第1 義務化を判断する四つの軸
1 結論
mintsによる電子申立ての義務化は,改正民事訴訟法が全面施行された令和8年5月21日に始まった。ただし,この日から全員が全ての裁判手続をmintsで行うことになったわけではない。義務の有無は,①誰が提出するか,②どの事件か,③何を提出するか,④電子提出できない法定の事情があるか,の四つを順に確認して判断する。
| 提出者 | 電子申立て義務 | 留意点 |
|---|---|---|
| 委任を受けた訴訟代理人 | あり | 裁判所の許可を得た非弁護士の許可代理人は除外される |
| 国の指定代理人 | あり | 指定の対象となった事件に限る |
| 地方自治法153条1項により委任を受けた職員 | あり | 委任を受けた事件に限る |
| 個人の本人当事者 | なし | 紙提出は可能であるが電子利用が促進されている |
| 法人の代表者本人 | なし | 法人であることだけでは義務者にならない |
| 裁判所の許可を得た簡裁の許可代理人 | なし | 民事訴訟法第54条第1項ただし書の者である |
地方公共団体の職員については,所属や「委任」という名称だけで判断せず,民事訴訟法132条の11第1項3号の範囲を確認する必要がある。
FAQ6頁は,地方自治法180条の2の委任を受けた職員を,同号の義務者と同視しないと説明している。
2 日付だけでは判断できない
令和8年5月21日という施行日は出発点であるが,控訴又は抗告が同日以後に申し立てられた場合でも,原審事件の申立日が同月20日以前なら旧法事件として扱われる。提出者の職業が弁護士であるかどうかだけでなく,その事件について委任を受けた訴訟代理人として提出するのか,本人当事者として提出するのかも区別する必要がある。
第2 電子申立てを義務付けられる者
1 委任を受けた訴訟代理人
民事訴訟法第132条の11第1項第1号は,訴訟代理人のうち委任を受けた者に,委任を受けた事件の電子申立てを義務付ける。典型は代理人として選任された弁護士であり,簡易裁判所で認定司法書士が訴訟代理人となる場合又は特許関係事件で弁理士が代理権を有する場合も,個別法上の代理権と委任の有無に応じて判断する。
同号は,民事訴訟法第54条第1項ただし書によって裁判所の許可を得た許可代理人を明示的に除いている。単に「代理人」と呼ばれる者を全て義務者と説明するのは正確ではない。
2 国及び地方公共団体の担当者
同項第2号は,国の利害に関係のある訴訟について法定の指定を受けた者を,指定の対象事件について義務者とする。同項第3号は,地方自治法第153条第1項により委任を受けた職員を,委任を受けた事件について義務者とする。
国又は地方公共団体が当事者であること自体ではなく,指定又は委任に基づいて訴訟行為をする者が条文上の義務者である。地方公共団体の組織アカウント又は職員の登録方法は,電子申立て義務の根拠とは別に確認する必要がある。
3 本人当事者は義務者ではない
個人本人,法人の代表者本人又は法人でない社団・財団の代表者が自ら訴訟を行う場合は,同項各号の義務者に含まれない。会社が訴訟当事者である,法務部がある又はmintsアカウントを持っているというだけで,法律上の電子申立て義務が生ずるわけではない。
もっとも,民事訴訟規則第52条の12は,電子申立てに必要な機器を利用できない事情がある場合を除き,義務者以外にも電子申立てを行うことを求める趣旨の利用促進規定である。本人に義務がないことと,制度が本人の電子利用を促進していることは両立する。
第3 義務の対象となる行為
1 書面等でする申立てその他の申述
民事訴訟法第132条の10第1項は,民事訴訟に関する手続で法令上書面等をもって行うものとされる申立てその他の申述を,裁判所の電子情報処理組織により行えると定める。同法第132条の11第1項の義務者は,その委任・指定・委任職員としての対象事件で,この範囲の申立て等を電子的に行わなければならない。
訴状,答弁書,準備書面及び書証の写しだけでなく,事件の進行中に法令上書面等で行う申立て・届出も対象になり得る。個別の提出物が「記録一覧」か「記録外」か,添付資料をどの形式で出すかは,mints操作マニュアル2.3版及び係属裁判所の指示で確認する。
2 口頭ですることができる申立ての例外
同法第132条の11第1項ただし書は,口頭ですることができる申立て等を実際に口頭でする場合,電子申立て義務を適用しない。口頭申立てが法令上許されるかどうかを確認せず,書面提出を避けるために任意の申立てを口頭へ変更できるという意味ではない。
3 システム送達の届出
同条第2項は,第1項各号の義務者に,システム送達を受ける旨の届出も義務付ける。義務者が届出をしない場合でも,同法第109条の4により,通知メールを発することなくシステム送達が行われ,利用可能化から1週間で効力が生ずることがある。そのため,届出をしなければ紙送達になると考えることは危険である。
第4 紙提出が認められる法定例外
1 責めに帰することができない事由
民事訴訟法第132条の11第3項は,義務者が裁判所の電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により電子申立てを行えない場合に,電子申立て義務を適用しない。民事訴訟規則第52条の14は,この例外により書面で申し立てる場合,電子申立てができない理由とその具体的内容を記載した書面の添付を求める。例外事由の立証責任は,書面で提出する側にある(準備の手引10頁)。
全国的又は裁判所側の大規模障害と,利用者側の端末・通信・認証の問題では,必要な説明が異なる。利用者側の事情では,代替端末,別回線又は裁判所設備を利用できたかなど具体的事実によって判断が分かれ得るため,単なる便宜,操作への不慣れ又は準備不足だけで当然に例外となるわけではない。この例外は電子申立て義務の適用を除外するものにとどまり,システム障害によって生じた損害について裁判所が賠償責任を負うか否かは別の問題である。この点はmints利用規約を読むで扱った。
準備の手引は,例外が認められる典型として二つを挙げている。一つは,専ら裁判所側の事情でシステムが使えない場合であり,基本的に公知の事実として扱われ,特段の立証は不要である。もう一つは大規模な通信障害であり,通信事業者に障害が発生したことと,代理人がその事業者を利用していることの立証が必要である。これに対し,例外が否定される典型は,代理人の側のPC・周辺機器の故障である。改正法は代理人がPC等を準備・管理することを前提としているため,他の端末・回線や裁判所設置端末の利用といった代替手段をとることが求められ,代替手段を尽くせる以上,例外が認められる場合は限られる(以上,準備の手引10頁・11頁)。
代理人の事務所がランサムウェアに感染してパソコンやメールサーバーが使えなくなった場合も,他の端末や回線を使えばmintsを利用できることが多いから,例外が認められる場合は同じく限られると考えられる。知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決(平成30年(行コ)第10004号)は,特許の出願審査請求の期間の徒過について,代理人の事務所がランサムウェアに感染して指示のメールを受信できなかったとの主張に対し,受信できなかった可能性のある期間に指示のメールが送られていないかを確認すべきであったとして,当時の特許法48条の3第5項の「正当な理由」を否定している。事務所のシステム被害が生じたときの期限管理の手順は,法律事務所がランサムウェアに感染したときの期限管理―メール不達による期間徒過と知財高裁平成31年3月18日判決で扱っている。
2 期限が迫るときの対応
障害時は,裁判所のシステム稼働状況及びmintsのトップページを確認し,エラー表示,発生時刻,試した代替手段及び期限を記録した上で,直ちに係属裁判所へ連絡する。期日がある場合は,事件係属部に連絡する(準備の手引46頁)。紙提出その他の代替手段を採る場合も,方式,提出先及び期限内到達を裁判所へ確認する必要がある。期限・期日が迫る場合の電話連絡,担当部に伝える事項及び技術窓口との使い分けは,mints利用事件で書記官に電話連絡すべきケースで説明している。
自分のPCで申立てができず,原因が分からない場合に,時効完成や控訴期間満了が迫るときは,次の代替策を順に試す(準備の手引11頁)。
①インターネット接続とサインインの可否を確認し,PC・ルーター等の設定を確認して,再起動で改善するかを見る。初回サインアップ,二段階認証又はパスワードの問題は,mintsにログインできない場合の対処法で原因を切り分ける。
②事務所内の他のPCやタブレットを使い,又はスマートフォンのテザリングで接続する。
③開庁時間中であれば,訴状等を記録したUSBメモリを持参し,裁判所設置端末で電子申立てをする。
これらを尽くしても申立てができなかった場合は,その状況を陳述書等の証拠で裏付ける。サインインできない画面の動画やスクリーンショットが考えられ,そうすることで例外事由が認められることもある(準備の手引11頁)。
障害発生時も,直ちに全ての手続を紙へ切り替えるのではない。控訴期間又は消滅時効の完成が迫っていない場合など,速やかな申立てを要しないときは,まず裁判所のシステムの復旧を待って電子申立てをする。手数料も,復旧後にペイジーで納付できるため,最初から収入印紙を貼付するのではなく,裁判所の指示を待つ。これに対し,障害が長期化し,又は期限が切迫している場合は,裁判所側のシステム障害が電子申立て等義務の例外事由に当たり得る。この場合は,裁判所へ連絡した上で,例外事由の具体的内容を記載した書面を添えて書面申立てをする。訴えの提起であれば,被告への送達に必要な訴状副本及び書証の写し等も併せて提出する。手数料を収入印紙で納付するかも,裁判所の指示を確認する。係属中事件の準備書面,答弁書等を書面で提出する場合は,相手方への直送が別途必要となる。手続の種類によって必要書類と相手方への送付方法が異なるため,「障害だから紙で出せば足りる」と一律に判断しないことが重要である(以上,準備の手引46頁・47頁)。
審理の段階では,別の判断が必要になる。準備の手引47頁は,mintsで電磁的訴訟記録を確認できない状態でも期日等の実施自体は可能であるとしつつ,実施するかどうかは各裁判体の判断であるとして,裁判所へ問い合わせることを挙げている。被告代理人が委任状及び答弁書等を提出できていない状況で第1回口頭弁論期日が近いときは,裁判所へ連絡して受任の意思を告げ,対応を相談することが考えられるとされている。期日間の準備書面及び証拠については,書面で準備書面,証拠説明書及び書証の写しを提出するほか,電磁的記録の複製を保存した記録媒体を提出することもできるとされている。
人証調べは,mints上の電磁的訴訟記録を前提として実施することが基本であるため,同頁は,障害中には実施が困難な場合が多いとしている。事案の性質上その期日で実施しなければならない事情があるときは,まず裁判所と実施の有無を協議し,実施する場合には,裁判所の求めに基づき,既に電子提出した書面等の元となるデータを提出することが考えられるとされている(細則2条2項)。電子判決書については,mintsにアクセスできない場合でも言渡し自体は可能であり,復旧が比較的早期に見込まれるときは言渡し期日を変更して電子判決書を言い渡し,システム送達をすることが考えられる一方,各裁判体の判断により,障害中に言い渡した上で記録事項証明書を送達することもあるとされている(民事訴訟法255条2項1号・2号)。
これらを尽くしても控訴期間等の不変期間を徒過してしまった場合には,例外事由による書面受理とは別に,訴訟行為の追完(民事訴訟法第97条)による救済の余地が残されている。改正法は,追完をすることができる「その責めに帰することができない事由」の例示として「裁判所の使用に係る電子計算機の故障」との文言を加えており,裁判所の使用するサーバの故障により不変期間を遵守することができなかった場合には,追完をすることができることを明確にしている。もっとも,インターネットの使用を義務付けられている訴訟代理人等にとっては,書面の提出による申立て等は救済的に認められるものにすぎず,あくまでも例外的なものであることからすると,書面の提出をすることができたことのみをもって,追完を否定すべきではないと解されている。裁判所のシステム故障以外の事由で追完が認められた場合と認められなかった場合の最高裁判所の判例は,訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)で整理している。
時効の完成猶予との関係では,改正法は特段のルールを設けていないが,裁判所のシステムの故障により長期間にわたって手続をすることができない事態が生じた場合には,天災その他避けることのできない事変による時効の完成猶予を定める民法第161条により対応することが考えられるとされている。
操作時のエラーコード,PDFの向き,メタデータその他の画面操作上の問題は,mints操作マニュアル~当事者ユーザ編~の解説にまとめている。
3 例外のない紙提出
電子申立て義務に反して紙で提出された申立て等は,民事訴訟法第132条の12第1項による裁判所書記官の電子化対象から明文で除外される。方式違反が補正されなければ不適法として却下され得るため,義務者は「紙を出せば裁判所が電子化する」という本人当事者向けの取扱いを前提にしてはならない。
最高裁判所事務総局民事局の「フェーズ3後の民事訴訟手続における留意点」(令和8年8月31日)は,特段の理由なく,訴訟代理人から書面で答弁書等が提出される例があるとして注意を促している。委任を受けた訴訟代理人がする申立て等である限り,義務は訴えの提起に限られず,答弁書その他の書面にも及ぶ。施行後に裁判所が注意を促しているその他の誤りは,mintsで裁判所が注意を促している誤りで整理している。
第5 対象事件と旧法事件
1 新法が適用される民事訴訟
裁判所の民事事件Q&Aによれば,令和8年5月21日以後に訴えが提起された民事訴訟事件は,事件種類を問わずmintsを利用できる。訴訟代理人等の電子申立て義務も,この全面施行後の制度を前提としている。
ただし,民事執行,倒産,労働審判等の非訟手続,人事訴訟及び家事事件は,同日に施行された民事訴訟オンライン化の対象外である。これらは令和10年6月までにオンライン申立て等の対象となる予定であり,民事訴訟と同じ義務化日を当てはめることはできない。
もっとも,執行文付与の申立ては例外である。債務名義に係る電磁的記録が裁判所のファイルに記録されている執行文付与申立事件(特例執行文付与申立事件)については,令和8年5月21日から訴訟代理人等に電子申立ての義務があり,mintsで申し立てる(令和5年整備法による改正後の民事執行法附則5条~7条)。大阪地方裁判所が作成した操作説明資料③21頁も,改正民訴法の施行後は,債務名義がデータである事件の執行文付与申立てについて訴訟代理人の電子申立てが義務であるのに対し,強制執行の申立て自体は改正民事執行法の施行までは書面によるとしている。
2 旧法事件の経過措置
令和8年5月20日以前に訴えの提起等がされた事件では,旧mints規則の経過措置が問題となる。当事者双方に委任を受けた訴訟代理人があり,双方が利用を希望するなど従前の条件を満たす場合に利用できるが,新法事件の電子申立て義務と同じではない。
控訴及び抗告については原審事件の申立日が基準となる。対象裁判所,少額訴訟,支払督促及び対象外手続の区別は,mintsを利用できる裁判所と対象事件を参照されたい。
第6 実務上の確認順序
1 提出前の確認
提出前には,①原審の申立日,②手続が民事訴訟か別手続か,③提出者が本人か委任を受けた訴訟代理人等か,④法令上口頭でできる申立てか,⑤障害がある場合は責めに帰することができない事由と具体的説明があるか,を確認する。この順序により,単に「弁護士だから必ずmints」又は「本人だから常に紙」という過度な一般化を避けられる。
2 本人訴訟との関係
本人が紙提出を選べることは,電子提出の利便性を否定するものではない。本人がmintsで訴えを提起すれば紙申立てより申立手数料が1100円安くなり,事件記録の閲覧,準備書面の提出及びシステム送達をオンラインで行える。本人にとっては,義務の有無だけでなく,機器,期限管理及びサポートを含めて提出方法を選ぶ必要がある。登録から紙提出の選択,費用及び支援窓口までの全体像は,mintsと本人訴訟に整理している。
義務の前提となる新法事件と旧法事件の判定は,mintsの新法事件と旧法事件の見分け方で詳しく説明している。
mintsの全体像と論点別の入口は,mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&Aにまとめている。
出典・参考資料
1 法令・規則
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)第109条の2ないし第109条の4,第132条の10ないし第132条の12(e-Gov法令検索)
②民事訴訟規則第52条の9ないし第52条の17(最高裁判所)
③最高裁判所「民事事件等に関する手続における電子情報処理組織の使用に関する細則」第2条(令和7年11月28日最高裁判所告示第4号)
2 裁判所資料
①最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
②最高裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」
③最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引(令和8年6月19日版)」
④知的財産高等裁判所「民事裁判書類電子提出システム(mints)の利用について」
⑤大阪地方裁判所「改修後mints操作説明資料③(準備書面等のアップロード~電子執行文付与)」(令和8年3月18日時点。情報公開請求により取得した文書)21頁
⑥最高裁判所事務総局民事局「フェーズ3後の民事訴訟手続における留意点」(令和8年8月31日)
⑦知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決(平成30年(行コ)第10004号)
3 文献
①最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事訴訟規則(デジタル化関係等)―付 民事事件等に関する手続において用いる識別符号の付与等に関する規則』(司法協会,2025年)239頁~250頁