◯本ブログ記事は,最高裁判所令和7年6月30日第一小法廷判決(令和6年(受)第1067号),及び同日の最高裁判所令和7年6月30日第一小法廷判決・民集79巻4号2131頁(令和5年(受)第2461号)をAIで論評したものです。管理契約を締結していない別荘地の土地所有者が管理会社に対して管理費相当額の不当利得返還義務を負うかという論点について,不動産鑑定,マンション管理,不動産取引実務,土木・造園技術,会計,民法という複数の専門的観点から本判決の当否を検討し,弁護士が請求又は防御を組み立てる際の視点を整理します。
第1 本判決の事案と判旨
1 事案の概要
被上告人は,不動産の管理業等を目的とする株式会社である。
本件別荘地は,栃木県那須塩原市に所在する多数の土地及び道路等の施設から成る別荘地であり,被上告人は,本件別荘地内に土地を所有する者との間で個別に共益管理契約を締結して管理業務を行っている。
管理業務の内容は,判決によれば,次の3類型である。
① 道路,側溝及びマンホール等の雨水排水設備,街路灯,消火栓,ゴミ集積所等の保全及び維持管理
② 毎日2回のパトロールの実施,道路ゲートの開閉管理,関係者以外の立入り防止,天災地変時の見回り点検
③ 道路両脇の雑草の刈込み作業,U字溝内部の清掃作業
管理契約によれば,管理費は,土地1区画当たり年額3万6000円(消費税別。ただし,1区画の面積が350㎡を超える場合は1㎡につき年額102円(消費税別)を加算する。)とされている。
亡Aは,昭和52年に本件別荘地内の土地を取得し,令和元年に死亡した。土地は上告人が相続した。亡A及び相続人は,土地上に建物を建築しておらず土地を利用しておらず,管理契約を締結したことも管理費を支払ったこともない。
本件は,管理会社が,管理業務という労務により法律上の原因なく利益を受けたとして,不当利得返還請求権に基づき,平成28年7月から令和4年6月までの間の管理費と同額の支払を求めた事案である。
2 判旨
本判決は,管理業務が別荘地を支える基盤施設を利用可能な状態に保全維持し,犯罪や災害による被害の発生等を予防し,環境や景観を良好に保つものであるとした上で,管理業務は別荘地の全体を対象とし全ての所有者に利益を及ぼすもので,契約を締結していない一部の所有者のみを利益の享受から排除することは困難な性質のものであると認定した。
その上で,管理業務という労務は,土地に建物を建築してこれを利用しているか否かにかかわらず所有者に利益を生じさせるものであり,管理業務に要する費用は管理費を収受することによって賄うことが予定されているから,支払を受けていない管理会社には損失があるとした。
そして,このことは,管理業務が土地の経済的価値それ自体を維持又は向上させるものでなかったとしても変わらないと判示した。
さらに本判決は,亡Aが別荘地であることを認識して土地を取得したこと,未契約者が管理費を負担しないと支払っている所有者との間に不公平を生じ管理業務の原資が減少して管理に支障が生ずるおそれがあること,管理業務は所有者が個別になし得るものではなく地方自治体による提供も期待できず他に提供し得る者もうかがわれないことを踏まえ,提供を望まなかったとしても管理費として相当と認められる額の負担を免れないとし,これが契約自由の原則に反しないことは明らかであるとした。
結論として,令和6年(受)第1067号事件は上告を棄却し,同日の令和5年(受)第2461号事件(同一別荘地内の他の所有者に関するもの)は原判決を破棄して自判した。両判決とも,所有者が管理費として相当と認められる額の不当利得返還義務を負うとの結論である。
第2 本判決の判断枠組み
1 民法703条による受益,損失及び法律上の原因の欠如
民法703条は,法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者は,その利益の存する限度において返還する義務を負うと定めている。
本判決の枠組みの特徴は,条文が明記する「労務」による利益を正面から受益と捉えた点にある。役務による利得は物や金銭の移転を伴わないため受益と損失の把握が問題となるが,本判決は,役務が全体に及び個別の排除が困難であるという性質に着目して受益を肯定し,費用を管理費で賄う予定であったのにその支払を受けていないことを損失とした。
もっとも,同条は「利益の存する限度」での返還を定めており,役務による利得を金銭に評価して返還額をどのように画定するかは,条文の文言だけからは一義的に定まらない。
本判決が返還額を「相当と認められる額」と表現し,約定管理費の額と当然に同額であるとは明示していない点は,後記第3の各観点及び第5の3の立証の問題に直結する。
2 契約自由の原則と区分所有法の団体的枠組みとの関係
民法521条1項は,何人も,法令に特別の定めがある場合を除き,契約をするかどうかを自由に決定することができると定めている。本判決は,管理業務の提供を望まなかった所有者であっても相当と認められる額の負担を免れないとし,これが契約自由の原則に反しないとした。
他方,建物の区分所有等に関する法律19条は,各共有者は,規約に別段の定めがない限りその持分に応じて共用部分の負担に任じ,共用部分から生ずる利益を収取すると定めている。
分譲マンションや同法の団地では共用部分の費用が団体と規約という枠組みで根拠付けられるのに対し,戸建ての別荘に共用施設が付属する本件のような別荘地には,この団体的な枠組みが直接には及ばない。本判決は,制度上の枠組みが存在しない場面で個別の不当利得により費用負担を根拠付けたものと整理でき,同法の解釈に直ちに転用することはできない。
第3 各専門的観点からの検討
1 不動産鑑定の観点――経済的価値と「相当と認められる額」
本判決は,管理業務が土地の経済的価値それ自体を維持又は向上させるものでなかったとしても不当利得の成立は妨げられないと判示した。
不動産の価値判断の観点からみると,共用インフラの維持は個別区画の地価に直結しなくても,別荘地としての使用収益上の利便や環境を下支えする便益として作用し得るから,便益の存在を全否定するのは実態に沿わない。この点で,価値の増加を要件から外した本判決の理解には合理性がある。
もっとも,価値増加を要件から外した結果,返還すべき「相当と認められる額」を何によって評価するかという問題が残る。
約定管理費(1区画年額3万6000円等)をそのまま利得額とみるのか,提供された便益に相当する額を別途評価するのか,建物を建築して利用している区画と未利用の区画とで便益の程度に差異があるのではないかといった点は,本判決の文言からは定まらず,返還額の評価において検討を要すると考えられる。
2 マンション管理の観点――共益費とフリーライダー
本判決は,契約を締結していない一部の所有者のみを管理業務の利益から排除することが困難であること,未契約者が負担しないと契約者との間に不公平を生じ原資が減少して管理に支障が生ずるおそれがあることを,結論を支える事情とした。
共用部分の費用を持分に応じて負担させる区分所有法19条の考え方と対比すると,本判決は,共通の便益に対する費用の公平な分担という管理運営上の要請を,制度的枠組みのない別荘地について不当利得で実現したものと理解できる。
他方,マンションでは管理費の内容や水準,改定が総会や規約という手続を通じて区分所有者の関与の下に決定されるのに対し,本件のような別荘地では,そうした手続を欠いたまま費用負担のみが生ずる。
管理業務の内容や管理費の水準に対する所有者の関与や透明性の確保という観点からは,本判決が管理会社の設定した管理費体系を事後的に追認する結果となり得る点に留意する必要があると考えられる。
3 不動産取引実務の観点――管理契約の承継と重要事項説明
本判決は,亡Aが別荘地であることを認識して土地を取得したことを,結論を支える事情の一つとして挙げている。
別荘地の分譲では,区画の価格や管理費の体系が共用管理を前提として設計されることが多く,取引実務の観点からは,取得時に管理費負担の存在がどの程度明確にされていたかが,所有者の認識や負担の相当性の評価に影響し得ると考えられる。
宅地建物取引業法35条は,宅地又は建物の取引に際し,宅地建物取引士による重要事項の説明を義務付けている。
別荘地区画の売買や仲介に宅地建物取引業者が関与する場合には,管理費や共益費の負担に関する事項が同条の説明の対象となり得るから,取得時の説明の有無や内容は,相続により未利用地を取得した所有者を含め,事案の評価において確認すべき事項となると考えられる。
4 土木・造園技術の観点――基盤インフラ維持業務の評価
本件管理業務は,道路,側溝及び雨水排水設備,街路灯,消火栓の保全維持,パトロールや天災時の点検,道路両脇の雑草の刈込みやU字溝の清掃といった,土木及び造園の分野に属する業務から成る。
これらの基盤インフラの維持は,特定の区画だけでなく別荘地の全体の安全,排水,防災及び景観を支えるものであり,実施を怠れば区画単位ではなく別荘地全体の劣化を招く。本判決が管理業務を別荘地の全体を対象とし個別の排除が困難な性質のものと捉えた点は,こうした技術的な実態と整合的である。
もっとも,本判決は個々の業務の技術的な必要性や実施の頻度,積算の相当性まで検討したものではない。
返還額の相当性を争う場面では,各業務の必要性や標準的な費用の水準を技術的に精査しなければ,過剰な仕様や不要な業務の費用が「相当と認められる額」に含まれるおそれがあると考えられる。
5 会計・原価計算の観点――損失と原資減少
本判決は,管理業務に要する費用は管理費を収受することによって賄うことが予定され,その支払を受けていない管理会社に損失があるとして,費用の未回収を損失と構成した。
共通費の未回収は,他の負担者への転嫁か管理水準の低下を招くものであるから,原資の確保という観点から損失を認めた判断には合理性がある。
他方,損失を約定管理費の額と同額とみてよいかは,会計上なお検討の余地がある。
管理業務の実際の原価の構造や,建物のない未利用区画に係る追加的な管理費用の程度を精査せずに,一律に契約者と同額を相当額とすることには,原価計算の観点からは粗さが残ると考えられる。返還額の相当性を争う場合には,費用の内訳や算定根拠に関する資料の検討が有用である。
6 民法・不当利得法の観点――費用利得と契約自由
本判決は,役務すなわち「労務」による利得を正面から認めた点で,費用利得の一場面として理論的な意義を持つ。
文献には,本判決の構成を必要費の支出に相当する費用利得として整理する見解が示されている。
他方,望まない役務の提供を受けた者に費用の負担を課すことは利得の押しつけであり,事実上の契約締結を強制するに等しいとの批判も,文献において示されている。
本判決の枠組みの下では,この批判は相当額の負担そのものを免れさせる根拠とはならないものの,「利益の存する限度」との整合や返還額の相当性の判断において意味を持ち得ると考えられる。契約自由の原則との関係を含め,本判決の理論的な位置付けにはなお検討の余地がある。
第4 本判決の射程と限界
1 本判決が前提とした限定的事実
本判決は,一般的な法理を定立したものではなく,具体的事実を前提とする事例判断である。
本判決が明示的に前提とした事実は,①本件別荘地が多数の土地及び施設から成る大規模な別荘地として開発され現に別荘地として利用されていること,②管理業務が別荘地の全体を対象とし全ての所有者に利益を及ぼすものであること,③契約を締結していない一部の所有者のみを利益の享受から排除することが困難であること,④管理業務を所有者が個別になし得ず地方自治体による提供も期待できず他に提供し得る者もうかがわれないことである。
これらの事実は,役務が全体に及び個別排除が困難であるという非排除性と,代替的な供給主体が存在しないという供給の一元性を示している。本判決の結論は,これらの前提を欠く事案には直ちには及ばないと考えられる。
2 従前の裁判例及び学説との関係
文献には,従前の下級審には,管理業務により別荘地の所有者に抽象的な利益はあっても具体的な利得や土地の価値の増加が認められないなどとして,管理費相当額の請求を否定したものがあるとの指摘が示されている。
本判決は,経済的価値それ自体を維持又は向上させるものでなかったとしても不当利得の成立は妨げられないとした点で,こうした議論に対する最高裁の応答としての意義を持つ。
もっとも,個々の下級審裁判例の事案及び理由付けは様々であり,本記事はこれらを網羅的に確認したものではない。この論点に関する裁判例の全体像を評価する際には,各裁判例の原典に当たって事案の異同を確認する必要がある。
3 他の共用管理関係への波及の可否
本判決の考え方は,自治会費や町内会費,私道の共同管理,ゴミ集積所の維持管理など,契約に基づかずに共通の便益が提供される他の場面への波及が論じられ得る。
しかし,これらの場面は,便益の内容,個別排除の可否,代替的な供給主体の有無において本件と異なり得る。本判決は上記の限定的事実を前提とする事例判断であるから,これらの場面に当然に及ぶものではないと考えられる。
第5 実務上の検討
1 請求する側の主張立証
管理会社の側で不当利得返還請求を検討する場合,本判決が前提とした事実に対応する主張と証拠を用意することが,実務上の出発点となる。
具体的には,次の各点を主張し,これを裏付ける証拠を収集することが考えられる。
① 別荘地が大規模に開発され現に別荘地として利用されていること(分譲時の区画図,パンフレット,開発の経緯に関する資料)
② 管理業務の内容が基盤施設の保全維持,防犯防災及び景観維持であり別荘地の全体に及ぶこと(管理規程,管理委託契約書,管理業務日報,作業記録)
③ 契約を締結していない所有者のみを便益の享受から排除することが困難であること(施設の配置図,管理業務の実施範囲を示す資料)
④ 管理業務を他に提供し得る者がいないこと(地理的条件,供給主体に関する資料)
⑤ 管理費が費用を賄う設計であり未回収により損失が生じていること(費用の明細,管理費の算定資料,収支に関する資料)
2 争う側の反論
土地所有者の側で請求を争う場合,本判決の限定的事実の一部が当該事案に存在しないことを具体的に主張することが,防御の中心となる。
例えば,対象が別荘地としての実体を失っていること,管理業務が当該区画と関連しない部分に偏っていること,便益の個別排除が可能であること,又は他に管理業務を提供し得る者が存在することを,事実に即して争うことが考えられる。
また,契約自由や利得の押しつけの主張は,本判決の枠組みの下では相当額の負担自体を免れさせるものではないが,返還額の相当性を争う文脈では意味を持ち得ると考えられる。
併せて,請求期間が長期にわたる場合には,不当利得返還請求権の消滅時効(民法166条1項)の成否及び範囲を検討する必要がある。
3 「相当と認められる額」をめぐる立証
本判決は,返還すべき額を約定管理費と当然に同額であるとは明示しておらず,「相当と認められる額」と表現している。そのため,返還額の相当性は独立の争点となり得る。
前記第3の1,4及び5の各観点に照らすと,管理業務の原価,提供された便益の程度,各業務の技術的な必要性,建物を建築して利用している区画と未利用の区画との差異などが,相当性の判断に関係する要素となり得ると考えられる。
立証の手段としては,管理業務の原価計算に関する資料,近隣の別荘地における管理費の水準に関する資料などが考えられる。
なお,悪意の受益者に対する利息の付加を定める民法704条の適用の可否も,事案によっては問題となり得るが,これは受益者の主観に関わる別個の論点である。
4 依頼者からの事情聴取事項
本判決の判断枠組みに照らすと,依頼者からの事情聴取では,結論を左右し得る事実を具体的に確認することが有用である。
確認すべき事項としては,次のものが考えられる。
① 土地の取得の時期及び経緯(別荘地であることを認識して取得したか,取得時の管理費に関する説明の有無)
② 建物の有無及び土地の利用状況
③ 管理契約の締結の有無及び承継の経緯
④ 管理費の請求及び支払の履歴並びに請求の対象期間
⑤ 管理業務が現に実施されているかについての認識
⑥ 別荘地の規模,共用施設の状況及び他に管理主体が存在するか
⑦ 消滅時効に関係する事情(請求,承認,協議の有無等)
第6 結論を左右し得る不確実な要素
本判決を実務で参照する際には,次の点が事案の結論を左右し得る不確実な要素となる。
第1に,返還すべき「相当と認められる額」の算定基準であり,約定管理費と同額とするのか,提供された便益に相当する額を別途評価するのかは,本判決の文言からは一義的に定まらない。
第2に,本判決が前提とした限定的事実の充足の有無であり,別荘地の規模,管理業務の内容,便益の非排除性及び代替供給主体の不存在という各要素の当てはめは事案ごとに異なる。
第3に,請求期間に対応する消滅時効の成否である。本判決の事案では平成28年7月から令和4年6月までの管理費相当額が問題となったが,時効の主張の有無及び範囲は事案による。
個別事案への適用に当たっては,別荘地の規模及び共用施設の状況,管理業務の具体的内容と原価,管理費の体系,所有者の取得の経緯,並びに時効に関する事実を,資料に基づいて確認することが必要である。
第7 出典
① 最高裁判所令和7年6月30日第一小法廷判決・令和6年(受)第1067号(上告棄却,本記事の主たる検討対象)
https://www.courts.go.jp/hanrei/94229/detail2/index.html
② 最高裁判所令和7年6月30日第一小法廷判決・令和5年(受)第2461号・民集79巻4号2131頁(同日の破棄自判事件,同一別荘地内の他の所有者に関するもの)
https://www.courts.go.jp/hanrei/94230/detail2/index.html
③ e-Gov法令検索「民法」166条,521条,703条,704条(不当利得の要件,契約自由の原則及び消滅時効に関する根拠)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
④ e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」19条(共用部分の負担及び利益収取。団体的枠組みとの対比のため)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
⑤ e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」35条(重要事項の説明等。不動産取引実務の観点の根拠)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000176
⑥ 窪幸治「民法判例研究〔第11回〕別荘地内に土地を所有する者が当該別荘地の管理会社に対して,管理費として相当と認められる額の不当利得返還義務を負うとされた事例」法律のひろば79巻2号114頁以下(ぎょうせい,2026年)(費用利得としての整理,利得の押しつけとの批判,及び従前の下級審の傾向に関する指摘の出典)