第1 結論
国民年金基金の掛金を支払うことが難しくなっても,加入者の都合だけで任意に脱退して解約返戻金を受け取ることはできない。ただし,加入資格を維持したまま掛金の払込みを停止すること,及び2口目以降を減口することはできる。
これに対し,厚生年金に加入した,職能要件を失った,海外転出等により国内の第1号被保険者でなくなったなど,法令又は基金規約の資格喪失事由が生じた場合は,任意の選択ではなく加入員資格を喪失する。資格喪失までに納付した掛金は原則として返還されず,将来の年金給付に結び付く。
したがって,「支払えない」という相談では,①一時的な資金不足,②恒常的に掛金額を下げたい場合,③法定の資格喪失事由が生じた場合を分けて,払込停止,減口又は資格喪失届のいずれかを選ぶ必要がある。
第2 四つの手続の違い
| 手続 | 加入員資格 | 掛金 | 納付済掛金 | 将来給付 |
|---|---|---|---|---|
| 払込停止 | 維持する | 停止する | 返還されない | 停止期間に応じて減少する |
| 2口目以降の減口 | 維持する | 減額する | 返還されない | 減口後の設計に応じて減少する |
| 資格喪失 | 喪失する | 喪失後は納付しない | 原則として返還されない | 加入期間に応じた将来給付となる |
| 任意脱退 | 制度上できない | ― | 解約返戻金制度はない | ― |
資格喪失後の期間に対応する前納掛金等は返還対象となることがあるが,これは有効な加入期間について解約返戻金を支払う制度とは異なる。
第3 掛金の払込停止
日本弁護士国民年金基金のQ&Aは,経済的な理由などにより掛金を納付できない場合,基金への申出により掛金の払込みを停止できると説明している。
払込停止は加入員資格の喪失ではない。納付を停止した期間について年金額が増えないため,将来受け取る年金は減少する。既に納付した掛金が返還されるわけでもない。
払込停止を選ぶときは,停止の開始月,口座振替の時期,前納の有無,再開手続及び将来年金額への影響を基金に照会する。国民年金基金の掛金は,通常,対象月の2か月後に口座振替されるため,申出をした月と実際に引落しが止まる月が一致するとは限らない。
第4 2口目以降の減口
国民年金基金では,1口目は加入の基礎となるため減口できない。2口目以降は,所定の手続により減口できる。掛金の全額を止める必要がない場合は,まず2口目以降の減口により月額を下げる方法を検討できる。
前納している年度については減口できないことがある。また,減口により将来の年金額も下がる。減口前には,現在の型・口数・掛金月額,減口可能な口数,減口後の年金額及び手続期限を基金の試算で確認するのが安全である。
第5 資格喪失
加入員本人の希望ではなく,国民年金法又は基金規約所定の事由が発生すると,加入員資格を喪失する。主な例は次のとおりである。
- 厚生年金に加入し,国民年金の第2号被保険者となった場合
- 第3号被保険者となった場合
- 弁護士業務等の基金の職能要件を満たさなくなった場合
- 海外転出等により国内の第1号被保険者でなくなった場合
- 国民年金保険料の免除を受けることになった場合(法令・規約上の例外を除く。)
国民年金保険料の免除については,例外がある。日本弁護士国民年金基金のQ&Aは,産前産後期間の免除,令和8年10月1日からの子を養育する第1号被保険者の免除,及び一定の法定免除について,基金の加入員資格を喪失しない場合を示している。これらの免除期間でも基金掛金は自動的に免除されないため,掛金を止めるには別に払込停止を申し出る必要がある。
資格喪失届の提出が遅れても,法定の資格喪失日を届出日まで遅らせることはできない。資格喪失後に別の基金区分へ移る場合や,従前掛金による加入を希望する場合には,3か月以内など別の期限があるため,資格喪失届だけで手続を終えないことが重要である。
第6 任意脱退と解約返戻金
日本弁護士国民年金基金のQ&Aは,加入員資格を喪失しない限り,本人の意思だけで脱退することはできないと説明している。また,国民年金基金連合会のQ&Aは,途中で加入資格を喪失しても,それまでに納めた掛金は原則として返還されず,将来,納付期間に応じた年金として支給されると説明している。
民間保険の解約返戻金のように,納付済掛金を途中で現金化する制度ではない。払込停止又は減口をしても,過去の掛金を取り戻すことはできない。
ただし,資格喪失後の期間に対応する前納掛金など,法的な納付義務がなかった期間に対応する金額は,基金規約に従って返還請求の対象となることがある。返還対象の有無は,資格喪失日,前納期間,実際の引落日及び基金の収納記録で判断する。
第7 判断手順
- 資格喪失事由の有無を確認する。
厚生年金資格取得日,第3号被保険者該当日,退職・登録取消しの日,海外転出日及び国民年金保険料免除の種類を確認する。 - 現在の型・口数・前納を確認する。
加入員証,掛金払込通知,口座履歴及び基金の登録内容をそろえる。 - 一時停止か恒久的な減額かを決める。
一時的な資金不足なら払込停止,継続的に負担を下げるなら2口目以降の減口を中心に比較する。 - 将来給付への影響を試算する。
停止期間又は減口数ごとの年金額を基金に照会し,老齢基礎年金,iDeCo及び他の資産も含めて確認する。 - 申出日と引落月を確認する。
既に金融機関へ送付済みの口座振替が止まらないこともあるため,次回引落しの扱いを明示的に確認する。 - 再開・再加入の条件を記録する。
払込再開の方法,資格喪失後の再加入又は全国国民年金基金への移行,従前掛金の申出期限を記録する。
第8 確認資料と期限
基金へ連絡する前に,加入員番号,基礎年金番号,現在の型・口数,直近の掛金額,口座振替日,前納の有無及び資格関係の変更日を整理する。資格喪失が問題となる場合は,厚生年金資格取得日を示す資料,退職・登録取消しの資料,住民票上の転出日等も確認する。
基金の様式,提出期限及び口座振替スケジュールは変更されることがある。本記事は令和8年9月27日時点の公開資料に基づくため,実際の申出時には日本弁護士国民年金基金の最新のQ&A,規約及び届出様式を確認する必要がある。