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公益通報者保護法と公益通報制度―通報先・証拠保全・令和7年改正(AI作成)

公益通報者保護法の保護を受けるための要件は,通報先と通報者の立場によって異なります。本稿はAIで作成したものであり,令和4年6月1日施行改正後の現行法,令和8年12月1日に施行される令和7年改正法,通報先の選択,証拠保全,不利益な取扱いを争う場合の立証及び事業者の初動対応を整理します。

目次
1 総論
2 令和4年6月1日施行の改正公益通報者保護法の概要
3 令和7年改正法の概要(令和8年12月1日施行)
4 通報先の選択,証拠保全及び紛争対応
5 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
6 消費者庁の指針及びその解説
7 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
8 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
9 裁判所の公益通報制度,関連裁判例その他

1 総論
(1) 公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)は平成18年4月1日に施行されました。
(2) 公益通報者保護制度は,国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から,労働者,派遣労働者,通報日前1年以内の退職者及び役員が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく,勤務先等における一定の法令違反を通報した場合に,解雇その他の不利益な取扱いから保護する制度です。通報先には,①事業者内部,②処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等及び③一定の要件を満たす場合の報道機関等があり,通報先ごとに保護要件が異なります(e-Gov法令検索「公益通報者保護法」及び消費者庁HPの「通報者の方へ」参照)。
(3) 消費者庁消費者制度課が令和2年2月及び3月に内閣法制局に提出した,公益通報者保護法の一部を改正する法律案に関する説明資料及び用例集を掲載しています。


2 令和4年6月1日施行の改正公益通報者保護法の概要
(1) 令和4年6月1日に改正公益通報者保護法が施行された結果,例えば,以下のとおり取扱いが変わりました(消費者庁HPの「公益通報者保護法と制度の概要」参照)。
① 常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は,内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設置,調査,是正措置等)を義務付けられることになりました(法11条1項及び2項)。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務です(法11条3項)。
② 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は,正当な理由がなく,公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならず,違反した者は30万円以下の罰金に処せられます(法12条及び21条)。
③ 退職後1年以内の退職者のほか,役員も公益通報者として保護されることになりました(法2条1項1号及び4号参照)。
④ 法3条各号又は6条各号の保護要件を満たす公益通報によって事業者が損害を受けたことを理由とする,当該事業者から公益通報者に対する損害賠償請求が制限されることになりました(法7条)。
・ 通報先が事業者内部である場合,通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料することが保護要件です。事業者内部の通報先には,事業者があらかじめ通報先として定めた法律事務所等を含みます。
・ 通報先が権限を有する行政機関等である場合,労働者及び派遣労働者並びにこれらであった者(通報日前1年以内の者に限ります。)については,真実相当性があるか,又は氏名又は名称及び住所又は居所,通報対象事実の内容,そのように思料する理由及び措置がとられるべきと思料する理由を記載した書面等を提出する必要があります。役員については,善良な管理者と同一の注意をもって調査及び是正に必要な措置をとることに努めたにもかかわらず真実相当性がある場合,又は生命・身体等に対する急迫した危険について真実相当性がある場合に保護されます(法6条2号)。
・ 通報先が報道機関その他の事業者外部である場合,労働者及び派遣労働者並びにこれらであった者(通報日前1年以内の者に限ります。)については,真実相当性に加え,不利益な取扱いのおそれ,証拠隠滅等のおそれ,通報者特定情報が漏らされるおそれ,正当な理由のない口止め,書面による内部通報後20日を経過しても調査開始の通知がないこと又は生命・身体等に対する急迫した危険のうち,いずれかの要件を満たす必要があります。役員については,善良な管理者と同一の注意をもって調査及び是正に必要な措置をとることに努め,真実相当性及び一定の事情がある場合,又は生命・身体等に対する急迫した危険について真実相当性がある場合に保護されます(法6条3号)。
・ 法7条は,資料の持出し,無権限アクセスその他の証拠収集行為まで当然に適法とする規定ではありません。証拠収集行為は,その目的,必要性,手段の相当性及び取得・利用する情報の範囲等に応じて別に判断されます。
(2) 東弁リブラ2022年10月号「どう変わった?公益通報者保護法-改正による実務への影響-」には,公益通報対応業務従事者の守秘義務を履行する上での留意点等が書いてあります。

3 令和7年改正法の概要(令和8年12月1日施行)
(1) 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)は,令和7年6月11日に公布され,令和8年12月1日に施行されます。令和8年7月15日現在は施行前であるため,それまでに行われる通報及び不利益な取扱いについては現行法と附則の経過措置を確認する必要があります。
(2) 主な改正点は,以下のとおりです。
① 公益通報者の範囲に,特定受託業務従事者及び通報日前1年以内に業務委託を受けていた特定受託業務従事者であった者が加わります。
② 事業者は,正当な理由なく,公益通報をしない旨の合意を求めたり,公益通報をした場合に不利益な取扱いをすると告げたりするなどして公益通報を妨げてはならず,違反してされた合意その他の法律行為は無効となります。また,正当な理由なく,公益通報者である旨を明らかにするよう要求するなど,公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます(改正後の法11条の2及び11条の3)。
③ 労働者に対する解雇及び懲戒については,公益通報をした日から1年以内に行われた場合,公益通報を理由として行われたものと推定する規定が設けられます。ただし,2号通報又は3号通報について,事業者が通報の事実を知って解雇又は懲戒をした場合は,事業者がその通報を知った日から1年以内に行われたときに推定が働きます。公益通報を理由として解雇又は懲戒をした行為者は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処せられ,法人には3000万円以下の罰金が科されます。他方,配置転換その他の不利益な取扱いは引き続き禁止されますが,この法定推定及び直罰の対象は解雇及び懲戒に限定されています。
④ 常時使用する労働者が300人を超える事業者の公益通報対応業務従事者の指定義務について,勧告,命令,命令の公表,報告徴収及び立入検査の制度が設けられ,命令違反,報告拒否,虚偽報告又は検査拒否等には30万円以下の罰金が科されます。内部公益通報対応体制の整備及び周知義務についても,勧告及び一定の場合の公表により履行が確保されます。
⑤ 法11条2項に,労働者等に対する周知が明記され,改正法に対応した法定指針及び指針の解説も令和8年3月31日に公表されています。企業は,窓口の有無だけでなく,従事者指定,独立した調査,利益相反の排除,是正,再発防止,通報者探索及び不利益な取扱いの防止並びに制度の周知までを一体として見直す必要があります。
(3) 改正後の条文は,e-Gov法令検索の令和8年12月1日時点の公益通報者保護法で確認できます。

4 通報先の選択,証拠保全及び紛争対応
(1) 通報先の選択
① 事業者内部への通報(1号通報)は,通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合に保護されます。社内調査と早期是正が期待できる一方,経営幹部が関係する事案や,過去に通報者探索,証拠隠滅又は不利益な取扱いがあった事業者では,会社が指定した独立性のある外部窓口,監査役,監査等委員又は社外取締役へのルートを検討する必要があります。
② 権限を有する行政機関等への通報(2号通報)は,真実相当性がある場合のほか,労働者等については,氏名又は名称及び住所又は居所,通報対象事実の内容,そのように思料する理由並びに法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由を記載した書面等を提出する方法があります。行政機関を誤ると迅速な調査が難しくなるため,消費者庁の「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」で所管法令と権限を確認することが重要です。
③ 報道機関,消費者団体等への通報(3号通報)は,真実相当性に加え,法3条3号イからヘまでのいずれかの事情を満たす必要があります。内部通報を先行させることが常に必要なわけではありませんが,通報時にどの保護要件を満たしていたかを後から立証できるようにしておく必要があります。役員による外部通報には別の要件があるため,法6条も確認する必要があります。

(2) 通報書面及び証拠の作り方
① 通報書面には,通報者の立場,勤務先・派遣先・取引先等との関係,退職日,対象事実を知った経緯,日時,場所,関係者,具体的行為,関係法令及び想定される被害を記載し,自ら確認した事実,伝聞及び推測を区別します。「不正があると思う」とだけ記載するのではなく,誰が,いつ,どの資料又は発言に基づいて,何をしたのかを時系列で示すことが重要です。
② 電子メール,チャット,契約書,会議資料,録音その他の資料は,作成者,作成日時,取得日時,取得経路及び原本の保管場所を記録し,編集前の状態を保存します。ただし,公益通報のためであっても,無権限アクセス,必要範囲を超える複写,個人情報又は営業秘密の大量持出し等が当然に許されるわけではありません。取得の目的,必要性及び手段の相当性を個別に検討し,迷う場合は持ち出す前に弁護士へ相談する方が安全です。
③ 書面による内部通報をした場合は,提出書面,添付資料,送信記録,到達記録及び受付通知を保存します。法3条3号ホの「20日」は,通報書面が事業者に到達した日の翌日から起算されます。例えば,4月1日に到達した場合,4月22日が20日を経過した日に当たります。
④ 匿名通報であっても,双方向に連絡できる仕組みを利用することが重要です。匿名で連絡方法を残さず,事業者が調査開始を通知できない状態にした場合,通知がなかったことだけを理由として法3条3号ホによる3号通報の保護を受けることはできないと考えられています。
⑤ 3号通報を選ぶ場合は,過去の報復事例,口止めの発言,証拠へアクセスできる者,証拠の管理状況,経営陣の関与,過去の通報者特定情報の漏えい及び是正されていない内部規程の不備等を,通報時点で存在した資料により保存します。

(3) 不利益な取扱いを争う場合の主張立証
① 現行法には,通報と不利益な取扱いとの因果関係について法定の推定規定がありません。通報者側は,不利益な取扱いの内容と日時,決定者,事業者が通報を知った時期,通報から処分までの時間,通報前後の評価の変化,通報者に向けられた発言,通報者探索の有無,同種事案における他の労働者との取扱いの差及び会社が説明する処分理由の変遷を時系列表にしておくことが有用です。
② 事業者からは,能力不足,勤務成績,組織再編,服務規律違反,資料の不当な取得等,通報とは別の理由による措置であるとの反論が想定されます。これに備え,通報前の人事評価,表彰,注意指導の有無,就業規則上の基準,処分手続,同種行為に対する過去の処分及び決裁過程を比較します。
③ 事業者側も,人事上の措置を行う場合には,通報と無関係な理由が通報前から存在したこと,客観的基準を一貫して適用したこと,意思決定者及び決裁過程,通報者特定情報へアクセスした者の範囲並びに通報対応部門と人事部門の情報遮断を記録しておく必要があります。
④ 解雇,懲戒,降格,減給等を受けた場合,個別労働関係紛争のあっせん,労働審判,仮処分又は訴訟のどれを選ぶかは,復職又は賃金支払を急ぐか,事実関係の争いが複雑か,証拠がどちらに偏在しているか等によって異なります。行政機関への公益通報を行っただけで労働契約上の地位が当然に回復するわけではないため,不利益な取扱いへの民事上の対応は別に検討する必要があります。

(4) 事業者が通報を受けた場合の初動
① 受付日時,通報内容,添付資料及び通報者の連絡方法を記録した上で,証拠保全,調査範囲,調査担当者及び利益相反の有無を直ちに確認します。経営幹部,顧問弁護士又は通常の通報担当者が対象となる場合には,監査役等又は別の外部専門家による独立したルートへ切り替えます。重大事案,組織的不正,通報者探索又は報復が疑われる事案については,社内調査に固執せず,第三者性のある弁護士その他の外部専門家又は特別調査委員会を起用することも検討します。
② 通報者を特定させる事項は,通報内容そのものと分けて管理し,アクセスできる者を必要最小限に限定します。調査対象者に対し「誰が通報したのか」を問いただしたり,通報者を推測するためのアンケートを行ったりしてはなりません。通報者を特定しなければ必要性の高い調査を行えない場合は,その必要性,質問範囲,担当者及び情報共有先を記録します。
③ 調査の結果,法定の通報対象事実に該当しない場合でも,ハラスメント,就業規則違反又は企業倫理上の問題として社内規程の対象となることがあります。法の対象外であることだけを理由に処理を終了せず,社内規程に従って調査,是正及び通報者への通知を行う必要があります。
④ 調査終了後は,事実認定と法的評価を区別して記録し,是正措置,再発防止策,関係者の処分及び通報者への通知を検討します。その後も,配置,評価,契約更新その他の場面で通報者に不利益が生じていないかを確認します。

5 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
(1) 消費者庁HPの「『公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)』等に関する意見募集の結果について」別表の18頁ないし24頁記載の意見は,公益通報制度の問題点を詳しく記載したものになっています。
(2) 消費者庁が公表した意見提出者数は42件(個人26件,団体15件及び無記名1件)です。別表には,1件の提出に含まれる複数の意見が項目別に掲載されており,特に,①従事者として定める者の範囲,②公益通報対応業務における利益相反の排除,③公益通報対応業務の実施,④労働者,役員及び退職者に対する教育・周知,⑤内部公益通報受付窓口の設置並びに⑥範囲外共有等の防止について,多数の具体的な意見が寄せられています。

6 消費者庁の指針及びその解説
(1) 法11条4項に基づく文書として,消費者庁HPの「公益通報者保護法と制度の概要」には以下の文書が掲載されています。
① 公益通報者保護法に基づく指針
② 公益通報者保護法に基づく指針の解説
(2) 公益通報者保護法11条1項は公益通報対応業務従事者を定める義務を,同条2項は内部公益通報に応じて適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務を,それぞれ事業者に課しています。同条4項に基づく法定指針は,これらの義務を適切かつ有効に履行するために必要な事項を具体化したものです。そのため,法定指針を単に法的拘束力のない参考資料として扱うことは適切ではありません。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務です(法11条3項)。
(3) 他方,指針の解説には,①指針を遵守するための考え方や具体例と,②指針を遵守する取組を超えて自主的な取組が期待される「その他の推奨される考え方や具体例」の双方が記載されています。個別具体的な実施方法は,事業者の規模,組織形態及び業態等に応じて異なり得ますが,指針が求める措置自体を任意の推奨事項と混同してはなりません。
(4) 消費者庁は,現行法15条に基づき,法11条1項及び2項の施行に関して事業者に報告を求め,助言,指導又は勧告をすることができます。令和8年12月1日施行の改正後は,前記3記載のとおり,従事者指定義務について命令及び罰則等が加わります。

7 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
・ 公益通報者保護法の一部を改正する法律案 説明資料(令和2年3月の消費者庁消費者制度課の文書)誌面下部72頁及び73頁(PDF73頁及び74頁)には,「内閣総理大臣が策定する指針に定める事項としては、現時点において、以下のものを想定している。」として以下の記載があります。ただし,これは法案審査時点の想定を示す沿革資料です。現在の義務内容を確認する場合は,成立した法11条,現行の法定指針及び指針の解説を優先する必要があります。
① 公益通報対応業務従事者の配置及び教育訓練の実施
・ 公益通報対応業務従事者として、事業者の実情に応じ、社外取締役、監査役、コンプライアンス部門、総務部門、人事部門、社外法律事務所等から適任者を選び、公益通報対応業務に従事させること。
・ 公益通報対応業務従事者が、公益通報対応業務を適切に実施することができるよう、必要な知識やスキルの向上を図るための教育訓練を実施すること。
② 公益通報を受け付ける窓口の設定及び制度の周知
・ 当該窓口における業務の実施要領に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 当該窓口を含む制度の周知の実施に関する内規を定め、これに従い周知を実施すること。
③ 公益通報に基づく調査及び是正措置等
・ 公益通報を受けた場合は、特段の事情がない限り(注31)、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、その行為者の懲戒その他適当な措置並びに再発防止及び是正のために必要と認める措置(国及び地方公共団体の場合には国家公務員法、地方公務員法(昭和25年法律第261号)等の規定に基づく措置その他適当な措置。以下「公務員法に基づく措置」という。)をとることに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報を受けて実施した調査及び是正措置又はこれらを実施しない理由について、公益通報者に通知するよう努めることに関する内規を定め、これに従い通知すること。
・ 上記の調査及び是正措置等の進捗を管理し、内規に基づき実施されていないことが確認された場合には監督指導(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)することに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
④ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止及び公益通報者に関する情報漏えいの防止並びに事後の措置
・ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止、当該禁止に違反した者の懲戒その他適当な措置並びに当該不利益取扱いの再発防止及び是正に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報者に関する情報の共有範囲を最小限(窓口担当者、調査担当者等公益通報に対応する担当者並びにそれらの管理責任者)にとどめ、その範囲から漏らした者の懲戒その他適当な措置(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)、漏えい拡大防止及び再発防止に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 上記の不利益取扱い及び情報の漏えいが発生した旨の申出の受付、事実関係の調査並びに進捗管理及び監督指導については、上記②及び③に準じること。

8 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
(1) 令和4年9月6日発効の第二東京弁護士会の懲戒処分の公告(戒告)には「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2023年1月号95頁)
    被懲戒者は、同じ事務所に所属するA弁護士が、B法人から、B法人の設置したハラスメント相談窓口の担当者の代行を受任し、2017年7月5日及び同年9月1日にA弁護士が懲戒請求者から事情聴取したことを知りつつ、A弁護士が聴取した事実関係と同一の事実を含む事実関係に基づき懲戒請求者がB法人を被告として提起した地位確認等請求訴訟において、A弁護士と共にB法人の訴訟代理人として、懲戒請求者の主張を争った。
    被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第5条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(2) 上記懲戒処分は,令和5年10月30日付の日弁連の裁決により取り消されました(自由と正義2023年12月号64頁及び65頁)。

(3) ただし,この結論から,外部通報窓口を担当した法律事務所が,その後に同じ事業者の代理人となっても一般に問題がないと結論付けることはできません。関連する再審査議決では,担当弁護士が人事部の代行として受付及び事情聴取を行い,聴取内容を人事部へ報告する役割にとどまり,中立・公正な立場で事実調査や法的判断を行う役割ではなかったことが重視されています。役割と実際の行為が異なれば,結論も異なり得ます。
(4) 外部窓口の委託契約及び受付時の説明では,①誰の代理人であるか,②受付,調査及び法的評価のうち何を担当するか,③通報内容を誰にどの範囲で報告するか,④通報者との間に弁護士・依頼者関係が生じるか,⑤利益相反がある場合の代替窓口,⑥通報者特定情報の取扱い並びに⑦その後に会社又は通報者の代理を受任できる範囲を明示する必要があります。会社から委託された外部窓口は,通常,会社側のリスク情報の受付窓口であって,通報者個人の代理人ではないことも説明する必要があります。


9 裁判所の公益通報制度,関連裁判例その他
(1) 裁判手続内で是正されることが予定されている裁判事務にかかわる行為は,裁判所の公益通報及び準公益通報の対象とはなりません(裁判所HPの「裁判所における公益通報について」参照)。裁判所の制度を利用して通報できる者は,裁判所職員及び裁判所の契約先会社の労働者等(いずれも退職者を含みます。)に限られ,裁判の当事者等は対象外です。裁判内容に対する不服は,上訴,抗告その他の裁判手続上の救済によることになります。
(2) 福岡地裁令和3年10月22日判決(令和元年(ワ)第3572号。裁判所HPの裁判例IDは90737)(裁判長は47期の松葉佐隆之)は,郵便局の内規違反を内部通報したことに対し,郵便局長でつくる団体の役員3人からパワーハラスメントを受けたとして,団体所属の郵便局長7人が総額2950万円の損害賠償を求めた訴訟で,約200万円の賠償を命じました。同判決は,内部通報者を特定しようとする言動に違法性があるとしたほか,通報者を団体及び職場から排除する目的でされた一連の行為,通報者に関する情報の提供を迫る行為等を個別に検討し,民法上の不法行為責任を認めています。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


(4) 本文の作成に当たり,以下の資料を参照しました。
・ 消費者庁編「逐条解説 公益通報者保護法〔第2版〕」商事法務,2023年(指針関係は誌面下部303頁ないし310頁,PDF324頁ないし331頁)
・ 「内部通報・内部告発対応実務マニュアル」民事法研究会,2017年(匿名通報及び社外窓口は誌面下部33頁ないし38頁,PDF47頁ないし52頁,調査及びフィードバックは誌面下部52頁ないし64頁,PDF66頁ないし78頁)
・ 東京弁護士会「LIBRA」2016年11月号(外部窓口弁護士は誌面下部14頁ないし17頁,PDF15頁ないし18頁,証拠収集は誌面下部18頁ないし23頁,PDF19頁ないし24頁)
・ 「弁護士ドットコムタイムズ」Vol.65,2022年12月(内部通報窓口業務委託契約書例は誌面下部34頁ないし37頁,PDF34頁ないし37頁)
・ 「弁護士懲戒事件議決例集第28集」【5】(誌面下部43頁ないし54頁,PDF48頁ないし59頁)
・ BUSINESS LAWYERS「令和7年公益通報者保護法改正の概要と事業活動への影響」
・ BUSINESS LAWYERS「内部通報の調査体制と通報者特定情報の取扱いをQ&Aで解説」