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(AI作成)尾島明補足意見(最高裁令和8年6月5日判決)の判例理解についての検証

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。

目次

第1 はじめに
1 本稿の目的
(1) 検証の主題
(2) 検証に用いる資料
2 結論の要旨
(1) 総括的な評価
(2) 留保すべき2点

第2 前提となる3つの判決
1 平成8年3月26日判決
(1) 判示の内容
(2) 被侵害利益の意味
2 平成31年2月19日判決
(1) 事案の特徴
(2) 判示の内容
3 令和8年6月5日判決
(1) 法廷意見の判断
(2) 補足意見の役割

第3 平成31年判決の理解の検証
1 離婚慰謝料の判例としての位置づけ
(1) 引用の正確性
(2) 調査官解説との整合
2 特段の事情の当てはめ
(1) 本件事実への適用
(2) 主張立証責任との関係
3 訴訟物を異にするという理解
(1) 調査官解説の整理
(2) 不貞慰謝料の性質

第4 平成8年判決の理解の検証
1 不貞慰謝料の判例としての位置づけ
(1) 引用の正確性
(2) 調査官解説の注記
2 補足意見が示す審理の順序
(1) 客観的破綻の判断
(2) 破綻を信じた相当の理由
3 「離婚」と「破綻」の区別
(1) 両概念の相違
(2) 原審の誤りの所在

第5 付すべき2つの留保
1 「特段の事情のない限り」の捨象
(1) 判示と補足意見の差
(2) 評価
2 過失の法理の層の違い
(1) 2つの層
(2) 誤読を避ける理解

第6 実務への示唆
1 訴訟物の選択と釈明
2 事案概要欄の記載
3 安易な判断への戒め

第7 結びに代えて

第1 はじめに

1 本稿の目的

(1) 検証の主題

本稿は、最高裁判所令和8年6月5日第二小法廷判決における37期の尾島明裁判官の補足意見を取り上げ、当該補足意見が2つの先例(最高裁判所平成8年3月26日判決及び同平成31年2月19日判決)を正確に理解しているかについて検証するものである。前者は不貞行為に基づく慰謝料(以下「不貞慰謝料」という。)に関する判例であり、後者は離婚そのものを理由とする慰謝料(以下「離婚慰謝料」という。)に関する判例であって、両者はその法的性質を異にする。当該相違を補足意見が正しく踏まえて論を展開しているか否かが、本稿の主たる検討課題である。

(2) 検証に用いる資料

本検証においては、次の4つの資料を用いる。第1に、令和8年判決の判決書である。第2に、平成8年判決の判決書である。第3に、平成31年判決の判決書である。第4に、平成31年判決に関する調査官解説(『最高裁判所判例解説民事篇』所収)である。
調査官解説は、担当調査官が判決の趣旨を敷衍した公的性格を帯びる文献であり、判例の射程を測る上で重要な手掛かりとなるため、本稿においても随所で参照する。

2 結論の要旨

(1) 総括的な評価

先に結論を示すと、尾島補足意見は、上記2つの先例を正確に理解し、適切に引用していると評価できる。
すなわち、平成8年判決を不貞慰謝料の判例として位置づけ、平成31年判決を離婚慰謝料の判例として位置づけた上で、両者を厳密に使い分けている。被侵害利益の混同は認められず、判例の射程を見誤った形跡も窺われない。この点は、調査官解説における理論的整理とも整合する。

以上の評価は、判決書の記載のみならず、引用された事件番号及び出典(巻号頁)等を逐一照合した上で得られた客観的な結論である。

(2) 留保すべき2点

もっとも、事案を精査する観点からは、次の2点について留保を付す必要がある。
第1点は、平成8年判決が婚姻関係の破綻後においても「特段の事情のない限り」という例外的な留保を付しているのに対し、補足意見はこれを捨象し、断定的な表現を用いている点である。
第2点は、「婚姻関係が破綻していると信じたことについての相当の理由」という過失阻却の法理の出所についてである。
これは平成8年判決に直接由来するものではなく、令和8年判決において新たに示された法理と解すべきである。以下、これらの点について順次論述する。

第2 前提となる3つの判決

1 平成8年3月26日判決

(1) 判示の内容

平成8年判決は、不貞行為の相手方(第三者)の不法行為責任について判示した事案である。
当該事案は、妻が夫と肉体関係を持った第三者に対して損害賠償を請求したものであるが、当時、夫婦の婚姻関係は既に破綻していた。
最高裁判所は、甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は甲に対して不法行為責任を負わない旨を判示した。
その理由は、第三者の行為が不法行為を構成するのは、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであり、婚姻関係が既に破綻している場合には、原則として保護すべき当該利益が存在しないためである。
なお、当該事案においては、第三者が夫と知り合った時点で既に夫婦が別居しており、肉体関係を持った時点において婚姻の実体が喪失していたという客観的状態が重視されている。

(2) 被侵害利益の意味

本判決における被侵害利益は、「婚姻共同生活の平和の維持」である。
調査官解説によれば、これは従前の最高裁判決(昭和54年3月30日判決)が「夫又は妻としての権利」と表現していたものと同義であり、いずれも人格権的利益を指すものと解されている。
重要なのは、本判決が「客観的な破綻の有無」を不法行為成立の要件としている点であり、第三者の認識や主観的要件(故意・過失)については直接触れていないことである。

2 平成31年2月19日判決

(1) 事案の特徴

平成31年判決は、夫が妻の不貞相手である第三者を相手取り、離婚慰謝料を請求した事案である。
本件においては、不貞行為自体に基づく慰謝料請求権が既に時効消滅(不法行為の時から3年)していたため、原告は離婚そのものを理由とする損害賠償を請求する構成をとらざるを得なかった。
調査官解説が指摘するとおり、不貞慰謝料と離婚慰謝料は訴訟物を異にする別個の権利である。時効の起算点や消滅の経緯に関する事情も、両者が法的に区別されるべき概念であることを明確に示している。

(2) 判示の内容

最高裁判所は、第三者に対する離婚慰謝料の請求を原則として否定した。
第三者が離婚慰謝料の支払義務を負うのは、単に配偶者と不貞行為に及んだにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に不当な干渉をするなどして、夫婦を離婚のやむなきに至らしめたと評価できる「特段の事情」が存在する場合に限られると判示した。
その根拠として、離婚慰謝料の被侵害利益が「配偶者たる地位」であり、婚姻の解消は本来夫婦の自由な意思決定に委ねられるべきものであるため、第三者が当該地位を直接侵害することは通常想定し難いことが挙げられている。

3 令和8年6月5日判決

(1) 法廷意見の判断

令和8年判決は、不貞慰謝料の請求事案である。上告人は、被上告人の妻Aが既婚者であることを認識しつつ肉体関係を持った第三者である。
ただし、上告人は、肉体関係を持つ以前にAから離婚の強固な意思を告げられ、離婚届を提示されていた上、被上告人自身が家計の分離を提案していたという事情が存在した。法廷意見は、上告人においてAが既に「離婚した」と信じたことについて相当の理由がないとしても、当該婚姻関係が「破綻している」と信じ、かつ、そう信じたことについて相当の理由があったとみる余地があると指摘した。
その上で、原審がこの点を審理判断せず、専ら離婚の成立を信じたことについての相当の理由のみを検討して上告人の過失を肯定したことは、過失に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄し差し戻した。
法廷意見の論理は、上告人がAの既婚の事実を認識していたとしても、肉体関係を持った時点における婚姻の実体及びそれに対する上告人の認識可能性のいかんによっては過失が阻却され得る旨を示したものである。

(2) 補足意見の役割

法廷意見は上記2つの先例を明示的には引用していないものの、実質的にはその法的枠組みを前提としている。
尾島補足意見は、この前提となる法的思考を明示し、原審の審理不尽の所在を判例の法理に照らして説示する役割を担っている。
同補足意見は法廷意見と齟齬を来すものではなく、むしろその理論的背景を補完するものである。
また、補足意見において「婚姻共同生活の平和の維持」という平成8年判決の表現が用いられていることは、法廷意見が従前の判例と同一の枠組みに立脚していることを如実に示している。

第3 平成31年判決の理解の検証

1 離婚慰謝料の判例としての位置づけ

(1) 引用の正確性

尾島補足意見は、平成31年判決を離婚慰謝料の根拠判例として適切に引用している。事件番号及び出典(民集73巻2号187頁)の記載は正確であり、同判決が離婚に伴う慰謝料を対象とした先例であるとする位置づけに誤りはない。

(2) 調査官解説との整合

かかる位置づけは、調査官解説の論旨と完全に整合する。同解説は、離婚慰謝料の被侵害利益を「配偶者たる地位」と解し、第三者に対する請求の認容には極めて高い要件的ハードルが存在するとしている。補足意見の理解もこれに沿うものであり、解釈の齟齬は認められない。
なお、調査官解説は第三者に対する離婚慰謝料請求が例外的に認められる類型として、第三者が一方配偶者と一体となり又は支配下に置いて婚姻関係を破壊した場合(いわゆる「嫁いびり」等の事案)を挙げているが、本件事案にはかかる事情は存在しないため、補足意見がこの例外事由に言及しなかったことは正当である。

2 特段の事情の当てはめ

(1) 本件事実への適用

補足意見は、本件を離婚慰謝料請求として構成した場合、前記「特段の事情」は窺われないと評価しており、この判断は妥当である。記録によれば、上告人はAから離婚の意思を告げられ離婚届を提示されたにとどまり、また、被上告人自身も婚姻関係解消に向けた行動をとっていた。
上告人が夫婦を離婚させることを意図して不当に干渉した客観的形跡は認められず、むしろ夫婦双方が婚姻解消の方向へ進んでいたと評価されるため、特段の事情の存在は否定される。

(2) 主張立証責任との関係

調査官解説によれば、特段の事情に関する主張立証責任は原告側(被上告人)にあり、当該立証が奏功する事案は極めて限定的であるとされる。補足意見が当事者の主張立証自体から特段の事情が窺われないとした点は、手続法及び実体法の双方の観点から調査官解説の理解に合致する。また、補足意見が用いた「うかがわれない」との表現は、平成31年判決の判旨に忠実なものである。
離婚の意思決定は夫婦の自律に委ねられるべきであるという法の建前に照らせば、第三者の行為が離婚の直接的要因であると評価し得る場面は極めて狭隘であり、補足意見の当てはめは法理に則った適切な判断といえる。

3 訴訟物を異にするという理解

(1) 調査官解説の整理

補足意見は、不貞慰謝料と離婚慰謝料が訴訟物を異にすることを前提としている。これは調査官解説の整理と一致する。
調査官解説は、個別慰謝料(不貞慰謝料)と離婚慰謝料の訴訟物が異なる旨を判示した下級審裁判例(広島高裁判決等)を引用しており、補足意見の理解は実務上の支配的見解に符合するものである。

(2) 不貞慰謝料の性質

調査官解説において、不貞慰謝料は不貞行為自体を原因とする「個別慰謝料」の一類型として位置づけられている。これに対し、離婚慰謝料は「離婚」という結果を原因とするものである。
両者は被侵害利益、成立要件、及び効果(帰結)の全てにおいて異なるものであり、補足意見はこの基本的な区別を正確に踏襲している。

第4 平成8年判決の理解の検証

1 不貞慰謝料の判例としての位置づけ

(1) 引用の正確性

補足意見は、平成8年判決を不貞慰謝料の根拠判例として引用している。事件番号及び出典(民集50巻4号993頁)の記載は正確であり、先例としての位置づけに誤りはない。

(2) 調査官解説の注記

平成31年判決の調査官解説においても、平成8年判決は不貞慰謝料に関する重要判例として扱われている。
同判決が被侵害利益を「婚姻共同生活の平和の維持」とし、これを人格権的利益として整理している点は当該解説にも明記されており、補足意見の理解の正当性を裏付けるものである。

2 補足意見が示す審理の順序

(1) 客観的破綻の判断

補足意見は、原審が過失阻却事由(相当の理由)を認めない場合に行うべき審理の順序を明示している。
具体的には、まず婚姻関係が客観的に破綻していたか否かを審理し、破綻が認められる場合には、当該破綻の時期と肉体関係を持った時期の先後を判断すべきとする。肉体関係が破綻後に持たれたものであれば、第三者の認識のいかんを問わず請求は棄却される。
この論理構成は、平成8年判決が客観的な破綻を決定的な事実として重んじている点に忠実に基づくものである。

(2) 破綻を信じた相当の理由

次いで、肉体関係が破綻前に行われた場合について、補足意見は、第三者が婚姻関係が破綻していると信じたことについての「相当の理由」の有無を審理すべきであるとする。
相当の理由が認められれば過失がないとして請求は棄却され、これが否定されて初めて請求認容の余地が生じる。この整理は法廷意見と完全に整合するものであり、権利侵害の客観的判断(利益の不存在)と主観的要件の判断(過失の阻却)を明確に切り分けたものである。

民法709条が不法行為の要件として故意又は過失を要求する以上、客観的破綻が存在しなくとも、破綻を誤信することにつき相当の理由があれば、帰責事由たる過失が否定される。客観的破綻の有無は「権利侵害の有無」に直結し、破綻の誤信は「過失の有無」に直結するという対応関係を、補足意見は的確に捉えている。

3 「離婚」と「破綻」の区別

(1) 両概念の相違

法的に「離婚」と「婚姻関係の破綻」は厳格に区別されるべき概念である。離婚が成立すれば婚姻関係自体が消滅し、配偶者たる地位も婚姻共同生活の平和も法律上消滅するため、以後の肉体関係は不貞行為を構成しない。
これに対し、破綻とは、法律上の婚姻関係が存続しつつも、その実体が完全に喪失した状態を指す。平成8年判決が免責の根拠としたのは、後者の破綻の局面である。

(2) 原審の誤りの所在

かかる概念の相違から、重要な帰結が導かれる。「離婚が成立した」と信じたことについての相当の理由が否定されたとしても、より要件の緩やかな「破綻している」と信じたことについての相当の理由が肯定される余地は十分に存在する。平成8年判決が基準としたのは「破綻」であり、「離婚」ではない。
したがって、過失の有無の審理対象は「破綻の認識」に向けられるべきであったにもかかわらず、原審はこれを「離婚の認識」に限定し、過失阻却の要件を不当に厳格に設定した。法廷意見及び補足意見がこの審理の誤りを指摘したことは正当である。

本件事案における事実関係(離婚届の提示や家計分離の提案等)に鑑みれば、離婚の成立までを信じるには至らなくとも、婚姻関係の破綻を信じることには合理的な理由があると評価し得るため、この区別は結論を左右する極めて重要な意義を有する。

第5 付すべき2つの留保

1 「特段の事情のない限り」の捨象

(1) 判示と補足意見の差

ここで、補足意見の解釈に関して付すべき第1の留保について述べる。平成8年判決は、婚姻関係の破綻後における免責について「特段の事情のない限り」との留保を付しており、例外的に不法行為責任を肯定する余地を残している。
しかしながら、補足意見は、破綻後であれば第三者の認識を問わず「それだけで」請求は棄却される旨の断定的な表現を用いている。これは、判例の文言上の限定を一部捨象した記載となっている。

(2) 評価

当該留保条項(特段の事情)は、実務上適用されて責任が肯定される事例が極めて稀であることから、補足意見の断定的な表現は判例の趣旨を実践的に敷衍した範囲内のものであり、直ちに誤りであるとまではいえない。
しかし、理論上は、平成8年判決が無条件の絶対的免責を判示したものではないことに留意する必要がある。補足意見が断定的な表現を採用したのは、下級審の審理の道筋を明快に提示する目的があったものと善解されるが、実務家が当該判例を引用するに当たっては、本来の判示における限定的文言を正確に踏まえることが望まれる。

2 過失の法理の層の違い

(1) 2つの層

第2の留保は、過失の法理における「層」の違いについてである。
平成8年判決が論じたのは、客観的破綻に基づく被侵害利益の不存在、すなわち「権利侵害(違法性)の層」の問題である。これに対し、「破綻を信じた相当の理由」に基づく免責は、客観的には破綻に至っていない(被侵害利益が存在する)状況下において、行為者の帰責性を否定する「過失の層」の問題である。

(2) 誤読を避ける理解

これら2つの層は理論的に峻別されるべきである。「破綻を信じたことについての相当の理由」による過失阻却の法理は、平成8年判決に明示されていたものではなく、令和8年判決において新たに提示された判断枠組みである。補足意見の記述は、文脈上、この過失の法理までが平成8年判決に由来するとの誤読を招く懸念をはらんでいる。
正確には、平成8年判決は「客観的破綻による利益不存在」を判示し、令和8年判決が「破綻の誤信による過失阻却」を新たに定立したものと理解すべきである。この点につき、平成31年判決の調査官解説が特段の事情の法的性質について権利侵害行為の態様や主観的要件の加重と整理していることは、層を分けて検討する発想に合致する。
まず利益侵害の有無を検討し、次いで帰責事由(過失)の有無を検討するという順序を厳守することで、判例理論の誤読を回避することが可能となる。

第6 実務への示唆

1 訴訟物の選択と釈明

本件は、実務上重要な教訓を提供する。第1に、訴訟物の明確化と釈明権の適切な行使である。不貞慰謝料と離婚慰謝料は法的に別個の請求であり、いずれを選択するかによって要件事実、審理の対象、及び判決の結論が大きく異なる。
当事者の主張する訴訟物が一義的でない場合には、裁判所は看過することなく適時に釈明権を行使すべきであり、当事者側も請求の趣旨及び原因を峻別して明示すべきである。適切な釈明は当事者間の不意打ちを防止し、争点の絞り込みを通じて審理の充実及び効率化に資するものである。

2 事案概要欄の記載

第2に、訴訟記録や判決書の事案概要欄等の記載における正確性の担保である。
本件においては、事案概要において「離婚を余儀なくされた」旨の記載があったとされるが、かかる表現は通常、離婚慰謝料を基礎づけるものと解されやすい。
不貞慰謝料を請求する事案においてかかる表現を用いることは、訴訟物の理解に関し不要な混乱を招くおそれがあるため、法的主張を構成する一語一語の選択には細心の注意が払われなければならない。

3 安易な判断への戒め

第3に、事案の類型化に基づく安易な判断に対する戒めである。不貞行為に基づく損害賠償請求事件は実務において多発するがゆえに、定型的な処理に陥る危険性を内包している。単に「離婚を信じたか否か」のみをもって過失の有無を断じるような画一的判断は避けられなければならない。
客観的な破綻の有無、破綻の時期、さらには破綻を信じたことについての相当の理由の有無について、先例の法理を正確に踏まえた精緻な事実認定及び法的評価が求められる。これは裁判所に課せられた責務であると同時に、的確な主張立証を尽くすべき訴訟当事者の課題でもある。

第7 結びに代えて

以上の検討を総括する。
尾島明裁判官の補足意見は、平成8年判決及び平成31年判決という2つの重要な先例を正確に理解し、不貞慰謝料と離婚慰謝料の訴訟物としての違いを的確に踏まえて論を展開している。被侵害利益の理解や調査官解説との整合性においても遺漏はない。
ただし、その解釈・適用に当たっては、①平成8年判決における「特段の事情のない限り」という留保条項が捨象されている点、及び、②破綻を信じたことによる過失阻却の法理が令和8年判決において新たに示された点について、理論的な留保を付して理解することが肝要である。

この2点を補完しつつ精読すれば、本補足意見の判例理解は極めて正確であり、実務に対して多大なる示唆を与えるものである。同補足意見は、先例の趣旨を深く理解し、それに立脚して個別具体的事案を審理することの重要性を再認識させるものである。

結びに、本件の意義を改めて強調する。不貞行為の相手方に対する損害賠償請求事件は今日においても頻発しており、その法的構成も多岐にわたる。それゆえにこそ、実務家は判例の構築した論理的枠組みを正確に把握しなければならない。不貞慰謝料か離婚慰謝料か、客観的破綻の抗弁か破綻誤信による過失阻却か。
これらの要件を順次かつ厳密に検討していくことの積み重ねのみが、事案に応じた妥当な司法的解決を導き得る。尾島補足意見は、その正当な審理の道筋を司法の立場から改めて明示した点において、極めて高い価値を有するものである。