第1 この記事の要点
1 対象と結論
本記事は,最高裁判所事務総局デジタル推進室が令和4年5月に作成した「裁判所のデジタル化について(裁判所DXのグランドデザイン)(Ver1.0)~デジタル時代の「新しい裁判所」を築いていくために~」(以下「グランドデザイン」という。)の内容を紹介し,そこに書かれた計画が令和8年10月までにどうなったかを,法令と最高裁判所の後続資料で照合するものである。
グランドデザインは,裁判所のデジタル化の必要性,目的,基本的な考え方及び各分野の検討状況を一つにまとめた資料であり,各分野の工程が年度単位で書かれている。
照合の結論は次のとおりである。
①ウェブ会議による争点整理手続と口頭弁論(いわゆるフェーズ2)は,計画した年度のうちに施行された。
②訴状を含むオンライン提出と訴訟記録の電子化(いわゆるフェーズ3)は,計画の令和7年度から令和8年5月21日の施行へ1年度遅れ,使うシステムも開発中のTreeeSから改修したmintsに切り替わった。
③裁判所職員が使う事件管理システムRoootSは,計画の令和5年度から遅れ,令和7年1月に全庁に導入された。
④TreeeSは,計画の令和7年度から遅れ,令和9年1月に名古屋で先行導入し,令和9年度中に全庁へ導入することを目指すとされている。
⑤家事事件・民事執行・倒産等の法改正は計画どおり令和5年に成立したが,記録の電子化等の中心部分はまだ施行されていない。
⑥刑事手続は,グランドデザインの時点では改正法案の提出時期も未定であったが,令和7年に改正法が成立し,その一部が令和8年5月21日に施行された。
2 資料の性質と基準日
グランドデザインは,表紙,本文13頁及び参考1頁の計15頁の資料であり,作成名義は「最高裁判所事務総局デジタル推進室」である。
本記事で示す頁は,各頁の下に印字された番号であり,PDFの頁と一致する。
表紙には,裁判所のデジタル化の全体像を示そうとするものであること,施策の具体的内容は今後順次示すこと,現在の検討状況をまとめたもので今後の状況等に応じて随時改定する予定であることが記載されている(1頁)。
本記事の基準日は令和8年10月10日である。
基準日までに,裁判所ウェブサイトでグランドデザインの掲載を確認することはできず,改定版も見つからなかった。
グランドデザインが冒頭で引用する「裁判所のデジタル化に向けて」(令和4年2月作成)も,同様に見つからなかった。
法令の施行日は,e-Gov法令APIの改正履歴と条文で確認した。
第2 グランドデザインの内容
1 必要性と目的
グランドデザインは,社会では「対面・紙」から「オンライン・データ」への移行が急速に拡大しており,裁判所もこれに適切に対応する必要があるとする(2頁)。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の定義としては,経済産業省の定義をそのまま引用している。
この定義は,経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」2頁の脚注1の定義と一字一句同じである。
デジタル化の目的は,裁判所の社会的使命である「より良い司法サービス」の提供とされる(3頁)。
国民の側については,次の三つが挙げられている。
①司法サービスを利用しやすくなる(アクセスの向上)。例として,いつでも・どこからでもe提出が可能になること,ウェブ会議による裁判手続への参加(e法廷)。
②司法サービスへの満足度が高まる(質・スピードの向上)。例として,期日間においてもウェブ会議・チャットなどを用いた継続的なコミュニケーション。
③司法サービスを利用するかどうかの情報を得やすくなる。例として,オープンデータ化を含むデータの公表,データの利活用による司法サービスの「見える化」。
職員の側については,知識・経験の共有による専門性の向上,BPR(業務改革)による事務の標準化・統一化と集約化,テレワーク等の多様な働き方による充実度・能率性の向上が挙げられている(3頁)。
2 基本的な考え方
基本的な考え方は,2頁にわたって5項目で示されている(4頁・5頁)。
①利用者(国民・職員)の目線に立ち,実務や事務の実情を踏まえてデジタル化を進める。
②システム化の前提として,現行の事務フローの合理性を検討し,事務の標準化や合理化(BPR)を行うことが不可欠とする。裁判所独自のシステムの開発ではなく,市販のアプリ・サービス(SaaS)等の利用も検討する。
③過度な作り込みをしないシンプルなシステムとし,必要な機能に絞って開発し,安定的に稼働することを確認した上で機能を拡張する。
④一部の部署(パイロット庁)で試行・検証してから他の部署に展開する「スモールスタート」と,うまくいかなければ方針を柔軟に変更する「トライアンドエラー」をとる。
⑤最高裁判所と高地家簡裁との間で直接的・実質的な意見交換を充実させ,裁判所全体で一体的に取り組む。
3 全体像と主な課題
全体像の図(6頁)では,裁判手続のデジタル化が「全職員と共に検討すべき最重要課題」とされ,司法行政のデジタル化がこれを支える位置に置かれている。
その土台として,デジタルインフラの最適化と情報セキュリティの確保(インターネット・クラウドへの対応)があり,さらにその下に,業務・組織のバージョンアップ,デジタル関連予算の配分の最適化及びデジタル人材の確保・育成が並ぶ。
裁判手続のデジタル化の対象は,民事訴訟・非訟・刑事・家事・少年である(7頁)。
中核課題とされたのは「審理運営・書記官事務の検討」であり,デジタル化後の具体的な裁判事務の運用と,紙と電子が併存する移行期の事務処理を含む。
これを,法・規則改正,システム開発・展開及びデジタル機器の整備と「総合的・一体的に検討する必要」があるとしている(7頁)。
4 司法行政のデジタル化とシステム機能の例
司法行政事務については,行政府省の事務と共通又は類似するものが多いとして,政府共通システムの利用を積極的に検討するとしている(12頁)。
例として,会計業務電子決裁基盤・証拠書類管理システム(ELGA),新しい電子決裁システム(EASY)及び人給システムによる人事異動通知書の電子交付が挙げられている。
このほか,電子データによる文書開示の検討,協議会等でのウェブ会議の活用,裁判官研修・司法修習・職員研修のデジタル化及びテレワーク環境の整備が並ぶ(12頁)。
考えられるシステムの機能の例としては,次のものが挙げられている(14頁)。
ただし,これらの例には「このとおり実現されるとは限らない」との注記がある(13頁)。
①申立ての種類ごとに入力フォームを設け,必要事項が入力されていなければ注意を促す。
②当事者が入力した住所・氏名等が,そのまま事件管理に取り込まれる。
③当事者が提出した証拠のうち裁判官が選択したものにタグを付け,検索・閲読しやすくする。
④定型的な裁判では,裁判官がプルダウンメニューから裁判内容を選択して決定する。
⑤手数料・保管金や統計に関するシステムと連携する。
第3 民事訴訟手続の計画と実績
1 ウェブ会議による争点整理(フェーズ1)
グランドデザインは,現行法の下でウェブ会議等を用いた争点整理を,知的財産高等裁判所と全地方裁判所本庁で開始済み(令和2年12月まで)とし,全地方裁判所支部と高等裁判所へ令和4年度に拡大し,最高裁判所と簡易裁判所への拡大を検討するとしていた(8頁)。
実際には,支部への展開はグランドデザインの作成より前に始まっていた。
最高裁判所は,新潟地裁佐渡支部等の離島の8支部で,令和4年2月14日午前10時以降,ウェブ会議の方法により行う期日・協議を実施できるとしていた(令和4年2月15日に開示された最高裁判所の文書)。
簡易裁判所については,最高裁判所民事局長が,令和6年1月から全国の簡易裁判所でもウェブ会議を活用した争点整理手続や和解手続の運用を始めると知らせている(令和5年6月22日付けの日本司法書士会連合会長宛ての書簡)。
裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)は,令和2年2月に一部の庁で始めた運用が,現在は支部も含めた全国の高等裁判所・地方裁判所及び簡易裁判所で実施されているとする(36頁)。
最高裁判所への拡大については,本記事の基準日までに確認できる資料はなかった。
2 ウェブ会議による弁論準備・口頭弁論(フェーズ2)
グランドデザインは,新法に基づき,ウェブ会議等を用いた双方不出頭の争点整理を令和4年度に,ウェブ会議等を用いた口頭弁論を令和5年度に始めるとしていた(8頁)。
資料の作成時点で,民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)は既に成立していた(8頁。公布は令和4年5月25日)。
実際には,双方不出頭の弁論準備手続期日等は令和5年3月1日に,ウェブ会議による口頭弁論は令和6年3月1日に施行された(e-Gov法令APIの民事訴訟法の改正履歴,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)34頁)。
いずれも計画した年度のうちの施行である。
3 オンライン提出と記録の電子化(フェーズ3)
グランドデザインは,現行法の下での準備書面等の提出(mints)を令和4年4月に始めて対象庁を順次拡大し,新法の下での訴状を含むオンライン提出と記録の電子化を令和7年度に実現するとしていた(8頁)。
あわせて,フェーズ3での実務の運用を現段階から先取りし,試行することが重要であるとしている。
mintsは,令和4年4月に甲府地方裁判所と大津地方裁判所で始まり,現在は支部も含めた全国の高等裁判所・地方裁判所で運用されている(裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)37頁)。
他方,訴状を含むオンライン提出と記録の電子化を定めた改正民事訴訟法は,令和8年5月21日に全面施行された(e-Gov法令APIの民事訴訟法の改正履歴)。
計画の令和7年度から,1年度遅れたことになる。
使うシステムも変わった。
最高裁判所は,令和6年11月19日の事務総局会議で,開発中のTreeeSでの施行を念頭に置きつつ,改修中のmintsでの施行も検討することとした(同日の事務総局会議の資料)。
同年12月5日付けで,関係団体にもその旨を知らせている。
そして,令和7年2月の資料は,施行当初は現在改修中のmintsを予定することとした(PDF1頁・3頁)。
その理由として,TreeeSには「RoootSとの連携といった高難度の課題」があり,実務に耐えられるシステムの完成までにはいまだ相応の時間がかかる可能性がある一方,mintsは安定的に運用されており,改修のリスクが低いことが挙げられている(PDF3頁)。
4 RoootSとTreeeS
グランドデザインは,事件管理,オンライン提出及び記録の電子化に対応するシステム(TreeeS)を開発中とし,手数料等の電子納付も実現するとしていた(8頁)。
工程としては,事件管理機能(RoootS)を1次開発して令和5年度に導入し,その余の機能を2次開発して令和7年度に導入するとしていた(8頁)。
RoootSは,令和6年11月19日の事務総局会議の資料で,令和7年1月6日から先行導入庁以外の全庁に導入されることとされた(導入予備日は同年2月12日)。
令和7年6月11日の高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官挨拶は,「年初には、民事訴訟手続におけるe事件管理システム(RoootS)が全庁に導入されて一つの節目を迎えましたが、そこに至るまでには、計画変更をはじめとした様々な課題が生じ」たと述べている(3頁)。
TreeeSの完成時期は,その後も後ろにずれた。
令和7年2月の資料は,TreeeSについて令和7年8月末の完成を目指して開発中としていた(PDF3頁)。
令和7年8月26日の事務総局会議の資料は,TreeeSの導入時期として,令和9年度中に,より具体的には令和9年3月の改正刑事訴訟法の一部施行や同年9月末のガバメントソリューションサービス(GSS。デジタル庁が各府省庁に提供する共通の業務実施環境)への移行といった時期を避けて全庁に導入することを目指したいとした(3頁)。
最高裁判所は,令和8年2月27日付けで,名古屋高等裁判所本庁,名古屋地方裁判所(支部を含む。)及び同地裁管内の各簡易裁判所で令和9年1月から先行導入すると知らせ,全庁導入は令和9年度中を目指す方針に変更はないとした。
手数料の電子納付は,システムではなく法律で先に実現した。
改正後の民事訴訟費用等に関する法律8条1項は,電子情報処理組織を使用する申立て(特定申立て)等の手数料について,次のとおり定めている。
「次に掲げるものの手数料は、最高裁判所規則で定めるところにより、現金をもつて納めなければならない。ただし、申立てを書面をもつてすることができる場合であつて、やむを得ない事由があるときは、訴状その他の申立書又は申立ての趣意を記載した調書に収入印紙を貼つて納めることができる。」
第4 民事非訟・家事・人事訴訟の計画と実績
1 法改正
グランドデザインは,家事事件手続及び民事保全・執行・倒産手続等のIT化について,法制審議会で調査審議中であり,改正法案が令和5年に国会に提出される見込みであるとしていた(9頁・11頁)。
実際には,民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)が令和5年6月14日に公布された。
法案の提出時期は計画どおりであった。
もっとも,この法律の附則1条は,本則の施行日を「公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日」としている。
一部の規定は,令和7年10月1日と令和8年5月21日に施行された。
家事事件の電子調書や電磁的記録の閲覧等の中心部分は,本記事の基準日の時点では施行されておらず,その施行日を定める政令もe-Gov法令APIでは確認できなかった。
2 家事調停のウェブ会議
グランドデザインは,家事調停でのウェブ会議の試行を令和3年12月に開始し,対象庁を順次拡大する予定としていた(11頁)。
試行は,令和3年12月8日以降,東京,大阪,名古屋及び福岡の各家庭裁判所で各庁の準備状況に応じて順次始まった(令和3年10月25日付けの最高裁判所家庭局第一課長の事務連絡)。
その後,令和6年2月以降は全家庭裁判所本庁へ,同年7月には全国の支部・出張所へと運用が広がった(裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)39頁)。
3 システム
グランドデザインは,民事非訟事件と家事事件のシステムを,民事訴訟用のシステム(TreeeS)をベースに開発することを検討するとしていた(9頁・11頁)。
その後,執行,倒産及び過料の手続については,民事訴訟等のシステムとは別に新システムを開発する予定とされた(令和6年11月19日の事務総局会議の資料)。
家事事件手続等については,TreeeSを改修して対応する方針とされたが,具体的な導入時期等は,改修が進んだ令和8年度以降のしかるべき時期に検討・判断する予定とされている(令和7年8月26日の事務総局会議の資料3頁)。
第5 刑事手続・少年事件の計画と実績
グランドデザインは,法務省の検討会の報告書(令和4年3月)の概要を紹介した上で,更なる検討過程や改正法案の国会提出時期・施行時期は未定であり,システムの在り方を検討中であるとしていた(10頁)。
少年事件は,刑事手続のデジタル化の検討状況と少年審判手続の特質を踏まえて検討するとされていた(11頁)。
実際には,情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)が令和7年5月23日に公布された。
附則1条は,本則の施行日を「令和九年三月三十一日までの間において政令で定める日」とし,一部の規定についてそれと異なる施行日を定めている。
このうち附則1条3号に掲げる規定(刑事訴訟法の電磁的記録提供命令等や,少年法6条の5及び15条の改正規定を含む。)は,令和8年政令第156号により,令和8年5月21日に施行された。
少年法も同じ法律で改正されており,刑事手続と一体で立法された。
システムについては,最高裁判所は令和6年1月16日の事務総局会議で段階的開発の方針を示し,法施行に不可欠な機能を令和9年3月までに開発するとした(同日の配布資料)。
令和7年8月26日の事務総局会議の資料は,令和9年3月からの段階的施行に向けて開発中とする一方,事件管理システム部分(KEITASの後継部分)のリリース時期を令和10年4月以降に後ろ倒しするとしている(5頁)。
第6 計画と実績の一覧
| 分野 | グランドデザインの計画 | 実績(令和8年10月10日現在) | 評価 |
|---|---|---|---|
| ウェブ会議による争点整理(フェーズ1) | 支部・高裁へ令和4年度に拡大。最高裁・簡裁への拡大は検討 | 支部を含む全国の高裁・地裁と簡裁で実施(簡裁は令和6年1月から)。最高裁は資料なし | ほぼ実現 |
| 双方不出頭の弁論準備等(フェーズ2) | 令和4年度 | 令和5年3月1日施行 | 予定どおり |
| ウェブ会議による口頭弁論(フェーズ2) | 令和5年度 | 令和6年3月1日施行 | 予定どおり |
| 訴状を含むオンライン提出・記録の電子化(フェーズ3) | 令和7年度(TreeeS) | 令和8年5月21日施行(改修したmints) | 1年度遅れ,システム変更 |
| RoootS | 令和5年度に導入 | 令和7年1月に全庁導入 | 遅れ |
| TreeeS | 令和7年度に導入 | 令和9年1月に名古屋で先行導入,全庁は令和9年度中を目指す | 遅れ |
| 家事・執行・倒産等の法改正 | 令和5年に法案提出の見込み | 令和5年法律第53号(令和5年6月14日公布)。中心部分は未施行 | 法改正は予定どおり,施行は途中 |
| 家事調停のウェブ会議 | 令和3年12月に試行,順次拡大 | 令和6年7月までに全国の家裁本庁・支部・出張所で運用 | 実現 |
| 刑事手続 | 法案提出・施行時期とも未定 | 令和7年法律第39号。一部は令和8年5月21日施行,本則は令和9年3月31日までの政令で定める日 | 法改正は実現,施行は途中 |
第7 最高裁判所自身の振り返り
最高裁判所デジタル審議官の資料「裁判所のデジタル化の現状と将来(民事訴訟を中心に)」(令和8年2月19日付け)は,グランドデザインの「基本的な考え方(その1)」の頁を図として引用した上で,システム開発が思うように進まなかった理由を説明している(3頁・4頁)。
同資料は,紙記録を前提とした合理化の延長ではなく,電子記録・電子データを前提とする事務を再構築するという理想を掲げたものの,現実には「現行業務をそのまま新しいシステム上で再現し、それをより簡便に過誤なく行うという発想に陥りがち」であったとする(3頁)。
さらに,BPRや機能の優先順位付けをした上でシステム開発を進めるべきだったが,現実には「開発を進めながら可能な対応を繰り返してきたというのが実情」であるとしている(4頁)。
この振り返りは,グランドデザインの基本的な考え方のうち,BPRを先に行うという部分が十分には実行できなかったことを,最高裁判所自身が認めたものといえる。
他方で,フェーズ3の施行システムをTreeeSから既存のmintsの改修へ切り替えた判断は,必要な機能に絞って開発し,安定的に稼働することを確認した上で機能を拡張するという基本的な考え方(4頁)に沿うものと考えられる。
ウェブ会議の拡大とフェーズ2の施行は,計画どおりに進んだ。
計画からの遅れが大きかったのは,新しいシステムの開発と,それに依存する工程であった。
第8 弁護士実務への影響
1 民事訴訟は電子申立てが原則になった
令和8年5月21日以降,委任を受けた訴訟代理人は,民事訴訟の申立て等を電子情報処理組織を使用する方法で行わなければならない。
民事訴訟法132条の11第1項柱書は「次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める事件の申立て等をするときは、前条第一項の方法により、これを行わなければならない。」と定め,同項1号は「訴訟代理人のうち委任を受けたもの(第五十四条第一項ただし書の許可を得て訴訟代理人となったものを除く。)」を掲げる。
同条3項は,裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により電子情報処理組織を使用する方法で申立て等を行うことができない場合には,1項を適用しないとしている。
2 システムの切替えに備える
当面の電子申立てはmintsで行う。
名古屋高等裁判所本庁,名古屋地方裁判所(支部を含む。)及び同地裁管内の各簡易裁判所では令和9年1月からTreeeSが先行導入され,全国では令和9年度中の全庁導入が目指されている。
同じ事務所で,事件によってmintsとTreeeSを使い分ける時期が生じ得る。
3 家事・執行・倒産・刑事は施行日の政令を見る
家事事件,民事執行,倒産及び刑事手続の本格的な電子化は,いずれも政令で定める日に施行される。
法律上の期限は,令和5年法律第53号の本則が令和10年6月13日まで,令和7年法律第39号の本則が令和9年3月31日までである。
施行日を定める政令が出た時点で,対象手続と経過措置を確かめる必要がある。
第9 関連記事
①最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS
②TreeeSはいつからどの裁判所で使うのか―先行導入,mintsとの併存及び移送時の取扱い
③TreeeSは家事・倒産・民事執行でいつ使えるか―対象手続,施行期限と調達仕様書段階の区別
④刑事手続のデジタル化とは―令和7年法律第39号の施行日,電子令状,オンライン証拠開示及びLinKage
⑤最高裁判所デジタル審議官「裁判所のデジタル化の現状と将来(民事訴訟を中心に)」の論評
⑥最高裁判所事務総局デジタル審議官―職務・組織・歴代人事と裁判所DX
⑦裁判所の情報化の流れ――ワープロ,J・NETからmints,TreeeS,刑事手続のデジタル化まで
⑧mintsの義務化はいつからか―対象者,対象事件及び紙提出の例外
⑨民事訴訟の申立手数料の計算方法―訴額別早見表と郵便費用相当額(令和8年5月21日以後)
⑩破産手続のIT化――令和8年5月のウェブ期日と令和10年6月までに予定される全面デジタル化
第10 出典及び確認状態
①最高裁判所事務総局デジタル推進室「裁判所のデジタル化について(裁判所DXのグランドデザイン)(Ver1.0)」(令和4年5月)
②最高裁判所デジタル審議官「裁判所のデジタル化の現状と将来(民事訴訟を中心に)」(令和8年2月19日付け)
③令和7年6月11日の高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官挨拶
④裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)「裁判手続のデジタル化の今とこれから」
⑤RoootSの全庁導入について(令和6年11月19日の最高裁判所事務総局会議の資料)
⑥民事訴訟手続におけるe提出・e記録管理(デジタル化フェーズ3の未施行部分)に対応するシステムについて(令和6年11月19日の最高裁判所事務総局会議の資料)
⑦日本司法書士会連合会長宛ての最高裁判所の文書(令和6年12月5日付け)
⑧最高裁判所が令和7年2月に民事裁判手続等のIT化「フェーズ3」でのmints利用に関する決定をした際の文書
⑨裁判手続のデジタル化の今後の予定とTreeeSの展開方針について(令和7年8月26日の最高裁判所事務総局会議の資料第5)
⑩TreeeSの先行導入に関する日本弁護士連合会宛ての通知(令和8年2月27日付け)
⑪執行、倒産及び過料手続のデジタル化に伴うシステム開発について(令和6年11月19日の最高裁判所事務総局会議の資料)
⑫刑事手続(少年手続を含む)のデジタル化に係るシステムの段階的開発について(令和6年1月16日の最高裁判所事務総局会議の配布資料)
⑬民事訴訟手続のIT化においてウェブ会議等を活用した争点整理手続の運用(フェーズ1)を開始する日時等について(令和4年2月15日に開示された最高裁判所の文書)
⑭日本司法書士会連合会長宛ての最高裁判所民事局長の書簡(令和5年6月22日付け)
⑮家事調停手続におけるウェブ会議の試行開始について(令和3年10月25日付けの最高裁判所家庭局第一課長の事務連絡)
⑯民事訴訟法(e-Gov法令検索)
⑰民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)
⑱家事事件手続法(e-Gov法令検索)
⑲刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
⑳情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和8年政令第156号。e-Gov法令検索)
㉑経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」
グランドデザインは全15頁を読み,図の頁(3頁・6頁・7頁・8頁)は画像で確認した。
民事訴訟法,民事訴訟費用等に関する法律,家事事件手続法及び刑事訴訟法の施行日は,令和8年10月10日にe-Gov法令APIの改正履歴で確認した。
令和4年法律第48号,令和5年法律第53号及び令和7年法律第39号の附則の施行期日の規定は,改正を受けた法令の版に付された附則で確認した。
民事訴訟法132条の11と民事訴訟費用等に関する法律8条1項は,同日にe-Gov法令APIで現行版の条文を取得して引用した。
最高裁判所の資料の頁は,PDFの頁による。
裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)の頁は,報告書全体の印字頁による。
本記事では裁判例を引用していない。