第1 給付制限の仕組み
1 条文の定め
雇用保険法33条1項本文は,被保険者が「自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」には,待期期間(同法21条の7日間)の満了後「一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」は,基本手当を支給しないと定めている。
これが,いわゆる給付制限である。
条文が定めているのは1か月以上3か月以内という幅だけである。
給付制限に当たるかどうかの認定は,公共職業安定所長が厚生労働大臣の定める基準に従って行う(同条2項)。
具体的に何か月とするかは,厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」(以下「要領」という。)の運用で決まる。
本記事は,令和8年10月4日に公表されていた要領(令和8年8月1日以降版。給付制限の部分の改訂表示は令和8年4月)を確認して整理する。
2 給付制限は給付日数を減らさない
要領52205-1イは,給付制限は所定給付日数の短縮ではないとしている。
給付制限の期間中は基本手当が支給されず,失業の認定も行われないが,その分の日数が失われるわけではない。
ただし,基本手当を受けられる期間(受給期間)は原則として離職日の翌日から1年であるため,給付制限が長いと期間内に受け切れないことがある。
雇用保険法33条3項は,給付制限の期間等を加えると1年を超える場合に,その超える期間だけ受給期間を延ばすと定めている。
第2 給付制限の期間の区別
1 退職日と回数による区別
要領52205-1ロ・ハによれば,給付制限の期間は次のとおりである。
| 離職の理由 | 給付制限の期間 |
|---|---|
| 正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年4月1日以降 | 原則1か月 |
| 正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年3月31日以前 | 原則2か月 |
| 退職日から遡って5年間に2回以上,正当な理由なく自己都合で退職して求職申込みをしていた場合(令和2年10月1日以降の退職に限って数える。) | 3か月 |
| 自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇) | 3か月 |
要領の「当該退職した日から遡って5年間のうちに2回以上」は,今回の退職を数えずに過去の自己都合退職を数える趣旨である。
令和2年10月に給付制限を3か月から2か月へ短縮したときの厚生労働省のリーフレットは,5年間のうち2回までは短縮後の期間とし,3回目の離職以降は,その離職から遡って5年間に2回以上の自己都合による離職があるかを確認すると説明していた。
したがって,5年以内に3回目となる自己都合退職から3か月になる。
2 期間を決めるのは退職日
給付制限が1か月か2か月かは,求職申込みの日ではなく退職日で決まる。
令和7年3月31日に退職して4月に求職申込みをした者は,原則2か月である。
相談を受けた時点で過去の退職歴を聴き取らないと,3か月になるかどうかを見誤る。
第3 「正当な理由」があれば給付制限はかからない
1 判断の基準
要領52203は,「正当な理由」とは,被保険者の状況(健康状態,家庭の事情等)や事業所の状況(労働条件,雇用管理の状況,経営状況等)からみて,その退職が真にやむを得ないことが客観的に認められる場合をいい,被保険者の主観的判断は考慮されないとしている。
同要領が正当な理由があるとする場合には,例えば次のものがある。
①倒産手続の申立てや不渡り等により事業所の倒産がほぼ確実となった場合,大量の人員整理が行われた場合,事業所が廃止された場合
②採用条件と実際の労働条件が著しく違った場合
③賃金の3分の2未満しか支払われなかった月があった場合や,賃金が遅配された場合
④賃金が,それまでの100分の85未満に下がった(又は下がることになった)場合(予見困難なものに限る。)
⑤離職前6か月間のいずれか連続3か月以上の期間で36協定の限度時間に相当する時間を超える時間外・休日労働があった場合,1か月100時間以上又は2か月以上の平均で月80時間を超える時間外・休日労働があった場合
⑥上司・同僚等から故意の排斥,著しい冷遇又は嫌がらせを受けた場合
⑦直接又は間接に退職を勧奨された場合,希望退職者の募集に応じた場合
⑧体力の不足,心身の障害,疾病,負傷等により従来の業務を続けることが不可能又は困難となった場合
⑨父母の死亡・疾病等や常時看護を要する親族の疾病等により,家庭の事情が急変した場合
⑩結婚に伴う転居,育児のための保育所の利用,事業所の移転,配偶者の転勤等により通勤が不可能又は困難となった場合
2 事実の細部で結論が変わる例
⑧は,事業主から新たに命じられた業務であれば遂行できる場合には当たらない。
⑨の常時看護を要する親族の場合は,事業主に退職を申し出た段階で,看護を要する期間がおおむね30日を超えると見込まれていたことを要する。
配偶者からの暴力を避けるために転居して退職した場合も⑨に当たるが,保護命令の書類の写しや女性相談支援センター等の証明書の確認が要る。
⑩の「通勤困難」は,通常の方法による往復の所要時間がおおむね4時間以上の場合等をいい,結婚に伴う転居では,退職から転居までがおおむね1か月以内であることを要する。
これらの基準の多くは,倒産・解雇等による離職者(特定受給資格者)の範囲を定めた要領50305を参照している。
給付制限がかからないかどうかと,所定給付日数や受給資格の要件で有利な扱いを受けるかどうかは,別々に判断される。
第4 重責解雇の認定基準
1 懲戒解雇なら当然に重責解雇となるわけではない
要領52202は,「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」として給付制限をする場合の基準を,次のように定めている。
①刑法の各本条又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合。処罰を受けたことが必要なので,訴追や取調べを受けているだけの場合,控訴・上告中で刑が確定していない場合,起訴猶予の場合は当たらない。執行猶予中の者は刑が確定しているので当たる。
②故意又は重過失により事業所の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合
③故意又は重過失により事業所の信用を失墜させ,又は損害を与えたことによって解雇された場合
④労働協約又は就業規則に違反したことによって解雇された場合
⑤事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合
⑥事業所の名をかたり,利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合
⑦他人の名を詐称し,又は虚偽の陳述をして就職したために解雇された場合
④について,要領は,違反の程度が軽微な場合は当たらないとした上で,事業所内での窃盗・横領・傷害等,賭博や風紀紊乱,長期間の無断欠勤,度重なる出勤不良等により解雇し,事業主が労働基準法20条3項・19条2項の解雇予告除外認定を受けて予告や予告手当の支払を免れるときを,基準に当たる場合としている。
就業規則上は懲戒解雇であっても,解雇予告除外認定を受けていなければ,④に当たらないことがある。
2 離職票の記載と解雇の性質は別の問題である
水戸地裁平成30年11月9日判決(平成27年(ワ)第390号)では,原告の一人が,離職票で重責解雇とされているから解雇は懲戒解雇であると主張した。
裁判所は,被告が普通解雇として解雇予告手当の支払等の手続を踏んでいることから,離職票の記載から直ちに懲戒解雇に当たると評価することはできないとした。
離職票の離職理由は雇用保険の給付のための記載であり,解雇が有効か,懲戒解雇か普通解雇かは,労働契約の問題として別に判断される。
会社側の代理人としては,懲戒解雇をしたからといって,離職証明書に重責解雇と書けば足りると考えるのは危険である。
労働者側の代理人としては,重責解雇とされた場合に,処罰の確定や解雇予告除外認定の有無を確かめることになる。
第5 離職理由の認定と争い方
1 ハローワークは離職者の申立ても聴く
要領52201によれば,離職理由の認定と給付制限の処分は,離職者の住居を管轄する公共職業安定所が行う。
事業主と離職者の主張が一致していれば事業所を管轄する公共職業安定所長の判断を主とするが,主張が異なる場合や,離職証明書の記載では離職理由を適正に把握できない場合には,客観的資料の収集と離職者の申立ての聴取を行って認定する。
離職者には,申し立てる離職理由を証明する客観的資料をできる限り提示させるとされている。
同要領は,認定を画一的・機械的に行わず,個別具体的な事情を十分に考慮して行う必要があるともしている。
退職に至った事情(ハラスメントの記録,賃金の減額の通知,残業時間の記録,医師の診断書,家族の介護の状況等)は,退職の前から集めておく意味がある。
2 審査請求と取消訴訟
給付制限の処分に不服がある者は,雇用保険審査官に審査請求をし,その決定に不服があれば労働保険審査会に再審査請求をすることができる(雇用保険法69条1項)。
処分の取消しの訴えは,雇用保険審査官の決定を経た後でなければ提起できない(同法71条)。
要領52201ホは,給付制限の処分をしたときは,審査請求ができる旨を口頭で教示することを求めている。
取消訴訟には出訴期間がある。
浦和地裁昭和61年1月27日判決(昭和60年(行ウ)第12号)は,給付制限処分の取消請求を,再審査請求の裁決を知った日から3か月を過ぎて追加したものとして,出訴期間を過ぎた不適法な訴えとして却下した。
同判決は,退職に正当な理由があったかどうかを判断していない。
裁判所HPの裁判例検索で,雇用保険法33条1項の「正当な理由」の有無を実体的に判断して給付制限処分を取り消し,又は是認した裁判例を探したが,見当たらなかった(裁判所HP未掲載)。
争う場合は,審査請求の段階で客観的資料を出すことが中心になる。
第6 教育訓練による給付制限の解除
1 令和7年4月からの新しい解除事由
令和6年改正により,雇用保険法33条1項ただし書に2号と3号が加わり,令和7年4月1日から施行された。
要領52205-2によれば,正当な理由のない自己都合退職による給付制限は,離職日前1年以内に次の訓練を受けた場合(令和7年4月1日以降に受講を開始したものに限る。)と,離職日以後に受ける場合に解除される。
①教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練
②公共職業訓練等
③短期訓練受講費の支給対象となる教育訓練
④被保険者等が自発的に受講する訓練で,雇用の安定と就職の促進に資するものとして職業安定局長が定めるもの
重責解雇の場合は,この解除の対象外である(要領52205-1ホ)。
公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける場合は,従前から,受講期間中と受講を終えた後の期間について給付制限が行われない(雇用保険法33条1項1号)。
2 解除される期間
離職日前1年以内に訓練を受けた者は,給付制限の全期間が解除される。
離職日以後に訓練を受ける者は,受講を開始した日以後の期間が解除される(要領52205-2ロ)。
厚生労働省のリーフレットは,途中で退校した訓練は該当しないとしている。
3 申出の期限を過ぎると遡って解除されない
解除を受けるには,受給資格決定日(その後の雇用保険説明会等の日を含む。)又は受給資格決定後の初回の失業認定日(初回の認定日以後に受講を開始した場合は,受講開始日の直後の失業認定日)までに申し出なければならない(要領52205-2ハ)。
給付制限が2か月又は3か月の者が初回の認定日以後に受講を開始した場合には,受講開始の直後の「失業認定日に相当する日」までに申し出れば,その日の前日までの失業認定を受けられる(同ニ)。
期限を過ぎて申し出ても,遡って失業認定を受けることはできない(同ホ)。
申出の際には,訓練の開始日が分かる領収書や修了日が分かる修了証明書,又は訓練実施施設による証明書を出す(同ヘ)。
解除後も,通常の失業認定と同じく,認定日数に応じた求職活動の実績が必要である(厚生労働省リーフレット)。
第7 退職合意書と退職勧奨で確認すること
1 合意書の離職理由はハローワークを拘束しない
退職合意書に「会社都合退職とする」と書いても,給付制限の有無は,ハローワークが事実に基づいて認定する。
事実と違う離職理由を書くことを合意しても,離職者が説明する事実や客観的資料と食い違えば,合意どおりには扱われない。
事業主が雇用保険法7条の届出をしなかったり,偽りの届出をしたりした場合には罰則がある(同法83条1号)。
偽りの届出により失業等給付が支給されたときは,事業主も,受給者と連帯して返還・納付を命じられることがある(同法10条の4第2項)。
退職勧奨による退職であれば,離職理由を事実どおり退職勧奨と記載すれば足り,自己都合の形をとらせる必要もない。
2 代理人が確認する事項
①退職日(令和7年4月1日の前か後か)と,過去5年間の自己都合退職の回数
②退職の経緯が,退職勧奨,ハラスメント,賃金の減額,長時間労働,家族の介護等の「正当な理由」に当たらないか
③これを裏付ける客観的資料(メール,面談記録,給与明細,勤怠記録,診断書等)
④解雇の場合,懲戒解雇か普通解雇か,解雇予告除外認定を受けたか,刑事処分は確定したか
⑤退職の前後に受けた又は受ける予定の教育訓練と,受講開始日・申出の期限
⑥離職票の離職理由に異議があるときの申立てと,審査請求の期限
退職勧奨の適法性と合意書の書き方は,退職勧奨の適法性と進め方で扱っている。
不正受給と破産の関係は,雇用保険(失業給付)の不正受給と自己破産を参照されたい。
第8 別セッションで掘り下げるテーマと未検討点
①雇用保険法33条1項の「正当な理由」の有無を判断した裁判例と労働保険審査会の裁決例は,裁判所HPの検索で見当たらなかったため,判例秘書と労働保険審査会の裁決集で別途確認する必要がある。
②要領52205-1ニの,令和7年3月31日以前の退職者が待期中に再就職して再離職した場合の給付制限の扱いは,本記事では紹介していない。
③教育訓練の④(職業安定局長が定める訓練)の具体的な範囲は,本記事では確認していない。
④給付制限の期間中のアルバイトと就業手当・再就職手当との関係は,本記事では扱っていない。
第9 出典・関連記事
1 検討した資料
厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(令和8年8月1日以降)(第9~第12のPDF286頁~300頁。52201~52205-2)
厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」
鳥取労働局「失業等給付に係る「給付制限期間」が2か月に短縮されます。(令和2年10月1日から適用)」
厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和7年4月)について」
2 法令
雇用保険法(e-Gov法令検索)
本記事で引用した条文は,令和8年10月4日にe-Gov法令APIで取得した現行の条文で確認した。
3 裁判例
浦和地裁昭和61年1月27日判決(昭和60年(行ウ)第12号)(裁判所HP)
水戸地裁平成30年11月9日判決(平成27年(ワ)第390号)(裁判所HP)
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