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整形外科の検査が陰性でも傷病を否定できない場合――感度・特異度,検査時期及び撮影条件の証拠評価(AI作成)

第1 結論

整形外科の検査が陰性であっても,それだけで傷病,疼痛又は事故との因果関係を否定できるとは限らない。検査ごとに,検出しやすい病変,検出しにくい病変,適切な実施時期及び技術条件が異なるためである。

反対に,画像又は検査が陽性でも,その所見が事故によって生じ,現在の症状を説明し,後遺障害等級の要件まで満たすとは限らない。法律実務では,①所見の存在,②診断との関係,③事故との因果関係,④症状との整合性,⑤等級又は損害との関係を分けて検討する必要がある。

本記事は診断又は受検を勧めるものではない。追加検査の医学的適応は担当医が判断し,訴訟上の証拠作成だけを目的とする不要な検査は避けるべきである。

第2 陰性結果が意味するもの

1 感度と特異度

感度は,対象となる傷病がある人のうち検査が陽性となる割合であり,特異度は,対象傷病がない人のうち検査が陰性となる割合である。感度が100%でない検査には偽陰性があり,特異度が100%でない検査には偽陽性がある。

したがって,「検査が陰性だった」という事実から直ちに「傷病がない」と結論することはできない。まず,何の傷病を,どの方法・条件・時期で調べた検査なのかを特定する必要がある。

2 事前確率と陰性的中率

同じ陰性結果でも,事故態様,症状,診察所見及び既往歴からみた検査前の疑いの程度によって意味が変わる。骨折を強く疑う所見がある場合と,臨床的に疑いが低い場合とでは,単純X線陰性後に追加画像を検討する必要性は同じではない。

法律文書では,感度・特異度と,ある人の陰性結果から傷病がない確率を同一視しないことが重要である。後者は対象集団の有病割合や症例選択の影響も受ける。

3 「所見なし」と「傷病なし」は異なる

画像診断報告書の「明らかな骨折なし」は,通常,その撮像法と撮像範囲で明らかな骨折を指摘できなかったという意味である。軟部組織損傷,微細骨折,撮像範囲外の病変又は疼痛そのものまで否定する文章ではない。

また,報告書に記載がないことと,元画像に所見が存在しないことも同一ではない。争点となる場合は,報告書だけでなくDICOM画像,撮像シリーズ,撮像条件及び比較画像の有無を確認する。

第3 画像検査が陰性でも追加評価が必要となる例

1 股関節・骨盤

American College of Radiology(ACR)の股関節外傷に関する適切性基準は,外傷後に骨折が疑われるものの単純X線が陰性又は不確定な場合,造影しないMRI又はCTを次の画像検査として「通常適切」としている。これは全例に追加撮影が必要という意味ではなく,臨床的疑いが残る場面を対象とする。

2 手・手関節

ACRの急性手・手関節外傷の基準は,初回単純X線が陰性又は不確定でも,疑いが残る場合には10日~14日後の再撮影,造影しないMRI又は造影しないCTを次の検査として「通常適切」としている。舟状骨骨折等では,初回画像だけを最終結論にしない場面がある。

3 足関節・膝関節

ACRの急性足関節外傷及び急性膝外傷の基準も,疼痛が持続し又は潜在骨折・内部損傷が疑われる場合について,単純X線後のCT又はMRI等を検討する経路を示している。部位,受傷機転,圧痛,荷重可能性及び経過によって選択は異なる。

これらの基準から一般化できるのは,「単純X線陰性」という一語だけでは,検査対象外又は検出限界内の病変まで否定できないという点である。個別症例で追加検査が必要かは診療上の判断である。

第4 神経学的検査が陰性の場合

1 針筋電図

米国神経筋・電気診断医学会(AANEM)の頚部神経根症に関する実務指針は,針筋電図について特異度が高い一方,感度は中等度であると評価している。また,検査する筋の選択を含む検査計画が診断性能に影響する。

このため,適切な分布の異常所見は神経根障害を補強し得るが,正常結果だけで神経根症を一律に除外することはできない。検査時期,対象筋,傍脊柱筋を含むか,末梢神経障害等の鑑別をどう行ったかを原報告で確認する。

2 診察所見

腱反射,知覚,徒手筋力検査,Spurlingテストその他の誘発試験は,それぞれ評価対象と限界が異なる。単一の陰性所見ではなく,症状の分布,複数の診察所見,画像及び電気生理検査の整合性をみる必要がある。

徒手筋力検査及び疼痛誘発試験は被検者の疼痛・努力・理解及び検者の手技の影響を受け得る。他方,そのことから直ちに無価値になるわけでもなく,反復測定の再現性や解剖学的整合性が証拠価値を左右する。

第5 陽性結果にも限界がある

検査が陽性であることは,事故起因性を自動的に証明しない。例えば,無症候者にも椎間板変性,膨隆及び突出等の画像所見がみられ,年齢とともに増加することが系統的レビューで報告されている。

肩腱板断裂についても無症候例が報告されている。画像所見が存在すること,その所見が症状を生じさせていること,事故によって新たに生じ又は増悪したことは別の問いである。

画像の陽性・陰性を結論ラベルとして用いず,所見の部位・左右・形態,急性所見の有無,過去画像,症状分布及び受傷機転を対応させる必要がある。

第6 法律実務で分ける五つの問い

整形外科資料を証拠評価するときは,次の順序で分けると混乱を防ぎやすい。

  1. 所見の存在:検査原資料に何が記録されているか。
  2. 診断との関係:その所見がどの傷病を支持し,何を除外しないか。
  3. 事故との因果関係:急性所見,受傷機転,発症時期及び事故前資料と整合するか。
  4. 症状との関係:部位・左右・神経支配・程度及び経過が一致するか。
  5. 法的評価:治療必要性,症状固定,後遺障害等級及び損害のどの要件を支えるか。

一段階を満たしたことから残りを推定しない。特に,「画像に写ったから事故による」「画像に写らないから症状はない」という二分法は避ける。

第7 診療録・画像・検査報告書の確認事項

  • 検査日,事故からの経過日数及び症状の推移
  • 検査目的,対象部位・左右及び撮像範囲
  • 単純X線,CT,MRI,超音波等の検査方法と条件
  • 報告書の結論だけでなく,所見欄及び比較画像の有無
  • 神経学的検査の対象筋・神経・高位と実施条件
  • 事故前の同一部位の症状,診療録及び画像
  • 陽性・陰性所見と症状部位・左右・機能障害との対応

元資料が取得できない場合は,「確認できない」と記録し,報告書の記載だけで元画像不存在まで断定しない。

第8 主張立証上の書き方

被害者側は,「陰性だから傷病なし」という相手方の主張に対し,検査の対象,感度,時期・条件及び他の臨床所見を具体化する。追加検査の必要性を主張する場合も,医学的適応と訴訟上の有用性を分ける。

加害者側又は保険者側は,「画像異常なし」とだけ書くのではなく,どの傷病・症状・期間との関係を争うのかを特定する。陽性所見を争う場合も,変性,事故前存在,症状との不整合又は撮像時期等の理由を示す。

裁判例を引用する場合は,当事者の主張と裁判所の認定を区別し,検査の種類,時期及び症例背景が対象事件と比較可能かを確認する。本記事の作成に当たり判例秘書の網羅検索は行っていないため,特定判決の不存在又は裁判例の傾向を示すものではない。

第9 出典・参考資料

①American College of Radiology, ACR Appropriateness Criteria: Acute Hip Pain
②American College of Radiology, ACR Appropriateness Criteria: Acute Hand and Wrist Trauma
③American College of Radiology, ACR Appropriateness Criteria: Acute Trauma to the Ankle
④American College of Radiology, ACR Appropriateness Criteria: Acute Trauma to the Knee
⑤American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine, Practice Parameter for Needle Electromyographic Evaluation of Patients With Suspected Cervical Radiculopathy
⑥Brinjikji W et al., Systematic Literature Review of Imaging Features of Spinal Degeneration in Asymptomatic Populations, AJNR 2015
⑦Yamaguchi K et al., The demographic and morphological features of rotator cuff disease, J Bone Joint Surg Am 1999
⑧『標準整形外科学 第13版』(医学書院,2017年)及び同別冊付録(医学的概念の確認に使用。現行行政基準又は個別事件の結論を示す一次資料ではない。)