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キックバックが疑われたときの会社の対応―証拠保全,損害額,取引先との交渉及び刑事告訴(AI作成)

第1 キックバックの疑いをどう整理するか

1 呼び名から犯罪や損害額を決めない

取引先から従業員又は取締役に金銭等が渡っていたことが分かった場合,会社は,取引の公正さ,損害の回復,関係者の処遇及び刑事対応を検討することになる。
しかし,「キックバック」という呼び名だけでは,行為の違法性,犯罪の成立又は会社の損害額を判断できない。
誰が,いつ,誰に,どの取引に関連して,何を約束し,何を渡したのかを具体化することが出発点となる。

会社に帰属する値引き・リベートを担当者が自分のものにしたのか,取引先が担当者個人に便宜の対価を支払ったのか,架空の発注で会社の資金を流出させたのかによって,検討する請求や犯罪の構成は異なる。
金銭の流れ,会社の契約,担当者の権限及び実際の納品・役務を照合する必要がある。
本記事は,こうした確認から回収・刑事相談につなげる手順を整理するものである。

2 確認済みの事実と仮説を分ける

受領者,支払者,被害を受けた法人,対象期間,取引番号及び金額を整理し,それぞれについて根拠資料を付ける。
疑いの根拠だけでなく,本人や取引先の別の説明,通常の取引条件及び不正を否定する資料も残す。
グループ会社の取引であれば,どの法人に損害が生じ,どの法人が請求するかを最初に確認するべきである。

第2 初動と証拠保全

1 本人への照会より先に失われる資料を確認する

本人に一斉に質問したり,関係する端末を交換したりすると,データの消失や関係者間の口裏合わせにつながるおそれがある。
メール,チャット,会計データ,承認履歴,見積書,注文書,請求書,支払記録及び検収資料の所在と保存期限を先に確認する。
保全の対象,担当者,取得方法,取得日時及び保管場所を記録し,原本又は元データと調査用の複製を区別する。

証拠保全は,関係しそうなデータを無制限に集めることではない。
調査の目的,対象期間,対象者及び閲覧権限を定め,第三者の情報や事件と無関係な私生活の情報への配慮も必要になる。
会社の端末と私物のスマートフォン・アカウントを分けて扱い,私物に関する任意協力を求める場合は,対象と同意内容を具体化するべきである。

2 取引と金銭の流れを突き合わせる

注文と請求が一致するかだけでは,不正の有無は分からない。
価格を決めた経緯,相見積の有無,発注の必要性,実際の納品又は成果物,検収者及び支払承認者を確認し,外部の記録と照合する。
同じ取引先への集中,同じ担当者への権限の集中,短期間の価格上昇又は不自然な分割発注は,追加調査の端緒にはなるが,それだけで不正の証明にはならない。

取得できる範囲で,受領者側の入金日と金額,取引先側の出金又は経費処理,関連する連絡及び会社の支払を時系列で対応させる。
説明できない差額や空白期間を明示し,追加で必要な資料と,その資料を適法に取得できる方法を整理する。
電子データの取扱いは,USB型フォレンジックツールを労務管理で利用する場合の法的注意点も参照されたい。

第3 本人と関係者への聴取

関係者は原則として個別に聴取し,最初の説明を記録してから,不一致点を確認する。
質問は客観資料と対応させ,日付,取引,相手,金額,行為及び本人の認識を具体的に確かめる。
否認,訂正,記憶がないという回答及び本人が示した反証も記録する必要がある。

聴取では,休憩,退室及び体調に配慮し,長時間の拘束や,多人数での威圧によって供述を得ようとしない。
事実確認書を作る場合も,「不正を認める」という結論だけに署名を求めず,具体的な事実を記載し,閲覧と訂正の機会を設ける。
事実の確認,損害賠償の合意,報酬返上及び請求放棄を一つの署名で済ませようとせず,それぞれの内容と意思を確認するべきである。

会社に調査の必要があっても,従業員があらゆる質問・資料提出に当然に応じる義務があるとは限らない。
職務との関連,調査の必要性・合理性及び代替手段を検討し,協力しなかったことだけでキックバックの存在を認定しない。
調査協力義務と聴取の限界については,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査を参照されたい。

第4 会社の損害額と請求の根拠

1 受領額,会社の支払額及び損害額

キックバックを受け取った額,会社が取引先に払った額及び会社の損害額は,別の数字として整理する必要がある。
例えば,実体のない取引への支払,実際の物又はサービスを伴う割高な取引,必要のない発注では,損害の説明と必要な証拠が異なる。
受領額と同額を損害として請求する場合にも,なぜその額が会社の損害になるのかを,取引の実態と請求の根拠から説明する必要がある。

割高な取引については,仕様,数量,品質,時期,保証及び納期等の条件をそろえ,適正価格の比較資料を準備する。
単に他社の安い見積を見つければ,差額全額が当然に損害になるわけではない。
実際に得た利益,既に返還された額,調査費用等の請求可能性及び二重の回収にならないかも,項目ごとに検討する。

2 誰に,どの根拠で請求するか

従業員に対しては,契約上の義務違反に基づく民法415条の責任や,同法709条の不法行為責任を,職務内容と具体的な行為に即して検討する。
取締役に対しては,会社法423条1項の任務懈怠責任が問題になる。
取引先に対しては,契約違反の有無,共謀・加担等による不法行為の有無及び民法719条の共同不法行為の適用を確認する。

取引先が従業員に金銭を渡したという一事だけで,会社の主張する損害全額について共同不法行為責任が確定するわけではない。
取引先の認識,会社に不利益な取引への関与,損害及び因果関係を整理する必要がある。
また,会社法423条2項の利益額の推定は競業取引に関するものであり,キックバック一般に適用される損害額の推定として引用することはできない。

3 マージンの支払があっても請求を認めなかった例

(1) 契約内容と価格の証拠

東京地裁令和3年1月28日判決(平成30年(ワ)第38078号,令和元年(ワ)第21434号)は,広告制作会社と発注会社との紛争において,発注会社の顧問へのマージン支払を理由とする損害賠償請求を退けた例である。
広告制作会社は,顧問への支払総額を131万9798円と説明していたが,これは当事者の主張に現れる数字である。
発注会社が請求した672万8383円は,別の計算である「支払済み業務委託料の15%」であり,両者を混同するべきではない。

裁判所は,業務委託料が当事者の合意で決められていたことを踏まえ,制作会社がその中から自らの裁量で顧問に支払うことが直ちに違法になるとはしなかった。
不当に高額な業務委託料が請求されたことや,マージン相当額が上乗せされたことを認める証拠もなかった。
顧問の役割が広告等への助言であったことから,制作会社に対しマージン相当額の値下げを求める義務があったとも認めなかった。

(2) この判決から得られる調査上の注意

裁判所は,顧問の義務違反及び不法行為を認めず,制作会社と顧問との共同不法行為に基づく請求も退けた。
この判断は,キックバック一般を適法としたものではなく,この事件の職務内容,価格合意及び証拠に基づくものである。
会社側は,金銭の受領だけでなく,担当者が負っていた義務,価格決定への関与及び会社に不利益が生じた仕組みを裏付ける必要がある。
出典は,裁判所掲載の判決全文21頁~22頁及び52頁~53頁である。

4 仕入価格の水増しと会社の過大支払を認めた例

(1) 受託業務の内容と水増し支払

東京地裁平成30年1月18日判決(平成28年(ワ)第41415号,判例秘書L07330100)は,商品企画等を受託した者が,仕入先に対して商品価格を水増しするよう指示し,手数料を得ていた例である。
裁判所は,仕入先の選定等を含む準委任契約の性質から,会社の利益を不当に害する形で仕入先から同じ業務の対価を取得することは許されないと判断した。
禁止を明記した条項の有無だけでなく,受託業務の実質及び当事者間の了解が問題となっている。

会社が余分に支払った額として認められたのは,第1契約分90万4860円と第2契約分1284万4488円の合計1374万9348円である。
受領した手数料の総額をそのまま代入したのではなく,会社の水増し支払を損害として認定している。
原告の請求額1375万68円と,裁判所の認容額1374万9348円も区別する必要がある。

(2) 因果関係と受領会社の責任

裁判所は,水増しによる価格上昇を会社が知らず,手数料相当額の支払を拒むことが困難であったとして,不法行為と過大支払との相当因果関係を認めた。
小売価格に転嫁できたので損害がないという反論についても,小売価格が仕入価格に一定の原価率を掛けて一律に決められていたとは認めなかった。
したがって,「会社が価格に合意した」「後に販売した」という事情だけで,過大支払や因果関係を否定することはできない。

個人には民法709条の責任を,その者が代表を務める受託会社には第2契約分について会社法350条の責任を認めた。
これは仕入先の共同不法行為責任を判断した事件ではなく,連帯支払を命じた主文だけから民法719条の適用例と説明するべきではない。
出典は,判例秘書に掲載された上記事件の判決本文「第3 当裁判所の判断」1~3である。

5 架空・水増し請求の共同不法行為と過失相殺

(1) 受領額から会社の支払額を推認した理由

東京地裁平成28年12月13日判決(平成26年(ワ)第20655号,判例秘書L07133758)は,住宅建築会社の従業員と駐車場関係の業者が,架空又は水増しの駐車場契約を用いて会社に支払をさせていた例である。
業者が手数料として20~40%を取り,残りの60~80%を従業員側に渡していたという認定に基づき,裁判所は,従業員側への送金額を80%で割った額を会社の損害の下限として推認した。
この1.25倍という計算は,この事件の送金割合を根拠とするものであり,キックバック一般に適用される法定の倍率ではない。

支払う義務のない金員を会社が支払った時点で損害が生じるとされ,送金後の金員を会社の追加工事等に使ったとの主張は,この支払による損害の範囲を変えるものとはされなかった。
業者についても,正規の駐車場使用料を超える請求であることを理解していたとして,共同不法行為責任を認めた。
ただし,従業員の転勤後の契約について別の従業員との共謀を認める証拠がない部分は,共同責任の範囲から外しており,対象者と期間を分ける必要がある。

(2) 過失相殺後の額と回収済みの額

会社が契約書と請求額を照合するにとどまり,実際の現場,工事期間及び必要な駐車台数等を確認していなかったことから,裁判所は25%の過失相殺を行った。
さらに,弁済及び相殺による控除を行い,業者個人のみが負担する1471万5017円と,業者個人及びその会社が連帯して負担する6963万3591円の支払を認めた。
故意の不正であっても過失相殺が問題となり得るが,25%という割合を他の事件にそのまま当てはめることはできない。

この事件では,業者の会社設立前後で責任主体も区分されている。
損害計算表には,取引,請求・支払,受領者,関与時期,過失相殺及び弁済等による控除を別欄として設け,既に控除した金額を再び控除しないようにするべきである。
出典は,判例秘書に掲載された上記事件の判決本文「第4 当裁判所の判断」の不法行為責任,過失相殺及び損害額に関する判断である。

6 役員報酬の迂回送金と取引先の責任を分けた例

(1) 会社の支出と受領額が対応した理由

京都地裁平成27年6月12日判決(平成23年(ワ)第1184号,判例秘書L07050313)は,会社の警備委託料の一部を警備会社経由で取締役側に送金する仕組みが問題となった例である。
裁判所は,実質的な取締役の職務執行の対価であるとして会社法361条の規制に服すると判断し,株主総会決議がなく,全株主の同意による違法性の治癒も認めなかった。
取締役2人には,会社法423条1項及び共同不法行為に基づく責任を認めた。

警備会社が保持できる実質的な委託料を超える分について,取締役の指示で送金することが当初から予定され,送金額について警備会社に裁量がなかったことが重視されている。
裁判所は,その超過分を本来支払う必要のない水増し委託料と評価し,実際に送金された1億7980万5740円を会社の損害と認めた。
受領・送金額と損害額が一致したのは,会社の不必要な支出との対応が認定されたためであり,「受領額は常に損害額になる」という判断ではない。

原告が税務当局の指摘額として主張した1億8186万2614円は,算定根拠が明らかでないとしてそのまま採用されなかった。
また,会社は受領した運営委託料から経費を払い,残額を収入にできる仕組みであったため,警備委託料の水増しによって会社の収入が減ると判断された。
税務上の否認額や上流の委託者からの入金額だけで,民事上の損害額やその帰属を決めることはできない。

(2) 送金に関与した全員の責任を認めたわけではない

警備会社側は,会社が取締役らの100%出資会社であり,その承認が会社の意思になると認識していたとされ,会社への不法行為となることについて故意・過失を認め難いとして責任を否定された。
送金に不可欠の役割を果たしたという事情だけでは,不法行為責任に直結しないと判断されている。
請求書作成や受領に関与した他の者についても,会社に対する不法行為であることの認識等の証拠がなく,責任が否定された部分がある。

これに対し,不法行為をした取締役が代表を務める受領会社には,会社法350条により,その会社が請求し,その口座に振り込まれた3407万6360円の範囲で責任を認めた。
取締役2人の責任額とこの受領会社の責任額は,重なり合う範囲で不真正連帯債務となると明示されており,合算して二重に回収できるものではない。
巧妙な簿外の還元方式で容易に認識できなかったこと等から過失相殺も否定されているため,前記駐車場事件との違いにも注意する必要がある。
出典は,判例秘書に掲載された上記事件の判決本文「第3 当裁判所の判断」1~5及び8~10である。

7 4件の比較を調査計画に落とし込む

(1) 損害額と責任の判断を別々に読む

以下は,各判決の事実認定を前提とした比較である。
同じ送金が認められても,担当者の義務,会社の過大支払及び相手方の認識の証拠が違えば,責任の結論も変わる。

裁判例損害認定の要点責任・因果関係の要点
東京地裁令和3年1月28日不当な高額請求・マージン上乗せの証拠がなく,この点の賠償請求は棄却顧問の職務内容から義務違反を認めず,共同不法行為も否定
東京地裁平成30年1月18日会社の水増し支払1374万9348円を認定会社が水増しを知らず拒絶困難で,因果関係を肯定。受託会社の責任は会社法350条
東京地裁平成28年12月13日送金割合から過大支払の下限を推認し,過失相殺・弁済等を控除業者の共同不法行為を肯定。関与期間・会社設立前後を区分
京都地裁平成27年6月12日会社の不必要な支出と対応する送金額1億7980万5740円を認定取締役の共同責任を肯定する一方,警備会社側の故意・過失は否定

(2) 会社が準備する比較資料

法務担当者は,経理・購買・現場担当とともに,①職務と価格決定権限,②実際の役務・数量と契約価格,③会社の支払と相手方からの送金,④相手方の認識を示す連絡,⑤関与した期間,⑥返金・相殺等を,取引単位で対応させるべきである。
請求額は,「受領があった」という資料と,「会社が余分に支払った」という資料を区別し,不正がなければ会社が負担したはずの額との差を説明できるようにする。
これは上記裁判例を踏まえた実務上の提案であり,全ての案件で同じ計算方法又は結論になるという趣旨ではない。

代表者自身が関与する事件では,利益を正当に保全できる別の者がいつ損害と加害者を知ったかも,発覚後の時系列に記録する必要がある。
京都の判決は当時の民法724条を適用して時効を判断しているため,現在の案件に適用する期間・起算点・経過措置は別途確認するべきである。
また,同事件では特別背任の告訴後に嫌疑不十分で不起訴となった事実が認定されているが,民事上の責任は認められており,刑事処分だけで民事回収の可否を決めるべきではない。

第5 取引先との交渉と回収の保全

1 情報協力の依頼と免責の約束

取引先は,証拠を持つ協力先であると同時に,責任追及の相手方にもなり得る。
先に情報協力を求めるか,損害賠償の主張を先にするか,並行して進めるかは,証拠の保全状況,取引継続の必要性及び資産処分の危険等によって検討する。
協力を求める担当者と,責任又は請求権について判断する担当者の権限を明確にするべきである。

依頼する資料,回答期限,秘密情報の取扱い及び資料の保管方法を具体化し,協力することが免責又は請求放棄を意味するかを曖昧にしない。
社内の決定権限を確認せずに,「協力すれば責任を問わない」と口頭で約束すると,後の回収方針に影響するおそれがある。
刑事告訴をしないという合意と,捜査機関による捜査・処分が行われないことは同じではなく,会社が刑事処分の結果を保証することはできない。

2 仮差押えを検討する時期

相手方が財産を処分するおそれがあるときは,交渉の開始時期と併せて仮差押えを検討する。
民事保全法13条・20条に基づき,金銭債権と,後の強制執行ができなくなる又は著しく困難になるおそれを疎明する必要がある。
不正の疑い又は未払いだけで,保全の必要性が当然に認められるわけではない。

相手の資産に関する資料,請求を支える証拠及び担保の準備を並行して進める。
仮差押えは回収完了を意味せず,預金等の債権について第三債務者から回答があった場合も,本案・執行等の次の手続を検討する必要がある。
詳しくは,仮差押えとはを参照されたい。

3 弁済又は和解を記録する

合意では,支払義務を負う者,請求の根拠,対象取引,金額,支払期限,分割払いの条件,担保及び不履行時の取扱いを明確にする。
誰からいくらを回収したかを記録し,他の関係者への請求にどう反映させるかを確認する。
免責又は請求放棄を含む場合は,残す請求の範囲と会社側の決定権限を確認し,取締役の責任免除を含む事案では会社法上の規律も別途検討するべきである。

第6 刑事相談と告訴

1 構成要件と証拠を対応させる

刑法247条の背任については,他人のために事務を処理する者という立場,利益を図る又は本人に損害を加える目的,任務違背及び財産上の損害が問題になる。
刑法253条の業務上横領については,業務上自己の占有する他人の物を横領したかを確認する。
取引先から金銭を受領したことだけで,これらの犯罪の要件を満たすと決めることはできない。

会社法967条の取締役等の贈収賄罪も,不正の請託,職務との関係及び対象者の立場等の要件を確認する必要がある。
一般の従業員全員を当然に同条の対象者として扱うことはできない。
検討する罪名ごとに,行為,認識,被害及び証拠を対応させ,不足する資料を明示するべきである。

2 告訴の権限と民事回収との関係

刑事訴訟法230条は,犯罪により害を被った者が告訴できると定め,同法241条は,書面又は口頭で検察官又は司法警察員に行うことを定める。
法人の被害であれば,被害法人と告訴を行う代表・代理の権限を確認し,代表者自身が関与している場合の利益相反にも注意する。
事前相談には,時系列,対象取引,金銭の流れ,関係者の役割及び主要証拠を整理して持参すると,調査の不足を把握しやすい。

告訴の受理,捜査,起訴,有罪及び民事上の回収は,それぞれ異なる段階である。
準備をすれば一定の日数で必ず受理される,あるいは告訴すれば損害が回収されるという説明はできない。
民事の請求・保全を並行するか,刑事記録をどの手続で利用できるかを,手続の進行に応じて検討する必要がある。

第7 処遇と再発防止

従業員の懲戒・解雇,取締役の解任,代表取締役の解職,報酬返上及び損害賠償は,根拠と手続を分けて判断する。
自認又は返金があっても,必要な事実の裏付けや手続が不要になるわけではない。
取締役の処遇は,役員不正が発覚したときの処遇と責任追及を参照されたい。

再発防止策は,確認された原因に対応させる。
発注・価格決定・検収が一人に集中していた場合は職務の分離,取引先との利害関係を把握していなかった場合は申告と審査,実体のない役務への支払があった場合は成果物・現場と支払の照合を検討する。
担当者,期限,実施の記録及び効果を確認する時期まで決め,企業不祥事の「分岐点」と内部統制の検討につなげることが重要である。

第8 主な根拠資料と確認範囲

① 民法:415条,644条,656条,709条,719条及び722条。請求の根拠,受託者の義務,損害・因果関係及び過失相殺について。

② 会社法:350条,361条,423条,424条以下,960条及び967条。代表者の職務についての会社の責任,取締役の報酬・責任,利益額推定の適用範囲,責任免除及び取締役等の贈収賄罪について。

③ 刑法:247条,252条及び253条。刑事訴訟法:230条,241条及び242条。

④ 民事保全法:13条,20条及び50条。

⑤ 東京地裁令和3年1月28日判決(平成30年(ワ)第38078号,令和元年(ワ)第21434号)。裁判所掲載の判決全文。マージンに関する当事者の主張は21頁~22頁,裁判所の判断は52頁~53頁。

⑥ 東京地裁平成30年1月18日判決(平成28年(ワ)第41415号,判例秘書L07330100)。東京地裁平成28年12月13日判決(平成26年(ワ)第20655号,判例秘書L07133758)。京都地裁平成27年6月12日判決(平成23年(ワ)第1184号,判例秘書L07050313)。判例秘書で事件番号・裁判年月日及び文献番号を照合し,判決本文を閲覧した。

⑦ 今泉憲人『責任追及を見据えた役職員不正の実効的な調査手法と予防策』(BUSINESS LAWYERS,2026年9月)の書誌・読書入口。初動・証拠保全・聴取,民事対応,刑事対応及び再発防止を組み合わせる実務上の参考資料として用いた。

2026年10月4日に,上記4件の判決本文における当事者の主張,認定事実,損害額及び責任の理由を照合した。
⑥の3件は,裁判所の裁判例検索でも事件番号を検索したが該当結果がなく,本文の確認は判例秘書によるものである。
駐車場事件及び京都の事件で参照される別紙の明細表は,今回閲覧した本文表示には含まれておらず,明細を行ごとに検算したものではない。
各判決の控訴・確定状況は未確認であり,上級審で維持された判例として紹介しているわけではない。

各事件の行為時に適用された法令と,現在の案件に適用する法令・経過措置は区別する必要がある。
比較資料の準備,交渉の順序及び再発防止策は実務上の提案であり,個別案件の認定又は一定の回収結果を保証するものではない。