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最高裁判所事務総局デジタル審議官―職務・組織・歴代人事と裁判所DX(AIリライト)

第1 デジタル審議官の概要

1 設置根拠と職務

最高裁判所事務総局規則3条の2の2に基づき,2024年4月1日,最高裁判所事務総局にデジタル審議官が新設された。

デジタル審議官は,裁判所事務官をもって充てられ,上司の命を受けて,事務総局の事務のうち,①デジタル化の推進,②情報セキュリティの確保,③情報システムの整備及び管理,④統計情報に関する重要事項の企画及び立案に参画し,関係事務を総括整理する。

したがって,デジタル審議官の職務は,情報システムの調達又は保守に限られない。

裁判手続及び司法行政事務のデジタル化,情報セキュリティ,IT基盤並びに統計情報を横断する企画調整職である。

なお,同条は「上司の命を受けて」と定めるにとどまり,直属の上司が誰であるかを明記していない。

2 新設の経緯

裁判所時報1835号6頁は,事務総局における事務の適正かつ円滑な運営を図るため,デジタル審議官並びにその下に置く参事官及びデジタル審議官付を新設した旨を説明している。

これと同時に,最高裁判所事務総局分課規程上の情報政策課は廃止され,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官が新設された。

実務上は「デジタル総合政策室」という名称が用いられている。

3 デジタル庁のデジタル審議官との違い

デジタル庁設置法12条1項に基づくデジタル庁のデジタル審議官は,内閣の行政機関であるデジタル庁に置かれる官職である。

最高裁判所事務総局のデジタル審議官とは,設置根拠及び所属組織が異なる。

第2 歴代のデジタル審議官

1 清藤健一裁判官

2024年4月1日,清藤健一裁判官が初代デジタル審議官に就任した。

清藤裁判官は,直前まで最高裁判所事務総局審議官兼情報政策課長であった。

2 榎本光宏裁判官

2025年1月15日付最高裁人事によれば,同日,清藤裁判官は東京地方裁判所部総括判事に異動し,榎本光宏裁判官がデジタル審議官に就任した。

また,2026年2月19日付「裁判所のデジタル化の現状と将来(民事訴訟を中心に)」は,最高裁判所事務総局デジタル審議官名義の文書である。

公開資料で確認できる歴代人事は,次のとおりである。

在任期間氏名就任前又は異動後
2024年4月1日~2025年1月14日清藤健一裁判官就任前は最高裁判所事務総局審議官兼情報政策課長,異動後は東京地方裁判所部総括判事
2025年1月15日~榎本光宏裁判官就任前は最高裁判所事務総局デジタル審議官付参事官

第3 デジタル審議官を支える職制

1 デジタル審議官付参事官

最高裁判所事務総局規則6条の2第2項に基づき,デジタル審議官の下にデジタル審議官付参事官を置くことができる。

デジタル審議官付参事官は,上司の命を受けて,デジタル審議官の職務のうち重要事項の企画及び立案に参画する(同条5項)。

同規則4条の2は,局又は課の所掌に属しない事務を所掌する職で課長に準ずるものを置くことができる旨の一般規定であり,デジタル審議官付参事官の設置又は格付けを直接定める規定ではない。

また,同規則3条の4に基づく「事務総局参事官」と「デジタル審議官付参事官」は,別の職である。

2 デジタル審議官付

最高裁判所事務総局規則7条2項に基づき,デジタル審議官の下にデジタル審議官付を置くことができる。

デジタル審議官付は,上司の命を受けて,デジタル審議官の職務を助ける(同条5項)。

3 デジタル審議官付審査官

最高裁判所事務総局等職制規程2条2項に基づき,デジタル審議官の下にデジタル審議官付審査官を置くことができる。

デジタル審議官付審査官は,上司の命を受けて,デジタル審議官の職務のうち特定事項の調査,企画及び立案に参画する(同条5項)。

規程は職務を定めているが,個々の審査官の氏名又は裁判官であるか否かを定めるものではない。

公開された職員名簿で確認できない人事を推測して記載することは適切でない。

第4 サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官

1 分課規程上は独立した職であること

最高裁判所事務総局分課規程40条の2は,サイバーセキュリティ管理官が,情報セキュリティの確保に関する政策の企画及び立案並びに調整に関する事務をつかさどると定める。

同規程40条の3は,デジタル基盤管理官が,情報システムの利用に必要な基盤等の整備及び管理に関する政策の企画及び立案,これらに必要な調整並びに統計情報に関する事務をつかさどると定める。

両管理官は,分課規程上,デジタル審議官の下に置かれる職とは定められていない。

最高裁判所のファイル管理簿等の掲載ページでも,デジタル審議官,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官は,別の文書管理単位として掲げられている。

2 実際の事務処理は3グループ制であること

他方,2024年4月25日付「事務処理態勢等について」は,デジタル審議官の事務を処理する態勢として,次の3グループを編成している。

① 総務・戦略グループ
② セキュリティ・基盤グループ
③ 裁判システムグループ

同文書では,セキュリティ・基盤グループを担当し,又は同グループに所属する職員が,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官の所掌事務も処理することとされている。

したがって,規程上の職制と実際の事務処理態勢を分けて理解する必要がある。

規程上は別の職である一方,実務上はデジタル審議官の下のセキュリティ・基盤グループと一体的に運用されている。

第5 2024年4月1日時点の人員構成

1 歴史的な人員表であること

以下は,デジタル審議官が新設された2024年4月1日時点の人員であり,現在の人員表ではない。

同日付人事で確認できる裁判官は16人である。

世森亮次裁判官は,サイバーセキュリティ管理官,デジタル基盤管理官及びデジタル審議官付参事官を兼ねていたため,重複計上を避けて管理官の行に掲げる。

区分人数氏名
デジタル審議官1人清藤健一裁判官
デジタル審議官付参事官(管理官を除く)4人榎本光宏裁判官内田曉裁判官内田哲也裁判官草野克也裁判官
デジタル審議官付10人水木淳裁判官中嶋邦人裁判官簗田真央裁判官大西正悟裁判官山田一哉裁判官秋田純裁判官狹間巨勝裁判官小西隆博裁判官小泉敬祐裁判官瀧澤孝太郎裁判官
サイバーセキュリティ管理官兼デジタル基盤管理官兼デジタル審議官付参事官1人世森亮次裁判官
合計16人兼務による重複を除く

2 「本務者」という集計をしない理由

同日付人事には,本務と兼務を組み合わせた発令が多数含まれる。

公開人事だけから組織内の勤務割合又は実質的な主担当を確定できない場合があるため,本記事では「本務者」という評価を加えず,発令上の職名と重複を除いた人数を示す。

第6 情報政策課からデジタル総合政策室まで

1 情報政策課

最高裁判所事務総局情報政策課は,2024年3月31日まで,情報システム,情報セキュリティ及び統計情報に関する事務を担当していた。

公開済みの職員配置図及び人事資料によれば,情報政策課に配置された裁判官は,2016年4月1日時点で課長及び参事官の2人,2019年10月1日時点で3人,2020年4月1日時点で兼務者を含む4人であった。

これらの数字は各時点の歴史資料であり,現在の定員又は実働人数を示すものではない。

2 デジタル推進室

最高裁判所の職員配置図によれば,デジタル推進室は,2021年4月1日,事務総局内のプロジェクトチームとして発足した。

2022年度の職員配置図では,総務・企画グループ及びシステム開発グループが置かれ,4人の専門人材が総務・企画グループに配置されていた。

もっとも,デジタル推進室の設置時に分課規程上の新たな局又は課が設けられたわけではない。

職員配置及び兼務関係から直ちに組織上の上下関係又は新設理由を断定することはできない。

3 デジタル総合政策室

2024年4月1日の組織改正後は,デジタル審議官の事務を処理する実務上の組織として「デジタル総合政策室」という名称が用いられている。

2024年4月25日付「事務処理態勢等について」によれば,同室の業務は,総務・戦略グループ,セキュリティ・基盤グループ及び裁判システムグループに分けて処理される。

裁判所の採用案内も,デジタル総合政策室を裁判所全体のデジタル化をけん引する部門として紹介している。

第7 裁判所デジタル化との関係

1 RoootSの導入延期と全庁導入

RoootSは,裁判所職員が利用する民事訴訟手続のe事件管理システムである。

2023年11月16日の最高裁判所事務総局会議では,2024年1月までとしていた先行導入を同年5月以降に延期することが報告された。

同日の会議資料によれば,主因は,受注業者におけるバグ解消の遅れ及び裁判所業務を踏まえてシステム全体の仕様や整合性を確認できる人材の不足であった。

最高裁判所は,受注業者の人的態勢の強化を求め,最高裁職員を開発現場に出張させるなどの対応を行った。

その後,2025年6月11日の高等裁判所長官・地方裁判所長会同における最高裁判所長官のあいさつは,2025年初めまでにRoootSが全庁導入されたことを明らかにした。

したがって,導入延期は開発経緯として重要であるが,現在も導入が遅れていると記載することは正確でない。

2 mints及び民事訴訟手続のフェーズ3

改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の全面施行日は2026年5月21日であり,同日,民事訴訟手続のデジタル化のフェーズ3が始まった。

裁判所の「民事裁判手続のデジタル化」によれば,電子申立て,電子記録の管理及びシステム送達等にはmintsが用いられる。

RoootSが裁判所内部の事件管理を担うのに対し,mintsは当事者等による電子提出及び電子記録へのアクセスを含む手続基盤であり,両者の利用者及び機能は同じではない。

3 デジタル化は業務の見直しを伴うこと

最高裁判所長官は,2026年5月の記者会見において,民事裁判のデジタル化を単なる媒体の変更にとどめず,手続及び業務の在り方を見直す契機とする必要がある旨を述べている。

デジタル審議官の職務も,システムの整備及び管理だけでなく,デジタル化に関する重要事項の企画及び立案を含む。

このため,同職は,裁判システムの開発と司法行政上の業務改革を横断して調整する役割を担うと理解できる。

第8 通常の審議官との違い

1 根拠規定と担当範囲

最高裁判所事務総局の通常の審議官は,同規則3条の2に基づき,事務総局の重要事項の企画及び立案に参画し,関係事務を総括整理する。

これに対し,デジタル審議官は,同規則3条の2の2に基づき,デジタル化,情報セキュリティ,情報システム及び統計情報という担当分野を明示された官職である。

両者は職務の表現に共通部分があるが,別の根拠規定に基づく別の官職である。

2 指定職俸給表に関する注意

2018年6月6日付「指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について」は,通常の審議官,家庭審議官及び大法廷首席書記官について,指定職俸給表3号俸を掲げていた。

しかし,この資料はデジタル審議官の新設前に作成されたものであり,デジタル審議官に現在適用される号俸を直接示す資料ではない。

また,人事院資料44頁では,指定職1号俸から3号俸までの代表官職として本府省の局次長,部長及び審議官等が掲げられ,本府省局長の代表的な号俸は4号俸及び5号俸とされている。

したがって,指定職3号俸であることだけを理由に,本府省局長と同格であると断定することはできない。

なお,用語は「3号俸」及び「号俸」と表記する。

3 叙勲との関係

内閣府の「勲章の授与基準」は,瑞宝章について,形式的な職務歴によって一律に授与するものではないことを明らかにしている。

特定の官職に就けば,退職後に特定の勲章が当然に授与されるとすることはできない。

第9 関連資料

1 組織及び事務処理態勢

最高裁判所事務総局規則
最高裁判所事務総局分課規程
最高裁判所事務総局等職制規程
裁判所時報1835号6頁
事務処理態勢等について(2024年4月25日付)
裁判手続における文字の取扱い等について(2024年7月5日付)

2 RoootS関係資料

RoootSの導入計画の見直し(2023年11月16日)
RoootSの完成と先行導入について(2024年6月)
RoootSの概要・フェーズ3に向けたスケジュール(2024年6月)
RoootS先行導入に関するQ&A
mints,RoootS及びTreeeS

3 Microsoft 365活用資料

最高裁でのMicrosoft 365活用事例の紹介について
Outlookによる予定表共有・会議室予約
FormsとOneNote
Microsoft 365で業務改善やってみた
仙台高裁の先行導入結果
札幌高裁の第2次先行導入結果
Teamsで投稿する工夫例
総研デジタルラボのMicrosoft 365活用例

4 関連記事

最高裁判所事務総局情報政策課
最高裁判所の職員配置図
最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS
民事裁判手続のデジタル化
裁判所の情報化の流れ
最高裁判所事務総局の幹部名簿
裁判所のデジタル化を論評した文献等

第10 出典

1 一次資料

① 最高裁判所「最高裁判所事務総局規則」
② 最高裁判所「最高裁判所事務総局分課規程」
③ 最高裁判所「最高裁判所事務総局等職制規程」
④ 最高裁判所事務総局「裁判所時報1835号」2024年4月1日付6頁
⑤ 最高裁判所事務総局デジタル審議官「事務処理態勢等について」2024年4月25日付1頁~5頁
⑥ 最高裁判所長官「高等裁判所長官・地方裁判所長会同あいさつ」2025年6月11日付3頁~4頁
⑦ 最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
⑧ 人事院「第3回人事行政諮問会議」資料44頁
⑨ 内閣府「勲章の授与基準」2003年5月20日閣議決定4頁~5頁
⑩ 最高裁判所「裁判所採用案内」デジタル総合政策室紹介頁
⑪ 最高裁判所長官「憲法記念日を迎えるに当たって」記者会見,2026年5月

2 書籍

① 新藤宗幸『司法官僚 裁判所の権力者たち』岩波書店,2009年,48頁,92頁及び110頁
② 西川伸一『裁判官幹部人事の研究』五月書房,2010年,23頁及び74頁
③ 西川伸一『増補改訂版 裁判官幹部人事の研究』五月書房新社,2020年,26頁~27頁及び214頁
④ 瀬木比呂志『絶望の裁判所』講談社,2014年,73頁
⑤ 萩屋昌志編著『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』晃洋書房,2004年,87頁~88頁
⑥ 田中敦編集・民事裁判実務研究会編著『民事裁判実務論点大系』ぎょうせい,2025年,132頁~140頁