第1 8400円は何の費用か
令和7年法律第39号による改正後の刑事訴訟法46条2項は,裁判書が電磁的記録である場合等に,その内容と同一であることの証明がされた書面又は電磁的記録の提供を請求する制度を設けている。
同法による改正後の刑事訴訟法施行法10条2項は,その費用を,当分の間,書面については用紙1枚につき60円,電磁的記録については1件につき8400円と定めている。
したがって,8400円は,同一であることの証明がされた電子データとして裁判書の提供を受ける場合の費用である。
刑事記録の閲覧,裁判所のウェブサイトに掲載された判決の閲覧又はオンラインでの証拠開示について,一律に8400円がかかる制度ではない。
また,46条2項と施行法10条2項を定める改正規定は,刑事手続の電子化に関する主要規定と同じく,令和9年3月31日までの間において政令で定める日から施行される。
令和8年10月23日現在,その施行日を定める政令は,e-Gov法令検索では確認できない。
適用時期と対象事件については,第4で説明する。
第2 紙の謄本,証明付きの提供,閲覧・謄写の違い
1 取得方法ごとの根拠と費用
刑事判決書の内容を手元に置く方法は,次のように根拠と費用が異なる。
| 取得方法 | 根拠 | 費用・注意点 |
|---|---|---|
| 紙の裁判書の謄本・抄本の交付 | 刑事訴訟法46条(改正後は46条1項) | 刑事訴訟法施行法10条1項により用紙1枚につき60円 |
| 電磁的記録である裁判書について,同一であることの証明がされた書面の提供 | 改正後の刑事訴訟法46条2項 | 改正後の施行法10条2項により用紙1枚につき60円 |
| 電磁的記録である裁判書について,同一であることの証明がされた電磁的記録の提供 | 改正後の刑事訴訟法46条2項 | 改正後の施行法10条2項により1件につき8400円 |
| 弁護人による訴訟記録の閲覧・謄写 | 刑事訴訟法40条,改正後の40条の2 | 46条2項の提供請求とは別の制度であり,8400円の対象ではない。方法によっては裁判長の許可を要する |
例えば,証明付きの書面で10枚の提供を受ける場合,用紙代の計算は1枚60円として600円となる。
これは上の表の単価だけを計算した例であり,郵送等の付随費用や具体的な請求方法まで定めたものではない。
2 閲覧・謄写と証明付きの提供は別の手続
弁護人による閲覧・謄写について,改正後の刑事訴訟法40条2項は,証拠物の謄写,電磁的記録を複写する方法による謄写及び書類等を電磁的記録として記録する方法による謄写に,裁判長の許可を要するとしている。
また,改正後の40条の2は,裁判所のファイルに記録された訴訟に関する書類又は証拠物を,裁判長の許可を受けて,裁判所の規則で定める電磁的方法により閲覧・謄写する制度である。
閲覧・謄写によって判決書の内容を確認・保存できても,それは同一であることの証明がされた裁判書の提供とは異なる。
『自由と正義』令和8年10月号の野上小夜子論稿も,同一事項の証明がされた判決書が必要な場合は,閲覧・謄写ではなく裁判書の提供請求が必要になると説明している(同号24頁)。
証明付きの裁判書の提供を求める46条2項と,閲覧・謄写を定める40条・40条の2を同じ手続として扱うと,費用と許可の要否を取り違えることになる。
起訴後の被告人側による記録入手の全体像は,刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)で説明している。
第3 電子データの提供が高額な理由
令和7年4月1日の衆議院法務委員会で,森本宏法務省刑事局長は,裁判書等の電子データを提供する場合には,セキュリティー確保の観点から,請求者が持参した記録媒体を検察庁や裁判所の電子機器に接続することはできないと答弁している。
その上で,無限定な拡散を防止するセキュリティー措置を講じることができる記録媒体を提供する側で用意する必要があり,8400円は,1件当たりの人件費と記録媒体の購入費用を含む物件費を積算して定めたと説明している。
同じ答弁では,記録媒体にコピーガード等の機能が必要であることが電磁的記録の費用が高い理由として挙げられ,請求者は利用目的や費用を考慮して,電子データと書面のどちらの提供を請求するかを自由に選択できるとされている。
また,例えば100枚であれば書面では6000円となるため,その程度以上の分量であれば,データで受け取る方が使いやすいと考える者もいるのではないかとの見通しも述べられている。
ただし,これらは法案審議時の政府の説明である。
具体的に使用される媒体の種類,保存・印刷の可否及び請求の手順は,法律の条文から確定することはできない。
実際に請求するときは,裁判書を保管する裁判所等の案内を確認する必要がある。
出典:第217回国会衆議院法務委員会第7号(令和7年4月1日)の発言124~129。
第4 施行時期と適用対象の確認
1 施行時期
令和7年法律第39号は,規定ごとに施行時期が異なる。
附則1条本文は,同法を令和9年3月31日までの間において政令で定める日から施行するとしており,刑事訴訟法40条の2,46条2項及び刑事訴訟法施行法10条2項を定める改正規定は,この本文の施行日に施行される。
令和8年5月21日に施行された電磁的記録提供命令等の規定と,裁判書・記録の電子化や電子申立てに関する規定を,同じ時点の制度と考えることはできない。
2 経過措置と段階的な対象拡大
改正法附則3条は,施行日前に公訴の提起があった事件等に係る公判調書について,なお従前の例によるとしている。
同条は,最高裁判所の定める「特定刑事事件」のうち,施行日から2年を超えない範囲内において政令で定める日(特定日)前に公訴の提起があった事件にも,同じ扱いを及ぼしている。
調書判決のように裁判が公判調書に記録される場合も含め,対象書類が紙で作成されているのか,電磁的記録として作成されているのかは,利用できる請求方法を判断する上で重要である。
46条2項は,裁判書が電磁的記録であるとき,又は裁判が電磁的記録である調書に記録されているときの制度である。
電子化に関する法律が成立したことだけを理由に,手元の事件について直ちに8400円の電子データによる提供を受けられるとは限らない。
施行段階の全体像は,刑事手続のデジタル化はいつから?―令和7年法律第39号,電子令状・証拠開示とLinKageを参照されたい。
地域・罪名別の対象拡大の予定は,刑事手続デジタル化はいつから始まるか―令和9年3月から7月までの地域・罪名別スケジュールで整理している。
第5 判決書の取得前に確認する事項
裁判所等に請求する前に,次の事項を整理しておくと,必要な証明と費用を確認しやすい。
① 対象の裁判所,事件番号,裁判年月日及び必要な裁判書。
② 請求する者が訴訟関係人に当たるか,代理人が請求するときにどのような資格の確認が必要か。
③ 内容を確認するための写しで足りるか,提出先が求める証明付きのものが必要か。
④ 全文が必要か,抄本又は一部の証明で足りるか。
⑤ 対象の裁判書が紙か電磁的記録か,その事件で利用できる請求・提供の方法は何か。
⑥ 1枚又は1件という算定単位,納付方法,受取方法及び付随費用。
提出先が必要とする証明の種類は,提出先にも確認する必要がある。
裁判書の内容が元の裁判書と同一であることの証明と,裁判が確定したことの証明は,証明する事項が異なる。
「証明付きの判決書データを受け取れば,必要な証明がすべてそろう」とは考えない方がよい。
第6 よくある疑問
1 判決のPDFを見るだけでも8400円か
8400円は,改正後の刑事訴訟法46条2項に基づく証明付きの電磁的記録の提供について定められた費用である。
裁判所のウェブサイトに掲載された裁判例の閲覧や,別の根拠による訴訟記録の閲覧・謄写に,この金額が適用されるわけではない。
裁判所のウェブサイトに掲載された判決のPDFを印刷しても,個別事件の謄本や46条2項による証明付きの提供物になるわけではない。
2 電子データでの提供が始まれば紙は選べなくなるのか
改正後の46条2項は,同一であることの証明がされた「書面又は電磁的記録」の提供請求を定め,施行法10条2項も書面と電磁的記録の費用を別々に定めている。
国会答弁でも,請求者が電子データと書面のどちらの提供を請求するかを選択できると説明されている。
この制度について,電子データによる提供しか選べないという理解は正確ではない。
3 第三者も8400円を払えば取得できるのか
46条2項の請求主体は,被告人その他訴訟関係人である。
費用を支払えば誰でも,あらゆる事件の判決書をこの制度で取得できるという規定ではない。
第三者による記録の閲覧,判決確定後の記録の取扱い,被害者等による閲覧・謄写は,それぞれ該当する制度と要件を確認する必要がある。
判決確定後の記録については,判決確定後の刑事記録(刑事確定訴訟記録)の入手方法――閲覧・謄写の手続と法的根拠で説明している。
第7 関連記事
① 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
② LinKageCourtsとは―刑事・少年事件の電子申立て,利用者登録,GビズIDとLinKageID
③ 検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システムとは―一括登録,事件単位登録及び事件別サイト
④ 刑事手続のデジタル化はいつから?―令和7年法律第39号,電子令状・証拠開示とLinKage
⑤ 電磁的記録提供命令とは-記録命令付差押えとの違い,令状の記載事項,秘密保持命令及び罰則
⑥ 刑事記録の入手方法-捜査中・公判中・不起訴・確定後の手続
第8 出典
① 参議院「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)」第2条(刑事訴訟法40条,40条の2及び46条の改正。PDF10頁~11頁),第6条(刑事訴訟法施行法10条の改正。PDF52頁),附則1条及び3条(PDF104頁~107頁)。
② 国会会議録「第217回国会衆議院法務委員会第7号(令和7年4月1日)」発言124~129(森本宏法務省刑事局長の答弁は発言125,127及び129)。
③ e-Gov法令検索「刑事訴訟法」の改正履歴(令和8年10月23日確認)。
④ 野上小夜子「刑事手続のデジタル化とLinKage」自由と正義77巻10号(令和8年10月号)20頁~25頁(証明付きの裁判書の提供請求と費用の説明は24頁)。