◯ 司法行政の担い手を,最高裁判所裁判官会議・最高裁判所事務総長・下級裁判所事務局長まで横断的に整理した司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長も参照してください。本記事は,そのうち「高等裁判所事務局長」という一つの職に対象を絞ったものです。
第1 本記事の対象と,総論記事との役割分担
1 対象と結論の要旨
本記事は,高等裁判所に置かれる事務局長という職について,設置の根拠,職務権限,任用,格付け及び弁護士実務との接点を検討する。
結論の要旨は次のとおりである。
高等裁判所事務局長は,高等裁判所の庶務を担う事務局のトップであり,その根拠は裁判所法21条及び59条にある。
もっとも,高等裁判所の司法行政の主体は事務局長ではなく,同法20条により高等裁判所裁判官会議であって,事務局長はその補佐機構の長という位置にある。
本件テーマで最も誤解を招きやすいのは,同じ「事務局長」という名称でありながら,高等裁判所では裁判官(判事)が就くのに対し,その直下の事務局次長並びに地方裁判所及び家庭裁判所の事務局長には裁判官以外の職員が就く,という非対称である。
2 既存の総論記事との棲み分け
司法行政の担い手を,最高裁判所事務総長・裁判官会議・下級裁判所事務局長まで横断的に整理した記事は既にある。本記事は重複を避け,高等裁判所事務局長という一つの職に絞って,任用の非対称と実務上の接点を掘り下げる。
裁判官会議の招集及び議事,並びに決裁・専決・代決の一般的な仕組みそのものは,右の総論記事に譲り,本記事では高等裁判所事務局長の権限を理解するために必要な限度で触れる。
第2 設置の根拠と職務権限
1 事務局と事務局長の設置(裁判所法21条・59条1項)
裁判所法21条は,「各高等裁判所の庶務を掌らせるため,各高等裁判所に事務局を置く。」と定める。同法59条1項は,「各高等裁判所,各地方裁判所及び各家庭裁判所に事務局長を置き,裁判所事務官の中から,最高裁判所が,これを補する。」と定める。
したがって,事務局長を置く条文上の根拠は高裁・地裁・家裁に共通であり,補職を行うのは最高裁判所である。地方裁判所については同法30条が,家庭裁判所については同法31条の5が同法30条を準用して,同様に事務局を置く。
2 職務——事務の掌理と職員の指揮監督(裁判所法59条2項)
裁判所法59条2項は,「各高等裁判所の事務局長は,各高等裁判所長官の……監督を受けて,事務局の事務を掌理し,事務局の職員を指揮監督する。」と定める。
事務局長が掌理するのは司法行政の庶務(人事・会計・一般の庶務)であり,事件の審理及び裁判そのものではない。事務局長は高裁長官の監督の下でこれらの事務を統括し,事務局の職員を指揮監督する立場にある。
3 勤務裁判所の指定の対象から除かれること(裁判所法65条)
裁判所法65条は,裁判所調査官・裁判所事務官・裁判所書記官等の勤務する裁判所を各庁が定めるとしつつ,裁判所事務官について「事務局長たるものを除く。」との括弧書を置いている。
事務局長は裁判所事務官の一種でありながら,通常の裁判所事務官と異なり勤務裁判所の指定の枠外に置かれる。これは,事務局長が同法59条1項により最高裁判所の補職を受ける特別な職であることの現れであると考えられる。
第3 高裁事務局長には誰が就くか——判事と裁判官以外の職員の非対称
1 高裁は判事,地裁・家裁は裁判官以外の職員
最高裁判所が作成する下級裁判所幹部職員名簿(裁判官以外の幹部職員を掲げるもの)では,高等裁判所本庁について,事務局次長・首席書記官・課長等が掲げられる一方で,事務局長は掲げられていない。これに対し,地方裁判所及び家庭裁判所については,事務局長が掲げられている。
この掲載の差は,高等裁判所事務局長が裁判官であるのに対し,事務局次長並びに地方裁判所及び家庭裁判所の事務局長が裁判官以外の職員であることを反映しているものと考えられる。高等裁判所事務局長に就く判事は,その在任中,事件の審理及び裁判を行わず,管内の人事・会計・庶務といった司法行政に専従する。
2 「裁判所事務官の中から補する」との整合(裁判所法59条1項・64条)
裁判所法59条1項は,事務局長を「裁判所事務官の中から」補すると定めている。高等裁判所事務局長に判事が就くことは,この文言との関係で一見整合しないように見える。
この点は,判事が裁判所事務官の官を併せ有する形(併任)で事務局長に補職されることにより,同項の要請が満たされているものと整理できる。裁判官以外の裁判所職員の任免は,同法64条により,最高裁判所の定めるところに従い最高裁判所等が行うものとされ,事務局長の任免もこの枠組みによる。
もっとも,個々の発令が官報上どのように表記されるかまでは,本記事は確認していない。官職の具体的な扱いを確定する必要がある場合は,官報の人事情報に当たることになる。
なお,最高裁判所事務総長は,裁判所法53条1項が「裁判官以外の裁判所の職員」と位置づける職であり,判事であった者が就く場合も判事の官職を保有させない扱いとされている。高等裁判所事務局長が裁判官として扱われる点(後記第4のとおり報酬・名簿の扱い)とは区別されるものと考えられる。
3 事務局次長・課長の任用(下級裁判所事務処理規則24条)
下級裁判所事務処理規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第16号)24条5項は,各高等裁判所等の事務局に事務局次長1人を置き,裁判所事務官の中から最高裁判所が補するものとし,事務局次長は事務局長を助け,事務局の事務を整理すると定める。
同条8項は,各課に課長1人を置き,高等裁判所の課長は当該高等裁判所が,地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の課長は所在地を管轄する高等裁判所が,いずれも裁判所事務官の中から命ずると定める。事務局次長及び課長は,一貫して裁判官以外の職員が担う職である。
第4 格付けとキャリア上の位置
1 高裁事務局長は裁判官の報酬による職
高等裁判所事務局長は裁判官であるため,裁判官の報酬に関する定めによる報酬を受け,裁判所の一般職に適用される指定職俸給表の序列には現れない。前記第3の1で述べた幹部職員名簿への不掲載も,この点と符合する。
2 一般職の到達点としての事務局次長(指定職の序列)
裁判所の一般職の指定職職員の序列は,「指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸について」(平成30年6月6日付の最高裁判所裁判官会議議決)によって定められている。同議決によれば,東京高等裁判所事務局次長は指定職俸給表3号俸(判事4号と同じ号俸)が適用される最上位の一群に属し,大阪高等裁判所事務局次長は2号俸,その他の高等裁判所の事務局次長並びに東京地方裁判所事務局長及び裁判所職員総合研修所事務局長等は2号俸とされている。
すなわち,高等裁判所における一般職のキャリアの到達点は事務局次長であり,事務局長は一般職の序列の外にある裁判官の職である。各高等裁判所事務局次長が順次指定職とされたのは,東京を昭和期の先例として,その後平成期に他の高等裁判所へ及んだものである。指定職の号俸及び序列は通達・議決の改定によって変わり得るため,最新の定めで確認する必要がある。
第5 事務局の内部組織と事務分掌
1 総務課・人事課・会計課の3課体制(規則24条1項)
下級裁判所事務処理規則24条1項は,各高等裁判所の事務局に総務課・人事課・会計課を,各地方裁判所及び各家庭裁判所の事務局に総務課及び会計課を置くと定める。高等裁判所は人事課を独立に持つ点で,地裁・家裁の2課体制と異なる。
同条2項は,高裁・地裁・家裁の各支部及び各簡易裁判所に庶務課を置くと定める。事務局長は,これら課の上に立って事務局全体を掌理する。
2 係の事務分掌と照会・開示の窓口
各課の下に置かれる係の事務分掌は,「課に置く係について」(平成6年7月29日付の最高裁判所総務局長依命通達)が定めている。総務課には庶務・文書・人事・会計等の係が置かれ,このうち文書第二係は,司法行政文書の開示,司法行政事務に関して保有する個人情報の保護,情報システムの管理等を分掌する。会計課には経理・用度・保管金・保管物・監査等の係が置かれる。
弁護士が高等裁判所に対して照会,上申又は司法行政文書の開示の申出をする際に実際に対応する部署は,これらの課・係である。担当する係の分掌を把握しておくと,窓口の特定や照会先の選択に資する。
3 知的財産高等裁判所事務局長(規則24条6項)
知的財産高等裁判所には,別に知的財産高等裁判所事務局長が置かれる。下級裁判所事務処理規則24条6項は,同事務局長を裁判所事務官の中から最高裁判所が補するものとし,知的財産高等裁判所長の監督を受けて事務局の事務を掌理し職員を指揮監督すると定める。事務局の課は,同条3項により庶務第一課及び庶務第二課とされている。
第6 弁護士実務との接点
1 司法行政の主体は裁判官会議であること(裁判所法20条)
裁判所法20条1項は,「各高等裁判所が司法行政事務を行うのは,裁判官会議の議によるものとし,各高等裁判所長官が,これを総括する。」と定め,同条2項は,裁判官会議を全員の裁判官で組織し,高等裁判所長官が議長となると定める。
したがって,事務局長に固有の司法行政上の権限があるわけではない。事務局長の職務は,裁判官会議の議や,各庁の司法行政事務処理規程による長官への委任,さらにそこからの専決・代決等を通じて具体化される。弁護士が事務局長名義又は事務局長が決裁した文書に接した場合には,その権限の淵源が委任・専決のいずれによるものかを意識すると,権限の範囲を検討しやすい。
2 司法行政文書の開示・照会の相手方と決裁
司法行政文書の開示の申出やその他の照会に対する回答は,発出名義が高等裁判所長官であっても,各庁の定めに従い専決により事務局長が決裁する場合がある。実務上の対応部署は,前記第5の2のとおり総務課文書第二係である。
裁判所は行政機関の保有する情報の公開に関する法律の「行政機関」ではなく,司法行政文書の開示は最高裁判所の運用に基づくものである。開示の求めに対する判断過程や決裁権限を検討する際には,当該庁の司法行政事務処理規程における委任・専決の定めを確認する必要がある。
3 会計機関としての事務局長・事務局次長(財政法20条2項)
財政法20条2項は,最高裁判所長官を同法にいう「各省各庁の長」の一つとして掲げている。裁判所の会計事務は,最高裁判所長官の権限を裁判所会計事務規程等により各裁判所の職員に委任・分掌する形で執行され,高等裁判所の事務局長及び事務局次長も,支出負担行為担当官,歳入徴収官等の会計機関を担う。
証人・鑑定人の旅費や日当,保管金の取扱い,庁舎に関する契約など,弁護士業務が金銭面で裁判所と接する場面では,これらの会計機関が権限の主体となる。委任の具体的な内容は会計規程等によるため,個別の場面では当該規程を確認することになる。
4 裁判官の人事記録の所在と閲覧権者
司法制度改革審議会の照会に対する最高裁判所の回答(判例時報2144号40頁)には,裁判官の人事関係記録が最高裁判所人事局のほか高等裁判所及び地方・家庭裁判所にもあり,異動に伴って移転されること,並びに高等裁判所長官・高等裁判所事務局長・所長のように裁判官の人事に関与する者がこの記録を見ることができることが示されている。同回答は,異動計画の原案について,高等裁判所管内の異動は主として各高等裁判所が,全国単位の異動は最高裁判所人事局が立案し,最高裁判所と各高等裁判所との協議を経て案が作成されるとしている。
この記述は,高等裁判所事務局(人事課)が管内の裁判官人事の実務の一端を担っていることを示すものである。もっとも,右は司法制度改革審議会への回答という一つの資料に基づくものであり,個別の運用は時期により変わり得る。
第7 留意点と確認を要する事項
本件テーマを実務で参照する際の確認事項を,判断の順に整理する。
① 同じ「事務局長」でも,高等裁判所では裁判官(判事)が,地方裁判所及び家庭裁判所では裁判官以外の職員が就く点を取り違えないこと。
② 高等裁判所事務局長が判事の身分のまま就くという理解は,報酬及び幹部職員名簿の各扱いから整理したものであり,個別の発令の官職表記を確定する必要がある場合は官報の人事情報に当たること。
③ 高等裁判所事務局長という職そのものを正面から扱った公表裁判例は乏しい。国家賠償や司法行政文書の開示をめぐる争いで事務局長の決裁・権限が問題となる場合は,当該庁の司法行政事務処理規程における委任・専決の定めを個別に確認すること。
④ 指定職の号俸・序列,課及び係の構成は,通達・議決・名簿の改定によって変わり得るため,最新のものを確認すること。
出典・参考資料
1 法令(e-Gov法令検索)
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)——13条(最高裁判所事務総局),20条(高等裁判所の司法行政事務と裁判官会議),21条(高等裁判所の事務局),30条・31条の5(地方裁判所・家庭裁判所の事務局),53条(最高裁判所事務総長),59条(事務局長),64条(裁判官以外の裁判所職員の任免),65条(勤務裁判所の指定と事務局長の除外)。
- 財政法(昭和22年法律第34号)——20条2項(最高裁判所長官が各省各庁の長に含まれること)。
2 最高裁判所規則・通達・議決
- 下級裁判所事務処理規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第16号)——24条(事務局に置く課,事務局次長,知的財産高等裁判所事務局長,課長)。裁判所ウェブサイト掲載のPDF。
- 裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則(昭和25年1月20日最高裁判所規則第4号)——事務局長・事務局次長等の任免主体。
- 課に置く係について(平成6年7月29日付の最高裁判所総務局長依命通達)——総務課・人事課・会計課の係の事務分掌。
- 指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸について(平成30年6月6日付の最高裁判所裁判官会議議決)——事務局次長・東京地裁事務局長等の指定職の号俸及び序列。
3 文献・資料
- 司法制度改革審議会の照会に対する最高裁判所の回答(判例時報2144号40頁)——裁判官の人事関係記録の所在,閲覧権者,異動計画原案の立案主体。
- 裁判所会計事務規程——最高裁判所長官の会計事務の各裁判所職員への委任・分掌(事務局長・事務局次長が担う会計機関の根拠)。