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私立学校・大学・留学の学費は養育費に加算できるか―標準教育費と超過分の計算(AI作成)

第1 本記事の対象範囲

本記事は,子が私立学校,大学又は海外留学に進学・進学予定である場合に,その学費を養育費・婚姻費用へ加算できるか,加算できるとしていくら加算するかを扱う。

対象とする論点は,①養育費の算定表(標準算定方式)が既にどの範囲の教育費を織り込んでいるか,②織り込まれていない教育費を義務者に負担させるための要件,③加算額の具体的な計算方法,④私立学校・大学・海外留学という進学先ごとの考慮要素の違いである。

養育費の額の算定方法及び生活費指数の基本的な計算は,養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違いで説明している。
算定表の額に違和感がある場合の一般的な確認順序は,養育費算定表がおかしい?―高すぎる・安すぎると感じたときの確認方法と増減額で扱っており,本記事はこれと重複する範囲を避け,教育費の加算という論点に絞って掘り下げる。
子が成年に達した後も養育費の対象となるかという未成熟子性・支払終期の問題は,養育費は18歳・20歳・大学卒業のいつまでか―未成熟子と支払終期で扱っており,本記事は,子が引き続き養育費の対象となることを前提に,学費の加算額を検討するものである。

第2 算定表に含まれている教育費と含まれていない教育費

養育費・婚姻費用の標準算定方式(算定表)は,公立中学校・公立高等学校の学校教育費を,生活費指数の中に統計的に織り込んでいる。
私立学校(幼稚園から高校まで),大学,大学院,海外留学の費用は,この標準額には含まれていない。

したがって,子が私立学校・大学等に進学し,又は留学する場合,その実費の全額を当然に養育費・婚姻費用へ上乗せできるわけではない。
標準額に含まれる公立学校相当の教育費を控除した超過部分についてのみ,加算の要否・金額が問題となる。

なお,考慮されている教育費は指数として組み込まれているため,義務者の基礎収入額が大きいほど,統計上の学校教育費の実額以上の金額が既に考慮されていることになる。
このため,高額所得者について加算額を計算する際は,統計上の平均額をそのまま控除するだけでは足りず,収入に応じた調整を要する場合がある。

第3 超過分を義務者に負担させるための要件

標準額を超える教育費を義務者に負担させるためには,次のいずれかが必要である。

①義務者が,その教育(私立進学,大学進学,留学等)を承諾していたこと(承諾は,明示的なもののほか,黙示的に認められるものでもよい。)。
②義務者が承諾していない場合であっても,義務者の収入・学歴・地位などから,その教育費負担が不合理でないと認められること。

義務者が承諾していたかどうかは,事案ごとに認定される。
大阪高等裁判所平成27年4月22日決定は,義務者が私立大学進学そのものは了解していなかった事案について,義務者が国立大学進学を「視野に入れていた」と認められる限度で,国立大学の学費標準額分については応分の負担を認めた。
この決定は,義務者の承諾の有無を「全部か無か」ではなく,どの水準までの教育費であれば承諾(少なくとも黙示の承諾)の範囲に含まれるかという形で,段階的に認定した点が参考になる。

第4 超過分の計算方法―複数の考え方

標準額を超える教育費をどう計算し,父母間でどう分担するかについては,複数の考え方があり,一つに収斂していない。

第一に,実際の教育費から標準額相当分を控除した額を,当事者双方の収入(総収入又は基礎収入)の割合で按分する方法である。
この方法によると,権利者に収入がないか非常に少ない場合,超過額のほぼ全部を義務者が負担することになる。
第二に,教育義務を負うのは親であるとして,父母のみで折半する考え方(等分説)である。
大阪高等裁判所平成26年8月27日決定は,超過額を父母で2分の1ずつ負担させた。
第三に,父母双方の収入状況等の個別事情に応じて,画一的な折半ではなく個別の割合で分担させる方法である。
大阪高等裁判所平成28年3月17日決定は,音楽科特別授業料等の超過額の87%を義務者に負担させた。
大阪高等裁判所平成27年4月22日決定は,子自身が奨学金・アルバイトで一部を負担することが推認されることを理由に,義務者の負担割合を3分の1に限定した。
第四に,高額所得者の事案では,統計上の平均的な学校教育費をそのまま控除するのではなく,当事者の収入に比例させて基準額自体を修正した上で超過額を算出する方法も採られている。

これらの方法は,択一的に確立した通説があるわけではなく,権利者・義務者の収入差,義務者の承諾の程度,子自身の負担能力等の個別事情に応じて,裁判所が選択していると理解するのが正確である。

基準額は算定表の改定時期によって異なることに注意を要する。
ここで紹介した裁判例は,いずれも令和元年12月の算定表改定より前(平成21年から平成28年まで)の判断であり,そこで用いられた公立高校の学校教育費の基準額(年額33万3844円)は,平成15年公表の旧算定方式の統計値である。
現行(令和元年改定後)の算定表に対応する基準額は,これとは異なる年額25万9342円(実証的研究の資料による)とされる。
同じ計算方法を用いる場合でも,どの時点の統計値を基準とするかで結果が変わり得るため,古い裁判例の数値をそのまま現在の事案に当てはめないよう注意する必要がある。

第5 私立学校(幼稚園・小中高)の費用

公立学校の教育費を超える私立学校(幼稚園から高校まで)の費用について,義務者に負担させるためには,子が公立でなく私立の学校で就学することに合理性がある場合でなければならない。
義務者が私立進学を承諾している場合は,義務者がその費用を分担することになる。
承諾していない場合であっても,義務者の収入・学歴・地位などから不合理でない場合には,分担すべきである。

分担すべき場合の金額は,私立学校の費用から,標準算定方式に既に織り込まれている公立学校の費用相当額を控除した額である。
大阪高等裁判所平成21年11月17日決定は,私立幼稚園の費用について標準的な公立幼稚園の費用を超える分を基礎収入按分すべきとし,学習塾・習い事の費用についても,義務者の職業・収入等を考慮した相当額(同決定では半額)を考慮した。

私立学校の寮費についても,同じ考え方が及ぶ。
大阪高等裁判所平成28年10月13日決定は,私立高校の寮費に食費・光熱費等が含まれているため,これを標準生活費とは別に全額加算すると二重計上になるとして,月額9万7000円から4万4000円へ調整した。
寮費・食費・光熱費といった名目であっても,実費だからといって全額を上乗せできるわけではなく,標準額に含まれる費目を除いた部分だけが加算の対象となる。

高等学校等就学支援金(授業料に対する国の支援金制度)による給付は,養育費・婚姻費用の分担の計算において,特段考慮する必要はないとされる。
これは,同支援金がそれほど高額でなく,教育の機会均等に寄与することを目的とする制度であるためである。

第6 大学の費用

1 大学生の生活費指数と加算の基本的な考え方

子が大学に進学した場合,収入がある程度あり親が大学を卒業しているような家庭であれば,卒業まで未成熟子として扱うのが一般的とされる。
大阪高等裁判所平成21年9月3日決定は,家庭の教育水準(両親が4年制大学卒業,子自身が中高一貫の私立進学校卒業)を根拠に,成年到達後も大学卒業までの未成熟子性を認めた。

大学生の生活費指数は90とするのが一般的である。
この90には既に公立高等学校の教育費相当額が考慮されているため,原則として,大学の費用からこの相当額を控除した額が加算の対象となる。
大学の費用としては,大学への納付金(授業料)のほか,通学費用,仕送金(下宿代)等も含む。

2 国立大学の学費標準額という基準

私立大学の学費をそのまま加算の基準とするのではなく,国立大学の学費標準額を基準とする考え方がある。
国立大学の授業料標準額は,国立大学等の授業料その他の費用に関する省令により,大学の学部・大学院研究科について年53万5800円と定められている。
同省令は,特別の事情があるときは,各国立大学法人がこの標準額の120%(年64万2960円)を超えない範囲で独自に額を定めることができるとしており,令和6年9月に東京大学が令和7年度入学生から授業料を上限額の年64万2960円へ改定したことが報じられている。
国立大学の学費標準額それ自体が固定的な数値ではなく,改定され得ることに注意を要する。

大阪高等裁判所平成27年4月22日決定は,義務者が私立大学進学までは了解していなかったが国立大学進学を視野に入れていたと認められる事案について,実際の私立大学の学費(年85万円)ではなく,国立大学の学費標準額(当時年53万5800円)に通学費(13万円)を加えた年額66万5800円を基準として,義務者が負担すべき額を算定した。
同決定は,義務者の承諾の程度に応じて,実際にかかった学費ではなく,義務者が想定していたであろう進学先(国立大学)の学費水準を基準額とするという考え方を示した点で参考になる。

3 子ども自身の奨学金・アルバイト収入の影響

同じ標準算定方式の枠組みの下でも,子ども自身に奨学金やアルバイト収入がある場合には,加算が縮小され,又は否定されることがある。

東京家庭裁判所平成27年6月26日審判は,私立大学に進学した事実自体は標準額超過部分を収入按分すべきという一般論を示しつつ,同一事件の別の判断では,子が独立行政法人日本学生支援機構から奨学金の貸与を受けており,アルバイトもしていたことを理由に,「私学費について加算するのは相当ではない」とした。
東京家庭裁判所平成27年8月13日審判も,義務者による進学の承諾が「奨学金の貸与を受けることを前提としたもの」であったことを重視し,学費の大部分を奨学金で賄えることなどから加算を否定した。

前記第6の2で紹介した大阪高等裁判所平成27年4月22日決定も,双方の収入で子の学費全額を賄うのが困難であることから,子自身が奨学金・アルバイトで一部を負担することを推認し,義務者が負担すべき超過額をさらに3分の1に限定した。

これらの裁判例は,私立大学・国立大学を問わず,子ども自身に奨学金・アルバイト収入があること自体が,義務者の負担を縮小させる方向に働くことを示している。

4 医科・歯科大学等の高額な専門職学部

医科・歯科大学等は,通常の4年制大学よりも学費が高額となるため,異なった扱いとなる場合がある。
大阪高等裁判所平成21年10月21日決定は,歯科大学の学費(月額換算約40万円)について,義務者の地位・収入に比して「不相応に高額であり,親が子に対して負う扶養義務の範囲を超える」としつつ,義務者自身が大学卒業で相応の社会的地位・収入があることから,「4年制の私立大学の文系を卒業するのに必要とされる程度の学費の負担義務はある」として,一定額に減額した。

この決定は,専門職学部等の高額な学費であっても,義務者の資力に応じた「相応」の範囲でしか負担義務が生じないことを示す。
子がどのような進学先を選んでも,その学費が無制限に認められるわけではない。

第7 海外留学の費用

海外留学の費用も,性質上は子の養育費に含まれ得るが,実務書の整理によれば,原則として,子は権利者・義務者が負担すべき標準的な養育費の範囲内で監護養育されるべきものとされる。
したがって,義務者がこれを分担する意思を有していたり,分担してもよいという意思を言外に示している場合は格別,そうでない限り,当然にこれを分担すべきであるとはいえない。

この整理は,私立学校・大学の費用(義務者の収入・学歴・地位から見て不合理でなければ,明示の承諾がなくても分担義務を認め得る)と比較すると,義務者の意思をより重視する,やや厳格な扱いであるとみることができる。
特に,学校の休暇中の短期留学のように裁量性の高い教育投資については,この傾向が強いと考えられる。

裁判例による確立した基準がない分野であるため,実務上は,離婚時の取決めにおいて,「留学費用は別途協議する」といった条項を置き,当事者間の個別の合意に委ねる方法が広く用いられている。

第8 進学前にしておくべきこと

これまで見たとおり,超過分の加算が認められるかどうかは,義務者の承諾の有無・程度に大きく左右される。
私立学校・大学への進学,留学が具体的に決まる前に,相手方に対し,進学先の候補,想定される費用及び双方の負担割合について,書面(メール等の記録が残る方法を含む。)で協議しておくことが望ましい。

進学後に義務者が「聞いていなかった」「承諾していない」と争う事態を避けるためには,事前の明示的な合意が最も確実である。
事前の合意が難しい場合でも,家庭裁判所へ養育費の増額を求める調停・審判を申し立てる方法があるが,前記のとおり,義務者の収入・学歴・地位などから見た相当性が個別に審理されることになる。

養育費の取決め自体をこれから行う場合,私立学校・大学・留学等の特別な出費に関する条項をどう設計するかについては,養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違いで説明している。

出典

1 法令

①国立大学等の授業料その他の費用に関する省令(平成16年文部科学省令第16号)第2条,第10条(e-Gov法令検索。令和8年8月22日確認)

2 裁判例

①東京高等裁判所平成12年12月5日決定(平成12年(ラ)第2337号。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)
②大阪高等裁判所平成21年9月3日決定(平成21年(ラ)第423号。裁判所HP未掲載。松本哲泓『婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-』新日本法規により紹介)
③大阪高等裁判所平成21年10月21日決定(平成21年(ラ)第852号。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
④大阪高等裁判所平成21年11月17日決定(平成21年(ラ)第1055号。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑤大阪高等裁判所平成26年8月27日決定(判例時報2267号57頁。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑥東京家庭裁判所平成27年6月26日審判(判例時報2274号100頁。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑦大阪高等裁判所平成27年4月22日決定(判例時報2294号60頁。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑧東京家庭裁判所平成27年8月13日審判(判例時報2315号96頁。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑨大阪高等裁判所平成28年3月17日決定(判例時報2321号36頁。裁判所HP未掲載。松本哲泓・前掲書により紹介)
⑩大阪高等裁判所平成28年10月13日決定(平成28年(ラ)第767号,判例時報2322号70頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)

3 文献

①松本哲泓(弁護士・元大阪高等裁判所部総括判事)『婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-』新日本法規,平成30年,126頁~137頁
②秋武憲一『第4版 離婚調停』日本加除出版,令和3年,287頁~288頁,307頁~309頁

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