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USB型フォレンジックツールを労務管理で利用する場合の法的注意点(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

対象PCにUSBメモリを挿すだけで,ファイルの閲覧・削除履歴,Web閲覧履歴,USB接続履歴及びログオン履歴等を解析できる簡易型のデジタルフォレンジック製品が,弁護士や企業の法務・人事部門に向けて販売されている。たとえば,AOS Fast Forensics(AIデータ社が販売代理店を通じて提供する製品)は,Windows7及びWindows10を対象に,OS情報,Web履歴,ファイル閲覧履歴,USB接続履歴,イベントログ(ログイン・ログオフ時刻)等を取得できるとされ,管理者権限のあるアカウントでのログイン又は管理者パスワードの把握を前提として動作する。年間利用料を抑え,USB1本を挿すという簡易な操作で解析が完了するため,情報漏えい対応,懲戒・解雇の証拠収集,未払残業代請求への対応,内部通報・ハラスメント調査の初動及び退職時のPC監査等,使用者(企業)の労務管理の様々な場面での活用が想定されている。

本記事は,令和8年8月18日時点で公表されている法令,行政ガイドライン及び裁判例に基づき,使用者がこの種のUSB型フォレンジックツールを労務管理その他の目的で利用する場合に,どのような法的根拠が必要となり,どのような場面でどのような限界があるかを整理するものである。生成AIを用いて,個人情報保護法制,労働時間管理に関する行政指針,不正競争防止法制,公益通報者保護法制及び関連裁判例の一次資料を確認した上で構成した。個別の製品の性能又は導入の当否を評価するものではなく,製品カテゴリー全般に共通する法的枠組みを対象とする。

第2 個人情報保護法制上の位置付け

1 雇用管理分野ガイドラインの廃止と通則編への統合

厚生労働省は,平成16年厚生労働省告示第259号として「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」を定め,平成24年厚生労働省告示第357号により全部改正し,平成27年厚生労働省告示第454号により一部改正した。同ガイドラインは,雇用管理情報(労働者等の雇用管理のために収集,保管,利用等する個人情報で,病歴,収入,家族関係等の機微に触れる情報を含む。)の利用目的の特定,取得,個人データの管理,第三者提供及び保有個人データの開示等について事業者が遵守すべき事項を定めるものであったが,電子メールの監視,GPSによる位置情報の取得又は防犯カメラによる監視といった,モニタリングに固有の規定は置かれていなかった。

同ガイドラインは,平成29年5月30日をもって廃止された。個人情報保護委員会が同年,分野別ガイドラインの多くを「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」等4編へ一元化したことに伴うものである。現在,雇用管理分野に固有の行政文書として個別に存続しているのは,個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」のみであり,これは健康情報の取扱いに特化した内容であって,PC・メール・GPS等のモニタリングには触れていない。

2 個人情報保護委員会Q&Aが示すモニタリング実施の要件

雇用管理分野の専門ガイドラインが廃止された結果,従業者に対するモニタリングの実施に関する実務上の指針は,通則編ガイドラインに付属する個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」のQ5-7が担っている。同Q&Aは,「従業者に対する監督の一環として,個人データを取り扱う従業者を対象とするビデオやオンライン等による監視(モニタリング)を実施する際の留意点」として,①モニタリングの目的をあらかじめ特定した上で,社内規程等に定め,従業者に明示すること,②モニタリングの実施に関する責任者及びその権限を定めること,③あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し,その内容を運用者に徹底すること,④モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか確認を行うこと,の4点を挙げる。同Q&Aは,これに加えて,モニタリングに関して個人情報の取扱いに係る重要事項等を定めるときは,あらかじめ労働組合等に通知し必要に応じて協議を行うことが望ましく,重要事項等を定めたときは従業者に周知することが望ましいとする。

USB型フォレンジックツールは,ファイル閲覧・削除履歴,Web閲覧履歴,USB接続履歴及びログオン履歴等を一度の接続で広く取得する設計であるため,上記①の目的の特定を,モニタリング対象の情報の範囲に対応させて具体的に行っておくことが,Q&Aの要件を満たすための出発点となる。

3 就業規則への明記の要否

モニタリングの適法性は,個人情報保護法制上の要件だけでなく,労務管理の一環としての通信機器の監視・点検が許容される範囲という観点からも検討する必要がある。この点について,企業法務の実務書は,使用者が職場のパソコン等の通信機器に関する私的使用の有無及びその程度を監視・点検できるかについて,就業規則に合理的な内容で記載して従業員に明らかにしておけば,職場における通信機器の利用権限が制限されていることが明らかになり,企業が監視・点検することは可能と解している。これに対し,就業規則に記載がない場合は,業務との関係で監視する必要性があり,その手段・程度が相当である場合に限り合法となるとされる。さらに,就業規則の記載事項に比べて実際の情報取得が広範にされている場合には,従業員の想定範囲を超えるものとして違法となる可能性があるとも指摘されている。

USB型フォレンジックツールのように取得情報の範囲を個別の目的ごとに絞りにくいツールを用いる場合,就業規則等に記載したモニタリングの目的及び取得情報の範囲と,実際にツールが取得する情報の範囲との間に乖離が生じないよう,事前に確認しておく必要がある。取得範囲がその乖離を超えて私的領域に及ぶときは,プライバシー侵害として不法行為を構成し得る余地があり,その違法性判断の一般的な枠組みについては,別稿「名誉毀損又はプライバシー侵害が違法となる場合」も参照されたい。

第3 場面別の法的注意点

USB型フォレンジックツールの利用が想定される主な場面として,①懲戒・解雇,②未払残業代・労災,③情報漏えい・営業秘密調査,④内部通報・ハラスメント調査,⑤退職時のPC監査が挙げられる。場面ごとに適用される法的根拠及び留意点は異なるため,以下順に整理する。

1 懲戒・解雇における証拠としての利用

懲戒処分又は普通解雇の効力が争われた場合,使用者は,処分の理由となった事実を主張立証する責任を負う。USB型フォレンジックツールで取得したファイル閲覧・削除履歴やWeb閲覧履歴は,この主張立証を支える客観的な証拠となり得るが,取得手続自体の相当性が争点化するおそれがある点に留意する必要がある。最高裁判所は,所持品検査について,「検査を必要とする合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で,しかも制度として,職場従業員に対して画一的に実施される」ことを適法性の要件とした(最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決・昭和42年(オ)第740号,民集22巻8号1603頁)。この判断枠組みは金品の不正隠匿摘発を目的とする身体・所持品検査に関するものであり,電子端末の内部データ調査を直接の対象とするものではないが,調査の必要性・方法・程度の相当性を審査するという骨格は,PC調査の相当性を検討する際にも参考になる。

2 未払残業代・労災における労働時間の記録としての位置付け

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は,始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法として,使用者による現認のほか,「タイムカード,ICカード,パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し,適正に記録すること」を挙げ,パソコンの使用時間の記録を,タイムカード及びICカードと並ぶ客観的な記録の一類型として位置付けている。同ガイドラインは,自己申告制による労働時間管理を行う事業場についても,入退場記録やパソコンの使用時間の記録など事業場内にいた時間の分かるデータを保有している場合には,自己申告により把握した労働時間との間に著しい乖離が生じていないかを確認し,乖離があれば実態調査の上で労働時間を補正することを求めている。

もっとも,USB型フォレンジックツールで事後的に取得したPCログを,未払残業代請求への反証又は労災における長時間労働の認定資料として用いる場合には,二つの限界を踏まえる必要がある。第一に,PCログは特定の端末における操作の記録にとどまり,会議,電話対応,外勤その他その端末を用いない業務時間を捕捉できない。第二に,使用者が平時からパソコンの使用時間の記録を労働時間管理の資料として活用していなかったにもかかわらず,紛争が生じた場面でのみ防御的にログを取得する場合には,前記ガイドラインが求める平時の労働時間把握体制の不備そのものが,安全配慮義務違反の判断において不利な事情として評価される可能性がある。

3 情報漏えい・営業秘密調査における秘密管理性との関係

営業秘密の不正取得・使用・開示は,不正競争防止法2条1項4号から10号までに定める不正競争に該当し得る。同法上の保護を受けるには,当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性),事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)及び公然と知られていないこと(非公知性)の三要件を満たす必要がある。経済産業省「営業秘密管理指針」(最終改訂令和7年3月31日)は,秘密管理性を担保する措置の例としてID・パスワードによるアクセス制限等を挙げる一方,「不正利用・不正取得のリスクが顕在化している場合には,追加的に,人事異動・退職毎のパスワード変更,メーラーの設定変更による私用メールへの転送制限,物理的にUSBやスマートフォンを接続できないようにすること等によって,秘密管理意思の明示がより確固としたものになることが想定される」が,「通常の状況においては,これらの措置は,情報漏えい対策上有効であるとしても,秘密管理性を充足するための必須のものではない」とする。すなわち,USB接続を制限していなかったこと自体は,秘密管理性を直ちに否定する事情にはならない。

情報漏えいが発覚した後の対応として,フォレンジック調査を実施すること自体が,不正競争行為による損害の一部として賠償請求の対象になり得ることを示す近時の裁判例がある。知的財産高等裁判所第2部令和8年6月29日判決(令和8年(ネ)第10004号)は,元従業員が社内資料を報道機関へ提供した行為が不正競争防止法2条1項4号,5号及び7号の不正競争に該当すると認めた事案において,原告が「事実を解明するため,フォレンジック調査等を実施し」不正競争行為を特定するに至ったとの事実認定を前提に,フォレンジック調査費用の一部を不正競争行為と相当因果関係のある損害と認めた。被告側は,フォレンジック調査の実施が見せしめにすぎないと主張したが,同判決はこれを排斥している。この判断は,フォレンジック調査の実施自体が事後的な争点となり得ること,そして相当な範囲の調査費用は損害として回収し得ることの双方を示すものである。なお,デジタルフォレンジックの実施自体が裁判上言及された事案として,知的財産高等裁判所平成27年12月24日判決(平成27年(ネ)第10046号)もある。同事案は,未公表原稿等の持ち出しの営業秘密該当性が争われたもので,元従業員側が,会社側のデジタルフォレンジックを含む網羅的な証拠収集にもかかわらず特定の報告書だけ提出を控えたのは不自然であると主張した事案である。

4 内部通報・ハラスメント調査における調査手法の相当性

公益通報者保護法11条は,事業者に対し,公益通報対応業務従事者を定める義務(1項)のほか,「公益通報の内容の活用により…適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」をとる義務(2項)を課す。従業員数300人以下の事業者については努力義務にとどまる(同条3項)。同法自体は,調査の具体的な手法までは規定していない。消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(令和3年10月)は,調査は「公益通報者の意向に反して調査を行うことも原則として可能」としつつ,通報者を特定させる事項の伝達範囲は「必要性の高い調査が実施できない等のやむを得ない場合」に限り必要最小限に限定すべきものとしている。公益通報者保護制度の全体像については,別稿「公益通報制度に関するメモ書き」も参照されたい。

日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年7月15日策定,同年12月17日改訂)は,第三者委員会が決定する調査手法について,「第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なものでなければならない」とし,「デジタル調査の必要性を認識し,必要に応じてデジタル調査の専門家に調査への参加を求めるべきである」と定める。同ガイドラインは,その全部又は一部が内部調査委員会にも準用されることが期待される旨を付言しており,内部通報を端緒とする社内調査一般においても,調査手法の選択が目的達成に必要十分な範囲にとどまるべきという考え方が妥当する。他方,厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は,ハラスメント事案の事実確認の方法として,相談者及び行為者双方からの聴取並びに事実に不一致がある場合の第三者からの聴取を挙げるにとどまり,端末調査への言及はない。同指針は,相談者・行為者等に関する情報がプライバシーに属するものであることを前提に,プライバシー保護のために必要な措置を講ずることを求めている。

5 退職時のPC監査

退職予定者又は退職者が使用していたPCについて,機密情報の持ち出しの有無を確認するためにUSB型フォレンジックツールを用いることも想定される。会社貸与のPCであれば,第2の1及び2で述べたモニタリングの要件,すなわち就業規則等への明記及び個人情報保護委員会Q&AのQ5-7が示す4要件が及ぶ。これに対し,私物端末に会社データが保存されている場合,私物端末そのものへの調査協力を求める法的根拠は必ずしも明確でなく,実務上は対象者本人から具体的な同意を得ることが望ましいと指摘されている。

第4 証拠としての技術的留意点

USB型フォレンジックツールを用いて取得した記録を紛争における証拠として用いる場合には,取得手続の記録化が重要になる。第3の1で述べた懲戒・解雇の場面及び第3の2で述べた未払残業代・労災の場面のいずれにおいても,取得したログの証拠価値は,取得の日時,取得者,取得方法及び改ざんの有無を裏付ける記録(いわゆるチェーン・オブ・カストディ)が整っているかによって左右され得る。取得手続が不透明であれば,相手方から改ざんの可能性を指摘され,証拠としての評価を減殺されるおそれがある。訴訟の相手方が調査結果の開示を求めてくる場面における文書提出命令の要件については,別稿「文書提出命令」を参照されたい。

第3の3で述べたニデック株式会社事件の判示が示すとおり,フォレンジック調査の実施自体が事後的に争点化し得るため,調査を実施する目的,範囲及び手法を記録に残しておくことは,調査費用を損害として主張する場面においても,調査の相当性を裏付ける資料としても有用である。

第5 現在の法改正・改訂動向

公益通報者保護法は,改正法(施行日令和8年12月1日)により内容が見直される予定である。これに伴い,消費者庁の指針及び指針の解説についても令和8年3月31日付けの改正版が既に公表されている。調査手法に関する記載に変更があるかどうかは,本記事の執筆時点では確認できていない。

不正競争防止法は,令和5年の改正(施行日令和6年4月1日)により,限定提供データの保護対象に秘密管理データを含む形での拡充が図られた。これを受けて,経済産業省の営業秘密管理指針も令和7年3月31日に改訂されている。テレワークの普及及びクラウドによるデータ管理の進展を踏まえた実務対応が,現在の課題として位置付けられている。

出典・参考資料

1 法令

公益通報者保護法(平成16年法律第122号)11条・12条・15条・16条(e-Gov法令検索)
不正競争防止法(平成5年法律第47号)2条1項4号~10号・21条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

知的財産高等裁判所第2部令和8年6月29日判決(令和8年(ネ)第10004号,損害賠償請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)
知的財産高等裁判所平成27年12月24日判決(平成27年(ネ)第10046号,損害賠償等請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決(昭和42年(オ)第740号,解雇無効確認等請求事件,民集22巻8号1603頁,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q5-7(個人情報保護委員会)
個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(個人情報保護委員会)
厚生労働省「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」(平成16年厚生労働省告示第259号,平成24年厚生労働省告示第357号による全部改正,平成27年厚生労働省告示第454号による一部改正。平成29年5月30日廃止)
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(令和3年10月)
経済産業省「営業秘密管理指針」(最終改訂令和7年3月31日)
日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年7月15日策定,2010年12月17日改訂)

4 文献

①「企業における個人情報・プライバシー情報の利活用と管理」(青林書院,平成30年)382頁~385頁

5 ウェブ資料

AOS Fast Forensics製品ページ(AIデータ社)
②高橋郁夫「会社のデータを保存した私物のパソコン,スマートフォン(電子端末)を調査するうえでの考え方」ビジネスローヤーズ(2020年3月18日)