第1 この記事の対象と結論
1 対象とする読者と基準日
この記事は,交通事故でけがをした家族や,相続・遺言について相談したい高齢の親に付き添って,弁護士の法律相談に同席しようとしている人を対象とする。
弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会が公表している現行の本文(会規第70号)により,法令は令和8年9月28日時点でe-Gov法令検索により確認した内容に基づく。
相談を受ける側の事務所ごとの運用は扱わない。
2 結論
(1) 依頼者は相談の当事者である本人である
弁護士に事件を依頼するのは,事故の被害者や遺産を相続する人など,相談の当事者である本人である。
家族が付き添う場合でも,弁護士は本人の意思を確かめ,本人に説明し,本人の秘密を守る立場にある。
そのため,家族が同席していても,弁護士が本人に直接質問したり,本人だけと話す時間を求めたりすることがある。
(2) 同席するかどうかは本人の意思と事案の性質で決まる
弁護士職務基本規程には,法律相談への家族の同席を直接定めた条文はない。
同席の可否は,本人がそれを望んでいるか,本人の意思を家族のいない場で確かめる必要があるか,家族が相手方又は利害関係人になり得るかによって判断されると考えられる。
相続で家族が他の相続人に当たる場合や,遺言の内容を相談する場合は,本人だけと話す時間が設けられることを前提に付き添うのがよい。
第2 弁護士が本人の意思を確かめる理由
1 依頼者の意思の尊重と説明
(1) 依頼者の意思の尊重(22条)
弁護士職務基本規程22条1項は,弁護士は,委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとすると定めている。
同条2項は,依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは,適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努めると定めている。
家族が本人の気持ちを代弁してくれることもあるが,弁護士が尊重すべきなのは本人の意思であり,本人が十分に話せない場合でも,弁護士には本人の意思を確かめる努力が求められる。
(2) 受任の際の説明(29条)
同規程29条1項は,事件を受任するに当たり,依頼者から得た情報に基づき,事件の見通し,処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならないと定めている。
同項は説明の相手方を明記していないが,依頼者である本人に対する説明と考えられ,家族が内容を理解しただけで足りるとは限らない。
2 秘密の保持
弁護士法23条は,弁護士は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと定めている。
弁護士職務基本規程23条も,弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないと定めている。
家族であっても依頼者本人ではないから,本人の承諾がないまま,弁護士が事件の内容や本人から聞いた事情を家族に伝えることには慎重にならざるを得ないと考えられる。
付き添う家族が相談の内容を後で共有してほしいときは,本人がそれを望んでいることを相談の最初に本人から弁護士に伝えてもらうのがよい。
3 依頼するための契約を結ぶのも本人である
弁護士への依頼は委任契約であり,民法643条によれば,委任は当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる。
民法3条の2は,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は無効とすると定めているため,本人が契約の内容を理解して依頼しているかは弁護士にとっても重要な確認事項になる。
家族が本人に代わって依頼する場合,代理人がした意思表示の効果が本人に及ぶのは代理人がその権限内でした場合であるから(民法99条1項),家族が本人から代理権を与えられているか,法定代理人であるかが問題になる。
第3 家族が同席するときと席を外すとき
1 同席について直接の定めはない
弁護士職務基本規程には,法律相談への家族の同席を直接定めた条文はなく,日本弁護士連合会が公表している同規程の英訳を検索しても,家族の同席に関する定めは見当たらない。
そのため,本記事では,同席の可否は,前記の依頼者の意思の尊重(22条)及び秘密の保持(23条)を踏まえて,事案ごとに判断されるものと整理する。
本人が家族の同席を望み,家族の説明が事実関係の把握に役立つ場合には,同席のまま相談が進むことも考えられる。
2 本人だけと話す時間が必要になりやすい場面
本記事では,次の場面では,家族が同席していても,本人だけと話す時間が設けられることを前提にしておくことを勧める。
①家族の希望と本人の希望が異なる可能性がある場面(示談に応じるか,遺産をどう分けるか等)
②本人が遺言の内容を相談する場面
③付き添う家族が,同じ相続の他の相続人や,同じ事故の運転者など,本人と利害が対立し得る立場にある場面
④本人が病気や障害のために意思を十分に表明できず,弁護士が22条2項に基づいて本人の意思の確認に努める必要がある場面
席を外すように求められても,家族を疑っているという意味とは限らず,本人の意思を確かめ,記録上も明らかにしておくための手順であることが多いと考えられるので,そのように受け止めるのがよい。
第4 交通事故の相談に家族が付き添う場合
1 経過の説明役としての家族
交通事故の被害者本人が入院中であったり,事故直後の記憶が乏しかったりする場合,家族が治療経過や生活への影響を説明できることは相談に役立つ。
もっとも,損害賠償を請求するのは被害者本人であり,示談に応じるか,訴訟をするかを決めるのも本人である。
家族の付添いが損害として認められる場合の考え方は,交通事故の入院付添費―完全看護・医師の指示・近親者の実際の付添いと立証方法で整理している。
2 本人が意思を表明できない場合
重い後遺障害のために本人が意思を表明できない場合,家族が本人に代わって示談や訴訟を進めるには,成年後見制度等により法定代理人を立てることが必要になることがある。
成年後見制度については,令和8年法律第45号(令和8年6月24日公布)により後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化する改正がされたが,法務省の説明によれば,この部分は公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行される。
相談の時点でどの制度が適用されるかは,その時点の施行状況で確認する必要がある。
改正の施行準備は令和8年成年後見制度改正の施行準備で,交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用の扱いは交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用は損害になるかで整理している。
3 付き添う家族が同じ事故の当事者である場合
家族が運転する車に同乗していて事故に遭った場合,同乗していた本人は,事故の態様によっては,相手方の運転者だけでなく,運転していた家族に対しても,故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者の損害賠償責任を定める民法709条に基づいて損害賠償を請求できる立場になり得る。
この場合,運転していた家族は同じ事件の相手方となり得るから,弁護士職務基本規程27条1号が,相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件について弁護士は職務を行ってはならないと定めていることとの関係で,同じ弁護士が本人と家族の双方から依頼を受けることは問題になる。
付き添う家族が本人と同じ側で依頼者に加わろうとする場合も,同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときの説明(同規程32条)や,依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件の規律(同規程28条3号)が問題になり得る。
配偶者が運転する車に同乗中の事故の過失相殺は,配偶者の運転する車に同乗中の事故と被害者側の過失で整理している。
第5 相続・遺言の相談に家族が付き添う場合
1 遺産分割の相談
遺産分割の相談に付き添う家族が,同じ遺産の他の相続人であることもある。
相続人どうしは,遺産の分け方について利害が対立し得る関係にある。
複数の相続人がまとめて同じ弁護士に依頼しようとする場合について,弁護士職務基本規程32条は,同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは,事件を受任するに当たり,依頼者それぞれに対し,辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならないと定めている。
付き添う家族が自分も依頼者になるのか,付添いにとどまるのかを,相談の最初に弁護士と確認しておくのがよい。
2 遺言の相談
民法974条2号は,推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は,遺言の証人又は立会人となることができないと定めている。
これは遺言の証人・立会人の欠格についての規定であり,法律相談への同席を禁じるものではないが,遺言によって利益を受ける立場の人を証人・立会人から除く点に,遺言作成の公正さへの配慮がうかがえると考えられる。
遺言の効力が後に争われた場合には,作成に至る経過や作成時の状況が問題になることがあるため,本記事では,遺言の内容は本人だけと話し合って本人の言葉で確かめ,その経過を記録しておくことを基本とする。
公正証書遺言の証人については公正証書遺言の証人及び立会人で,無効の主張が問題になる場面は公正証書遺言の効果的な無効主張方法で整理している。
第6 付き添う家族が事前に準備すること
次の準備をしておくと,本人の意思を尊重しながら,限られた相談時間を有効に使いやすい。
①本人に,家族が同席すること及び相談内容を家族と共有することを望むかを確認しておく
②事故又は相続の経過を時系列でまとめたメモと,関係資料(保険会社の書類,診断書,遺言書の写し,戸籍,遺産の資料等)をそろえる
③家族も依頼者になるのか,付添いにとどまるのかを決めておく
④本人の本人確認書類を用意する
弁護士が依頼者の本人確認を行う場面については,弁護士が依頼者の本人確認を行う場合で整理している。
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②親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用
③交通事故事件のご相談・ご依頼の流れ(お問い合わせからご依頼まで)
④相続事件のご相談・ご依頼の流れ(お問い合わせからご依頼まで)
第8 出典・参考資料
1 法令
①民法(明治29年法律第89号)3条の2,99条,643条,709条及び974条(e-Gov法令検索)
②弁護士法(昭和24年法律第205号)23条(e-Gov法令検索)
2 職能団体の規程
①日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(平成16年会規第70号)22条,23条,27条,28条,29条及び32条(PDF4頁~6頁)
②日本弁護士連合会「Basic Rules on the Duties of Practicing Attorneys」(同規程の英訳)