第1 この記事の結論
刑事手続のデジタル化を定める「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)は,令和7年5月16日に成立し,同月23日に公布された。
同法は一度に全面施行されるのではなく,規定ごとに段階的に施行される。
令和8年10月15日現在,情報通信技術の進展等に伴う犯罪への対応に関する一部規定は令和7年6月12日に,電磁的記録提供命令,ビデオリンク方式による証人尋問及び特定電子移転財産権の没収等に関する一部規定は令和8年5月21日に施行されている。
書類の電子化,電子令状,オンラインによる書類・証拠の授受その他の主要規定は,令和9年3月31日までの間において政令で定める日に施行される。
もっとも,法令上の施行日と,個別事件で電子的な方法を利用できる日とは同じとは限らない。
経過措置,事件の係属時期,電子公訴提起の有無,対象地域・事件及び最高裁判所の指定等を確認する必要がある。
1 刑事手続のデジタル化はいつから始まるか
主要規定は令和9年3月31日までの政令日から施行される予定であり,対象事件は同年3月から7月12日まで地域・罪名別に段階的に拡大される予定である。
全国の全事件が対象となる予定日は令和9年7月12日である。
2 刑事手続のデジタル化で何が変わるか
裁判書類・証拠の電子化,電子令状,オンラインによる申立て・通知・送達・証拠授受及び裁判記録の電子的な閲覧等が段階的に導入される。
ただし,利用するシステムと開始時期は,裁判所,検察庁及び警察で異なる。
3 刑事手続はすべてオンラインになるか
紙の手続や対面での閲覧が直ちにすべてなくなるわけではない。
施行段階,行為者,紙起訴か電子起訴か,証拠の内容・性質及び個別事件の案内によって,電子的方法の義務又は利用可否が異なる。
第2 改正法の三つの柱
1 書類・証拠・令状の電子化
第一の柱は,刑事手続で取り扱う書類を電磁的記録として作成・管理・発受するための規定である。
裁判所,検察官,司法警察職員及び弁護人等の間の申立て・通知・送達,令状の請求・発付・執行並びに証拠の閲覧・謄写等を電子的に行う法的基盤が整備される。
2 ビデオリンク方式の拡大
第二の柱は,勾留質問,弁解録取,裁判所の手続への出頭・出席及び証人尋問等について,映像と音声を相互に送受信する方法の利用範囲を広げることである。
遠隔化は移動負担を減らし得る一方,被疑者・被告人と弁護人の秘密交通,供述状況の把握及び防御権の実質的保障を損なわない運用が必要である。
なお,裁判所等の手続を映像と音声の送受信により行うことと,身体を拘束された被疑者・被告人が弁護人とオンラインで打合せをすることは別の問題である。
改正法附則41条は,刑事訴訟法39条1項の規定による接見の「ほかに」,身体の拘束を受けている被告人等と弁護人等との間における映像と音声の送受信による通話を可能とするための運用上の措置について,政府が必要な取組を推進するものとしている。
同条は,地域の実情を踏まえ,秘密の確保に配慮するとともに不正行為等の防止に万全を期しつつ取組を推進するという,政府の取組を定める規定である。
したがって,この附則だけから,全国の施設で,39条1項の接見と同じ条件のオンラインでの通話が直ちに利用できるとはいえない。
家族等とのオンライン面会の案内を,弁護人との通話へそのまま当てはめることもできない。
実際に利用する場合は,収容施設,対象となる本人と弁護人,申込方法,通話場所,時間・回数,立会い・録音録画の扱い及び資料を示す方法を,その施設と弁護士会の最新の案内で確認する必要がある。
附則41条は衆議院での修正により追加された規定であり(論究245頁),公布の日から施行されている(附則1条1号)。
条文は,成立法律本文PDF117頁で確認できる。
3 情報通信技術の進展に伴う犯罪への対応
第三の柱は,電磁的記録による文書の信頼を害する行為に対する罰則,電子計算機損壊等公務執行妨害罪,暗号資産等に関する没収・没収保全及び通信傍受の対象犯罪の追加等である。
この部分は裁判手続のオンライン化と目的が異なるため,施行時期も分けて確認しなければならない。
第3 施行時期を三段階で確認する
1 令和7年6月12日に施行された規定
令和7年版犯罪白書は,情報通信技術の進展等に伴う犯罪事象へ対応する規定のうち,特定電子移転財産権の没収等を除く部分が令和7年6月12日に施行されたと整理している。
2 令和8年5月21日に施行された規定
電磁的記録を提供させる強制処分,ビデオリンク方式による証人尋問及び特定電子移転財産権の没収・没収保全等に関する規定は,令和8年5月21日に施行された。
この施行日は,令和8年政令第156号が,改正法附則1条3号に掲げる規定の施行期日として定めたものである。
この施行に対応する刑事訴訟規則等の改正も,最高裁判所の規則として公表されている。
3 令和9年3月31日までの政令日
書類の電子化,電子令状,電子的な申立て・通知・送達及び証拠のオンライン授受等の主要規定は,令和9年3月31日までの間において政令で定める日に施行される。
「令和8年度末までに全面運用」とだけ書くと,すべての事件・地域・システムが同日に一斉移行するように読まれかねないため,法令上の施行と実際の利用範囲を分けて説明する必要がある。
最高裁判所の令和7年8月26日の事務総局会議の資料は,令和9年3月からの段階的施行に向けて刑事手続のシステムを開発中としており,民事のTreeeSの全庁導入の時期を決めるに当たっても,令和9年3月の改正刑事訴訟法の一部施行の時期を避けるとしている。
もっとも,主要規定の施行日を定める政令は,令和8年10月15日時点でe-Gov法令検索では確認できない。
なお,令和4年5月の最高裁判所事務総局デジタル推進室の裁判所DXのグランドデザイン(Ver1.0)の時点では,刑事手続のデジタル化に関する改正法案の国会提出時期・施行時期は未定とされていた(同資料10頁)。
4 令和9年3月から7月までの段階的な対象拡大
日弁連会員向け資料が示す予定では,主要規定の施行後も,電子的方法の対象事件は次のように段階的に拡大する。
| 段階 | 期間 | 全事件が対象となる地域 | 覚醒剤単純使用・所持事件が対象となる地域 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 令和9年3月の主要規定施行日から同年5月9日まで | なし | 東京・神奈川・埼玉・千葉 |
| 第2段階 | 令和9年5月10日から同年6月13日まで | 東京・神奈川・埼玉・千葉 | 大阪・愛知・広島・福岡・宮城・北海道・香川を追加 |
| 第3段階 | 令和9年6月14日から同年7月11日まで | 前記11地域 | 全国 |
| 第4段階 | 令和9年7月12日以降 | 全国 | 全国 |
詳しい適用判断は,刑事手続デジタル化はいつから始まるか―令和9年3月から7月までの地域・罪名別スケジュール(AI作成)を参照されたい。
第4 電子令状と電磁的記録提供命令
1 電子令状
主要規定の施行後は,逮捕状,捜索差押許可状その他の令状を電磁的記録として請求・発付・執行するための規定が用いられる。
令状の電子化は単なるPDF化ではなく,請求者,発付裁判官,執行者,令状の同一性及び執行状況を適切に管理する仕組みを必要とする。
2 電磁的記録提供命令
令和8年5月21日に施行された電磁的記録提供命令は,必要な電磁的記録を記録媒体へ記録させ,又は指定された電子計算機へ送信させる強制処分である。
クラウドサービスその他の遠隔保管が一般化したことに対応する制度であり,対象,必要性,範囲及び執行方法を令状等の記載に即して確認する必要がある。
3 電子令状と夜間・休日の一般令状事務の集約
電子令状の請求・発付の仕組みと,その事務をどの裁判所の態勢で処理するかは,関連するが別の問題である。
令和8年3月12日の刑事規則制定諮問委員会議事録は,平日夜間・休日の一般令状事務の集約方針と,勾留,没収保全命令及び追徴保全命令等を対象外とする検討を説明している(PDF14頁)。
対面のやり取りや事前調整が適するもの,電子請求が難しい大量の紙記録を伴うもの等についても,対象外とする考え方が示されている。
同議事録は,システム障害等に備え,従来の管轄裁判所や,やむを得ない事情がある場合の最寄りの下級裁判所への請求を行い得る態勢の確保も説明している(PDF15頁)。
これは3月時点の制度設計・運用に関する説明であり,最終的な対象範囲や運用開始日を確定する資料として読むことはできない。
法律の施行,最高裁判所の指定,各システムの利用開始及び集約態勢の開始は,それぞれ最新の公表内容で確認する必要がある。
令和8年10月に報じられた東京・大阪への集約と職員の夜間勤務の関係は,裁判所の夜間業務とは―宿日直・令状審査,女性職員への割当てと東京・大阪への集約(AI作成)で説明している。
集約の計画から,全ての令状や保釈請求等の提出先が既に変更されたと推測してはならない。
第5 オンライン証拠開示は一律ではない
改正法は,証拠書類等の閲覧・謄写や証拠一覧表の提供を電子的な方法で行うための規定を整備する。
しかし,制度化されたことは,すべての証拠が必ずオンラインで開示されることを意味しない。
法制審議会へ提出された法務省の公開資料は,証拠の内容や性質を考慮して方法を選ぶことを前提とし,性犯罪の犯行状況を記録した動画等,オンラインで閲覧・謄写させることが適切でない場合には,検察庁での閲覧等を残す考え方を示している。
したがって,弁護人は,証拠の種類ごとに,オンライン閲覧,ダウンロード,庁舎内閲覧,書面謄写その他の方法を確認する必要がある。
また,検察官から弁護人への証拠開示と,裁判所が保管する訴訟記録の閲覧・謄写と,判決確定後に保管検察官が保管する刑事確定訴訟記録の閲覧とは,法的根拠及び保管主体が異なる。
一つのオンライン化の説明を,別の段階の記録へそのまま当てはめてはならない。
第6 個別事件への適用を決める事項
個別事件で電子的な方法を利用できるかは,少なくとも次の事項を確認して判断する必要がある。
① 問題となる行為が,電子申立て,電子令状,証拠開示,裁判所記録の閲覧,確定記録の閲覧又はビデオリンク手続のいずれであるか。
② 当該規定の施行日と,経過措置の内容。
③ 事件の起訴時期,電子公訴提起の有無及び事件の係属段階。
④ 最高裁判所の指定する裁判所・地域・事件の範囲。
⑤ 裁判所又は検察庁から個別事件について示された利用案内。
⑥ 対象証拠の内容・性質に照らし,オンライン交付等が認められるか。
この確認をしないまま,「改正法が施行されたから紙の手続は終了した」,又は「システムが開発中だから改正法は施行されていない」と判断することはできない。
第7 裁判所・検察庁・警察の三つのシステム
刑事手続のデジタル化で弁護士が利用する入口は一つではなく,裁判所,検察庁及び警察のシステムを区別する必要がある。
| 運営主体 | 公表されている名称・方式 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 裁判所 | LinKageCourts | 電子申立て,証拠データ提出,裁判記録のオンライン閲覧等 |
| 検察庁 | Microsoft SharePointを利用する弁護人選任届・証拠開示等システム | 弁護人選任届等の提出,事件別サイトを通じた証拠等の授受 |
| 警察 | 告訴・告発等に関する電子的な受付システム | 告訴・告発等の提出。詳細な運用は今後の公表資料と個別案内で確認 |
LinKageCourtsの利用者登録は令和9年3月上旬に始まる予定であり,GビズID又はLinKageIDを利用する。
詳しくは,LinKageCourtsとは―刑事・少年事件の電子申立て,利用者登録,GビズIDとLinKageID(AI作成)を参照されたい。
検察庁システムでは,日弁連経由の一括登録と事件単位登録が区別され,選任届提出用サイトと事件別サイトも別である。
詳しくは,検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システムとは―一括登録,事件単位登録及び事件別サイト(AI作成)を参照されたい。
三つのシステムは相互に別であり,一つの利用者登録を終えただけで他のシステムも使えるとは限らない。
法律の施行工程と,各システムの開発・展開工程も分けて確認する必要がある。
第8 弁護士事務所の準備
1 事件ごとの入口を固定する
担当者は,裁判所記録,検察官開示証拠及び確定記録を混同せず,事件ごとに利用する窓口・システム,対象資料,提出又は閲覧の期限及び受領確認の方法を記録する必要がある。
2 送信と期限の証拠を残す
オンライン送信では,送信前の最終版,送信日時,受付結果,エラーメッセージ及び相手方からの通知を保存する。
システム障害が生じた場合に備え,公表された障害情報,裁判所又は検察庁への連絡内容及び代替提出を時系列で残すことが重要である。
3 証拠データの権限を絞る
刑事証拠には,供述,医療,位置情報,画像・動画その他の機微情報が含まれ得る。
利用者ごとの権限,二要素認証,端末・保存先,ダウンロード後の複製,事件終了後の保存・削除及び退職者等の権限停止を事務所内の手順として定める必要がある。
第9 公開資料で確認できることと確認できないこと
令和7年法律第39号の内容と法定の施行期限,令和7年6月12日及び令和8年5月21日の各施行部分,オンライン証拠開示の制度設計並びに裁判所のシステム名称・調達工程は,法務省,e-Gov法令検索及び裁判所の公開資料で確認できる。
日弁連会員向け資料では,令和9年3月から7月までの対象事件の拡大予定,LinKageCourtsの利用者登録及び検察庁システムの登録・招待方法が示されている。
これらは令和8年10月15日現在の予定であり,政令,規則又はその後の運用通知により変更される可能性がある。
個別事件では,法令上の施行日だけでなく,事件の地域・罪名,公訴提起の方法,事件の係属段階及び担当機関から現に示された案内を確認する必要がある。
公開資料又は会員向け資料に記載のない最終的な画面操作,障害時の代替手段及び警察システムの詳細は,各機関の最新案内によって確認することになる。
第10 関連記事
① 刑事手続デジタル化はいつから始まるか―令和9年3月から7月までの地域・罪名別スケジュール(AI作成)
② LinKageCourtsとは―刑事・少年事件の電子申立て,利用者登録,GビズIDとLinKageID(AI作成)
③ 検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システムとは―一括登録,事件単位登録及び事件別サイト(AI作成)
④ 刑事記録の入手方法-捜査中・公判中・不起訴・確定後の手続(AIリライト)
⑤ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)(AIリライト)
⑥ 判決確定後の刑事記録(刑事確定訴訟記録)の入手方法――閲覧・謄写の手続と法的根拠(AIリライト)
⑦ 裁判所の情報化の流れ――ワープロ,J・NETからmints,TreeeS,刑事手続のデジタル化まで(AIリライト)
⑧ 最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS(AIリライト)
⑨ 裁判所DXのグランドデザイン(令和4年5月)の計画と実績―フェーズ3,RoootS・TreeeS,家事・刑事のデジタル化はどこまで予定どおりか(AI作成)
⑩ 刑事判決書の電子交付は8400円?―閲覧・謄写,紙の謄本との違い(AI作成)
第11 出典
追記した一般令状事務の集約の説明は,刑事規則制定諮問委員会議事録(令和8年3月12日)PDF14頁~15頁による。
同日の検討内容と,最終的な指定・運用開始は区別して読む必要がある。
① e-Gov法令検索「刑事訴訟法」
② 法務省「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」
③ 法務省「令和7年版犯罪白書 第2編第1章」
④ 参議院「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」
⑤ 法務省法制審議会資料「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会取りまとめ報告書」
⑥ 最高裁判所「令和8年6月10日高等裁判所長官・地方・家庭裁判所長会同挨拶」
⑦ 最高裁判所「次期裁判統計データ処理システムの事件管理システムとの連携インターフェース改修等に関する公募資料」
⑧ e-Gov法令検索「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(令和8年政令第156号)
⑨ 最高裁判所「裁判手続のデジタル化の今後の予定とTreeeSの展開方針について」(令和7年8月26日の事務総局会議の資料第5)
⑩ 最高裁判所事務総局デジタル推進室「裁判所のデジタル化について(裁判所DXのグランドデザイン)(Ver1.0)」(令和4年5月)
本人と弁護人等とのオンライン通話に関する説明は,令和7年法律第39号附則1条1号及び41条(上記④のPDF104頁・117頁)並びに中村竜太郎・中村健志・佐藤百「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律について」RESEARCH BUREAU 論究22号245頁による。
施設ごとの実施条件は,各施設と弁護士会の最新の案内で確認する必要がある。