(AI作成)高裁部総括判事の人事をデータで読み解く-西川2020の手法を山中弁護士ブログの裁判官データベースで機械再現する

◯本ブログ記事は,令和8年6月6日時点のデータを基準として,専らAIで作成したものです。
「(AI作成)裁判官人事をデータで読み解く ― 西川伸一『裁判官幹部人事の研究』の手法を山中弁護士ブログの裁判官データベースで機械再現する」も参照してください。

現職裁判官の庁別・期別分布マップ

総人数 2811 名・ 45 の期に分布 (34期〜78期、2026-06-07 00:40:39 時点)
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現職裁判官 約2811名の庁別・期別分布マップ(34期〜78期、2026-06-07 00:40:39 時点) 日本地図上に裁判官が在籍する各裁判所を円マーカーで表示しています。円の大きさはその庁の現職裁判官数に比例し、色は修習期別に分けています。マーカーをクリックすると該当庁のタグページへ移動します。地図下部の凡例で庁種別の表示/非表示を切り替えできます。キーボードやスクリーンリーダーをお使いの場合は、この地図のすぐ下にある「各裁判所の現職裁判官一覧へのリンク」をご利用ください。
各裁判所の現職裁判官一覧へのリンク(キーボード・スクリーンリーダー用)

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*7 カルトグラム表示は模式図(タイルマップ方式)です。実際の地理的距離・面積を正確に表すものではありません。最高裁・司研・総研は全国組織として、地図上端の独立ストリップに集約しています。

第1 本稿の目的と位置づけ

1 本稿が試みること

本稿は,政治学者である西川伸一の論文「高等裁判所部総括判事の人事をめぐる一考察」(法学研究93巻1号,2020年。以下「西川2020」という。)の分析を,当ブログが公開する裁判官データベースの上で,現在の全件データによって機械的に再現し,更新する試みの記録である。

当ブログでは先に,西川伸一『裁判官幹部人事の研究 ―「経歴的資源」を手がかりとして』(増補改訂版,五月書房新社,2020年)の分析手法を全裁判官に適用し,書籍の手作業の結論と機械集計とがよく一致することを示した。本稿は,その続編である。書籍が裁判官幹部人事の全体像を扱ったのに対し,西川2020は,高裁部総括判事という一つのポストに焦点を絞り,これを更に精緻化した別稿であった。本稿は,この別稿を,書籍編の場合と同じ方法で更新する。

本稿の特徴は,2点ある。第1に,西川が紙の基礎資料から手作業で集計した経歴の分類を,データベースと構造化問合せ言語(SQL)を用いて,歴代の高裁部総括判事の全件に対して自動的に適用した点である。第2に,その結果を西川2020の数値と照合し,どの程度一致するかを確かめた点である。
結論を先に述べる。検証可能な次元では,比率も序列も,級組の分布(特にA2とB1の比重)を除き,おおむね西川2020と一致した。

なお,本稿が扱うのは,あくまで人事という組織の側面である。個々の裁判官が事件の審理において独立して職権を行うこと(憲法76条3項)とは,次元の異なる問題である。この区別は,本稿の全体を貫く前提である。冒頭にこれを明記しておく。

2 西川伸一「高等裁判所部総括判事の人事をめぐる一考察」の概要

(1) 別稿の問題意識

西川は,これまで一連の研究を通して,幹部ポストに就く裁判官のキャリアパスを分析してきた。その対象は,最高裁判所長官,最高裁判所判事,最高裁判所事務総長・事務次長及び事務総局の各局長,高裁長官,高裁事務局長,地裁所長・家裁所長,高裁支部長などの幹部ポストである。

西川2020は,これらに高裁部総括判事のポストを加え,裁判官幹部人事の研究をより精緻にしようと試みたものである。西川は,高裁部総括判事ポストごとに歴代就任者の経歴を累積し,そこから各ポストのキャリアパス上の特徴を導き出した。

(2) 同じ高裁部総括でも格付けは高裁ごとに異なる

西川2020の核心は,次の一点に要約できる。すなわち,同じ高裁部総括判事という名称であっても,事実上の格付けは高裁ごとに大きく異なる,ということである。

西川は,これからみていくように,東京高裁の部総括判事に就く者はほとんどが地家裁所長経験者であり,地家裁所長が東京高裁部総括判事に異動することは「出世」を意味する,と述べる。これに対し,歴代の高松高裁部総括判事就任者の8割以上には地家裁所長歴がなく,高松は地家裁所長歴を問わずに就任できるポストとして扱われている,という。同じ名でありながら,一方は所長を勤め上げた者が更に上る到達点であり,他方は所長を経ずに就ける地位である。この落差こそ,西川2020が照らし出した主題である。

(3) 本稿が依拠するデータベースと先行記事との関係

西川2020は,その集計の資料源として,当ブログを明記している。最高裁判所への司法行政文書の開示申出を継続的に積み重ねた結果,各裁判官の経歴を即座に詳細にたどれるデータベースが形成された。西川の書籍編がこのデータベースを高く評価したことは先の記事で述べたが,この別稿もまた,同じデータベースの上に立っている。

本稿は,その引用された素材を用いて,引用した論文の分析を再現し更新するものである。引用された素材が,引用した方法を逆に動かす。この往復は,先の記事と共通する本稿の構造である。

3 データと方法

(1) 母集団 ― 歴代高裁部総括1,182人

本稿が分析の対象とするのは,当ブログのデータベースにおいて,高等裁判所の部総括(部の事務を総括する者)を務めた経歴を持つ裁判官である。知財高裁部総括及び高裁支部部総括は,親となる高裁へ畳んで数える(ただし高裁別の就任者数を見る表3でのみ,知財を別の列として残す)。

この条件で抽出される歴代の高裁部総括判事は,1,182人である。西川2020が対象とした978人(1971年8月から2019年1月1日付の指名者まで)に対し,本稿は,その後に指名された者を含む現在までの全件を母集団とする。母集団が異なるため,絶対数は当然に異なる。本稿が見るのは,割合と序列という構造である。

(2) 経歴的資源と級組

西川の分析の鍵は,経歴的資源という概念である。これは,将来のステップアップに有用と期待される経歴や過去の地位をいう。西川は,これを出身大学と司法行政ポストの勤務経験(級組。西川のいう「級班区分」)によって要約する。

級組は,おおまかには次のとおりである。S級は,最高裁判所事務総局の勤務歴を持つ司法官僚であり,最も深いS1から順にS1・S2・S3に分かれる。S1は官房系の局付と官房系の課長をいずれも経験した者,S2は官房・事件を問わず局付と課長をいずれも経験した者,S3は局付か課長のどちらかを経験した者である。これに対し,A級・B級は事務総局の勤務歴を持たない実務裁判官である。このうちA1は,最高裁判所調査官,司法研修所教官,又は行政官庁等への出向のいずれかを経験した者であり,法廷の現場をいったん離れた経験を持つ。西川はこれを準実務裁判官とよぶ。A2は大都市の地裁・高裁勤務が長い者,B1は地家裁の部総括を経験した者であり,これらが現場一筋の実務裁判官である。なお,経歴的資源を全く持たないB2は,高裁部総括の母集団には現れない。高裁部総括に就く以上,その者は最低でも部総括という経歴的資源を備えているからである。

このほか,西川の各表には「事務総局局長など」という列がある。これは,最高裁判所事務総局の各局長又は法務省民事局長の勤務経験者の数を示す。級組とは別に,司法行政の最上位を経験したか否かを示す指標である。

(3) 西川2020との突合の考え方

本稿の各表は,西川2020の表1から表27までに対応する。当ブログのデータベースから同じ集計を行い,西川が論文に掲げた数値と並べて確かめた。性別の列は,当データベースが性別を保持しないため省いた。また「在官中死亡」は,退官事由の付加情報を要するため,本稿の集計では区別せず,符号「-」で示す。

西川2020の母集団(978人,2019年まで)と本稿の母集団(1,182人,現在まで)とは異なるから,絶対数や,現職を多く含むことによる比率の差は当然に生じる。本稿が照合するのは,順序や構造といった定性的な特徴である。

第2 高裁部総括という地位

1 高裁部総括とは何か

高裁部総括とは,高等裁判所の各部の長を務める裁判官をいう。裁判所内部では部長とも呼ばれる。高等裁判所の審理は,原則として3人の裁判官による合議体で行われ,その合議体において裁判長を務めるのが部総括である。すなわち高裁部総括は,控訴審又は第一審の合議事件において,裁判長として審理を主宰する立場にある。裁判実務の最前線における,責任あるポストである。

2 二つの顔 ―「上がり」と「踏み石」

高裁部総括は,二つの顔を持つ。一つは「上がり」のポスト,すなわちそのまま定年又は依願退官を迎える終着点としての顔である。もう一つは,更に上のポストへ進むための「踏み石」,すなわち栄進の経歴的資源としての顔である。

そして,このどちらの顔が前に出るかは,後に見るとおり,高裁ごとに大きく異なる。東京では踏み石の顔が前に出て,地方では上がりの顔が前に出る。本稿の各章は,この二つの顔の配分を,高裁ごとに数値で描き出す作業である。

西川は,幹部人事のもう一つの動きとして「横滑り」を挙げる。これは,別の高裁の部総括への異動や,格の釣り合った地家裁所長への異動など,昇格でも降格でもない平行移動である。本稿でも,退官(上がり),横滑り,出世(栄進)という三つの方向で,その後の経歴を整理する。

3 経歴的資源を測る三つの指標

(1) 出身大学

第1の指標は出身大学である。西川は,経歴的資源の一つとして出身大学を挙げ,東京大学又は京都大学の出身が幹部到達に有利に働くことを指摘する。各高裁の部総括が,どの大学の出身者で構成されるかは,そのポストの性格を映す。

(2) 級組(S・A・B)

第2の指標は,前述の級組である。S級(司法官僚)が多いか,A級・B級(実務裁判官)が多いかによって,そのポストが司法行政の本流に近いか,裁判実務の系統に属するかが分かれる。

(3) 事務総局局長など

第3の指標は,「事務総局局長など」である。司法行政の最上位を経験した者が,そのポストにどれだけ集まっているかを示す。これが集中する高裁は,幹部人事の中枢に近い。

第3 全体的傾向

1 歴代就任者の経歴的資源(表1)

歴代の高裁部総括1,182人の経歴的資源は,表1のとおりである。

表1 歴代高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数1,1824311952252821481757195441347125051
(%)10036.516.519.023.90.14.11.44.816.537.329.410.60.04.3

出身大学では,東大が36.5パーセントで最も多く,私大23.9パーセント,国公立大19.0パーセント,京大16.5パーセントと続く。西川2020の数値(東大36.8,京大17.7,国公立大20.0,私大22.2パーセント)と,ほぼ一致する。

級組を見ると,事務総局の勤務歴を持つ司法官僚(S1からS3)は合計269人,22.8パーセントである。これに対し,準実務裁判官(A1)が441人,37.3パーセントと最も多く,現場一筋の実務裁判官(A2・B1)が472人,39.9パーセントを占める。すなわち,高裁部総括の全体では,実務裁判官の系統が約8割を占め,司法官僚は約2割にとどまる。高裁部総括は,幹部の階段の中では,なお実務裁判官に広く開かれた地位である。

なお,経歴的資源を全く持たないB2が0人であることは,すでに述べた構造的な理由による。司法行政の最上位を経験した「事務総局局長など」は51人,4.3パーセントである。

2 地家裁所長経験 ― 7割が就任前に所長を経験

西川2020が最初に着目したのは,地家裁所長の経験である。高裁部総括に就く者の多くは,その手前で地家裁所長を経ている。地家裁所長が高裁部総括へ「出世」する踏み石になっているのである。

当データベースで集計すると,歴代の高裁部総括1,182人のうち,852人,72.1パーセントが,高裁部総括に最初に就く前に地家裁所長を経験していた。西川2020は,978人のうち788人,80.6パーセントとした。本稿がやや低いのは,母集団が現在までの就任者を含んで大きく,現職や就任直後の者を多く抱えるためである。後に見るとおり,東京・大阪では依然として9割を超え,所長歴を前置する慣行そのものは維持されている。

異動の向きにも,明瞭な方向性がある。地家裁所長から直後に高裁部総括へ移った例は953件,逆に高裁部総括から直後に地家裁所長へ移った例は428件で,所長から部総括への上りが2倍を超える。地家裁所長は,高裁部総括へ進むための踏み石として機能しているのである。

3 その後の経歴(表2)

歴代高裁部総括就任者が,その後にどのようなポストに就いたかを集計したのが表2である。

表2 高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数1,18251925243632146255
(%)10043.921.336.92.712.42.10.4

注 「高裁部総括等」には知財高裁部総括を,「地家裁所長等」には知財高裁所長を含む。「要職3」は最高裁判所事務総長,司法研修所長及び最高裁判所首席調査官を指し,これらは法務省民事局長とともに,最高裁判所裁判官就任者がその前にほぼ必ず経由するポストである。重複して各ポストを歴任する者がいるため,比率の合計は100パーセントを超える。現職者やキャリア途中の者がいるため,比率は暫定値である。

(1) 半数近くがこのポストで退官する

このポストでの退官者は519人,43.9パーセントである。すなわち,高裁部総括は,半数近くにとって「上がり」のポストである。西川2020では58.0パーセントが退官であった。本稿で退官の比率が下がり,地家裁所長等への異動(36.9パーセント)や別の高裁部総括への横滑り(21.3パーセント)が上がっているのは,母集団に現職を多く含むためである。現職者はまだキャリアが完結しておらず,退官と数えられないからである(この右側打ち切りについては第13で改めて述べる)。

(2) 高裁長官への最大の供給源

高裁長官に到達した者は146人,12.4パーセントである。西川2020の11.8パーセントとほぼ一致する。高裁長官は,その多くが高裁部総括から上っている。高裁部総括は,高裁長官への最大の前段なのである。

(3) 「要職3」はむしろスキップされる

これに対し,「要職3」ポスト(最高裁事務総長・司法研修所長・最高裁首席調査官)に進んだ者は32人,2.7パーセントにとどまる。西川が指摘したとおり,最高裁判所入りが有望視される者は,地家裁所長のあと高裁部総括をスキップして「要職3」ポストに就くことが多い。最高裁判所判事に到達した者も25人,2.1パーセント,最高裁判所長官は5人,0.4パーセントである。

4 高裁別の就任者数(表3)

歴代就任者を高裁別に数えると,表3のとおりである。2か所以上の高裁で部総括を務めた者がいるため,のべ数で示す(実数1,182人に対し,のべ1,357件である)。

表3 歴代高裁部総括就任者の高裁別就任者のべ数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
のべ就任者448262921291001567570611,357
(%)33.01.921.59.57.411.55.55.24.5100

東京が33.0パーセントと突出し,大阪21.5パーセントが続く。以下,福岡11.5パーセント,名古屋9.5パーセント,広島7.4パーセント,仙台5.5パーセント,札幌5.2パーセント,高松4.5パーセントである。各高裁の就任者数は,その高裁に置かれている部の数にほぼ対応している。西川2020ののべ数の分布(東京32.5,大阪21.8,名古屋9.5パーセント)とも,よく一致する。

以上の全体的傾向を踏まえて,8つの高裁それぞれの部総括の特徴を,順に検討していく。

第4 東京高裁部総括

1 経歴的資源(表4)― 司法官僚の集中

歴代東京高裁部総括就任者464人の経歴的資源は,表4のとおりである。

表4 歴代東京高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数464232617293151554137222324050
(%)10050.013.115.520.00.21.13.211.629.547.86.90.90.010.8

第1の特徴は,東大出身者が半分(50.0パーセント)を占めることである。全国平均(36.5パーセント)を大きく上回る。逆に京大・国公立大の比率は全国を下回る。後述の大阪とは対照的である。

第2の特徴は,司法官僚の集中である。事務総局の勤務歴を持つS級は,S1が15人,S2が54人,S3が137人で,合計206人,東京就任者の44.4パーセントに達する。全国のS1は17人であるが,そのうち15人が東京にいる。全国のS2は57人であるが,そのうち54人が東京である。最も深い司法官僚は,東京高裁部総括にほぼ独占的に集まっている。これに連動して,司法行政の最上位を経験した「事務総局局長など」も,全国51人中50人が東京である。司法行政ポストの勤務経験を豊富に積んだ裁判官が,東京高裁部総括に集められていることが分かる。

地家裁所長の経験率も高い。464人中436人,94.0パーセントが東京高裁部総括就任以前に地家裁所長を経験している。西川2020の96.1パーセントとほぼ同じである。西川は,法務省幹部からの転官者を除けば,地家裁所長歴なしに東京高裁部総括に就いた最後の例を1991年3月就任の竹田稔(10期)と指摘した。もはや,地家裁所長以上に強い経歴的資源を持つ者を別とすれば,所長歴なしに東京高裁部総括に就くことはできない。

2 地家裁所長との往復(表5)

東京高裁部総括が,どの管内の地家裁所長から来て,どの管内の地家裁所長へ向かうかを,高裁管内別にまとめたのが表5である(地家裁所長のスティント数を就任前(From)と就任後(To)に分けて数える)。

表5 東京高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From267039462665626128594
(%)44.90.06.67.74.410.910.410.34.7100
To118100801321143
(%)82.57.00.05.60.00.72.11.40.7100

就任前を見ると,同じ東京高裁管内の地家裁所長からの就任が44.9パーセントで最も多い。福岡・仙台・札幌の各管内からも,それぞれ1割前後が流れ込む。全国の所長経験者が,最後に東京へ集まる構図である。

就任後を見ると,地家裁所長への転出は,その82.5パーセントが東京高裁管内である。東京高裁部総括が,他の7高裁管内の地家裁所長ポストよりも格上であることを示している。西川によれば,東京高裁管内の地家裁所長への転出者の多くは,「その次」に高裁長官を期待できる大都市の地裁所長に就いている。

3 その後の経歴(表6)― 栄達の本流

東京高裁部総括就任者のその後の経歴は,表6のとおりである。

表6 東京高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数46418110314232128255
(%)10039.022.230.66.927.65.41.1

ここでの退官者は39.0パーセントで,半数を下回る。残りのほとんどが「出世」している。高裁長官への到達率は27.6パーセントに達し,4人に1人以上が高裁長官に上っている。最高裁判所判事は5.4パーセント,最高裁判所長官は1.1パーセントである。

東京の突出は,全体の数値と並べると一層鮮やかになる。前掲表2のとおり,全体で「要職3」ポストに進んだ32人,最高裁判所判事に到達した25人,最高裁判所長官に到達した5人は,いずれもその全員が,東京高裁部総括の経験者である。高裁長官に到達した146人のうちでも,128人が東京の経験者である。東京高裁部総括という経歴的資源は,その後の栄達において,他の高裁部総括を圧倒している。

第5 大阪高裁部総括

1 経歴的資源(表7)― 実務裁判官が過半を占める

歴代大阪高裁部総括就任者292人の経歴的資源は,表7のとおりである。

表7 歴代大阪高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数292767958740511351101301501
(%)10026.027.119.925.30.01.70.30.312.037.744.55.10.00.3

出身大学では,京大が27.1パーセントと4分の1を超え,東大(26.0パーセント)を上回る。東大が全国平均より1割以上少ない点に,地域性が表れている。東京とは対照的である。

級組では,S1が1人,S2が1人にとどまる。最も深い司法官僚は,東京に寡占されているのである。これに連動して,「事務総局局長など」も1人だけである。これに対し,現場一筋の実務裁判官であるA2は44.5パーセントを占め,全国平均(29.5パーセント)を大きく上回る。A1・A2・B1を実務裁判官の系統に含めて数えると,A1・A2・B1の合計は255人,87.3パーセントに達する。司法官僚が集う東京高裁部総括とは,性格が対照的である。

地家裁所長の経験率は,292人中279人,95.5パーセントである。東京と並んで高く(西川2020は95.8パーセント),大阪も所長歴を必須としている。

2 「西回り」の集積(表8)

大阪高裁部総括の地家裁所長からの/への異動は,表8のとおりである。

表8 大阪高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From5090316364222960364
(%)1.40.024.78.517.317.66.08.016.5100
To606501000678
(%)7.70.083.30.01.30.00.00.07.7100

就任前を見ると,同じ大阪高裁管内からの就任が24.7パーセントにとどまる。後述のとおり,他の高裁では同じ管内からの異動がいずれも過半を占めるのに対し,大阪のこの低さは固有のものである。その分,広島(17.3パーセント),福岡(17.6パーセント),高松(16.5パーセント)といった西日本の各管内から,多くが「転入」してくる。裁判官を大阪中心に異動させる人事は「西回り」と俗称される。彼らがキャリアの最後に大阪へ集められるのである。

就任後を見ると,地家裁所長への転出は,その83.3パーセントが大阪高裁管内である。大阪から見て格下の他管内の所長には,大阪高裁部総括の経験者をほとんど就かせない。東京(7.7パーセント)への転出は格上への異動である。

3 その後の経歴(表9)

大阪高裁部総括就任者のその後の経歴は,表9のとおりである。

表9 大阪高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数292133979001600
(%)10045.533.230.80.05.50.00.0

高裁長官への到達は5.5パーセントで,全国平均の半分強にとどまる。「要職3」「最高裁判所判事」「最高裁判所長官」への到達は,いずれも0である。大阪高裁部総括は,西川の言葉を借りれば,「要職3」ポストひいては最高裁判所入りを望むにあたっての経歴的資源としての価値に乏しい。退官と横滑り(別の高裁部総括等33.2パーセント,地家裁所長等30.8パーセント)が大宗を占める。なお,別の高裁部総括への横滑りは,その内訳の大半が東京・知財・福岡という格上への異動である。

第6 名古屋高裁部総括

1 経歴的資源(表10)

歴代名古屋高裁部総括就任者129人の経歴的資源は,表10のとおりである(名古屋高裁金沢支部部総括を含む)。

表10 歴代名古屋高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数1294316343402021440591400
(%)10033.312.426.426.40.01.60.01.610.931.045.710.90.00.0

出身大学では,京大の比率が低い分,国公立大が26.4パーセントと高い。級組では,S1がおらずS2が2人のみで,「事務総局局長など」もいない(広島以下の5高裁も同じである)。一方,A2が45.7パーセントを占め,B1も合わせれば実務裁判官の系統が過半に及ぶ。大阪と並んで,東京の別格性を裏から示している。

地家裁所長の経験率は66.7パーセント(西川2020は75.2パーセント)である。東京・大阪と異なり,名古屋は就任に所長歴を必須としない。西川によれば,名古屋高裁金沢支部部総括の就任者は全員が所長歴なく就いており,高裁支部の部総括は,地家裁所長より前に就く格下のポストに位置づけられている。

2 所長の往来(表11)

表11 名古屋高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From50449981587105
(%)4.80.03.846.78.67.614.37.66.7100
To1900415120270
(%)27.10.00.058.67.11.42.90.02.9100

就任前は,同じ名古屋高裁管内からの異動が46.7パーセントで最も多い。次いで仙台管内が14.3パーセントを占める。西川によれば,仙台高裁管内の地家裁所長ポストは東京の「定着」者によってほぼ占められており,彼らが仙台で所長歴を付け,更に名古屋で部総括の「箔」を付けて退官する。就任後は,名古屋管内(58.6パーセント)が中心であるが,東京管内への転出(27.1パーセント)が目立つ。名古屋で部総括歴を付けて,格上である東京高裁管内の所長へ栄転する流れである。

3 その後の経歴(表12)

表12 名古屋高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数1294256650100
(%)10032.643.450.40.00.80.00.0

退官は32.6パーセントで,東京・大阪と異なり半数に至らない。その分,地家裁所長等への異動(50.4パーセント)や別の高裁部総括への横滑り(43.4パーセント)が多く,「上がり」と「横滑り」の両方の性格を備える。横滑りは,東京・大阪・金沢支部から本庁へといった格上への異動が中心である。もっとも,高裁長官への到達は0.8パーセントにすぎず,名古屋高裁部総括という経歴的資源は,栄進にはほとんど役立たない。

第7 広島高裁部総括

1 経歴的資源(表13)

歴代広島高裁部総括就任者100人の経歴的資源は,表13のとおりである(広島高裁岡山支部部総括を含む)。

表13 歴代広島高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数1002616212501200324413200
(%)10026.016.021.025.00.012.00.00.03.024.041.032.00.00.0

級組では,S1・S2がおらず,S3もわずか3人である。準実務裁判官(A1)も24.0パーセントと全国平均の半分強にとどまる。一方でA2が41.0パーセントを占め,B1(32.0パーセント)も合わせれば,現場一筋の実務裁判官が73.0パーセントに及ぶ。司法官僚の薄い,実務裁判官中心のポストである。

地家裁所長の経験率は38.0パーセント(西川2020は46.3パーセント)にとどまる。就任にあたって所長歴はあまり重視されない。東京・大阪・名古屋との大きな相違点である。

2 西日本で完結する給源(表14)

表14 広島高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From0000231800546
(%)0.00.00.00.050.039.10.00.010.9100
To602128310445
(%)13.30.04.42.262.26.72.20.08.9100

就任前は,広島(50.0パーセント)・福岡(39.1パーセント)・高松(10.9パーセント)という西日本の管内に完全に偏在する。東京・大阪・名古屋とは全く異なる。就任後は,広島管内(62.2パーセント)が中心である。東京への3人は,広島で部総括の「箔」を付けて格上の東京管内の家裁所長として戻った例であると西川は説明する。

3 その後の経歴(表15)

表15 広島高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数1004329400100
(%)10043.029.040.00.01.00.00.0

退官は43.0パーセントで半数に達せず,「上がり」と「横滑り」の二つの性格を持つ。別の高裁部総括への横滑りは,大阪・名古屋・福岡・本庁へといった格上への異動が中心である。高裁長官への到達は1.0パーセントにとどまり,広島も栄進にはつながらないポストである。

第8 福岡高裁部総括

1 経歴的資源(表16)― 国公立大の比重

歴代福岡高裁部総括就任者156人の経歴的資源は,表16のとおりである(福岡高裁宮崎支部部総括を含む)。

表16 歴代福岡高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数15649234031013111447642900
(%)10031.414.725.619.90.08.30.60.69.030.141.018.60.00.0

出身大学では,東大・京大の比率が全国平均より低く,国公立大が25.6パーセントと高い。西川は,福岡の国公立大出身者の半数以上が九州大学であると指摘する。地元大学の比重が,このポストの一つの特色である。級組では,S1が1人,S3が14人で,準実務裁判官(A1)は30.1パーセントである。これは広島より高く,福岡のほうが準実務裁判官の比率がやや厚い。それでも,A2とB1を合わせた実務裁判官は59.6パーセントに及ぶ。

地家裁所長の経験率は55.1パーセント(西川2020は63.2パーセント)である。広島よりは高く,福岡では所長歴が部総括就任の一つの目安とされている。

2 管内で自己完結する異動(表17)

表17 福岡高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From00008820010100
(%)0.00.00.00.08.082.00.00.010.0100
To141100154740394
(%)14.91.110.60.016.050.04.30.03.2100

就任前は,同じ福岡高裁管内からの就任が82.0パーセントと圧倒的である。これは後述の札幌管内に次ぐ高さである。就任後も福岡管内(50.0パーセント)が中心であり,地家裁所長の往来は,福岡高裁管内でほぼ自己完結している。東京への転出(14.9パーセント)は,福岡で「箔」を付けて格上の管内へ向かう例である。

3 その後の経歴(表18)

表18 福岡高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数1565355760200
(%)10034.035.348.70.01.30.00.0

退官は34.0パーセントで,福岡も「上がり」と「横滑り」の性格を併せ持つ。地家裁所長等への異動(48.7パーセント)と別の高裁部総括への横滑り(35.3パーセント)が大宗を占める。高裁長官への到達は1.3パーセントにとどまる。

第9 仙台高裁部総括

1 経歴的資源(表19)

歴代仙台高裁部総括就任者75人の経歴的資源は,表19のとおりである。

表19 歴代仙台高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数7523514320100628221900
(%)10030.76.718.742.70.01.30.00.08.037.329.325.30.00.0

出身大学では,私大が42.7パーセントと最も多く,8高裁の中で私大比率が最も高い。京大は6.7パーセントと最も低い。級組では,S1・S2がおらず,S3も6人にとどまる。一方で準実務裁判官(A1)が37.3パーセント,B1が25.3パーセントと厚い。地家裁所長の経験率は61.3パーセント(西川2020は60.7パーセント)である。

2 管内集中と「植民地化」(表20)

表20 仙台高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From400111407054
(%)7.40.00.01.91.91.974.113.00.0100
To700220260037
(%)18.90.00.05.45.40.070.30.00.0100

就任前は,同じ仙台高裁管内からの就任が74.1パーセントと高く,札幌管内からの13.0パーセントがこれに次ぐ。西川によれば,仙台高裁管内の地家裁所長ポストは,東京から異動してくる「定着」者によってほぼ占められている。就任後も仙台管内(70.3パーセント)が中心であるが,東京管内への転出(18.9パーセント)も見られる。

3 その後の経歴(表21)

表21 仙台高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数753226330100
(%)10042.734.744.00.01.30.00.0

退官は42.7パーセントで半数に達せず,「上がり」と「横滑り」を併せ持つ。地家裁所長等(44.0パーセント)への異動と別の高裁部総括への横滑り(34.7パーセント)が中心である。高裁長官への到達は1.3パーセントにとどまる。

第10 札幌高裁部総括

1 経歴的資源(表22)

歴代札幌高裁部総括就任者70人の経歴的資源は,表22のとおりである。

表22 歴代札幌高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数7025817150500624281200
(%)10035.711.424.321.40.07.10.00.08.634.340.017.10.00.0

級組では,S1・S2がおらず,A2が40.0パーセント,A1が34.3パーセントである。地家裁所長の経験率は20.0パーセント(西川2020は16.9パーセント)にとどまり,東京・大阪とは正反対に,所長歴をほとんど問わないポストである。

2 「北海道方式」と全国への散らばり(表23)

表23 札幌高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From000000113014
(%)0.00.00.00.00.00.07.192.90.0100
To1213875117458
(%)20.71.75.213.812.18.619.012.16.9100

就任前は,札幌管内からの就任が92.9パーセントと,8高裁の中で最も高い自己完結度を示す。北海道内で完結する人事は「北海道方式」と俗称される。所長歴を持つ就任前の流入そのものが14件と少ない(所長歴を問わないことの裏返しである)。

これと対照的に,就任後の転出は全国に散らばる。東京(20.7パーセント),仙台(19.0パーセント),名古屋(13.8パーセント),広島(12.1パーセント)など,特定の管内に偏らない。札幌高裁部総括は,地家裁所長への横滑りの起点として,最も広い行き先を持つ。

3 その後の経歴(表24)

表24 札幌高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数701728450000
(%)10024.340.064.30.00.00.00.0

退官は24.3パーセントで,8高裁の中で最も低い。逆に地家裁所長等への異動は64.3パーセントと最も高い。すなわち,札幌高裁部総括は「上がり」ではなく,所長への横滑りを前提とした通過点の色彩が最も強い。所長歴を持たずに就き,部総括の経歴を付けてから,改めて全国各地の地家裁所長へ向かう。高裁長官への到達は0である。

第11 高松高裁部総括

1 経歴的資源(表25)

歴代高松高裁部総括就任者61人の経歴的資源は,表25のとおりである。

表25 歴代高松高裁部総括就任者の経歴的資源

区分就任者総実数東大京大国公立大私大その他不明S1S2S3A1A2B1B2事務総局局長など
実数61161110170700311291800
(%)10026.218.016.427.90.011.50.00.04.918.047.529.50.00.0

級組では,S1・S2がおらず,S3も3人にとどまる。準実務裁判官(A1)は18.0パーセントと8高裁の中で最も低い。一方,A2が47.5パーセント,B1が29.5パーセントで,現場一筋の実務裁判官(A2・B1)が77.0パーセントに達し,8高裁の中で最も高い。経歴的資源の最も薄い,実務裁判官のための地位である。

地家裁所長の経験率は13.1パーセント(西川2020は16.4パーセント)で,8高裁の中で最も低い。西川が「歴代の高松高裁部総括判事就任者の8割以上には地家裁所長歴がない」と述べたとおり,高松は所長歴を問わずに就任できるポストである。

2 所長歴を問わない地位(表26)

表26 高松高裁部総括就任前後の高裁管内別地家裁所長数

区分東京知財大阪名古屋広島福岡仙台札幌高松合計
From0000010179
(%)0.00.00.00.00.011.10.011.177.8100
To4065102101139
(%)10.30.015.412.825.65.12.60.028.2100

就任前の所長歴を持つ流入は9件と極端に少ない。これは,高松が所長歴を問わないことの直接の現れである。就任後は,高松管内(28.2パーセント)のほか,広島(25.6パーセント),大阪(15.4パーセント),名古屋(12.8パーセント)など,西日本を中心に散らばる。高松で部総括の経歴を付けてから,他管内の地家裁所長へ向かう流れである。

3 その後の経歴(表27)

表27 高松高裁部総括就任者のその後の経歴

区分高裁部総括総実数退官在官中死亡高裁部総括等地家裁所長等要職3高裁長官最高裁判事最高裁長官
実数611823350000
(%)10029.537.757.40.00.00.00.0

退官は29.5パーセントにとどまり,地家裁所長等への横滑り(57.4パーセント)や別の高裁部総括への横滑り(37.7パーセント)が中心である。高裁長官以上への到達は0である。高松高裁部総括は,所長歴を持たない実務裁判官が部総括の経歴を付けるための通過点であり,それ自体が栄達につながることはない。

第12 八つの高裁部総括の比較

1 格付けの序列 ― 栄達は東京がほぼ独占する

各高裁部総括が,その後どこまで上れるかを,高裁長官以上への到達率で比較すると,明瞭な序列が現れる。

高裁高裁長官への到達最高裁判所判事への到達最高裁判所長官への到達
東京27.6%5.4%1.1%
大阪5.5%0.0%0.0%
福岡1.3%0.0%0.0%
仙台1.3%0.0%0.0%
広島1.0%0.0%0.0%
名古屋0.8%0.0%0.0%
札幌0.0%0.0%0.0%
高松0.0%0.0%0.0%

東京が圧倒的である。最高裁判所判事・最高裁判所長官への到達は,東京以外はすべて0である。前述のとおり,全体で最高裁判所判事に到達した25人,最高裁判所長官に到達した5人,「要職3」ポストに進んだ32人は,いずれもその全員が東京高裁部総括の経験者であった。同じ高裁部総括という名でありながら,最高裁判所への扉が開くのは,事実上,東京を経た者だけである。

2 司法官僚は東京に寡占される

司法官僚(S級)と「事務総局局長など」の分布を比較すると,東京への一極集中が際立つ。

高裁S級(S1〜S3)の人数S級の割合事務総局局長などの人数
東京20644.4%50
大阪3712.7%1
名古屋1612.4%0
福岡1610.3%0
札幌68.6%0
仙台68.0%0
高松34.9%0
広島33.0%0

東京のS級割合は44.4パーセントで,他の高裁(3.0〜12.7パーセント)を大きく引き離す。司法行政の最上位を経験した「事務総局局長など」に至っては,全国51人のうち50人が東京である。司法官僚は,高裁部総括の段階で,既に東京へ寡占されている。

3 地家裁所長歴を必須とする庁としない庁

就任前の地家裁所長経験率を,西川2020と並べて比較すると,次のとおりである。

高裁就任者実数所長経験率(当データベース)西川2020
大阪29295.5%95.8%
東京46494.0%96.1%
名古屋12966.7%75.2%
仙台7561.3%60.7%
福岡15655.1%63.2%
広島10038.0%46.3%
札幌7020.0%16.9%
高松6113.1%16.4%
(全体)1,18272.1%80.6%

注 西川2020の数値のうち東京・大阪・名古屋・広島・福岡は西川2020本文から,仙台・札幌・高松は西川の別稿第6節に基づく当ブログ先行記事の整理による。

東京・大阪は9割を超え,所長歴がほぼ必須である。これに対し,札幌(20.0パーセント)・高松(13.1パーセント)は2割前後にとどまり,所長歴を問わずに就ける。この序列と勾配は,西川2020とよく一致する。同じ高裁部総括という名であっても,一方は地家裁所長を勤め上げた者が更に上る到達点であり,他方は所長を経ずに就ける地位である。西川2020の主題は,当データベースの全件集計によっても,明瞭に再現された。

4 「上がり」「横滑り」「出世」の三類型

以上を総合すると,8つの高裁部総括は,おおむね三つの類型に整理できる。

第1は,東京である。司法官僚が集まり,所長歴を必須とし,高裁長官・最高裁判所への「出世」の本流をなす。栄進の踏み石としての顔が最も前に出る。

第2は,大阪である。実務裁判官が過半を占めるが,所長歴は必須であり,「西回り」で西日本から集まった裁判官が,キャリアの最後に就く「上がり」の色彩が強い。栄進にはほとんどつながらない。

第3は,名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松の地方6高裁である。司法官僚は薄く,所長歴の必須度も庁により幅があり,高裁長官以上への到達はごくわずかである。これらは,退官(上がり)と地家裁所長への横滑りとを中心とし,部総括の経歴を付けるための通過点としての性格を持つ。とりわけ札幌・高松は,所長歴を問わず就け,それ自体は栄達につながらない。

第13 本稿の留保と限界

1 母集団と基準時点の違い

本稿の母集団は1,182人(現在まで),西川2020の母集団は978人(2019年まで)である。両者は別の母集団であるから,比率の絶対値を直接に比較することはできない。とりわけ「その後の経歴」の数値は,本稿が現職や就任直後の者を多く含むため,退官の比率が低く出る(右側打ち切り)。例えば,西川2020では大阪の退官が70.4パーセントであったが,本稿では45.5パーセントである。これは大阪が「上がり」でなくなったことを意味せず,現職者がまだ退官と数えられないためである。「上がり」か「踏み石」かという性格は,退官率の絶対値ではなく,高裁間の相対的な序列によって読むべきである。

2 集計定義の操作化

本稿は,西川の語義をデータベース上の条件に操作化して集計した。級組の判定もその一つであり,とりわけA2(大都市勤務が長い)は,大都市での勤務日数が在任期間の半ばを超えるか否かという機械的な基準で判定した。西川が個々の経歴を吟味して付した級班区分とは一致しないことがあり,級組の分布が西川2020と差を生じる一因はここにある。

「その後の経歴」は,最初の高裁部総括就任より後のスティント(任地の一区間)で判定し,退官は,就任後にいずれの高位ポストにも就かずに終わった残余とした。地家裁所長の前後(表5・表8等のFrom/To)は,地家裁所長のスティント数を管内別に数えたものであり,西川の人数ベースの集計とは数え方が異なる。したがって,これらの表で読むべきは,どの管内が多いかという分布の形であって,経験者の実数そのものではない。また「在官中死亡」は,退官事由の付加情報を要するため,本稿では区別せず符号「-」とした。

3 西川2020との不一致点

検証可能な次元では,比率も序列も,おおむね西川2020と一致した。

もっとも,細部には不一致もある。級組の分布では,本稿は準実務裁判官(A1,37.3パーセント)を最大の級組とするのに対し,西川2020は大都市勤務の長い実務裁判官(A2,38.8パーセント)を最大とし,最大の級組が入れ替わっている。本稿のA2は29.4パーセントで西川2020より約9ポイント低く,逆に地家裁部総括どまりのB1は10.6パーセントと西川2020の5.7パーセントのほぼ倍である。これは,A2(大都市勤務が長い)を,本稿が大都市勤務日数の割合という機械的な閾値で判定したため,西川が手作業でより広く認めたA2の一部がB1に算入されたことによると考えられる。

全体の地家裁所長経験率は,本稿72.1パーセント,西川2020は80.6パーセントで,本稿がやや低い。名古屋(66.7パーセント対75.2パーセント)・福岡(55.1パーセント対63.2パーセント)・広島(38.0パーセント対46.3パーセント)も同様にやや低い。これらは,母集団の拡大と基準時点の差,すなわち現職を多く含むことによるものと考えられる。逆に,東京・大阪では9割超でほとんど変わらず,札幌・高松では西川2020をわずかに上回った。慣行の中核は維持され,周縁でわずかに緩んでいる,と読むのが穏当である。

4 相関と因果についての留保

本稿が示したのは,経歴的資源と幹部到達との間の相関である。相関は,因果関係そのものではない。事務総局や東京高裁部総括を経た者が栄達するのか,それとも栄達する素質のある者が事務総局や東京に選ばれるのか,この2つは相関だけでは区別できない。本稿は,どちらか一方を主張するものではない。選抜と昇進の両面が働いていると見るのが穏当であろう。また,本稿の到達率は過去から現在までを通算した平均であり,時代による変化は別途の分析を要する。

第14 むすび

1 数値の一致という成果

本稿は,西川2020「高等裁判所部総括判事の人事をめぐる一考察」の分析を,当ブログの裁判官データベースの上で,現在の全件データによって機械的に再現し更新する試みであった。歴代の高裁部総括1,182人に,西川の表1から表27までの集計を適用した。

得られた数値は,級組の分布(特にA2とB1の比重)を除き,おおむね西川2020と一致した。とりわけ,東京高裁部総括に司法官僚が集中すること,東京・大阪が所長歴をほぼ必須とし高松・札幌が所長歴を問わないこと,大阪が「西回り」で西日本から裁判官を集めること,そして最高裁判所への扉が事実上東京の経験者にのみ開くことは,西川2020の描いた姿のとおりであった。手作業による緻密な研究と,全件を対象とする機械集計とが,同じ構造を描き出した。

2 同じ名でも異なる地位という発見

本稿が最も明瞭に再現したのは,西川2020の核心,すなわち同じ高裁部総括判事という名でありながら,その事実上の格付けは高裁ごとに大きく異なる,という発見である。東京の部総括は,所長を勤め上げた司法官僚が高裁長官・最高裁判所へ上る本流の一段であり,高松の部総括は,所長を経ない実務裁判官が経歴を付けるための地位である。同じ役職名の下に,これだけの落差がある。名目の同格と,実質の序列とは,ここで分かれる。

3 人事の傾向と裁判の独立の峻別

最後に,一言の留保を改めて加える。本稿が描いたのは,あくまで人事の構造である。それは,個々の裁判官が事件の審理において独立して職権を行うこと(憲法76条3項)を否定するものではない。人事の傾向と,裁判の独立とは,別の次元の問題である。

級組は,レッテルではない。経歴の要約にすぎない。ある裁判官がどの級組に属し,どの高裁で部総括を務めたかは,その裁判官の判断の当否とは無関係である。本稿が個々の就任者の氏名を努めて挙げなかったのも,この区別を保つためである。本稿は,構造を論じるものであって,人を論じるものではない。

開示された司法行政文書の蓄積が,検証可能な社会科学の素材となる。一つの学術論文の分析が,公開データベースの上で再現でき,更新できる。本稿は,そのささやかな一例である。情報公開が継続する限り,データは更新され,分析もまた更新される。

現職裁判官の期別・役職別の分布表 (2026-06-06 23:33 時点)
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修習期 最高裁修習期 司研 総研修習期 高裁修習期 地家裁修習期 出向修習期最高裁計司研計総研計高裁計地家裁計出向計合計
最高裁長官最高裁判事事務総長審議官秘書課長局長課長参事官局付・課付首席調査官上席調査官調査官司研所長事務局長上席教官第一部教官民裁教官刑裁教官司研教官所付総研所長総研教官高裁長官事務局長知財高裁所長高裁支部長東京・大阪部総括その他本庁部総括知財高裁部総括高裁支部部総括高裁本庁陪席知財高裁陪席高裁支部陪席大規模地家裁所長中小地家裁所長大規模支部長中規模支部長東京本庁部総括大阪本庁部総括その他本庁部総括支部部総括小規模支部長本庁判事支部判事本庁判事補支部判事補金融庁出向法務省本省出向法総研出向法務局出向外務省出向その他出向弁護士職務経験
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最高裁長官最高裁判事事務総長審議官秘書課長局長課長参事官局付・課付首席調査官上席調査官調査官司研所長事務局長上席教官第一部教官民裁教官刑裁教官司研教官所付総研所長総研教官高裁長官事務局長知財高裁所長高裁支部長東京・大阪部総括その他本庁部総括知財高裁部総括高裁支部部総括高裁本庁陪席知財高裁陪席高裁支部陪席大規模地家裁所長中小地家裁所長大規模支部長中規模支部長東京本庁部総括大阪本庁部総括その他本庁部総括支部部総括小規模支部長本庁判事支部判事本庁判事補支部判事補金融庁出向法務省本省出向法総研出向法務局出向外務省出向その他出向弁護士職務経験最高裁計司研計総研計高裁計地家裁計出向計合計