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刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)(AIリライト)

この記事は,刑事裁判が係属している段階で,加害者(被告人)側が起訴事件の刑事記録をどのような方法で入手できるかを整理したものです。
検察庁での証拠開示による入手,裁判所に提出された記録の閲覧・謄写,入手した記録の目的外使用の禁止と罰則,被告人への交付や民事訴訟での利用に当たっての注意点,判決書謄本の取得までを対象とします。
条文は2026年7月時点のe-Gov法令検索及び最高裁判所が公表する刑事訴訟規則により確認しています。

第1 弁護人を通じた検察庁での記録の入手

1 第1回公判期日前の証拠開示

弁護人は,第1回の公判期日前に,検察官が取調べを請求する予定の証拠書類及び証拠物を閲覧する機会を与えられます(刑事訴訟法299条1項本文,刑事訴訟規則178条の6第1項1号)。
そのため,加害者(被告人)は,依頼している弁護人を通じて,起訴事件の刑事記録を入手することができます。
この段階で開示される証拠は,検察官が取調べを請求する予定のものが中心であり,取調べ請求が予定されていない証拠まで当然に閲覧できるわけではありません。

2 検察庁の窓口での閲覧・謄写の実務

公判提出予定記録の閲覧の運用は,検察庁ごとに異なります。
大阪地検本庁で弁護人が公判提出予定記録の閲覧をする場合,午前であれば11時40分までに,18階の窓口に,証拠書類閲覧・謄写申請書及び弁護人選任届等の写しを持参します。事前の予約は不要とされています。
神戸地検本庁で閲覧をする場合は,5階の会議室で閲覧することになります。
これらは各庁の運用の一例であり,実際の受付時間や窓口の場所は,事前に担当検察官又は事件係へ確認するのが確実です。

第2 開示証拠の目的外使用の禁止と罰則

1 目的外使用が禁止される範囲(刑訴法281条の4)

平成17年11月1日に施行された改正刑事訴訟法により,被告人若しくは弁護人又はこれらであった者は,検察官が被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠(開示証拠)の複製等を,刑事訴訟法281条の4第1項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で,人に交付し,又は提示し,若しくは電気通信回線を通じて提供してはなりません(刑事訴訟法281条の4第1項)。
禁止の対象となるのは被告人だけではなく,弁護人(刑事訴訟法440条に規定する弁護人を含みます。)も主体に含まれます。
使用が許される目的は,当該被告事件の審判手続や,費用補償・上訴権回復の請求・再審請求・刑事補償の請求といった密接に関連する手続及びその準備に限られています。

2 違反に対する罰則(刑訴法281条の5)

被告人又は被告人であった者がこの禁止に違反したときは,1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます(刑事訴訟法281条の5第1項)。
令和4年法律第67号による懲役・禁錮の拘禁刑への一本化が令和7年6月1日に施行されたことに伴い,法定刑は「拘禁刑」となっています。
弁護人又は弁護人であった者については,対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で開示証拠の複製等を交付等したときに限って,同様の罰則が科されます(刑事訴訟法281条の5第2項)。

3 実際に立件された事例

この禁止は,実際に立件された事例があります。
自己が被告人であった公務執行妨害事件(法廷で警備職員にかみついたとされる事件)の開示証拠を,実況見分の写真や関係者の氏名が記載された書類を含めて動画投稿サイトに掲載したとして,会社役員が平成25年(2013年)3月に刑事訴訟法違反(開示証拠の目的外使用)の疑いで逮捕された事例が報道されています。
開示証拠の取扱いを誤ると刑事責任が問われ得ることを示す例といえます。

4 刑事記録の民事転用と弁護士の懲戒

入手した刑事記録の取扱いは,弁護士の懲戒とも関係します。
刑事事件の弁護人から送付を受けた記録を,弁護士法23条の2に基づく照会,刑事確定訴訟記録法による閲覧,民事訴訟における文書送付嘱託といった証拠収集手続を経ることなく,そのまま民事訴訟の書証として提出することは,慎重であるべき刑事事件記録の取扱いとしても代理人の活動としても軽率に過ぎるとされ,事件記録の保管等に関する注意義務を定めた弁護士職務基本規程18条及び事件処理の報告・協議を定めた同36条に反すると評価された懲戒事例があります(平成30年弁護士懲戒事件議決例集(第21集)89頁)。
刑事記録を民事事件で用いる場合には,適切な証拠収集手続を経ることと,関係者の秘密・プライバシーへの配慮が求められます。

第3 弁護人が被告人に開示証拠を交付するときの注意点

1 説明義務と配慮義務(会規74号)

弁護士は,開示証拠の複製等を被告人に交付等するときは,被告人に対し,複製等に含まれる秘密及びプライバシーに関する情報の取扱いに配慮するよう注意を与えなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程〔平成18年3月3日会規第74号〕3条1項)。
また,交付等に当たり,開示証拠の複製等を審理準備等の目的以外の目的でする交付等の禁止及びその罰則を規定する刑事訴訟法281条の4第1項及び281条の5第1項の内容を,被告人に説明しなければなりません(同規程3条2項)。

2 被害者等の個人情報のマスキング

弁護士が被告人に刑事記録を交付する場合には,事件の検討に直接関係しない犯罪被害者等の個人情報をマスキングすることがあります(東弁リブラ2014年8月号「開示記録を差し入れる際の注意点」)。
記録全部を配慮なく交付するのではなく,防御に必要な範囲と関係者の秘密保持との調整が実務上意識されています。

第4 裁判所に提出された記録の閲覧・謄写

1 弁護人の固有権としての閲覧・謄写(刑訴法40条)

弁護人は,弁護人自身の権限(固有権)として,公訴の提起後,裁判所において,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ,謄写することができます(刑事訴訟法40条本文)。
ただし,証拠物を謄写するについては,裁判長の許可を受ける必要があります(刑事訴訟法40条ただし書)。
弁護人による閲覧・謄写は,被疑者・被告人の意思から独立して行うことができます(刑事訴訟法41条)。
略式命令請求の手続においても,弁護人は訴訟記録の閲覧謄写をすることができます。

2 被告人及び検察官の権限

検察官は公益の代表者ですから,公訴の提起後,裁判所構外においても,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ,謄写することができます(刑事訴訟法270条1項)。
これに対し,被告人自身は,弁護人が付いていない場合に限り,公判調書を閲覧することができるにとどまり(刑事訴訟法49条,刑事訴訟規則50条),それ以外の刑事記録を閲覧することはできません。

3 ビデオリンク記録媒体の謄写制限

ビデオリンク方式により証人尋問の状況が記録された記録媒体(刑事訴訟法157条の6第5項)は,証人のプライバシー,名誉,心情が害される度合いが大きいことから,閲覧のみが認められ,謄写はできません。
弁護人がこの記録媒体を謄写できない根拠は刑事訴訟法40条2項であり,検察官が謄写できない根拠は刑事訴訟法270条2項です。

4 謄写の方法と裁判長の許可

弁護人が司法協会又は弁護士協同組合を通じて刑事記録を謄写するときは,自己の使用人その他の者に閲覧又は謄写をさせる形をとることになり,裁判長の許可が必要となります(刑事訴訟規則31条)。
もっとも,通常はこの許可がおります。

5 撮影方法の制限と刑事手続のIT化

謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができるという定め(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条2項参照)は,刑事訴訟法及び刑事訴訟規則にはありません。
そのため,弁護人が刑事記録を謄写する際に,撮影機能を使用した撮影をしてはならないといった制限を裁判所から受ける法的根拠は,現行法上は見当たらないと考えられます。
刑事手続のIT化については,かつては法務省の検討会(刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会)で電子データである証拠等のオンラインによる閲覧・謄写・交付が提案されていた段階でしたが,その後,情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律が令和7年(2025年)5月16日に成立し,証拠等のオンラインによる閲覧・謄写・交付が制度化されました。政府は段階的に運用を始め,令和8年度(2026年度)末までの全面施行を予定しています。

第5 被害者特定事項等への配慮

検察官又は弁護人は,証人,鑑定人その他その氏名が証拠に記載された者又はこれらの親族に危害が加えられるおそれ等があると認めるときは,相手方に対し,これらの者の住居その他その通常所在する場所が特定される事項が,関係者(被告人を含みます。)に知られないよう配慮することを求めることができます(刑事訴訟法299条の2)。
また,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれ等があると認められる場合に,検察官から配慮を求められたときは,弁護人は,被告人その他の者に被害者特定事項を知られないように配慮しなければなりません(刑事訴訟法299条の3)。

第6 起訴事件の刑事記録を民事訴訟等で利用する場合

1 利用の手順

民事事件等で起訴事件の刑事記録を利用したい場合には,検察官請求証拠又は弁号証として取り調べられた書証を,刑事事件が係属している裁判所で刑事訴訟法40条1項本文に基づきコピーし,住所・電話番号その他事件の結論と関係のない個人情報を黒塗りにした上で,これを民事事件に提出する方法が考えられます。

2 目的外使用制限が及ぶかどうかの考え方

刑事訴訟法40条に基づくコピーの民事利用については,見解が分かれています。
立案担当者の解説では,40条に基づくコピーも,検察官の開示記録と同様に,刑事訴訟法281条の4第1項各号所定の目的でしか使用できないとされています(「刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)について(1)」法曹時報57巻7号29頁及び30頁)。
実務の体系的な解説書も,40条の規定により謄写をしたものであっても,当該証拠が検察官の開示した証拠である限り,目的外使用禁止(刑事訴訟法281条の4)の対象になると解しており,これが現在の一般的な理解です。

他方で,弁護人又は被告人の手元にある開示記録は第三者の閲覧を予定したものではないのに対し,刑事記録は,被告事件の終結後は何人でも閲覧することができます(刑事訴訟法53条1項)。この公開が予定された記録のコピーの民事利用まで一律に制限されると解するのは相当でなく,まして,弁護士の懲戒請求や検察審査会への審査申立てといった第三者による閲覧が予定されていない手続での利用まで制限されると解するのは相当でない,という考え方もあります。
被告事件終結後に何人でも記録を閲覧できるという仕組みの背景には,公開の法廷で取り調べられた記録は公開が予定されているという公開裁判の原則(日本国憲法82条,市民的及び政治的権利に関する国際規約〔自由権規約〕14条1項)があります。
この論点については,平成18年3月3日の日弁連臨時総会でも,公開の法廷で取り調べ済みの記録を社会に対する主張のために利用する場合の取扱いが議論されており,被告人の防御のために法廷で取り調べ済みの記録を用いる場合には,現実に第三者の秘密・プライバシー・名誉が侵害されたのでなければ多くの場合違法性が阻却されるであろうとの説明がされています。

第7 判決書謄本の交付請求と調書判決

1 判決書謄本の交付請求(刑訴法46条)

被告人その他の訴訟関係人は,自己の費用で,裁判書の謄本又は抄本の交付を請求することができます(刑事訴訟法46条)。
弁護人が,判決宣告の日から14日以内でかつ判決の確定前に判決書謄本の交付請求をした場合には,裁判所は判決書を作成することになります(刑事訴訟規則219条1項ただし書)。

2 調書判決(刑訴規則219条)

これに対し,判決書謄本の交付請求がされなかった場合,地方裁判所又は簡易裁判所においては,上訴の申立てがないときに,裁判所書記官が判決主文並びに罪となるべき事実の要旨及び適用した罰条を判決宣告の公判期日の調書の末尾に記載し,これをもって判決書に代えることができます(刑事訴訟規則219条1項本文)。これを調書判決といいます。
判決書が作成された場合には,調書判決と異なり,証拠の標目が記載されます(刑事訴訟法335条1項)し,通常は量刑の理由も記載されます。

3 交付請求の手数料

判決書謄本の交付請求には,謄本の用紙1枚につき60円の費用がかかり(刑事訴訟法施行法10条1項前段),この費用は収入印紙で納めることができます(同条2項)。

第8 関連記事

起訴事件の刑事記録の入手方法については,立場や段階に応じて,次の記事も参照してください。

出典

1 法令・条約

  • 刑事訴訟法40条,41条,46条,49条,53条,157条の6,270条,281条の4,281条の5,299条,299条の2,299条の3,335条
  • 刑事訴訟法施行法10条
  • 刑事訴訟規則31条,50条,178条の6,219条
  • 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条
  • 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号。懲役・禁錮の拘禁刑への一本化。令和7年6月1日施行)
  • 情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年〔2025年〕5月16日成立) 法務省の法案説明ページ
  • 日本国憲法82条,市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)14条1項

2 公文書・議事

3 文献

  • 東弁リブラ2014年8月号「開示記録を差し入れる際の注意点」(東京弁護士会)
  • 「刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)について(1)」法曹時報57巻7号29頁~30頁
  • 中山善房ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第3版〕第5巻』(青林書院)刑事訴訟法281条の3~281条の5の解説

4 ウェブ資料