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子の引渡しの間接強制と権利濫用―最高裁平成31年決定と令和4年決定の違い(AI作成)

第1 結論

子が引渡しを拒んでいることは,子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制を直ちに妨げる理由にはなりません。
もっとも,直接的な引渡しの実施が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも子が自由意思に基づいて現在の監護者の下にとどまっていると判断された後に,金銭の支払で監護者を心理的に圧迫することは,過酷な執行として権利濫用となることがあります。

最高裁平成31年4月26日決定・平成30年(許)第13号は,先行する引渡執行と人身保護請求の具体的な経過を踏まえて,間接強制の申立てを権利濫用としました。
これに対し,最高裁令和4年11月30日決定・令和3年(許)第17号は,審判確定後約2か月の間に子が2回拒絶したにとどまる事案で,権利濫用とした原決定を破棄しました。

二つの決定は,子の拒絶意思を重視するか否かという抽象的な対立ではありません。
子の拒絶の現れ方,子への影響,先行手続の結果,現在の監護者が引渡しのためにした働き掛けなどを,具体的な時系列に沿って比較した判断です。

第2 子の引渡しを実現する手続

1 子の引渡しを命ずる審判と強制執行

家庭裁判所が子の監護者を定め,現在の監護者に子の引渡しを命じても,審判の確定だけで現実の監護が移るわけではありません。
任意の引渡しが実現しないときは,確定審判等を債務名義として強制執行を申し立てることになります。

強制執行の場面でも,子は単なる物ではありません。
引渡しを命じられた者は,子の年齢,発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ,合理的に必要な行為をして引渡しを実現する義務を負います。

2 間接強制と直接的な引渡しの実施

民事執行法174条1項は,子の引渡しの強制執行について,①執行裁判所が執行官に子の引渡しを実施させる方法と,②同法172条1項の間接強制の方法を定めています。

間接強制は,債務者が一定期間内に引渡しをしないとき,遅延期間に応じた一定額の金銭を債権者に支払うよう命じ,心理的な圧力によって履行を促す方法です。
執行官による引渡しの実施は,間接強制決定の確定後2週間が経過した場合,間接強制をしても監護を解く見込みがない場合,又は子の急迫の危険を防止するため直ちに執行する必要がある場合のいずれかで申し立てることができます。

間接強制と執行官による引渡しの実施は,申立要件,執行の方法及び子への影響が異なります。
一方の手続で生じた事情を他方で援用するときは,いつ,誰が,何を観察し,どの理由で手続が終わったのかを明確にします。

3 人身保護請求とは区別する

人身保護請求は,現在の監護が人身保護法上の拘束に当たり,その拘束が顕著に違法であるかなどを審理する別の手続です。
子の引渡しの審判,強制執行及び人身保護請求では,判断対象と判断時点が同じではありません。

もっとも,先行する人身保護請求で子の判断能力,意思の強固さ,現在の監護者からの影響の有無が具体的に審理された場合,その認定経過は,後の間接強制が過酷な執行となるかを判断する重要な事情になり得ます。

第3 最高裁平成31年4月26日決定

1 事案の経過

最高裁平成31年4月26日決定の事案では,家庭裁判所が母を3人の子の監護者と指定し,父に子らの引渡しを命じる審判が確定しました。
執行官による引渡しの際,二男と長女は母へ引き渡されましたが,当時9歳3か月の長男は明確に拒絶して泣きじゃくり,呼吸困難に陥りそうになりました。執行官は,執行を続けると長男の心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして,長男について執行不能で終了しました。

その後,母は父らを拘束者として人身保護請求をしました。
長男は,当時9歳7か月で,弟妹と離れて暮らすのは嫌であるものの父らの下での生活を続けたいと述べました。裁判所は,長男が十分な判断能力に基づく強固な意思を明確に表示し,その意思は父らの影響によるものではなく自由意思であるとして,人身保護請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は,子が引渡しを拒絶する意思を表明していることは,直ちに間接強制を妨げる理由ではないという一般論を示しました。
しかし,本件では,引渡執行が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも自由意思に基づく強固な拒絶意思が認定されていました。

最高裁は,この経過の下では,子の心身に有害な影響を及ぼさずに引渡しを実現するため父がすべき合理的な行為を具体的に想定することは困難であるとしました。
父に1日1万円の支払を命じて心理的に圧迫することは過酷な執行であり,間接強制の申立ては権利濫用に当たるとして,申立てを却下しました。

3 射程

この決定は,子が拒絶すれば間接強制はできないという一般ルールを定めたものではありません。
直接的な引渡しの実施で身体的不調が現れ,その後の人身保護請求で自由意思に基づく強固な意思が認定されたという,積み重なった事情の下での判断です。

第4 最高裁令和4年11月30日決定

1 事案の経過

最高裁令和4年11月30日決定の事案では,家庭裁判所が母を子らの監護者と指定し,父に引渡しを命じる審判が令和3年3月29日に確定しました。
同年4月5日,二男は母へ引き渡されましたが,長男は約2時間の説得にも応じず,母の下に行くと父に会えなくなると述べ,母を押しのけるなどして拒絶しました。

同年5月30日の弟との面会時にも,長男は母の姿を見て反発し,母に抱かれることを拒み,泣きながら父宅へ帰ることを強く求めました。
母は同年6月9日に間接強制を申し立て,原々審は,父に長男を引き渡すよう命じるとともに,履行しないときは1日2万円を支払うよう命じました。

2 最高裁の判断

原審は,長男が2回にわたり明確に拒絶し,それが真意であるとして,間接強制を過酷な執行と評価し,申立てを権利濫用として却下しました。
最高裁は,原審の判断を破棄し,原々審の間接強制決定を維持しました。

最高裁は,子の拒絶意思は直ちに間接強制を妨げるものではなく,審判の確定から約2か月の間に2回拒絶したにとどまる事実関係の下では,子に有害な影響を及ぼさない引渡方法を具体的に想定できないとはいえないと判断しました。
平成31年決定と異なり,先行する引渡執行が子への重大な悪影響のおそれを理由に不能となった事情や,人身保護請求で自由意思に基づく強固な拒絶意思が認定された事情はありませんでした。

3 宇賀克也裁判官の補足意見

宇賀克也裁判官の補足意見は,父に引渡しへの協力姿勢が見られ,父が長男に拒絶するよう殊更に働き掛けた様子もうかがわれない点に触れています。
その一方で,公的機関による拒絶意思の確認が,権利濫用とされるための法的な条件になるわけではないとも述べています。

補足意見は,間接強制の申立てが権利濫用となるには,債務者が引渡しのためにできる限りの努力をすることが必要であるとし,本件では長男の母に対する強固な忌避感情を取り除く努力が十分であったとまではいえないと指摘しました。
さらに,努力をしても忌避感情を和らげることが期待できないと判断したときは,監護者変更の申立て又は請求異議の訴えを検討し得ると述べています。

第5 二つの決定の違い

平成31年決定では,①執行官による引渡しの実施,②子の泣きじゃくりと呼吸困難に陥りそうな状態,③子の心身への重大な悪影響のおそれを理由とする執行不能,④人身保護請求における自由意思に基づく強固な拒絶意思の認定,という複数の事情が積み重なっていました。
最高裁は,この経過から,監護者が子に有害な影響を与えずに履行するための合理的な行為を具体的に想定できないと判断しました。

令和4年決定では,審判確定後約2か月の間に2回拒絶したという事情が中心でした。
拒絶が真意であることだけで直ちに履行のための合理的な行為を想定できないとはいえず,権利濫用を基礎付ける事情が足りないと判断されました。

したがって,比較の軸は,子が「嫌だ」と言ったかどうかだけではありません。
拒絶の継続期間・一貫性,身体反応,執行官・裁判所等が確認した経過,現在の監護者による説得・環境調整,債権者側の対応,子に有害な影響を与えずに実行できる具体的行為の有無を確認する必要があります。

第6 申立て・抗告で確認する事項

1 拒絶の言葉だけで結論を出さない

子の発言は重要ですが,発言の一部だけを切り取って結論を出すべきではありません。
発言時の年齢,場面,相手,説明内容,面会・引渡しの見通し,父母から受けた影響,発言後の行動及び身体反応を記録します。

2 時系列と働き掛けを具体化する

申立書又は抗告状では,①審判の確定日,②任意の引渡しを求めた日,③各回の説明・説得・面会,④子の言動と身体反応,⑤現在の監護者と債権者がした働き掛け,⑥学校・医療・親族等の客観資料,⑦先行する執行・人身保護・監護者変更等の手続を,日付順に整理します。

「協力した」「拒絶が強い」という評価語だけでは足りません。
誰がどのような言葉で説明し,どのような選択肢を示し,子がどう反応し,その後に何を試みたかを具体化します。

3 手続ごとの判断対象を混同しない

監護者指定・子の引渡しの本案,審判前の保全処分,間接強制,執行官による引渡しの実施,人身保護請求,監護者変更,請求異議の訴えでは,判断対象と利用できる手続が異なります。
先行手続の結論を引用するときは,手続名,裁判年月日,事件番号,主文及び判断された時点を明記します。

令和4年決定は,間接強制の手続では子の意見聴取や家庭裁判所調査官の調査が予定されていないという制度上の制約にも触れています。
子の現在の状況が債務名義成立後に大きく変化したと主張する場合は,間接強制手続だけで全ての実体問題を解決しようとせず,監護者変更や請求異議の訴えを含めて手続を選択します。

第7 関連記事

離婚事件で整理する事項の全体像は,離婚の手続と決めることを参照してください。
家事調停の申立て,進行及び記録の準備は,家事調停に関する記事で説明しています。

第8 出典

最高裁平成31年4月26日第三小法廷決定・平成30年(許)第13号

最高裁令和4年11月30日第三小法廷決定・令和3年(許)第17号

民事執行法

裁判所「子の引渡しの強制執行」