◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文,現行の民事保全法及び裁判所の手続案内を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
第1 問題の所在
1筆の土地の一部分について所有権移転登記請求権を有する者が,その権利を保全するために処分禁止の仮処分を申し立てる場合,仮処分の対象は原則としてその一部分です。
しかし,土地の一部分について処分禁止の登記をするには,先に分筆の登記をする必要があります。分筆申請ができない又は著しく困難なときまで,土地の一部分だけを対象とする申立てを要求すると,権利保全ができなくなる場合があります。
最高裁判所令和5年10月6日第三小法廷決定(令和5年(許)第9号)は,この場面で1筆の土地全部を対象とする処分禁止の仮処分が許され得る要件を示しました。
第2 最高裁令和5年10月6日決定
1 事案と原審判断
抗告人は,それぞれ1筆である土地の各一部分を時効により取得したなどと主張し,当該各一部分についての所有権移転登記請求権を被保全権利として,各土地の全部について処分禁止の仮処分を申し立てました。
原審は,債権者は土地の一部分について処分禁止の仮処分命令を得た後,債務者に代位して分筆登記を申請できるから,土地全部を対象とする仮処分には保全の必要性がないとして申立てを却下しました。
2 最高裁の原則
最高裁も,1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を保全するには,当該一部分について処分禁止の登記をする方法で足りるため,土地全部についての処分禁止の仮処分は,原則として一部分を超える範囲で保全の必要性を欠くとしました。
つまり,この決定は土地全部を常に対象にできるとしたものではありません。出発点は,必要な範囲に限定するという原則です。
3 特段の事情がある場合
他方で,土地の一部分について処分禁止の登記をするには,その前提として分筆登記が必要です。債権者が分筆登記を申請できるかは,民事保全手続の密行性・迅速性を損なわずに,登記法令上必要な情報を提供できるかに左右されます。
最高裁は,必要情報の提供を妨げる客観的事情があり,債権者が分筆登記を申請できない又は著しく困難であるなどの特段の事情が認められるときは,土地全部を対象とするというだけで直ちに保全の必要性を欠くものではないとしました。
ただし,土地全部に仮処分登記がされれば,債務者は権利行使を広く制約されます。その不利益の内容・程度は別途考慮され,過度な制約にならないと認めるだけの事情がなければ,申立ては却下されるべきであるとも述べています。
本件では,分筆登記に関する登記官の回答を記載した代理人の報告書が提出されていました。最高裁は,その回答を裏付ける資料の疎明を求めるなどして客観的事情を検討せず,特段の事情の有無について審理を尽くさなかった原審判断には法令違反があるとして,原決定を破棄し,事件を原審に差し戻しました。
第3 申立て・審理で確認すべき事項
土地全部を対象とする必要性を主張する場合,少なくとも次の事項を具体化する必要があります。
- 被保全権利の対象部分:図面,測量成果その他の資料で対象部分を特定できるか。
- 分筆申請に必要な情報:地積測量図,筆界,関係者の協力その他の必要事項は何か。
- 客観的な障害:どの情報を取得・提供できず,なぜ単なる準備不足ではなく申請不能又は著しい困難に当たるのか。
- 密行性・迅速性への影響:債務者への事前接触や長期の測量手続が保全目的を害する具体的危険はあるか。
- 裏付け資料:登記官への照会回答,土地家屋調査士の意見,公図・地積測量図,現況資料等をどこまで疎明できるか。
- 債務者の不利益:全部への処分禁止が債務者の利用・処分をどの程度制約し,その制約が被保全権利との関係で過度でないか。
申立書では,「分筆が難しい」という結論だけでなく,必要情報,取得障害,保全手続への影響,代替手段の有無を順に示すことが重要です。
第4 決定の射程と注意点
本決定が示したのは,土地全部を対象とする仮処分を例外的に検討できる判断枠組みです。最高裁自身が本件の仮処分を発令したわけではなく,次の事項を原審で更に審理させるため差し戻しました。
- 分筆登記申請ができない又は著しく困難であるなどの特段の事情
- 被保全権利の存在及び内容
- 土地全部を対象とすることによる債務者の不利益の内容及び程度
したがって,「一部土地の権利を主張すれば全部に仮処分を付けられる」と理解するのは誤りです。原則と例外,債権者側の保全困難と債務者側の過度な制約を,それぞれ具体的資料に基づいて検討する必要があります。
第5 まとめ
1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を保全する処分禁止の仮処分は,原則として当該一部分に限定されます。
もっとも,分筆登記に必要な情報を提供することに客観的な障害があり,債権者が分筆登記を申請できない又は著しく困難であるなどの特段の事情が認められる場合,土地全部を対象とするという理由だけで直ちに保全の必要性が否定されるわけではありません。その場合でも,債務者への不利益が過度でないかを別途審査する必要があります。
第6 出典と確認範囲
- 一次資料:最高裁判所令和5年10月6日第三小法廷決定(令和5年(許)第9号)全文
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92411.pdf - 一次資料:e-Gov法令検索「民事保全法」23条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=401AC0000000091 - 裁判所の手続案内「民事保全」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_15/index.html - 二次資料:宮端謙一「令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情」判例時報2595号
判旨の確認は裁判所公表の決定全文によっています。判例時報2595号は年度集計及び実務上の位置付けの確認に用い,判例秘書は今回検索していません。