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人身傷害・搭乗者傷害保険の「自動車の運行に起因する事故」―降車後・車外事故と最高裁平成19年5月29日判決(AI作成)

第1 問題の所在

交通事故の直後に運転者又は同乗者が自動車から降り,後続車にはねられたり,避難中に転倒したりした場合,人身傷害保険又は搭乗者傷害保険の対象となるかが問題になることがある。

この問題は,単に「事故時に車内にいたか」だけで決まるものではない。少なくとも,①事故当時の約款上の被保険者に当たるか,②その約款が定める保険事故に当たるか,③先行する自動車事故と後の負傷との間にどの程度の時間的・場所的・因果的なつながりがあるかを分けて検討する必要がある。

最高裁判所第三小法廷平成19年5月29日判決(平成18年(受)第2053号)は,高速道路上で自損事故を起こした運転者が車外へ避難し,後続車との衝突・れき過によって死亡した事案を扱った。
最高裁は,自損事故と死亡との相当因果関係を認め,当時の搭乗者傷害条項に基づく死亡保険金の支払義務を肯定した。

第2 最高裁平成19年5月29日判決の事案

最高裁判決が前提とした事実関係の概要は,次のとおりである。

  1. 被保険者Aは,夜間,高速道路上で普通乗用自動車を運転中,運転操作を誤り,中央分離帯のガードレールに衝突させるなどした。
  2. 車両は破損して走行不能となり,走行車線と追越車線にまたがって停止した。
    付近には街路灯等がなく,暗かった。
  3. Aはすぐに車を降り,小走りで走行車線を横切って,道路左側の路肩付近へ避難した。
  4. その直後,車両と道路左側の路肩との間を通過した後続の大型貨物自動車に接触・衝突されて転倒し,さらに別の大型貨物自動車にれき過されて死亡した。

当時の搭乗者傷害条項は,被保険自動車の正規の乗車装置等に搭乗中の者を被保険者とし,運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故による傷害を保険金支払の対象としていた。
問題は,自損事故後に車外で生じた死亡について,この条項による保険金を請求できるかであった。

第3 最高裁が「運行に起因する事故」と判断した理由

最高裁は,まず,運転中のAが被保険者に,自損事故が運行起因事故に該当することを確認した。
その上で,自損事故と後続車のれき過による死亡との相当因果関係を検討した。

車両は夜間の高速道路上で走行不能となり,二つの車線にまたがって停止していた。
Aは車内にとどまっても後続車の衝突等による負傷の切迫した危険にさらされ,車外に避難せざるを得ない状況にあった。

また,Aの避難行動は,経路を含めて極めて自然なものであり,死亡事故も自損事故と時間的・場所的に近接していた。
最高裁は,別の行動を採ることを期待できなかったとし,自損事故と死亡との相当因果関係を認めた。

その結果,運行起因事故による傷害は,相当因果関係がある限り,車両に搭乗中に被った傷害に限定されないと判断した。
「後続事故をすべて独立の運行起因事故とする」という説明ではなく,運行起因事故である自損事故と,車外での負傷・死亡との関係を判断した点に注意が必要である。

第4 判決の射程と実務上の注意点

本判決から,次のような一般論を読み取ることはできない。

  • 事故後に車外へ出た者は常に補償される。
  • 先行事故から相当時間が経過しても,その後の負傷はすべて先行事故に起因する。
  • 現在のすべての人身傷害保険又は搭乗者傷害保険が同じ文言・範囲で補償する。

実務では,降車の目的が避難,救護,警察への連絡,車両確認,私的用事のいずれであったか,どの方向へどの程度移動したか,どれだけ時間が経過したか,別の危険が介在したかを具体的に検討する必要がある。

また,本判決は当時の搭乗者傷害条項を前提とする。現在の人身傷害保険については,商品及び特約により,被保険者の範囲,契約車両外の事故,歩行中又は自転車搭乗中の事故の取扱いが異なるため,本判決の結論だけで現在の保険金支払の可否を決めることはできない。

最高裁第二小法廷平成28年3月4日判決(平成27年(受)第1384号)は,デイサービスの送迎車から降りた際の骨折について,当時の搭乗者傷害特約にいう運行起因性を否定した。

被害者は83歳で,骨粗しょう症があり,通常は職員の介助に加えて踏み台を使っていた。
当日は踏み台を使わず,職員が手を引いて車両の床ステップから地面へ降ろしたところ,着地の際に右大腿骨頚部を骨折した。
判決の認定では,危険な場所への停車はなく,着地時の転倒,足をくじくこと,想定外の強い衝撃などもなかった。

最高裁は,これらの事情の下では車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したとはいえないとした。
他方,踏み台が安全な着地のために必要で,職員に予見すべき状況があった場合のセンターの安全配慮義務違反については,運行起因性とは別に検討されると明示した。

したがって,「職員の介助に問題があれば自動車保険は必ず対象外」とも,「降車時のけがなら必ず対象」ともいえない。
平成19年判決の切迫した危険からの避難と,平成28年判決の介助下での着地とを,事故態様や当時の約款に即して区別する必要がある。

最高裁平成28年3月4日判決全文

第5 事故当時の約款を確認する必要性

保険金請求では,必ず事故日の契約内容を確認する必要がある。後に改定された最新約款を見ても,事故当時の契約内容を直接証明することにはならない。

確認すべき資料は,保険証券又は契約内容確認書,事故日に適用される普通保険約款・特約,更新前後の契約資料,商品パンフレット及び保険会社の支払理由書等である。

2026年に公開されている自動車保険約款にも,人身傷害保険の被保険者及び補償対象事故を定める条項があるが,補償構造は商品・特約により異なる。東京海上日動「トータルアシスト自動車保険」及び損保ジャパン「THE クルマの保険」は現行商品の確認例にすぎず,過去の事故又は他社商品への適用を意味しない。

第6 主張立証で確認すべき事項

降車後又は車外での事故については,次の順に整理すると検討しやすい。

  1. 被保険者該当性
    記名被保険者,家族,契約車両の搭乗者等のどの類型に当たるか。
  2. 対象となる自動車
    契約車両,他車運転中の車両,代車,二輪車等のいずれか。
  3. 約款文言
    「搭乗中」,「運行に起因する事故」,「自動車事故」等の要件がどう定められているか。
  4. 先行事故
    衝突,故障,停止位置,車両の走行可能性及び現場の危険性。
  5. 降車後の行動
    降車の目的,移動経路,滞在場所及び行動の必要性・自然さ。
  6. 時間・場所
    先行事故から後続事故までの時間,距離及び道路状況。
  7. 介在事情
    第三者の行為,新たな目的行動,長時間の中断等があるか。
  8. 損害と他制度
    自賠責保険,対人賠償責任保険,労災保険その他の給付との関係。

第7 証拠の集め方

運行起因性の判断では,事故の連続性を具体的に再現できる証拠が重要である。

  • 交通事故証明書,実況見分調書,供述調書及び捜査報告書
  • ドライブレコーダー映像,防犯カメラ映像及び道路管理者の映像
  • 110番通報・119番通報の時刻,救急活動記録及び診療録
  • 車両の停止位置,損傷状況,走行可能性を示す写真・修理資料
  • 被保険者の移動経路,事故間の距離及び時間を示す現場図・地図
  • 保険証券,事故日適用約款,特約一覧及び保険会社の支払理由書

ドライブレコーダー映像については,上書き前に原本媒体又は原データを保全し,時刻ずれ,ファイル構造,再生環境及び他の客観証拠との整合を確認する必要がある。詳しくは,交通事故のドライブレコーダー映像を民事訴訟で使う方法―原本保全・再生環境・コマ送り・速度推定(AI作成)を参照されたい。

第8 判例・資料の確認範囲

本記事は,最高裁判所ウェブサイト掲載の最高裁平成19年5月29日判決全文を確認した上で作成した。また,判例秘書について,2026年9月27日に事件番号「平成18年(受)第2053号」で検索し,1件(判例番号L06210043)を確認した。

他方,判例秘書で「運行起因事故」及び「車外」を含む広い検索をしたところ842件が表示されたが,その全件を精査したものではない。したがって,その検索結果を根拠に「同種裁判例がほかに存在しない」と述べることはできない。

赤い本講演録2008年版157頁~182頁は,本判決を含む当時の搭乗者傷害条項の論点を整理した講演録であり,現在の個別契約の約款内容を直接示す一次資料ではない。本記事では論点の発見・整理に用い,判決内容は裁判所公表判決及び判例秘書収録全文で確認した。

平成28年3月4日判決については,裁判所ウェブサイトの公表判決全文を参照している。
同判決が扱う搭乗者傷害特約と,個別の事故に適用される現在の保険契約とは区別する必要がある。

第9 参考資料及び関連記事