公益通報制度に関するメモ書き


目次
1 総論
2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
4 消費者庁の指針及びその解説
5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
7 関連記事その他

1 総論
(1) 公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)は平成18年4月1日に施行されました。
(2) 公益通報者保護制度は,国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から,公益のために事業者の法令違反行為を通報した事業者内部の労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止するものです(厚生労働省HPの「公益通報者の保護」参照)。
(3) 消費者庁消費者制度課が令和2年2月及び3月に内閣法制局に提出した,公益通報者保護法の一部を改正する法律案に関する説明資料及び用例集を掲載しています。


2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
(1) 令和4年6月1日に改正公益通報者保護法が施行された結果,例えば,以下のとおり取扱いが変わりました(消費者庁HPの「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」参照)。
① 常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は,内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設置,調査,是正措置等)を義務付けられることになりました(法11条1項及び2項)。
② 公益通報対応業務従事者は,通報者を特定させる情報について刑事罰(30万円以下の罰金)を伴う守秘義務を負うことになりました(法12条及び21条)。
③ 退職後1年以内の労働者のほか,役員も公益通報者として保護されることになりました(法2条1項1号及び4号参照)。
④ 公益通報に伴う損害賠償責任が免除されることになりました(法7条)。
・ 通報先が事業者内部(法律事務所等を含む。)である場合,通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合であれば,損害賠償責任が免除されます。
・ 通報先が行政機関又はその他の事業者外部(例えば,報道機関及び消費者団体)の場合,一定の保護要件を満たす必要があります。
(2) 東弁リブラ2022年10月号「どう変わった?公益通報者保護法-改正による実務への影響-」には,公益通報対応業務従事者の守秘義務を履行する上での留意点等が書いてあります。

3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
(1) E-GOVパブリック・コメントの「「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に関する意見募集の結果について」「寄せられた意見の概要」
18頁ないし24頁記載の意見は,公益通報制度の問題点を詳しく記載したものになっています。
(2) 上記のパブコメに寄せられたコメントは196件でありますところ,項目別の件数としては,①従事者として定めなければならない者の範囲が23件,②公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置が21件,③公益通報対応業務の実施に関する措置が20件,④労働者及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置が20件,⑤内部公益通報受付窓口の設置等が18件,⑥範囲外共有等の防止に関する措置が12件となっています(デロイトトーマツHPの「第1回 11条指針の公表~パブリックコメントに見る社会の関心事~」参照)。

4 消費者庁の指針及びその解説
(1) 法11条4項に基づく文書として,消費者庁HPの「公益通報者保護法と制度の概要」には以下の文書が掲載されています。
① 公益通報者保護法に基づく指針
② 公益通報者保護法に基づく指針の解説
(2) 知識連鎖ブログ「指針の法的拘束力」には「第25回研究会(7/26)における指摘事項」からの引用として以下の記載があります(「菅野座長」は,労働法を専門分野とする菅野和夫(すげのかずお)東大名誉教授です。)。
○  厚生労働省から出版する法律の解説と、法律に根拠をもって出されている指針は異なるが、指針は法律ではない。指針の性格はなかなか難しい。(内田先生)
○  法律に書けないものを、努力すべきこととして指針に書くなどの振り分けができれば、指針は法的拘束力がないと言えるだろう。しかし、例えば整理解雇について裁判例を整理して指針を書くとすれば、法的拘束力はないとすることは誤解を招くのではないか。指針において法律に定められていることを再び書いている場合がある。指針そのものに法的拘束力がないことと、そこに書かれていることに法的拘束力がないこととは異なる。そのことを明らかにした方がよいのではないか。(西村先生)
○  指針に書いてあることにより法的拘束力があるわけではない。(菅野座長)

5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
・ 公益通報者保護法の一部を改正する法律案 説明資料(令和2年3月の消費者庁消費者制度課の文書)72頁及び73頁には,「内閣総理大臣が策定する指針に定める事項としては、現時点において、以下のものを想定している。」として以下の記載があります。
① 公益通報対応業務従事者の配置及び教育訓練の実施
・ 公益通報対応業務従事者として、事業者の実情に応じ、社外取締役、監査役、コンブライアンス部門、総務部門、人事部門、社外法律事務所等から適任者を選び、公益通報対応業務に従事させること。
・ 公益通報対応業務従事者が、公益通報対応業務を適切に実施することができるよう、必要な知識やスキルの向上を図るための教育訓練を実施すること。
② 公益通報を受け付ける窓口の設定及び制度の周知
・ 当該窓口における業務の実施要領に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 当該窓口を含む制度の周知の実施に関する内規を定め、これに従い周知を実施すること。
③ 公益通報に基づく調査及び是正措置等
・ 公益通報を受けた場合は、特段の事情がない限り31、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、その行為者の懲戒その他適当な措置並びに再発防止及び是正のために必要と認める措置(国及び地方公共団体の場合には国家公務員法、地方公務員法(昭和25年法律第261号)等の規定に基づく措置その他適当な措置。以下「公務員法に基づく措置」という。)をとることに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報を受けて実施した調査及び是正措置又はこれらを実施しない理由について、公益通報者に通知するよう努めることに関する内規を定め、これに従い通知すること。
・ 上記の調査及び是正措置等の進捗を管理し、内規に基づき実施されていないことが確認された場合には監督指導(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)することに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
④ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止及び公益通報者に閨する情報漏えいの防止並びに事後の措置
・ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止、当該禁止に違反した者の懲戒その他適当な措置並びに当該不利益取扱いの再発防止及び是正に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報者に関する情報の共有範囲を最小限(窓口担当者、調査担当者等公益通報に対応する担当者並びにそれらの管理責任者)にとどめ、その範囲から漏らした者の懲戒その他適当な措置(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)、漏えい拡大防止及び再発防止に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 上記の不利益取扱い及び情報の漏えいが発生した旨の申出の受付、事実関係の調査並びに進捗管理及び監督指導については、上記②及び③に準じること。

6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
(1) 令和4年9月6日発効の第二東京弁護士会の懲戒処分の公告(戒告)には「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2023年1月号95頁)
    被懲戒者は、同じ事務所に所属するA弁護士が、B法人から、B法人の設置したハラスメント相談窓口の担当者の代行を受任し、2017年7月5日及び同年9月1日にA弁護士が懲戒請求者から事情聴取したことを知りつつ、A弁護士が聴取した事実関係と同一の事実を含む事実関係に基づき懲戒請求者がB法人を被告として提起した地位確認等請求訴訟において、A弁護士と共にB法人の訴訟代理人として、懲戒請求者の主張を争った。
    被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第5条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(2) 上記懲戒処分は,令和5年10月30日付の日弁連の裁決により取り消されました(自由と正義2023年12月号64頁及び65頁)。


7 関連記事その他
(1) 裁判手続内で是正されることが予定されている裁判事務にかかわる行為は,裁判所の公益通報及び準公益通報の対象とはなりません(裁判所HPの「裁判所における公益通報について」参照)。
(2) 福岡地裁令和3年10月22日判決(裁判長は47期の松葉佐隆之)は,郵便局の内規違反を内部通報したことに対し,郵便局長でつくる団体の役員3人からパワーハラスメントを受けたとして,団体所属の郵便局長7人が総額2950万円の損害賠償を求めた訴訟で,約200万円の賠償を命じました(朝日新聞HPの「内部通報者捜しの違法性認定 郵便局長団体の幹部らに賠償命令」(2021年10月22日付)参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


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