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黄金株(拒否権付種類株式)の仕組みと実例―会社法108条1項8号・323条,INPEXの甲種類株式,USスチールの黄金株及び外為法の投資審査(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

いわゆる黄金株は,株式を1株しか持たない者が,会社の重要な決定を止めることができるように設計された株式である。
日本の会社法には「黄金株」という用語はなく,会社法108条1項8号の拒否権付種類株式がこれに当たるものとして説明されることが多い。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,e-Gov法令検索で確認した会社法及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の条文,株式会社INPEXの有価証券報告書(令和7年12月期,令和8年3月26日提出),東京証券取引所の上場制度に関する公表資料,米国の大統領令・連邦官報・米国証券取引委員会(SEC)への提出書類並びに裁判所ウェブサイトの裁判例検索を基に,黄金株の仕組みと国内外の実例を整理する。
米国の国家安全保障協定は全文が公表されていないため,その内容のうち報道に基づく部分は,その旨を明記する。

2 結論

拒否権付種類株式は,株主総会又は取締役会で決議すべき事項のうち定款で定めた事項について,その種類の株主による種類株主総会の決議を別に必要とするものであり,その決議がなければ,株主総会や取締役会の決議があっても効力を生じない(会社法108条1項8号,323条)。
役員選任権付種類株式と異なり,公開会社も発行することができる(会社法108条1項ただし書)。

黄金株の効き目は,持株比率ではなく,定款に書かれた拒否の対象と条件で決まる。
INPEXの甲種類株式は,経済産業大臣が1株を保有し,取締役の選解任,重要な資産の処分,目的の変更等の定款変更,合併等,資本金の額の減少及び解散について拒否権を持つが,取締役の選解任や合併では,公的主体以外の単一の株主が議決権の100分の20以上を持つ場合に限るなど,条件付きで設計されている。
米国では,日本製鉄によるUSスチールの買収が,国家安全保障協定の締結と米国政府への黄金株(Class G優先株式)1株の発行を条件として認められた。

一方,上場会社が拒否権付種類株式を発行することは,東京証券取引所の上場廃止基準との関係で原則として認められていない。
中小企業の事業承継で黄金株を使う場合は,拒否の対象・条件,相続や譲渡で黄金株が想定外の者に移ることへの手当て,登記及び相続税評価を設計の段階で確認する必要がある。

第2 会社法上の黄金株

1 拒否権付種類株式の定め

会社法108条1項は,「株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と定め,その8号に「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」を掲げている。
これが拒否権付種類株式であり,一般に黄金株と呼ばれるものである。

拒否権付種類株式を発行するには,「当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項」と,「当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件」を,発行可能種類株式総数とともに定款で定めなければならない(会社法108条2項8号イ・ロ)。
つまり,拒否の対象は事項ごとに定款で特定し,必要があれば,一定の場合に限って拒否できるという条件を付けることができる。

2 種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと

会社法323条本文は,拒否権付種類株式の定めがあるときは,その事項は,「その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。」と定めている。
したがって,黄金株の株主は,株主総会で多数の議決権を持っていなくても,種類株主総会で反対することにより,定款で定めた事項の決定の効力を生じさせないことができる。
ただし,種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は,この限りでない(同条ただし書)。

黄金株の株主に,議決権のある普通株式と同様に議案を可決させる力はない。
黄金株が与えるのは,あくまで定款で定めた事項についての止める力であり,会社の経営を積極的に決める力ではない。

3 公開会社も発行できること

会社法108条1項ただし書は,「指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。」と定めている。
同項9号は,種類株主総会で取締役又は監査役を選任する役員選任権付種類株式である。
制限されているのは9号だけであるから,8号の拒否権付種類株式は,公開会社(会社法2条5号)も発行することができる。
もっとも,上場会社については,後記第4のとおり,証券取引所の規則による制約がある。

4 「黄金株」という言葉の使われ方

「黄金株」という言葉は,実務上,拒否権付種類株式以外の仕組みを指して使われることもある。

大阪地裁令和2年6月25日判決(平成30年(行ウ)第80号,源泉徴収に係る所得税の納税告知処分取消等請求事件)は,会社の取締役副社長が会社の資金で購入した服飾品等が副社長への給与等に当たるかが争われた事件で,会社の請求を棄却した。
判決の認定によれば,会社の発行済株式の62.3%を保有する株式会社Fの発行済株式200株のうち,副社長が普通株式1株を,会長と長男が「株主総会の全ての事項について議決権のないA種議決権制限株式」199株を保有していた。
会社側は,会長が副社長に株式会社Fの「黄金株」を与えたのは妻への配慮からであり,副社長が経営に口出しすることはなかったと主張した。
これに対し,判決は,副社長が会長の妻であり,取締役であったこと,「株式会社Fを通じて原告の支配的株主であったこと」から,会長は副社長が会社の経費を自由に使用することを容認していたと判断した。

この事件の「黄金株」は,拒否権付種類株式ではなく,議決権制限株式(会社法108条1項3号)を組み合わせた結果,議決権のある株式が1株だけになったものである。
このような構造では,1株の保有者が株主総会の全ての決議を決めることができるから,拒否権付種類株式よりもはるかに強い支配権を持つ。
依頼者が「黄金株」と言うときは,拒否権付種類株式なのか,唯一の議決権株式なのかを,定款と株主名簿で確かめる必要がある。

第3 INPEXの甲種類株式

1 導入の経緯と目的

INPEXの有価証券報告書によれば,同社は,国際石油開発と帝国石油の株式移転による経営統合により平成18年4月3日に持株会社として設立され,国際石油開発が発行して経済産業大臣が保有していた種類株式と同等の内容の甲種類株式を,経済産業大臣に交付した。
同報告書は,甲種類株式の目的を,投機的な買収や外資による経営支配等により,中核的企業として我が国向けエネルギーの安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に背反する形での経営が行われること又は否定的な影響が及ぶことがないようにすることと説明している。
同時に,経営の効率性・柔軟性を不当に阻害しないよう透明性を高くし,影響が必要最小限にとどまるよう設計されたとしている。

甲種類株式は1株で,非上場である。
株主総会での議決権はなく(法令に別段の定めがある場合を除く。),剰余金の配当と残余財産の分配は,普通株式の額に400を乗じた額とされている。
これは,平成25年10月1日に普通株式1株を400株に分割した際,甲種類株式を分割しなかったためである。

2 拒否の対象と条件

INPEXの定款は,次の場合に甲種類株主総会の決議を要すると定めている(有価証券報告書の発行済株式の注記2の4)。

① 取締役の選任又は解任(ただし,その株主総会の決議の時点で,公的主体以外の単一の株主又は単一の株主とその共同保有者が普通株式に係る総株主の議決権の100分の20以上を保有していた場合に限る。)
② 重要な資産の処分等
③ 子会社が重要な資産の処分等を行う場合に,子会社の株主総会で議決権を行使しようとするとき
④ 会社の目的,及び普通株式以外の株式への議決権の付与に関する定款変更
⑤ 合併,株式交換,株式移転(ただし,INPEXが存続会社・完全親会社となる場合は,100分の20要件を満たすときに限る。)
⑥ 株主への金銭の払戻しを伴う資本金の額の減少
⑦ 株主総会決議による解散

取締役の選解任や合併等で100分の20要件を付けているのは,会社法108条2項8号ロの「条件」を用いて,平時の役員人事や会社が主導する統合には拒否権が及ばず,特定の株主による支配が問題になる場面でだけ拒否できるようにしたものと読める。
定款は,INPEXが甲種類株主総会を開催しない旨を通知した場合でも,甲種類株主が株主総会決議後2週間以内に異議を申し立てることができる仕組みも設けている。

3 拒否権の行使の基準

有価証券報告書によれば,経済産業大臣による拒否権の行使については,令和4年経済産業省告示第54号で基準が設けられている。
例えば,重要な資産の処分等については,対象が石油及び可燃性天然ガスの探鉱・採取の権利その他これに類する権利又はこれを主たる資産とする子会社の株式・持分の処分等であって,否決されなければ,中核的企業としての役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いと判断される場合に限って拒否権を行使するとされている。
取締役の選解任と統合については,否決されなければ役割に背反する形での経営が行われる蓋然性が高いと判断される場合に限るとされている。

政府が黄金株を持つ場合,拒否権を行使する基準を告示等で公表しておくことは,他の株主と市場にとっての予測可能性を確保する意味を持つ。
もっとも,同報告書は,エネルギー政策の観点から告示を変更する場合はこの限りではないとされていることも記載している。

4 取得請求権と取得条項による流出防止

INPEXの定款では,甲種類株主はいつでも金銭と引換えに甲種類株式の取得を会社に請求でき,また,甲種類株式が公的主体以外の者に譲渡された場合には,会社は取締役会の決議により,譲受人の意思にかかわらず金銭と引換えに甲種類株式を取得できる。
甲種類株主は,譲渡する場合には,その旨と相手先の名称を事前に会社に通知しなければならない。

拒否権付種類株式(会社法108条1項8号)に,取得請求権(同項5号)と取得条項(同項6号)を組み合わせて,黄金株が想定外の者の手に渡った場合には会社が取り上げることができるようにした設計である。
この発想は,中小企業で黄金株を使う場合にも参考になる(後記第7)。

5 有価証券報告書が挙げるリスク

INPEXは,甲種類株式に関連するリスクとして,①国策上の観点と会社及び一般株主の利益が相反する可能性,②拒否権が発動された場合に普通株式の市場価格に影響を与える可能性,③経営の自由度が制約され,甲種類株主総会の招集等の手続に一定期間を要することを挙げている。
黄金株が会社の外にいる者の利益(INPEXでは我が国向けエネルギーの安定供給)を守るための仕組みである以上,他の株主の利益と衝突する可能性は避けられず,発行会社はこれを投資者に開示している。

第4 上場会社と東京証券取引所の規則

JPX金融商品取引法研究会の報告資料(白井正和「有価証券上場規程の具体的検討(7)──議決権種類株式の上場」,令和元年12月27日)は,平成18年の規則改正により,上場会社が拒否権付種類株式(会社法108条1項8号)を発行することは,買収防衛策に関する上場制度整備の一環として,一定の条件を満たす場合には上場廃止事由に該当することになったと説明している。
同資料は,根拠規定を有価証券上場規程601条1項17号,有価証券上場規程施行規則601条14項3号としている(同資料の時点の条番号である。)。

同資料が参考資料として収録する東京証券取引所の実務者懇談会の報告書は,株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないと取引所が認める場合は上場廃止としない例外があり,国際石油開発帝石ホールディングス(現在のINPEX)はこの例外規定により上場廃止基準に抵触しないと説明している。
上場会社が新たに黄金株を発行するには,この例外に当たると取引所に認められる必要があるから,上場会社が買収防衛の目的で友好的な株主に黄金株を割り当てることは,現実的な選択肢ではない。
上場会社の買収防衛策としての新株予約権無償割当てについては,買収防衛策としての新株予約権無償割当てを差し止められるか―会社法109条・247条と株主総会判断で扱っている。

第5 USスチールの黄金株

1 対米外国投資委員会の審査と大統領令

2025年6月13日の大統領令(Regarding the Proposed Acquisition of United States Steel Corporation by Nippon Steel Corporation)によれば,対米外国投資委員会(CFIUS)は,2024年3月14日に日本製鉄等による買収の任意届出を受理し,審査・調査の後,同年12月23日に大統領へ判断を付託した。
2025年1月3日,当時のバイデン大統領は,1950年国防生産法721条に基づき,この買収を禁止する命令を出した。
トランプ大統領は,同年4月7日の覚書でCFIUSに改めて審査を命じ,同年6月13日の大統領令で,1月3日の命令を改め,買収当事者とUSスチールが,取引の実行日までに財務省その他のCFIUS構成機関との間で,同日に米国政府から交付された案と実質的に一致する国家安全保障協定を締結し,その後もこれを遵守しない限り,買収を禁止することとした。
つまり,国家安全保障協定の締結と遵守を条件として,買収を認めたものである。
同大統領令は,買収が国の安全を損なうおそれは,その条件が満たされれば十分に緩和できると認定している。

2 国家安全保障協定とClass G優先株式

USスチールがSECに提出した2025年6月18日付けの臨時報告書(Form 8-K)によれば,同社は同月13日,日本製鉄等及び米国政府(財務省及び商務省が代表)との間で国家安全保障協定を締結した。
同協定は,必要な規制上の承認を得ることを条件に,USスチールがClass G優先株式1株(「黄金株」)を米国政府に発行すること,米国政府は同協定と黄金株を通じて,ガバナンス,国内生産及び通商に関する通常業務以外の事項について一定の権利を持つことを定めている。
同月13日付けの両社の発表は,同協定が2028年までに約110億ドルの新規投資を行うことを定めているとしている。

連邦官報に掲載された2025年11月20日付けの大統領の書簡(90 Fed. Reg. 54223)によれば,大統領は黄金株の保有者として,USスチールの定款(第6次修正・再表示基本定款)第4条(B)第7節に列挙された権限を行使する指名者として商務次官(国際貿易担当)を指名し,同条(B)第4節に基づく取締役1名(Class G取締役)の選任権を行使して,商務省の職員をClass G取締役に選任した。
同書簡は,黄金株が大統領に,USスチールの活動を監督し,米国内の生産施設の操業継続を確保する能力を与えるものであるとしている。

3 同意を要する事項と期間(報道による部分)

国家安全保障協定の全文は公表されていない。
報道によれば,黄金株の保有者の同意なしにできない事項には,投資の約束の削減,社名及び本社の変更,工場の閉鎖又は休止,生産又は雇用の米国外への移転,米国内の競合事業の買収などが含まれる。
また,イリノイ州のグラニットシティ製鉄所は2027年6月18日より前に,その他の拠点は2035年6月18日より前に,閉鎖・休止・売却をすることができないと報じられている(一時的な休止や不可抗力の例外がある。)。

2025年9月には,USスチールがグラニットシティ製鉄所での製鋼を止める計画を示したのに対し,ホワイトハウスが黄金株の権限を背景にこれを阻止したと報じられた。

4 所有と決定の分離

USスチールの事例では,日本製鉄が株式の全部を取得して所有者になった一方で,工場の閉鎖や生産の海外移転を決めるには,1株しか持たない米国政府の同意が要る。
買収者は,買収価格を払っても,取得後に事業を再編する裁量の一部を持たないことになる。
国家安全保障を理由とする投資審査の結果として,買収そのものを禁止するのではなく,黄金株と協定による継続的な監督を条件に認めるという解決が選ばれたものである。

会社法上の拒否権付種類株式も,米国の黄金株も,拒否の対象が株式の内容として定款に書かれ,その保有者が会社の外の利益(エネルギーの安定供給,国内の雇用と鉄鋼の生産能力)を守る点で共通する。
このため,黄金株を受け入れる側から見ると,対象事項と期間の範囲が,取得後の事業計画をどこまで縛るかを決める最重要の交渉事項になる。

第6 外為法による投資審査との関係

日本では,外国投資家による一定の対内直接投資等について,事前の届出と審査の仕組みが外為法27条に置かれている。
外国投資家は,審査が必要となるおそれがあるものとして政令で定める対内直接投資等を行おうとするときは,あらかじめ財務大臣及び事業所管大臣に届け出なければならず(同条1項),届出の受理から30日を経過する日までは,その投資を行ってはならない(同条2項)。
財務大臣及び事業所管大臣は,国の安全を損ない,公の秩序の維持を妨げ,又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれがある投資等に当たらないかを審査する必要があると認めるときは,この期間を4月まで延長でき(同条3項),該当すると認めるときは,関税・外国為替等審議会の意見を聴いて,投資の内容の変更又は中止を勧告でき(同条5項),勧告に応じないときは,変更又は中止を命ずることができる(同条10項)。

このように,日本で外国からの投資による安全保障上の懸念に対応する一般的な仕組みは,個々の会社の定款に黄金株を置く方法ではなく,法律に基づく届出・審査・勧告・命令である。
INPEXの甲種類株式は,この一般的な仕組みとは別に,特定の会社について政府が株主として拒否権を持つ例外的な方法と位置付けられる。
一方,米国では,CFIUSの審査を経て締結される国家安全保障協定の中で,黄金株という会社法上の手段が使われた。

第7 中小企業・事業承継で黄金株を使うときの確認事項

1 設計の段階で確認すること

非上場の中小企業では,事業承継の際に,後継者に普通株式を移しつつ,先代経営者が黄金株を持ち続けて重要事項に拒否権を残す方法が紹介されることがある。
会社法の条文とINPEXの定款の設計から導かれる確認事項は,次のとおりである。

① 拒否の対象:定款に列挙する事項(会社法108条2項8号イ)を,先代が本当に止めたい事項(取締役の選解任,重要な資産の処分,組織再編,定款変更等)に絞る。対象を広げすぎると,後継者が日常の経営判断まで先代の同意を得なければならなくなる。
② 条件:一定の場合に限って拒否できるようにする条件(同号ロ)を使えるかを検討する。
③ 相続・譲渡への手当て:黄金株も株式であるから,先代が死亡すれば相続の対象となり,遺言や遺産分割の内容によっては,後継者以外の相続人が拒否権を持つことになる。INPEXのように取得条項(会社法108条1項6号)を組み合わせ,先代の死亡や第三者への移転を取得事由として会社が取得できるようにしておくことや,譲渡制限(同項4号)を付けておくことを検討する。
④ 登記:種類株式の内容は登記事項であるから(会社法911条3項7号),定款変更とあわせて登記を行う。
⑤ 相続税評価:国税庁の文書回答(平成19年2月26日)は,拒否権付株式(会社法108条1項8号に掲げる株式)について,「拒否権を考慮せずに評価する。」としている。詳しくは,種類株式の相続税評価――配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式と国税庁の取扱いで扱っている。

2 紛争になりやすい場面

黄金株の株主と普通株式の株主が対立すると,拒否の対象となる事項は何も決められなくなる。
取締役の選解任を拒否の対象にしていれば,任期満了後の取締役を選任できない事態も生じ得る。
黄金株を置くときは,拒否権が行使された場合の行き詰まりをどう解消するか(取得請求権・取得条項の行使,株主間契約での協議手続等)まで,あらかじめ決めておくことが望ましい。

また,前記第2の4の大阪地裁判決のように,議決権のある株式が1株だけの構造は,税務上も,その保有者が会社の支配的株主であると判断される方向に働き得る。
親族への配慮として名目的に株式を与えたつもりでも,会社法上・税務上は支配権の所在として扱われることを,事前に説明しておく必要がある。

第8 関連記事と今後の検討

1 関連記事

黄金株と同じく,所有せずに決定権を持つ仕組みが国家間の協定で使われた例として,米国・デンマーク・グリーンランド防衛協定(2026年9月22日署名)の内容を扱っている。
上場会社の株主の議決権と実質株主の把握については,実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案で扱っている。

2 別の機会に掘り下げる点

① USスチールの国家安全保障協定の本文と,第6次修正・再表示基本定款第4条(B)のClass G優先株式の条項(いずれも基準日の時点で公開資料を確認できていない。)
② 東京証券取引所の有価証券上場規程・同施行規則の現行の条番号と,拒否権付種類株式の例外の運用(本記事は令和元年12月の研究会資料の記載によっている。)
③ 令和4年経済産業省告示第54号の本文(本記事は有価証券報告書の要約によっている。)
④ 大阪地裁令和2年6月25日判決の控訴審の有無と結論
⑤ 中小企業の拒否権付種類株式について,拒否権の行使が権利の濫用となる場面を扱った裁判例(裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「拒否権付種類株式」「拒否権付株式」を検索した範囲では掲載がなかった。)

第9 出典

1 法令

①会社法2条5号,108条1項・2項,323条,911条3項7号(e-Gov法令検索,令和8年10月4日時点で施行中のもの)
②外国為替及び外国貿易法27条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①大阪地裁令和2年6月25日判決(平成30年(行ウ)第80号,裁判所ウェブサイト)

3 国税庁・INPEX・東京証券取引所の資料

①国税庁「相続等により取得した種類株式の評価について(照会)」(文書回答事例,平成19年2月26日)

①株式会社INPEX「有価証券報告書(令和7年12月期)」(令和8年3月26日提出)44頁~47頁,61頁~65頁(EDINETのPDFの通し頁)
③白井正和「有価証券上場規程の具体的検討(7)──議決権種類株式の上場」(JPX金融商品取引法研究会報告資料,令和元年12月27日)2頁及び参考資料1

4 米国の資料

①大統領令「Regarding the Proposed Acquisition of United States Steel Corporation by Nippon Steel Corporation」(2025年6月13日)
②大統領書簡「Letter From the President to United States Steel Corporation Senior Vice President, General Counsel and Secretary Scot Duncan」(2025年11月20日,90 Fed. Reg. 54223)
③United States Steel Corporation「Form 8-K」(2025年6月18日提出)Item 1.01
④United States Steel Corporation・Nippon Steel Corporation「President Trump Approves Historic Partnership between U. S. Steel and Nippon Steel」(2025年6月13日)

5 報道

①S&P Global「In rare deal for US, government owns a piece of US Steel」(2025年6月26日)
②AP通信「The White House says it blocked US Steel’s decision to stop processing steel at Granite City plant」(2025年9月22日)