第1 この記事が扱う対象
1 mints利用規約とは何か
mints(民事裁判書類電子提出システム)を利用して裁判所に裁判書類の提出等を行うためには,利用規約の全条項への同意が必要である。
利用規約は前文において,本システムを利用した者は各条項に同意したものとみなす旨を定めている。
現実にシステムを利用したという事実行為によって同意があったとみなす構成であり,裁判所とシステム利用者との間の契約関係は,このみなし同意条項によって成立する。
本稿が対象とするのは,この利用規約そのものの条項内容である。
mintsの操作方法,義務化の判断基準,対象裁判所・対象事件,送達・期限管理の詳細は,山中弁護士ブログの既存記事が個別に扱っているため,本稿では立ち入らない。
禁止事項,アカウント管理義務,免責条項及びアカウントの終了事由は,利用規約を通読する機会が少ない実務家にとっても,事務所でmintsを運用する上で直結する内容を含んでいる。
2 適用対象とシステム利用者の定義
利用規約第2条第2号は,「システム利用者」を,本システムを利用して裁判所に書面の提出を行う者であって,利用規約に規定する全ての条項を承諾した上で本システムを利用し,又は利用しようとする者と定義している。
同号は,裁判所職員である利用者を明示的に除外している。
個人,法人等,弁護士等の士業者,指定代理人及び地方公共団体のいずれもがシステム利用者となり得るが,利用者の類型ごとの違い並びに利用できる裁判所及び対象事件の範囲は,mintsを利用できる裁判所と対象事件に譲る。
mints全般のQ&Aはmints(ミンツ)とはを参照されたい。
3 現行版の特定と改定履歴
利用規約は,令和4年2月15日の制定以来,次のとおり5次にわたり改定されている。
①令和4年2月15日制定。
②令和4年10月29日改定,同年10月31日施行。
③令和5年2月25日改定,同日施行。
④令和7年10月24日改定,同日施行。
⑤令和8年4月10日改訂,同年5月21日施行(現行版)。
現行版の施行日は,改正民事訴訟法が全面施行された令和8年5月21日と一致しており,義務化の判断枠組み自体はmintsの義務化はいつからかに譲る。
利用規約第8条は,裁判所が改訂版又は後継版を提供したときは,利用規約の条件がそのまま改訂版・後継版の利用規約として適用されると定めている。
mintsは暫定システムと位置付けられていることも踏まえると,実務上は事件対応の都度ではなく,定期的に最新版の内容を確認しておくことが望ましい。
第2 利用規約を支える法的枠組み
1 電子情報処理組織による申立て等
利用規約が定める「本システム」の法的根拠は,民事訴訟法132条の10にある。
同条第1項は,裁判所に対する申立て等について,最高裁判所規則で定めるところにより,最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用して当該書面等に記載すべき事項をファイルに記録する方法により行うことができると定めている。
2 訴訟代理人等に対する電子申立ての義務化
民事訴訟法132条の11第1項は,訴訟代理人のうち委任を受けたもの(同項ただし書の許可を得て訴訟代理人となった者を除く)が,委任を受けた事件の申立て等をするときは,前条第1項の方法,すなわち電子情報処理組織を使用する方法によらなければならないと定めている。
口頭ですることができる申立て等を口頭でする場合は,この限りでない。
これが弁護士に電子申立てを義務付ける根拠条文である。
義務の対象者・対象行為の詳細な判断順序はmintsの義務化はいつからかに譲り,本稿では利用規約との関係の確認にとどめる。
同条第3項は,同項各号に掲げる者が,裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により,電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができない場合には,第1項の規定を適用しないと定めている。
裁判所側のシステム障害等により電子申立てができない場合に,弁護士の電子申立て義務そのものを解除する規定である。
後記第4の4で述べる利用規約第7条の免責条項とは規律の対象を異にする点に注意を要する。
3 識別符号(アカウント)付与の二つの方法
mintsのアカウント(利用規約上の「識別符号」)の付与方法は,利用規約自体にではなく,最高裁判所規則「民事事件等に関する手続において用いる識別符号の付与等に関する規則」(令和6年9月17日最高裁判所規則第15号,令和7年8月29日最高裁判所規則第11号改正。以下「識別符号規則」という)に定められている。
識別符号規則は,識別符号の付与方法を二つに分ける。
一つは,一般の利用者本人が,電子計算機から氏名,住所,電話番号,電子メールアドレス,生年月日等を入力して届け出る方法であり,原則として個人番号カードに記録された署名用電子証明書の送信が必要である(識別符号規則第1条)。
もう一つは,弁護士又は司法書士その他の隣接法律専門職者のうち最高裁判所が定める者(弁護士等)が,業務として弁護士等であることを証明した上で届け出る方法である(識別符号規則第2条第1項・第2項)。
利用規約第9条第2号が「規則第2条第2項に基づきアカウントを付与されたものを除く」と定めているのは,この弁護士等業務用の届出方法で付与されたアカウントを指している。
この除外規定の意味は,後記第5で改めて確認する。
第3 禁止事項とアカウント管理義務
1 禁止事項13号
利用規約第5条は,システム利用者の禁止事項として13号を列挙している。
①本システムの全部又は一部の第三者への頒布,送信その他の方法による提供,②本システムの改変及びリバースエンジニアリングによる解析,③著作権表示その他の財産権表示の消去又は剥奪,④ウイルスに感染したファイルの故意のアップロード,⑤裁判所が許可した場合を除き,裁判書類の電子提出及び書面提出期限管理以外の目的で本システムを使用すること,⑥利用者登録の際の虚偽情報登録,⑦本システムの複数アカウントの所持(補助者を除く),⑧第6条に定めるアカウント管理を怠ること,⑨本システムへの不正アクセス及びその試み,⑩本システムの運用及び運営を故意に妨害する行為,⑪他のシステム利用者に関する個人情報等の収集又は蓄積,⑫他のシステム利用者になりすます行為,⑬その他本システムの運用に支障を及ぼすおそれのある行為である。
2 複数アカウント禁止の例外―補助者は最大10個まで
禁止事項⑦の複数アカウント禁止には明文の例外があり,補助者については最大10個までアカウントを所持することができるとされている(第5条第7号ただし書)。
事務職員等の補助者に複数人でmintsを利用させる法律事務所の実務では,この上限を踏まえたアカウント運用計画があらかじめ必要になる。
事件担当者の異動や退職に伴うアカウントの整理を怠ると,上限に達して新たな補助者を登録できなくなる事態も考えられる。
3 アカウントの管理義務と補助者の行為の帰属
利用規約第6条は,システム利用者に対し,識別符号及び暗証符号等のアカウント情報を自己責任の下で適切に管理する義務,登録情報に変更が生じた場合の更新義務,アカウントを第三者に利用させ又は貸与,譲渡,名義変更,売買等をしてはならない義務を課している。
ID又はパスワード等の紛失,不正使用,盗難等については,システム利用者が一切の責任を負う(同条第4項)。
同条第5項は,裁判所が許諾した場合に補助者へアカウントを取得させて利用させることができ,補助者によるシステム利用はシステム利用者本人が利用したものとみなされ,システム利用者は補助者のシステム利用について一切の責任を負うと定めている。
事務職員等の補助者にmintsの操作を行わせている法律事務所は,補助者の操作結果について,弁護士自身が一切の責任を負うことを明文で引き受けていることになる。
補助者への操作委任は,実質的に弁護士自身の行為と同視される点を意識した教育及び確認体制を整えることが考えられる。
第4 免責条項の構造
1 保証の拒絶と原則免責
利用規約第7条第1項は,本システムが現状で提供されるものであり,裁判所は,プログラミング上の誤りその他の瑕疵のないこと,特定目的への適合性,第三者の権利を侵害するものでないことその他のいかなる内容についても保証しないと定めている。
同条第2項は,裁判所が,本システムの利用に当たりシステム利用者又は第三者が被った損害について,裁判所の故意又は重大な過失によるものである場合を除き,責任を負わないと定めている。
2 消費者契約に該当する場合の特則
利用規約第7条第3項は,前項の規定にかかわらず,裁判所とシステム利用者との間における法律関係が消費者契約法に定める消費者契約に該当する場合は,裁判所の過失(重過失を除く)に起因して生じた損害について,システム利用者又は第三者に現実に生じた通常かつ直接の範囲内の損害に限り,裁判所は損害賠償責任を負うと定めている。
消費者契約法2条は,消費者を事業として契約の当事者となる場合を除く個人,事業者を法人その他の団体及び事業として契約の当事者となる場合における個人,消費者契約を消費者と事業者との間で締結される契約と定義している。
裁判所を運営する国が同法にいう事業者に該当し得るかは別途検討を要する論点であるが,利用規約は,本人訴訟の当事者等がシステム利用者となる場面を念頭に,自ら消費者契約に該当し得ることを想定した規定を置いている。
3 消費者契約法8条3項との整合性
利用規約第7条第3項の規定ぶりは,消費者契約法8条3項が定めるいわゆるサルベージ条項規制と平仄が合っている。
同項は,事業者の過失(重過失を除く)による損害賠償責任の一部を免除する消費者契約の条項について,当該条項において事業者,その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは無効とすると定めている。
この規定は令和4年改正消費者契約法により新設され,令和5年6月1日に施行された。
利用規約第7条第3項が,免責の対象を裁判所の過失(重過失を除く)と明記し,かつ賠償範囲を現実に生じた通常かつ直接の範囲内の損害に限定しているのは,この8条3項の要求を満たす形で起草されたものと考えられる。
本稿の調査範囲では,この整合性を直接論じた判例,学説又は行政解釈は確認できなかった。
4 132条の11第3項との違い―義務の解除と責任の免除は別問題
前記第2の2で述べた民事訴訟法132条の11第3項は,裁判所側のシステム障害等により電子申立てができない場合に,弁護士の電子申立て義務そのものを免除する規定である。
これに対し,利用規約第7条は,裁判所とシステム利用者との間の損害賠償責任の有無及び範囲を定める規定であり,規律の対象を異にする。
システム障害により申立てができなかった場合,132条の11第3項により電子申立て義務違反とはならないとしても,そのことから当然に,当該障害によってシステム利用者に生じた損害について裁判所が賠償責任を負うことにはならない。
第7条第2項により,裁判所に故意又は重過失がない限り,原則として免責されるからである。
利用規約第7条の免責条項が規律するのは,裁判所とシステム利用者との間の関係にとどまり,システム利用者である弁護士とその依頼者との間の関係を規律するものではない。
システム障害等によって期限徒過等の不利益が生じた場合に弁護士が依頼者に対して負う善管注意義務上の責任の有無は,この免責条項とは別に,個別の事案ごとに検討される必要がある。
第5 アカウントの終了事由
1 三つの終了事由
利用規約第9条は,利用許諾の効力が利用者登録の時点で開始し,次の三つの事由により終了すると定めている。
①システム利用者が本システムの利用を終了し,アカウントを削除したとき。
②システム利用者(識別符号規則第2条第2項に基づきアカウントを付与されたものを除く)が,本システムで利用する事件の関連付けがなく,サインインをしないまま1年が経過したとき。
③識別符号規則第4条に基づき,システム利用者が利用規約に規定する条件に違反した場合において,裁判所がシステム利用者のアカウントを削除したとき。
2 弁護士等業務用アカウントの特則
②の除外規定は,識別符号規則第4条第4号が,第1条第3項の規定により付与された識別符号を1年間使用しなかったことを使用停止事由とし,第2条第2項による付与(弁護士等業務用)を対象から外していることに対応している。
したがって,弁護士等が業務用に取得したアカウントは,単に1年間サインインがないというだけでは削除されない。
もっとも,事件の関連付けがない状態が続くこと自体は望ましくないと考えられ,実務上は,担当事件の終了に伴うアカウントの要否を事務所内で定期的に点検しておくことが考えられる。
3 規約違反による削除と識別符号規則4条
③については,識別符号規則第4条が定める識別符号使用停止事由,すなわち偽り又は不正な手段による取得,第三者による不正取得,不正アクセス行為,1年間の不使用,弁護士等資格の喪失,その他継続が不適当な特別の事情という六つの類型のうち,利用規約違反は個別の号としては列挙されていない。
実務上は,同条第6号の「前各号に掲げる場合のほか,当該識別符号を付与された者が第一条第一項の電子情報処理組織の使用を継続することが適当でないと認める特別の事情があるとき」に含めて運用されているものと考えられる。
もっとも,規則の文言上その対応関係が明示されているわけではなく,この点は本稿の調査範囲では確認できていない。
第6 その他の主要条項
1 改訂版・後継版の提供と運用制限
裁判所は任意に本システムの改訂版又は後継版を利用可能とすることができ,システム利用者は改訂版・後継版が利用可能となったときは速やかに利用を切り替えるものとされる(第8条)。
裁判所は,維持・補修の必要,インシデントの発生その他やむを得ない理由がある場合には,事前の通知を行うことなく,本システムの運用の停止,休止又は中断等を行うことができる(第11条)。
システム利用に必要な機器,ソフトウェア及び通信手段は,システム利用者が自己負担で準備し,自己の使用機器についてセキュリティ対策に努めるものとされている(第10条)。
2 規約の変更手続
裁判所は,規約の変更が利用者の一般の利益に適合するとき,又は変更が裁判所と利用者との間の法律関係の目的に反せず,変更の必要性,変更後の内容の相当性その他の事情に照らして合理的なものであるときに,規約を変更することができる(第12条第1項)。
変更を行う場合,裁判所は,緊急の場合を除き,効力発生日の7日前までに本システムのトップページ又は裁判所ウェブサイトにおいて変更内容を公表しなければならない(同条第2項)。
変更後にシステム利用者が利用を継続するときは,変更後の条項に同意したものとみなされる(同条第3項)。
3 個人情報の取扱いと準拠法
裁判所は,本サービスの利用によって取得する個人情報について,裁判所の個人情報保護制度に従い適切に取り扱うものとする(第13条)。
利用規約には日本法が適用される(第14条)。
第7 実務上の留意点
第一に,法律事務所でmintsを利用する場合,補助者アカウントは最大10個までという上限を踏まえ,事件担当者の異動及び退職時のアカウント整理を含めた運用ルールを事務所内であらかじめ定めておくことが望ましい。
第二に,補助者によるシステム利用の結果は弁護士本人が利用したものとみなされ,弁護士が一切の責任を負う。
補助者に操作させる作業の範囲及び手順をあらかじめ書面化し,定期的に操作結果を確認しておくことが考えられる。
第三に,裁判所の免責条項は裁判所とシステム利用者との関係を規律するにとどまり,弁護士と依頼者との関係を規律しない。
システム障害等により提出が遅れた場合に備え,障害発生の日時及び状況を記録しておくことは,弁護士が依頼者に対して負う善管注意義務の履行を後日説明する上でも有用と考えられる。
出典
1 最高裁判所が定める規約・規則
①民事裁判書類電子提出システム利用規約(最高裁判所,令和8年4月10日改訂・同年5月21日施行版)
②民事事件等に関する手続において用いる識別符号の付与等に関する規則(令和6年9月17日最高裁判所規則第15号,令和7年8月29日最高裁判所規則第11号改正)
2 法令
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)132条の10・132条の11(e-Gov法令検索)
②消費者契約法(平成12年法律第61号)2条・8条(e-Gov法令検索。8条3項を新設した令和4年改正は,令和5年6月1日施行の区分を含む)
3 裁判所の公表資料
①mintsについて(裁判所)