺族補償給付を受ける権利は5年,療養補償給付・休業補償給付・葬祭料等を受ける権利は2年で時効によって消滅する(労働者災害補償保険法42条1項)。
家事使用人に当たるかどうかが争点になりそうな事案でも,請求自体は期限内に行っておく必要がある。

第5 別セッションで掘り下げるテーマと未検討点

この記事は,提供資料である厚生労働省の平成30年3月23日の一覧表,平成30年2月8日付け基発0208第1号(厚生労働省法令等データベース),控訴審判決と第一審判決の全文(裁判所ウェブサイト),厚生労働省の家事使用人の雇用ガイドラインの報道発表とリーフレットを確認した。
法令は,確認日(令和8年10月4日)現在のe-Gov法令検索で,労働基準法116条,労働契約法5条・21条,労働者災害補償保険法35条・42条及び同法施行規則46条の18を確認した。
判例秘書による検索は行っておらず,控訴審判決の掲載誌と確定の有無は確認していない。

別のセッションで掘り下げるテーマと未検討点は次のとおりである。
①労働基準法116条2項の家事使用人の範囲を示した行政解釈(昭和63年の通達等)の原文と,控訴審判決との関係
②家事使用人への労働基準法・労災保険法の適用をめぐる立法論の現状(厚生労働省の研究会報告等)
③家事代行サービス(請負・準委任)の形で働く人の労働者性と労災保険の適用
④家庭が安全配慮義務違反を問われた裁判例の有無

第6 出典

①厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日,政策統括官付社会保障担当参事官室)
②厚生労働省労働基準局長「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成30年2月8日付け基発0208第1号,厚生労働省法令等データベース)
③東京高裁令和6年9月19日判決(令和4年(行コ)第290号,裁判所ウェブサイト)
④東京地裁令和4年9月29日判決(令和2年(行ウ)第89号,裁判所ウェブサイト)
⑤厚生労働省「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」(令和6年2月8日)
⑥厚生労働省「家事使用人の雇用ガイドライン」リーフレット
⑦労働基準法(e-Gov法令検索)116条
⑧労働契約法(e-Gov法令検索)5条,21条
⑨労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索)35条,42条
⑩労働者災害補償保険法施行規則(e-Gov法令検索)46条の18