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著作物でない成果物の模倣はいつ不法行為になるか―バンドスコア模倣事件の最高裁令和8年10月9日判決(AI作成)

第1 本判決の概要と本記事の範囲

1 結論

最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)は,著作権法上の著作物に当たらないバンドスコアの全体を細部まで模倣して自社のウェブサイトで無料公開し,広告料収入を得ていた競業者の行為について,不法行為の成立を認めた原審の判断を是認し,上告を棄却した。
これにより,競業者とその代表取締役に約1億6925万円の支払を命じた東京高裁令和6年6月19日判決が確定した。

最高裁は,著作物に当たらないものの利用行為は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り不法行為にならないとする北朝鮮映画事件の判例を前提にした。
そのうえで,利用行為が「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して」相手の営業を妨害し,その営業上の利益を侵害するものといえるときは,特段の事情があり不法行為になるとした。

2 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,裁判所HPに掲載された本判決の全文と,判例秘書で確認した第一審判決及び原審判決の本文に基づく。
令和8年10月25日に,原審判決が模倣を推認した具体的な表記,579曲全体への推認,損害額の算定に使われた弁護士会照会の内容等を,判例秘書で確認した原審判決及び第一審判決の本文に基づいて追記した。
裁判所HPの本判決の詳細ページでは,判示事項が「著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないバンドスコアを模倣するなどした行為が不法行為を構成するとされた事例」とされ,裁判要旨と判例集の欄は令和8年10月25日時点でも空欄である。
本判決は事例判決として示されているので,判断の射程は事案の特徴とともに読む必要がある(第6)。

第2 事案と審級の経過

1 バンドスコアと採譜

本判決が引く原審の確定事実によれば,バンドミュージックは録音現場で演奏・録音をしながら作曲されることが多く,作曲者自身が作った完全な楽譜が存在しないことが多い。
そのため楽譜出版社は,著作権等管理事業者の許諾を得たうえで楽曲の音源を聴き取り,ボーカル,ギター,キーボード,ドラム等の各パートの演奏情報を書き起こす「採譜」をして,バンドスコアを制作・販売している。
採譜は,本判決によれば「専門的な音楽教育を受けた上で相当な修練を積んだ者が、相応の時間をかけて行う作業」である。

被上告人(第一審原告)は,自ら採譜をしてバンドスコアを制作・販売する楽譜出版社であり,579曲について多大な費用,労力及び時間をかけてバンドスコアを制作した。
ただし,このバンドスコアは音源を基に採譜して作った楽譜であり,著作権法2条1項1号にいう著作物には当たらないとされている。
被上告人自身も,第一審では,北朝鮮映画事件の判例と同じ著作権法6条の文言を用いて,バンドスコアは「著作権法6条各号所定の著作物に該当しない」としたうえで,同判例がいう特段の事情があると主張していた。
楽曲そのものの著作権は別の者にあり,被上告人は著作権によってバンドスコアを守ることができない立場にあった。

2 競業者の行為

競業者である上告人会社は,少なくとも平成23年12月から平成30年6月までの間,本件の579曲についてバンドスコアを制作し,自社のウェブサイトで無料公開して広告料収入を得た。
制作は,上告人会社の代表取締役が自ら購入した被上告人のバンドスコアを音源データとともに担当者に渡し,担当者が自ら採譜をせずに被上告人のバンドスコアに依拠して実質的に同一の表記をする方法で行われた。
本判決は,その内容を,完全に複製したとまではいえないものの「被上告人スコアの全体を細部まで模倣したということができるもの」としている。

被上告人の売上げは,無料公開が行われていた平成24年度から平成29年度までの間,平成23年度に比べて大幅に減少した。
他方,サイトが閉鎖された直後の平成30年7月から9月までの売上げは,前年の同じ時期に比べて大幅に増加した。

3 審級の経過

審級判決結論主な理由
第一審東京地裁令和3年9月28日判決(平成30年(ワ)第19860号,第33090号)請求棄却(請求額5億円)原告が模倣を主張した楽曲のいずれについても模倣を認めず,売上げ減少との因果関係も認めなかった
控訴審(原審)東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号)会社と代表取締役に連帯して1億6925万5305円模倣を認め,採譜に要する時間,労力及び費用へのフリーライドとして特段の事情を認めた
上告審最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)上告棄却第3のとおり

第一審は,特段の事情があるかどうかの判断に入る前に,模倣の事実と損害との因果関係の段階で原告の請求を退けた。
第一審判決は,争点を,模倣の有無(争点1),不法行為の成否と代表取締役の任務懈怠(争点2),取締役の監視義務違反(争点3),損害と因果関係(争点4)に分けたうえで,争点1と争点4について原告の主張を退け,争点2と争点3は「判断するまでもなく」請求を棄却した。
控訴審は,第一審が採用しなかった原告の一致率の算定方法を合理的なものと認めるなど,証拠の評価を改めて模倣を認め,損害額を民事訴訟法248条の趣旨を踏まえて控えめに算定した(第5)。
上告審では,上告人らが,特段の事情がないのに不法行為の成立を認めた原審の判断には法令の解釈適用の誤りと判例違反があると主張した。

第3 最高裁の判断

1 北朝鮮映画事件の枠組みの確認

本判決は,まず次のとおり述べた。

> 「被上告人スコアは、著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないから、被上告人スコアについてされた同法上の著作物の利用行為に相当する行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」

ここで参照されたのが,最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決(平成21年(受)第602号,第603号,民集65巻9号3275頁。北朝鮮映画事件)である。
同判決は,著作権法6条の保護を受けない北朝鮮の映画をテレビ番組で約2分間放送した事件で,不法行為の成立を否定していた。

2 特段の事情を認める基準

本判決は,続けて次のとおり述べた。

> 「もっとも、上記行為が、単に著作物の利用行為に相当する行為であるというにとどまらず、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができるときは、被上告人スコアを独占的に利用する利益とは異なる被上告人の法的に保護された利益を侵害するものとして、上記特段の事情があり、不法行為を構成するものというべきである。」

北朝鮮映画事件判決は,特段の事情がない場合に不法行為が成立しないことを示し,その事件の放送が自由競争の範囲を逸脱して営業を妨害するものとはいえないとした。
本判決は,その裏側,すなわち特段の事情が認められる場合の基準を,最高裁として正面から示した点に意味がある。
保護される利益は,バンドスコアを独占的に利用する利益ではなく,営業上の利益として位置付けられている。

3 当てはめで考慮された事情

本判決は,次の事情を挙げて特段の事情を認めた。

① 被上告人は,多大な費用等をかけて自ら採譜をしてバンドスコアを制作し,これを販売して費用等を回収することで営業を続けていた。
② 上告人会社が長期間,多数の楽曲について無料公開と広告料収入による営業を続けられたのは,被上告人のバンドスコアの全体を細部まで模倣して,制作に要するはずの多大な費用等の負担を免れていたことによる。
③ 上告人会社のバンドスコアは一般の利用者にとって被上告人のものと同程度の品質を有すると考えられ,無料公開の期間中に被上告人の売上げが大きく減少した期間があった。
本判決は,これらから,本件行為が「被上告人から容易に顧客を奪取し、被上告人の営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすもの」であったとした。
④ 上告人らがそのことを認識していたことは明らかである。
⑤ 同様の行為が許されるとすれば,自ら多大な費用等をかけて採譜をしてバンドスコアを制作している楽譜出版社が市場で著しく不利な立場に置かれ,公正な競争秩序が害される結果となりかねない。

そして,以上を総合して,本件行為は「著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為であり、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害したもの」であるとした。

4 補足意見

判決は裁判官全員一致であり,裁判長は三浦守裁判官,ほかに岡村和美裁判官,尾島明裁判官及び高須順一裁判官が加わった。
尾島明裁判官と高須順一裁判官が補足意見を述べている。

(1) 尾島明裁判官の補足意見

尾島裁判官は,特段の事情を要するのは,著作権法が権利成立の要件,保護範囲,救済手段,保護期間等を法定していることから,著作権の保護と,他人が創り出したものを利用して行う営業活動の自由との関係を調整するためであると説明した。
著作権法等で保護されない知的成果物は,多大な費用等をかけて創り出されたものであっても,原則として他者が模倣して自由に利用できる。
しかし,ある事業者が費用等をかけて創り出して利益を上げていた商品を,競業者がそのことを認識しつつ費用等をかけずに模倣して利用し,消費者をより誘引する別の方法で市場に提供する行為は,営業妨害行為として不法行為に当たり得るとした。

同裁判官は,あわせて「科学技術の進歩は目覚ましく、現在ではバンドスコア制作を取り巻く状況に変化がある可能性はあるものの、平成30年頃までの時期においては」多大な費用等をかけて採譜をする必要があったと述べている。
採譜に多大な費用がかかるという前提は,時期を区切って評価されている。

(2) 高須順一裁判官の補足意見

高須裁判官は,ウェブサイトで無料公開して広告料収入を得る営業には,財そのものの販売の対価から利益を得る伝統的な営業形態によらない,新たな営業形態を開発・実践したという側面があり,新種のビジネスの積極的意義も考慮しなければならないとした。
そのうえで,本件は「一方で従来のビジネスモデルの成果に便乗しこれを利用しながら、他方で新たなビジネスモデルの果実を独占的に収受したというケース」であり,許容できないとした。

第4 北朝鮮映画事件判決との関係

1 著作権法6条の判例を著作物でない成果物に当てはめた

北朝鮮映画事件判決の一般論の主語は,「同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為」である。
ここでいう「同条」は著作権法6条であり,同判決は,著作物ではあるが日本の著作権法の保護を受けない映画について判断したものであった。
原審判決も,バンドスコアは「著作権法6条各号所定の同法による保護を受ける著作物に該当しない」としたうえで,同判決の枠組みを当てはめていた。

これに対し本判決は,バンドスコアを「著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらない」ものと位置付け,その利用を「著作物の利用行為に相当する行為」と言い換えて,同じ枠組みを当てはめた。
下級審では,著作物性が否定されたもの,著作権侵害が否定された利用,不正競争防止法の保護が及ばない情報の利用にも北朝鮮映画事件判決の枠組みが使われてきた。
本判決は,著作物でない成果物の模倣についても同じ枠組みで判断することを,最高裁として示したものと考えられる。

2 同じ系譜の下級審裁判例

「自由競争の範囲を逸脱」「著しく不公正な手段」という言い回しは,北朝鮮映画事件判決の前から,著作権等で保護されない成果物の模倣について使われてきた。

裁判例対象結論
東京高裁平成3年12月17日判決(平成2年(ネ)第2733号)木目化粧紙の模様原画の著作物性を否定しつつ,実質的に同一の模様を付した物品を競合地域で廉価販売した行為を不法行為とし,損害賠償を認めた。差止めは否定
東京地裁平成13年5月25日中間判決(平成8年(ワ)第10047号等)自動車のデータベースデータを複製して作成したデータベースを競合地域で販売した行為を不法行為とした
知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)ニュースの見出し見出しの著作物性を否定しつつ,一連の行為が社会的に許容される限度を超えるとして損害賠償を認めた
東京地裁平成30年5月11日判決(平成28年(ワ)第30183号)・知財高裁平成30年12月6日判決(平成30年(ネ)第10050号)学習塾のテスト問題の解説サービス自由競争の範囲内として一般不法行為を否定
東京地裁令和7年5月21日判決(令和5年(ワ)第22169号)・東京高裁令和8年3月12日判決(令和7年(ネ)第3343号)竜王戦の棋譜の無許諾配信北朝鮮映画事件判決を引用し,自由競争の範囲を逸脱するとして不法行為を肯定
大阪高裁令和7年1月30日判決(令和6年(ネ)第338号,第1217号)将棋の有償配信を観戦しながら棋譜をほぼ同時に再現した無料動画配信が自由競争の範囲を逸脱して配信事業者の営業上の利益を侵害する不法行為に当たるとした(北朝鮮映画事件判決の引用はない)

木目化粧紙事件は,不法行為による損害賠償を認めながら,被侵害利益が排他性のある支配的権利ではないとして差止めを否定した。
一般不法行為で保護されるのは営業上の利益であり,著作権のような独占権が生じるわけではないという整理は,本判決が保護される利益を「スコアを独占的に利用する利益とは異なる」営業上の利益としたことと整合する。

法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書(令和8年10月22日補訂の第1.1版)24頁注51は,インターネット上のファンサイト等に肖像写真を多数掲載して本人の営業上の利益を害する場合について,パブリシティ権の三類型に準ずる「など」に当たると解するのは困難であるとの立場から,営業上の利益の侵害による一般不法行為の成否を検討すべきであるとの意見が検討会で出されたことを紹介し,その根拠として本件の原審判決や棋譜の配信に関する裁判例を挙げている。
同注は本判決に触れておらず,営業上の利益の侵害に関する不法行為では差止請求が必ずしも認められないことから,「など」によるパブリシティ権侵害の成否を検討すべきであるとの意見も併せて紹介している。
パブリシティ権の要件は,パブリシティ権の要件と裁判例-顧客吸引力,「専ら」要件及び肖像権との違いで扱っている。

第5 原審判決から分かる立証の実務

1 模倣の事実の推認

第一審と原審の結論を分けたのは,模倣の事実の認定であった。
原審は,バンドスコアの模倣性を,次の手順で判断した。

① 音の表記(音高,音価,音色)と音楽の表記(メロディ,ハーモニー,リズム)がどれだけ一致するかを判断の基礎にする。
② 原告のバンドスコアの明らかな誤りが被告のバンドスコアに引き継がれていれば,独自に採譜したとすればそのような事態が生じる可能性は極めて乏しいから,模倣が強く推認される。
③ 原告のバンドスコアに特有の表記が引き継がれている場合も,模倣が強く推認される。
④ ギターには同じ音高を出せる演奏ポジションが複数あるので,演奏ポジションがすべて一致していれば,模倣が強く推認される。

他方で原審は,誤りが是正されていること,演奏にあまり影響しない補足的な情報が変えられていること,被告が使う自動演奏システムの制約で表記が変わっていることだけでは,模倣は否定されないとした。
同じ楽曲を原曲に近づけて採譜すれば表記が似るのは当然なので,一致率だけでなく,誤りや特有の表記のように,独自に作業すれば一致しないはずの部分を対照表で示すことが立証の中心になる。
データベース,統計表,名簿等の成果物でも,同じ考え方で対照表を作ることができる。

(1) 原審が挙げた具体的な痕跡

原審は,原告が具体的な根拠を挙げた11曲を中心に検討し,次のような表記の一致から模倣を強く推認した。
楽曲名は原審判決の表記により,表の括弧内の用語の説明は第一審判決の記載による。

痕跡の種類楽曲原審が認定した内容と評価
誤りの承継「瞬き」コードが「B」から「B♯dim」に移る箇所で,「B」の位置に「B♯dim」のコード表を置き,「B♯dim」の位置にはコード表を置かないという誤りが,両方のスコアにあった。独自に採譜していれば誤りに気付くのは極めて容易であるとして,模倣を強く推認した
特有の表記「Fight For Liberty」,「見たこともない景色」原告がコーラスを小さな音符で併記するときに使う独自の説明「Small note」が,コーラスを別の段に分けていて記載する意味のない被告スコアにも残っていた。意味を理解できないまま機械的に複写したものとして,模倣を強く推認した
測定値の一致「打上花火」原告特有の「DAW Edit」の記載と,ディレイタイム(やまびこ効果を作る機器の設定時間)の「Delay:468ms」の記載が,同じ箇所にあった。ディレイタイムは通常,採譜者がストップウォッチで計測するもので,別の機会の計測が千分の一秒単位まで一致することはほぼあり得ないとして,模倣を強く推認した
原告特有の指示「himawari」ピッチシフターという機器で1オクターブ下の音を加えるという原告スコア特有の指示が,同じ箇所にあった。被告らはどちらの演奏方法か分からなかったので原告の表記を採ったと主張したが,原審は,採譜能力に疑問を生じさせる事実であるとして,模倣を強く推認した
音部記号の取り違え「LOSER」原告がヘ音記号で書いたストリングスのパートが,被告スコアでは同じ音符のままト音記号で書かれており,全く異なる演奏情報になっていた。原告スコアを複写した後に音部記号を変えるのを失念したと考えるのが合理的であるとして,模倣を強く推認した
監修で加えたフレーズ「MONSTER DANCE」原告スコア第2版でアーティストの監修を受けてドラムパートに加えた,原曲の音源とは全く異なるフレーズ(第2間奏から15小節)が,被告スコアにも記載されていた。原曲を聴いて採譜すれば記載されるはずがないとして,第2版の模倣を強く推認した

被告らは,独自に採譜した後に原告スコアと照合して記載を合わせた可能性があることや,「Small note」等の記載を引き継いでいない楽曲が多数あることを主張した。
原審は,責任を持って採譜した採譜者が,参考にすぎない原告スコアの記載を最終段階で無批判に受け入れたという説明は信じ難いとし,引き継いでいない楽曲があることも,記載をそのまま使うことをためらった採譜者がいることを意味するにとどまり,模倣と両立するとして,いずれも退けた。
第一審も,「Delay:468ms」の部分は原告スコアに依拠したと推認していたが,演奏内容が異なる箇所があることから,全体を採譜した後に細かい表記を合わせた可能性を排斥できないとして,楽曲の模倣を認めていなかった。
同じ痕跡を,部分的な参照の跡とみるか,全体の模倣を推認させる事実とみるかで,審級の判断が分かれたことになる。

(2) 一致率の比較と579曲全体への推認

原告は,二つのスコアで一致する小節の割合(一致率)も主張した。
音楽専門家の意見は,優秀な採譜者同士でも一致率はせいぜい50%から60%程度であり,80%以上なら模倣と判断できるというものであった。
原審は,この基準は感覚的なもので,一致率だけで模倣を決めることはできないとしながら,次の比較を,模倣の推認を補強する有力な根拠とした。

① 「夢灯籠」では,原告スコアと被告スコアの一致率が100%であったのに対し,原告スコアと他社スコアの一致率は19.72%であった。
② 「ないものねだり」では,原告スコアと被告スコアの一致率が95.0%であったのに対し,原告スコアと他社スコア2点の一致率は51.2%と58.7%であった。
③ 「ヘビーローテーション」では,原告スコアと被告スコアの一致率が98.0%であったのに対し,原告スコアと他社スコア2点の一致率は31.2%と34.9%であった。
④ 被告側が原告スコアではなく他社スコアを購入した2曲では,被告スコアと原告スコアの一致率が38.37%と34.48%にとどまる一方,被告スコアとその他社スコアの一致率は96.94%と92.54%であった。

原審は,被告側が入手したスコアとの一致率だけが極めて高いという事実は,入手したスコアの大部分を模倣したと考える以外に合理的な説明が困難であるとした。

さらに原審は,代表取締役が原告スコアを始めとする同業他社のバンドスコアを大量に購入し,採譜を依頼する楽曲の音源と同時に採譜者へ送付していたことを認定した。
同業他社のスコアを参照する慣行の存在は認められないとして,この送付は模倣を誘引し助長する行為であり,代表取締役が組織的に統一された方針を立てて全曲の採譜に貫徹させていたと推認した。
そのうえで,全曲の全小節について個別の立証を求めることは「控訴人に不可能を強いることになりかねず」(控訴人は原告を指す。),被告らが楽曲を区別した反証をせずに一切の模倣を否定していたことも考慮して,原告スコアを入手してあらかじめ採譜者に送付していた楽曲(本件の579曲)である限り,個別の立証がない楽曲も含めて模倣を推認した。

少数の楽曲で独自に作業すれば生じないはずの一致を示し,相手が原告の成果物を入手して作業者に渡していた経路と方針を立証して,全体へ推認を広げるという構造と整理できる。
相手が他社の成果物を入手した対象では他社の成果物と一致していることも,入手経路と一致の対応を示す資料になる。

2 因果関係

原審は,無料公開の期間中に原告の売上げが激減し,サイトの閉鎖直後に前年同期比で150%以上上昇したことに加え,無料で入手できることが知れ渡れば対価を払って購入する動機が失われるのは「見易い道理」であり,売上げ激減の別の原因について具体的な主張立証がないことを理由に,相当因果関係を認めた。
第一審は,同じ売上げの推移について,閉鎖後の上昇が閉鎖を原因とするとまでは推認できないとしていた。
侵害期間の前・中・後の売上げ推移と,他の原因がないことの両方を用意しておく必要がある。

3 損害額

原審は,著作権侵害であれば著作権法114条各項の規定で損害額を推定できるが,「バンドスコアは同法の保護の対象となる著作物ではないため、上記規定は適用されず、これを類推適用すべきとする事情もにわかには認め難い」とした。
一般不法行為では,侵害者の利益や使用料相当額による推定に頼れず,被害者の逸失利益を自ら推計しなければならない。

原告は,売上げが最も安定していた定番商品の月間販売冊数を,同じ楽曲の無料サイト上の月間リクエスト数で割って1リクエスト当たりの冊数を求め,これを各楽曲のリクエスト数と1冊当たりの利益に掛けて合計する方法(サンプリング法)で損害を主張した。
原審は,この手法は相応の根拠に基づくもので,一切採用できないとすれば救済の道を閉ざすことになりかねないとしながら,リクエスト数と販売冊数の間に厳密な対応関係を認めることは困難であるとした。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨を踏まえ,試算額15億4255万3059円の1割に当たる1億5425万5305円を逸失利益とし,弁護士費用1500万円を加えた。
ライセンス料相当額の請求は認めなかった。
第一審は,このサンプリング法による算定そのものを相当でないとしており,同じ手法の評価が審級で分かれた。

サンプリング法に使ったリクエスト数と広告料収入は,原告が訴訟代理人を通じて弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士会照会)を行い,楽曲を管理するJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)とNexToneから開示を受けたものであった。
JASRACからは,被告会社がJASRACとの契約に違反してバンドスコアをダウンロードできるようにしていた平成29年11月から平成30年2月までの4か月間(違約期間)の楽曲ごとのリクエスト数,平成27年7月から平成30年6月までの配信楽曲の一覧,平成27年1月から平成30年6月までの各月の広告料等収入が開示された。
NexToneからは,平成23年12月から平成30年6月までの楽曲ごとのリクエスト数と各月のサービス収入金額が開示された。
原審は,リクエスト数と広告料収入の両方が分かる違約期間の比率を使って他の期間のリクエスト数を推算した原告の手法について,原告が「法的手段を駆使して収集した上記各情報」を基にしたもので,相応の根拠があるとした。

他方で原審は,著作権法114条の推定が使えないことも理由に,原告の売上げ減少額(平成24年度から平成29年度までの合計4億2784万9236円。ただし,他の楽譜類の売上げを含む。)を超える金額を逸失利益と認めるのは相当でないとした。
試算額の1割という認定は,この点を含めて,算定に使った数値の不確定さを考慮し,「損害額が過大になることのないよう控えめに算定」したものである。
無料公開型の模倣では相手の売上げがないため,相手の利用実績を把握する第三者から照会等でアクセス数や収入のデータを得られるかが,損害額の立証を左右し得る。

4 役員の責任

原審は,代表取締役が採譜者にあらかじめ原告のバンドスコアを送付するなどして模倣を指示したとして,会社とともに共同不法行為(民法719条)の責任を認めた。
他方,取締役として月額28万円の報酬を受けていたが,事務所の掃除や伝票整理等の事務作業に従事するにとどまり,音楽の専門的知識がなく,取締役会も開かれていなかった取締役については,違法行為を予見して回避する具体的な可能性があったと認めるに足りる証拠がないとして,監視義務違反を否定した。

第6 射程と実務上の注意

1 事例判決として読む

本判決は,次の事情がそろった事案についての判断である。

① 成果物の全体を細部まで模倣したこと。
② 約6年半,579曲という長期間かつ大量の利用であること。
③ 同じ需要者を奪い合う競業者が,無料公開によって相手の顧客を奪ったこと。
④ 相手が制作費用を販売で回収する構造にあり,模倣した側がその費用負担を免れたこと。
⑤ 模倣した側がこれらを認識していたこと。

成果物の一部を参考にした程度の利用,競業関係にない利用,独自の作業を加えた利用まで,当然に不法行為になるわけではない。
学習塾のテスト問題の解説サービスのように,相手の営業一般を独占する権利がないとして不法行為が否定された例もある。

2 差止めは別に考える

一般不法行為で認められるのは原則として損害賠償であり,木目化粧紙事件では差止めが否定された。
模倣を止めることが目的なら,不正競争防止法等の別の根拠を検討することになる。

もっとも,商品形態の模倣(不正競争防止法2条1項3号)は,「商品の形態」を「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」と定義している(同条4項)。
楽譜の演奏情報のような成果物の内容がこれに当たるかには疑問があり,日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品は適用除外となる(同法19条1項6号イ)。
また,同号の行為に「電気通信回線を通じて提供」する行為が加わったのは,令和5年法律第51号による改正(令和6年4月1日施行)であり,本件の行為の当時は含まれていなかった。
このため,本件のような事案で同号による救済を受けることは,条文の文言からみて難しかったと考えられる。

3 技術の進歩と時期の限定

尾島裁判官の補足意見は,多大な費用をかけて採譜をする必要があったことを「平成30年頃までの時期においては」と限定している。
自動採譜や生成AIの進歩によって成果物を作る費用が大きく下がれば,同じ態様の模倣でも,費用負担の免脱や公正な競争秩序の評価が変わり得る。
本判決は,費用をかけた成果物一般を時期を問わず保護するものではなく,事案当時の費用構造を前提にしたものとして読む必要がある。

4 相談を受けたときの確認事項

立場確認する事項
成果物を模倣された側著作権・不正競争防止法で主張できるものが残っていないか。制作にかけた費用・人員・時間と,販売による回収の構造。相手との競業関係と顧客層の重なり。誤り・特有の表記・選択の余地がある表記の一致を示す対照表。侵害期間の前・中・後の売上げとアクセス数。相手の認識を示す資料(購入履歴,警告への応答等)。差止めが必要か,損害賠償で足りるか
模倣を指摘された側自ら作業した記録(作業ファイル,日付,担当者)。相手の成果物を参照した範囲と目的。相違点と独自に加えた部分。相手と競業する関係か,顧客を奪う関係か。利用の期間・量。技術の進歩で成果物を作る費用が下がっているか

第7 関連記事

北朝鮮映画事件判決そのものは,北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号で説明している。
学習塾のテスト問題の解説サービスと棋譜の配信事件の比較は,過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程で扱っている。
データの模倣の立証は,データベースを模倣されたときの立証―創作性・依拠性・一般不法行為・不正競争の分け方及び自サイトの記事・データを他サイトに利用されたとき―著作権,出典表示,流入減少の立証と初動対応を参照されたい。
損害額の認定は,民事訴訟法248条による損害額の認定―損害発生の立証と相当額認定の実務で扱っている。
著作物性が否定された量産実用品のデザインは,量産実用品のデザインはどこまで著作権で保護されるか-最高裁判決とトリップトラップで扱っている。

第8 出典

1 法令

e-Gov法令検索で令和8年10月10日に確認した(弁護士法は令和8年10月25日に確認した。)。
著作権法2条1項1号,6条,114条
民法709条,719条1項
民事訴訟法248条,318条1項
不正競争防止法2条1項3号,2条4項・5項,19条1項6号
弁護士法23条の2

2 裁判例(裁判所HP掲載)

最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)
最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決(平成21年(受)第602号,第603号,民集65巻9号3275頁)
東京高裁平成3年12月17日判決(平成2年(ネ)第2733号)
東京地裁平成13年5月25日中間判決(平成8年(ワ)第10047号等)
知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)
東京地裁平成30年5月11日判決(平成28年(ワ)第30183号)
知財高裁平成30年12月6日判決(平成30年(ネ)第10050号)
東京地裁令和7年5月21日判決(令和5年(ワ)第22169号)
東京高裁令和8年3月12日判決(令和7年(ネ)第3343号)
大阪高裁令和7年1月30日判決(令和6年(ネ)第338号,第1217号)

3 裁判例(判例秘書で確認)

東京地裁令和3年9月28日判決(平成30年(ワ)第19860号,第33090号,判例秘書の判例番号 L07631198)
東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号,判例秘書の判例番号 L07920477)