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民間労働者と司法修習生との比較――労働者性,休暇,社会保険及び労働基本権(AIリライト)

第1 司法修習生の法的地位と労働者性

1 司法修習生は国家公務員ではないこと

司法修習生は,司法試験に合格した者の中から最高裁判所が命ずる者であり(裁判所法66条1項),裁判官,検察官又は弁護士となる資格を取得するための修習を行う地位にある。最高裁判所は,昭和42年4月28日判決(昭和38年(オ)第5号・民集21巻3号759頁)において,司法修習生が国家公務員等退職手当法にいう国家公務員又はこれに準ずるものに当たらないと判示し,その理由として,司法修習生は「国の事務を担当するものでない」こと,及び裁判所法が司法修習生と裁判所職員とを区別する規定を設けていることを挙げた。同判決は,兼職の禁止,司法研修所長の統轄,配属地の高等裁判所長官等による監督,守秘義務及び意に反する罷免といった取扱いについても,これらは「司法修習生をして右の修習に専念させるための配慮ないしはその修習が秘密事項に関することがあるための配慮にすぎないのであり,司法修習生の勤務形態が国の事務に従事する職員に類似し又はこれに準ずる形式ないし実態があるからではない」と述べている。

同判決は,あわせて「国家公務員又はこれに準ずるものの意義及び範囲は,それがすべての法律を通じて同一でなければならないという法理はなく,各法律ごとにその趣旨・目的に照らして合理的にこれを決定するよりほかはない」との一般論を示した。本記事は,この考え方を前提として,個々の法律ごとに民間労働者と司法修習生の取扱いを対照する。なお,同判決の当時の司法修習生は,国家公務員共済組合法上,裁判所共済組合の組合員として取り扱われており,現在の司法修習生が国民健康保険及び国民年金第1号被保険者となるのとは扱いが異なっていた。

裁判所ウェブサイトの「司法修習生」のページには,「司法修習生は,国家公務員ではありませんが,これに準じた身分にあるものとして取り扱われ,兼業・兼職が禁止され,修習に専念する義務(修習専念義務)や守秘義務などを負うこととされています。」と記載されている。修習専念義務は,平成16年の裁判所法改正により,裁判所法67条2項に「司法修習生は,その修習期間中,最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない。」として明文化された。

2 労働基準法上の労働者にも当たらないこと

政府は,司法修習生が労働基準法上の労働者に当たらないという解釈を国会で明らかにしている。法務省民事局長は,平成25年10月30日の衆議院法務委員会において,「司法修習生は,公務員に準ずる,準じないとは別に,いずれにせよ事業または事務所に使用される者ではなく,労働基準法上の労働者の性質は有しないということでございますので,労働基準法の適用はないとされてきたものと承知しております。」と答弁した。

裁判所も,給費制の廃止を違憲であると主張して提起された一連の訴訟において,同じ結論を採っている。東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号・訟務月報65巻5号767頁)は,憲法27条1項の「勤労」をする者といえるためには使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であることを要するとした上で,「司法修習は,原告らが自ら選択した法曹という職業になるために受ける必須の教育課程であって,原告らが何らかの公務を提供するものではないから,司法修習生に『労務の提供』はなく」と判示した。同判決は,司法修習生が「後に公務員たる裁判官,検察官だけではなく,公務員ではない弁護士にもなることができるという点で,将来の進路が不確定で,研修の実施主体である国の職務に修習修了後も就くことが予定されているわけではないという特殊な地位にあり,既に国又は企業等に雇用されてから研修を受ける者と同視することはできない」とも述べている。この判断は東京高等裁判所平成30年5月16日判決(平成29年(ネ)第4781号・訟務月報65巻5号739頁)が引用し,最高裁判所第二小法廷令和元年7月10日決定(平成30年(オ)第1231号,平成30年(受)第1511号)が上告を棄却し上告受理申立てを受理しなかったことにより確定した。

大分地方裁判所平成29年9月29日判決(判例時報2363号47頁)は,後記第6の1で述べる研修医に関する最高裁判所平成17年6月3日判決を明示的に引用して判断枠組みを示している点で,労働者性の議論として最も分かりやすい。同判決は,「憲法二七条一項にいう『勤労』の主体は,労働基準法九条所定の『労働者』と同義と解される」とし,「ここにいう労務の提供に当たる行為は,他者のための労務の遂行という性質を有するものをいい,専ら教育的な性質のみを有し,教育を受ける者の研さんのみを目的とする行為は含まれない」と述べた上で,司法修習生は裁判官,検察官又は弁護士の職務を遂行する権限を有せず,国の事務に関する職務を遂行する固有の権限も義務も定められていないことを指摘した。そして,「司法修習は,労務の提供とはいえない以上,原告らが主張する,仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由のないこと,場所的・時間的拘束を受けていること,代替性がないこと等を考慮したとしても,憲法二七条一項の『勤労』に該当せず」と結論づけている。すなわち,後記3の判断要素をどれだけ満たしても,前提となる「労務の提供」が認められない以上,労働者性の判断には入らないという構造である。

福岡高等裁判所令和元年5月10日判決(平成30年(ネ)第438号)は,「司法修習生が司法修習を行うことをもって,国の事務を担当するものとは認められず,国に対して自己の労務を提供するものとは認めることができない」とした上で,改正前の裁判所法67条2項に基づいて支給されていた給与について,「司法修習生をして司法修習に専念させ,その成果を確保するための配慮又は方策であり,国に対する労務提供の対価として支給されていたものではない」と判示した。同判決は,「企業や国に雇用された者が研修を受ける場合と同列に論じることはできない」とも述べており,教育訓練の労働者性が問題となる他の場面との区別を明示している。名古屋高等裁判所令和元年5月30日判決(平成30年(行コ)第5号)も,司法修習生に憲法27条の労務の提供があるとはいえないとしている。

3 労働者性の判断基準とその見直しの動き

労働基準法9条の労働者に該当するかどうかは,契約の名称ではなく就労の実態によって判断される。実務上の判断基準としては,昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」が用いられており,仕事の依頼や業務従事の指示に対する諾否の自由,業務遂行上の指揮監督,勤務場所及び勤務時間の拘束性,労務提供の代替性,報酬の労務対価性等を総合して使用従属性を判断するものとされている。厚生労働省労働基準局は,令和6年10月時点の情報をまとめた「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」を公表しており,裁判例及び行政解釈を横断的に確認できる。

この判断基準には見直しの動きがある。厚生労働省の労働基準関係法制研究会が令和7年1月に公表した報告書は,昭和60年報告から約40年が経過し,働き方の変化及び多様化に必ずしも対応できない部分が生じていると指摘し,専門的な研究の場を設けて総合的な検討を行うべきものとした。これを受けて,「労働基準法における『労働者』に関する研究会」が令和7年5月に第1回会合を開催し,諸外国の制度及びプラットフォーム経済に関する国際的な議論を含めた検討を進めている。また,事業者間の業務委託については,特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)が令和6年11月1日に施行されており,同法の適用対象と労働者性の判断とは別の問題である点に留意する必要がある。

教育訓練の期間中に労働者性が認められるかどうかは,訓練の内容によって結論が分かれる。東京地方裁判所令和4年1月17日判決(ケイ・エル・エム・ローヤルダツチエアーラインズ事件・令和元年(ワ)第23599号ほか・労働判例1261号19頁)は,航空会社が採用当初の約2か月間にオランダで実施した客室乗務員の訓練について,労働契約とは別個に締結された訓練契約も労働契約に該当すると判断した。同判決は,判断の一事情として「本件訓練の内容が他の航空会社にも通用する汎用性の高いものであったとは認められない」ことを挙げている。行政解釈としても,商船大学及び商船高等専門学校の学生が民間の事業場で行う工場実習について,当該事業場との関係で原則として労働者に該当しないものとして取り扱う旨の労働省通達(昭和57年2月19日基発第121号)があり,大阪高等裁判所平成14年5月9日判決(労働判例831号28頁)はこの通達との関係を論じている。

第2 採用時点の取扱い

1 民間労働者の場合

会社は,経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し,労働者を雇用するに当たり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこれを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由に決定することができる(最高裁判所平成15年12月22日判決(平成13年(行ヒ)第96号ほか)。同判決は,最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件・昭和43年(オ)第932号・民集27巻11号1536頁)を引用している。)。もっとも,同判決は,いったん労働者を雇い入れ雇用関係上の一定の地位を与えた後は,その地位を一方的に奪うことについて雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではないとも述べており,採用の自由と解雇の自由とは同列に扱われていない。

採用の自由には,次の法律上の制限がある。①募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律9条),②性別を理由とする差別の禁止(男女雇用機会均等法5条),③事業主の責務(障害者の雇用の促進等に関する法律5条),④組合員であること等を理由とする不利益取扱いの禁止(労働組合法7条1号)である。①については,長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として新卒者等に限定した募集及び採用を行うことが例外として認められているが,その根拠規定は同法施行規則1条の3第1項3号イであり,同項1号は定年の年齢を下回ることを条件とする場合に関する別の例外である。なお,「雇用対策法」は,平成30年7月6日施行の働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により現在の名称に改められ,年齢に関する規定は10条から9条に移動した。

国籍による差別については,昭和22年9月1日の労働基準法施行当初から,賃金,労働時間その他の労働条件についての差別的取扱いが禁止されていた(労働基準法3条)。

2 司法修習生の場合

司法試験合格者は,一定の欠格事由に該当しない限り,性別及び年齢等にかかわらず司法修習生に採用される。健康診断の結果が著しく悪い場合には「心身の故障により修習をすることが困難である者」に,罰金前科等がある場合には「品位を辱める行状により,司法修習生たるに適しない者」に,それぞれ該当する可能性があり,これらの事由があるときは採用されない可能性がある。この点は,司法修習生の採用選考,健康診断及び名刺及び司法修習生採用選考面接及び面接留保通知書等で詳しく取り上げている。

国籍要件は段階的に廃止された。昭和51年採用の第30期までは,司法修習生採用選考要領の欠格事由が「日本の国籍を有しない者」とされており,日本国籍を取得しなければ採用されなかった。昭和52年に在日韓国人が帰化せずに第31期司法修習生に採用されて以降,同欠格事由は「日本の国籍を有しない者(最高裁判所が相当と認めた者を除く。)」と改められ,平成21年11月採用の新第63期からは欠格事由から「日本の国籍を有しない者」が削除された。日本弁護士連合会は,これに先立つ平成6年3月28日付けで最高裁判所長官宛ての要望を行い,司法修習生採用選考要項の国籍条項の削除等を求めていた。経緯の詳細は司法修習生の国籍条項に関する経緯にまとめている。なお,平成29年5月12日付けの司法行政文書不開示通知書によれば,国籍条項が廃止されるに至った経緯が分かる文書は保存期間を満了して廃棄されている。

第3 休暇及び欠席の取扱い

1 民間労働者の場合

雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者には,継続し又は分割した10労働日の年次有給休暇が与えられる(労働基準法39条1項)。年次有給休暇の権利は,これらの要件を満たすことによって法律上当然に発生し,労働者が始期と終期を特定して時季指定をしたときは,客観的に時季変更権の事由が存在し,かつ使用者がこれを理由として時季変更権を行使しない限り,その指定によって年次有給休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅する(最高裁判所昭和48年3月2日判決(昭和41年(オ)第848号・民集27巻2号191頁))。労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業した期間,育児休業及び介護休業をした期間並びに産前産後の休業期間は,出勤率の算定に当たって出勤したものとみなされる(同条10項)。また,無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,出勤率の算定に当たり全労働日に含まれる(最高裁判所平成25年6月6日判決(八千代交通事件・平成23年(受)第2183号))。

平成31年4月1日からは,年次有給休暇が10労働日以上与えられる労働者について,使用者が基準日から1年以内に5日について時季を定めて与えなければならないこととされた(労働基準法39条7項)。使用者が労働者の時季指定又は計画的付与によって既に5日以上の年次有給休暇を与えている場合には,この義務は生じない(同条8項)。

年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いについては,注意を要する。労働基準法附則136条は「使用者は,第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」と定めるが,この規定は使用者の努力義務を定めたものであり,これに反する取扱いが直ちに私法上無効となるわけではない。最高裁判所平成5年6月25日判決(沼津交通事件・平成4年(オ)第1078号・民集47巻6号4585頁)は,年次有給休暇を取得した乗務員に皆勤手当を支給しない旨の約定について,手当の額が相対的に大きいものではないなどの事情の下では「年次有給休暇取得の権利の行使を抑制して労働基準法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとは認められず,公序に反する無効なものとはいえない」と判示した。裏を返せば,権利行使を抑制して法の趣旨を実質的に失わせると認められる場合には,公序(民法90条)に反するものとして無効となる。

時季変更権の行使が認められる場面についても裁判例がある。事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため,各職場の代表者を参加させて1か月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識及び技能を修得させる訓練の期間中に年次有給休暇が請求されたときは,当該休暇期間における具体的な訓練の内容がこれを欠席しても予定された知識及び技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り,使用者は事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができる(最高裁判所平成12年3月31日判決(日本電信電話事件・平成8年(オ)第1026号))。

2 司法修習生の場合

司法修習生には,労働基準法に基づく年次有給休暇の制度はなく,「休暇」という概念そのものが存在しない。正当な理由のない欠席は規律違反として非違行為となる。もっとも,欠席の承認については運用基準が定められており,休暇制度がないことと欠席が一切認められないこととは同じではない。

平成30年4月3日付けの司法研修所長通知に基づき同月25日から実施されている「司法修習生の欠席承認に関する運用基準」は,まず,負傷又は疾病のため療養する必要があり修習しないことがやむを得ないと認められる場合に,その必要最小限度の期間に限って欠席を承認することができるとしている。その上で,国家公務員の特別休暇の例により欠席を承認することができる場合として,①選挙権その他公民としての権利を行使する場合,②6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定である司法修習生が申し出た場合,③司法修習生が出産した場合,④地震,水害,火災その他の災害又は交通機関の事故等により出席することが著しく困難であると認められる場合を挙げる。これら以外の事由についても,欠席を必要とする程度と修習に及ぼす支障の程度とを個別に比較衡量し,結婚,忌引,健康診断の受診等について欠席が承認され得る。同基準は,修習の種類ごとに支障の程度が異なることを前提としており,選択型実務修習における全国プログラム等の日は欠席を承認し得る場合がごく限られるのに対し,自由研究日については特別の事情がない限り承認することができるものとされている。運用基準の全文は司法修習生の欠席承認に関する運用基準(平成30年4月25日施行分)に掲載している。

第4 病気等で修習又は労務に従事できない場合の取扱い

1 民間労働者の場合

以下は,健康保険及び厚生年金保険の被保険者である労働者を前提とする。病気等で働けない場合,就業規則の内容によっては6か月から1年程度の休職が認められることがあり,休職期間中は健康保険から傷病手当金(標準報酬月額を基礎として算定した額の3分の2に相当する額)の支給を受けることができる(健康保険法99条)。傷病手当金の支給期間は,令和4年1月1日以降,同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病について,支給を始めた日から通算して1年6か月とされた(同条4項)。通算化により,支給期間中に就労するなどして傷病手当金が支給されない期間がある場合には,支給開始日から起算して1年6か月を超えても繰り越して支給を受けることができる。また,資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して1年以上あり,資格喪失日の前日に傷病手当金を受けているか又は受けられる状態にある者は,退職後も継続して傷病手当金の支給を受けることができる。

職場復帰に当たっては,厚生労働省が「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を作成しており,事業者が講ずべき段階的な手順が示されている。労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った履行の提供があるものと解される(最高裁判所平成10年4月9日判決(片山組事件・平成7年(オ)第1230号))。

社会保険の加入手続がされていなかった場合であっても,労働者としての実態があるのであれば,事後的に加入することができる。①労災保険については,保険関係成立の届出がされていない場合に労働基準監督署長が職権で保険関係の成立及び保険料の額を確定させる手続がある(労働保険の保険料の徴収等に関する法律4条の2第1項,15条3項。なお,事業主が故意又は重大な過失により届出をしていない期間中に生じた事故については,政府が保険給付に要した費用の全部又は一部を事業主から徴収することができる〔労働者災害補償保険法31条1項1号〕。),②雇用保険については公共職業安定所長の職権による被保険者資格の確認(雇用保険法8条,9条),③健康保険については保険者等の職権による確認(健康保険法39条2項),④厚生年金保険については厚生労働大臣の職権による確認(厚生年金保険法18条2項)が,それぞれ用意されている。

短時間労働者に対する社会保険の適用範囲は段階的に拡大されている。平成28年10月に従業員数501人以上の企業を対象として始まり,令和4年10月に101人以上,令和6年10月に51人以上へと拡大された。さらに,令和7年6月に成立した年金制度改正法により,賃金要件(月額8万8000円以上)は撤廃され,企業規模要件についても令和9年10月の36人以上を皮切りに段階的に撤廃されることとなった。

休職中であっても社会保険料の負担は続く。健康保険料,介護保険料(40歳以上の場合),厚生年金保険料及び雇用保険料の被保険者負担分は給与から控除されるところ,保険料が免除されるのは産前産後休業及び育児休業等の期間に限られ,それ以外の理由による休職及び休業では労働者負担分を負担する必要がある。

2 司法修習生の場合

病気等で修習に参加できない場合,まず,修習全体を通じてトータルで45日を超える欠席は認められない。加えて,導入修習,実務修習の各クール,集合修習及び選択型実務修習といった修習単位ごとに,その半分を超える日数の欠席は認められない。これを超えて休む必要がある場合には,いったん罷免された上で,次年度の司法修習生として再採用される必要がある。再採用される際の配慮事項について司法研修所が作成している手引きは,司法修習生の司法修習に関する事務便覧を見る限り確認できない。罷免の根拠は裁判所法68条であり,成績不良,心身の故障その他修習の継続が困難である事由による罷免(同条1項)と,品位を辱める行状その他司法修習生たるに適しない非行による罷免,修習の停止又は戒告(同条2項)とが区別されている。

休んでいる期間中も修習給付金及び修習専念資金の支給又は貸与を受けることはできるが,傷病手当金に相当する所得保障の制度はない。しかも,修習給付金は,通常修習期間の末日の属する給付期間,司法修習生としての身分を保有しない期間及び修習停止期間を含む給付期間については日割りによって計算した額が支給されるにとどまる。

司法修習生は健康保険及び厚生年金保険の被保険者ではないため,これらの保険料が修習給付金から控除されることはなく,雇用保険料も問題とならない。もっとも,これは給与からの控除(特別徴収)がないという意味にすぎず,負担がないという意味ではない。司法修習生は国民健康保険の被保険者及び国民年金の第1号被保険者(国民年金法7条1項1号)となり,これらの保険料を自ら負担する。介護保険についても,市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者は第2号被保険者とされている(介護保険法9条2号)から,40歳以上の司法修習生は国民健康保険料と併せて介護保険料を負担することになる。加えて,基本給付金及び住居給付金は雑所得として課税対象となり,源泉徴収が行われない分,確定申告によって所得税及び住民税を負担することになる(移転給付金は非課税である。)。修習給付金の税務及び社会保険の詳細は司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金で扱っている。

業務が原因で心の病を発症した場合の取扱いについては,業務が原因で心の病を発症した場合における,民間労働者と司法修習生の比較で別途整理している。なお,平成29年4月24日付けの司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁判所が司法修習生に対して負っている安全配慮義務の内容が分かる文書は存在しない。もっとも,下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり,元請企業の管理する設備工具等を用い,事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し,その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなどといった事実関係の下においては,元請企業は信義則上その労働者に対し安全配慮義務を負うとした最高裁判所平成3年4月11日判決(三菱重工業神戸造船所事件・平成元年(オ)第516号)があり,直接の雇用関係がないことが安全配慮義務を直ちに否定するものではない。

第5 妊娠,出産及び育児に関する取扱い

1 民間労働者の場合

民間労働者が出産する場合,①健康保険から出産育児一時金の支給を受けることができ,②出産の日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間について健康保険から出産手当金(標準報酬月額を基礎として算定した額の3分の2に相当する額)の支給を受けることができ(健康保険法102条),③雇用保険から育児休業給付の支給を受けることができる。出産育児一時金の額は,令和5年4月1日から,健康保険法施行令36条本文の48万8000円に産科医療補償制度に係る加算額(3万円を超えない範囲で保険者が定める額。実務上は1万2000円)を加えた合計50万円となった。

休業についても法律上の保障がある。産前は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合,使用者はその者を就業させてはならず,産後は8週間を経過しない女性を就業させてはならない(労働基準法65条1項,2項本文)。ただし,産後6週間を経過した女性が請求した場合において,その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない(同項ただし書)。したがって,産後6週間は本人の請求の有無にかかわらず就業が禁止される。育児休業は,原則として子が1歳に達するまでの間取得することができ,保育所に入所できない等の事情があるときは1歳6か月又は2歳に達するまで延長することができる(育児・介護休業法5条,9条2項)。育児休業申出等をし又は育児休業をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止されている(同法10条)。

近年の改正により,制度は次のとおり拡充されている。令和4年10月1日には出生時育児休業(産後パパ育休)が創設され,育児休業の分割取得も可能となった。令和7年4月1日には,雇用保険法の改正により出生後休業支援給付金及び育児時短就業給付金が創設された。また,育児・介護休業法等の一部を改正する法律(令和6年法律第42号)により,令和7年4月1日から子の看護等休暇の拡充,所定外労働の制限の対象を小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大すること及び3歳未満の子を養育する労働者に関するテレワークの導入(努力義務)等が,令和7年10月1日から3歳以降小学校就学前の子を養育する労働者に対する柔軟な働き方を実現するための措置の義務化等が,それぞれ施行された。

社会保険料については,産前産後休業期間(産前42日〔多胎妊娠の場合は98日〕,産後56日のうち,妊娠又は出産を理由として労務に従事しなかった期間)及び満3歳未満の子を養育するための育児休業等の期間について,事業主が日本年金機構に申し出ることにより,被保険者負担分及び事業主負担分の双方が免除される。免除期間は,将来の年金額の計算に当たり保険料を納めた期間として扱われる。

2 司法修習生の場合

司法修習生が出産する場合,国民健康保険から出産育児一時金の支給を受けることができるにとどまり,出産手当金及び育児休業給付に相当する所得保障はない。産前産後休業及び育児休業の制度もなく,前記第4の2のとおり修習単位ごとの欠席日数の上限が適用されるため,出産及び育児のために長期間修習を離れることは制度上想定されていない。長期間の欠席が必要となる場合には,いったん罷免された上で次年度の司法修習生として再採用される必要がある。

もっとも,前記第3の2の欠席承認の運用基準は,産前産後についても国家公務員の特別休暇の例により欠席を承認することができるものとしており,欠席そのものが認められないわけではない。むしろ注意を要するのは,同基準が,出産した司法修習生について「当該司法修習生の希望があれば,産後6週間を経過しない場合でも,医師の診断書その他を徴し,配属庁会の長において支障がないと認めたときは,修習をさせることができる」としている点である。前記第5の1のとおり,民間労働者については産後6週間の就業が本人の請求の有無にかかわらず禁止されているのと対照的であり,これは,司法修習生に労働基準法の適用がないことの帰結である。

司法修習の期間が2年であった時代には,女性の司法修習生が修習中に出産しても必要出席日数をぎりぎりでクリアして罷免されずに済んだ例があったとされる。東京弁護士会の会報「LIBRA」2015年4月号に掲載された第25期の酒井幸弁護士の体験談には,「修習生に産休はなく,2年間の総欠席日数のリミットの範囲で,産前は約1ヶ月休み,産後は11月下旬に始まる後期修習から出た。弁護修習の欠席日数は,多少おまけをしていただいたような気がする。」との記載がある。愛知県弁護士会が公開している「女性法曹に聞く法曹の魅力」と題する座談会記事にも,「修習中に出産しましたので、弁護士になった時点で、子どもが1人いました。」という発言が収録されている。現行の司法修習は1年間であるから,当時よりも日数上の余裕は小さい。

第6 最低賃金法との関係

1 研修医の場合

最低賃金法2条1号は,同法にいう労働者を労働基準法9条に規定する労働者と定義しており,労働者に当たらなければ最低賃金の保障は及ばない。最高裁判所平成17年6月3日判決(関西医科大学研修医事件・平成14年(受)第1250号・民集59巻5号938頁)は,臨床研修について「医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している」とした上で,「研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たる」と判示した。労働者性が肯定されるのは指揮監督の下で医療行為等に従事したと評価できる限度であって,臨床研修に参加していれば当然に労働者となるという趣旨ではない。同判決は,病院が奨学金等を所得税法上の給与等として源泉徴収していた事実も,労働者性を基礎づける事情として挙げている。

その控訴審である大阪高等裁判所平成14年5月9日判決(労働判例831号28頁)は,病院側が前記第1の3の商船大学等の工場実習生に関する通達を援用したのに対し,患者に対する関係において研修医の行為と研修医でない医師の行為とが明確に区別されているとは認められず,研修医の勤務状況も病院において管理されていたとして,「このことは,司法修習生,あるいは看護婦ないし看護人養成所の生徒についての現行の扱いを考慮しても同様である」と述べている。裁判所が,司法修習生が労働者として扱われていないことを前提としつつ,研修医についてはこれと異なる結論を導いていることが読み取れる。

労働者性が認められた結果として,研修医には労働時間規制も及ぶ。医師の時間外・休日労働の上限規制は令和6年4月1日から適用されており,原則として年960時間であるが,臨床研修及び専門研修等のために指定を受けた医療機関において当該業務に従事する医師については年1860時間を上限とする水準が設けられている。あわせて,連続勤務時間の上限(28時間)及び勤務間インターバル(9時間)といった追加的健康確保措置が課されている。研修医の労働時間と精神的健康との関係については国内の全国調査に基づく医学研究が複数公表されており,年間の時間外労働を960時間から1200時間程度に抑えることが精神的健康と教育効果の均衡点となり得ることを示唆する報告や,過重労働がバーンアウトと有意に関連することを報告するものがある。

2 司法修習生の場合

司法修習生は労働者に当たらないため,最低賃金法の適用がない。第71期以降の司法修習生には,修習給付金の基本給付金として月額13万5000円が支給される(裁判所法67条の2第3項,司法修習生の修習給付金の給付に関する規則)。このほか,自ら居住するため住宅を借り受けて家賃を支払っている場合には住居給付金として月額3万5000円が,修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合には路程に応じた移転給付金が,それぞれ支給される(同条4項,5項)。これらの額は,第71期から第79期に至るまで改定されていない。

仮に司法修習が労働に該当するとした場合の水準を確認する。令和7年11月1日発効の埼玉県最低賃金は時間額1141円であるから,1日8時間として30日分に換算すると,1141円×40時間×30日÷7日=19万5600円となる。基本給付金の月額13万5000円は,この約69%にとどまる。なお,令和8年7月28日の中央最低賃金審議会の答申は,令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を全国加重平均で55円の引上げ(改定後の全国加重平均は1176円)とし,埼玉県が属するAランクについては54円としているから,同年秋以降に発効する改定によりこの差はさらに拡大する見込みである。

修習給付金及び修習専念資金の制度の沿革,貸与制との関係並びに税務上の取扱いは,司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金で詳しく扱っている。

第7 労働時間等の管理

1 民間労働者の場合

労働基準法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,これに該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない(最高裁判所平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件・平成7年(オ)第2029号))。憲法27条2項は,賃金,就業時間,休息その他の勤労条件に関する基準は法律でこれを定めると規定している。

労働時間の把握については,平成29年1月20日付けの「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が,使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し記録すべきこと,原則としてタイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎とすべきことを示している。同ガイドラインは,参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や,使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間も労働時間として扱わなければならないとしている。さらに,平成31年4月1日からは労働安全衛生法66条の8の3により,事業者は面接指導を実施するため厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないこととされ,把握義務が法律上の義務となった。労働関係に関する重要な書類の保存期間は,労働基準法109条では5年間とされているが,同法附則143条1項により当分の間は3年間である。賃金請求権の消滅時効も,同法115条では5年であるが,同法附則143条3項により当分の間は3年である。

時間外労働については,平成31年4月1日(中小事業主については令和2年4月1日)から罰則付きの上限規制が適用されている。時間外労働の限度時間は原則として1か月について45時間及び1年について360時間であり(労働基準法36条4項),臨時的な特別の事情がある場合であっても,1か月について時間外労働と休日労働の合計が100時間未満,1年について時間外労働が720時間以内でなければならず,限度時間を超えることができる月数は1年について6か月以内である(同条5項,6項)。

2 司法修習生の場合

司法修習生についても,登庁又は出勤の状況は出勤簿等によって把握され,何らかの理由で登庁又は出勤が遅れた場合には遅参届を提出する必要がある。しかし,これは修習の実施状況を確認するためのものであって,労働時間を適正に管理するための仕組みではない。

司法修習は,法曹三者となるために参加することが義務づけられている教育訓練の受講に当たるが,前記第1のとおり司法修習生は労働者ではないから,前記第7の1の労働時間概念も上限規制も及ばない。給費制廃止違憲訴訟において,司法修習生の側は,配属地の指定に伴う地理的制約,原則として平日午前9時から午後5時までの登庁義務,在庁時間の出勤簿等による管理,指導担当者の許可なく修習場所を離れられないこと,遅参や病欠の場合に正当な理由を記載した書類を提出して許可を得る必要があることなどを挙げて,強い時間的・場所的拘束を受けていると主張した。しかし,前記第1の2の大分地方裁判所判決が述べるとおり,裁判所は,これらの事情を考慮しても前提となる労務の提供が認められない以上,労働者性を肯定することはできないとの立場を採っている。

第8 職場のハラスメントに関する保護

1 民間労働者の場合

事業主は,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2第1項)。この措置義務は,大企業について令和2年6月1日から,中小事業主について令和4年4月1日から適用されている。事業主は,労働者が相談を行ったこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(同条2項)。あわせて,妊娠,出産,育児休業等に関するハラスメントの防止措置は平成29年1月1日から事業主に義務づけられている。

さらに,令和7年の改正により,顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)に関する雇用管理上の措置及び求職者等に対するセクシュアルハラスメントに関する措置が義務化され,令和8年10月1日から施行されることとなっている。

2 司法修習生の場合

司法修習生は,配属先の裁判所,検察庁及び弁護士会並びに指導担当弁護士との関係において労働者ではないから,前記第8の1の措置義務の直接の対象とならない。事業主が講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は,第6項において「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容」を定めており,事業主は「個人事業主,インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮する」ことが望ましいとされているが,これは義務ではなく望ましい取組にとどまる。したがって,司法修習生が修習先でハラスメントを受けた場合,相談体制の整備等を法的に義務づける規定は存在しないことになる。

なお,法律事務所内のハラスメントについては,弁護士に対する懲戒処分がされた例があり,勤務弁護士に対する暴行,激しい叱責及び蔑称を用いた電子メールの送信等を違法なハラスメントとして慰謝料の支払を命じた横浜地方裁判所川崎支部令和3年4月27日判決(労働判例1280号57頁)もある。もっとも,これらはいずれも労働者又は法律事務所の構成員に関するものであり,司法修習生を直接の対象とするものではない。

第9 労働基本権の有無

1 民間労働者の場合

憲法28条並びに労働組合法及び労働関係調整法に基づき,労働基本権として団結権,団体交渉権及び団体行動権(典型例が争議権である。)が保障されている。労働組合法1条2項は,労働組合の団体交渉その他の行為であって同条1項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて刑法35条の規定の適用があるとしつつ,いかなる場合においても暴力の行使は労働組合の正当な行為と解釈されてはならないとしている。

使用者による次の行為は,不当労働行為として禁止されている(労働組合法7条)。①組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い及び黄犬契約(1号),②正当な理由のない団体交渉の拒否(2号),③労働組合の結成又は運営に対する支配介入及び経費援助(3号),④労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い(4号)である。不当労働行為があった場合には都道府県労働委員会に対する救済申立てができ,行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件については受けることができない(同法27条2項)。都道府県労働委員会の発した命令に不服がある当事者は,中央労働委員会に対する再審査の申立て又は地方裁判所に対する取消訴訟の提起をすることができる。

団体交渉の拒否については,使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができる(最高裁判所令和4年3月18日判決(山形大学事件・令和3年(行ヒ)第171号))。

2 国家公務員の場合

国家公務員のうち,行政執行法人の職員には団結権及び団体交渉権(団体協約締結権を含む。)が認められ,非現業職員には団結権及び団体交渉権(ただし,団体協約締結権を除く。)が認められる。もっとも,自衛隊員については自衛隊法64条により,警察職員並びに海上保安庁又は刑事施設において勤務する職員については国家公務員法108条の2第5項により,職員団体の結成及びこれへの加入が禁止されている。

国家公務員の場合,民間企業の労働組合に相当するものとして職員団体がある(国家公務員法108条の2,108条の3。裁判所職員については裁判所職員臨時措置法により同法の規定が準用される。)。裁判所には全司法労働組合(裁判所書記官,裁判所事務官,裁判所速記官,家庭裁判所調査官等で構成される。)があり,法務省には全法務省労働組合がある。管理職員等と管理職員等以外の職員とは同一の職員団体を組織することができず,両者が組織する団体は同法にいう職員団体ではない(同法108条の2第3項)。これは,管理職員等とその他の職員とでは労使関係における立場を異にし利害が対立する関係にあるため,両者が混在して同一の団体を組織することは職員団体本来の目的を民主的かつ自主的に追求する健全な基礎を欠くと判断されるためである。行政機関職員の職員団体は人事院に,裁判所職員の職員団体は最高裁判所に登録を申請することにより,法人となることができる(職員団体等に対する法人格の付与に関する法律3条1項1号,2号)。

裁判官については,解釈上,団結権及び団体交渉権が認められていない。第29期の大谷直人最高裁判所事務総局人事局長は,平成22年11月16日の衆議院法務委員会において,「これまで我が国におきまして、裁判官の労働基本権ということが問題となった事例がございません」として意見を述べることを差し控えるとした上で,「従来から、裁判官につきましては、憲法によって報酬あるいは身分といったものについて強い保障を受けるとともに、職務の執行についてもその独立性が強く保障されているわけでございます。一般の勤労者のように、使用者と対等の立場に立って経済的地位の向上あるいは労働条件の改善を図る必要がない、こういった理由から、裁判官に、労働組合を結成し、またはこれに加盟する権利は認められない、このように理解されてきたものと承知しております。」と答弁した。

3 地方公務員の場合

地方公務員のうち,企業職員には団結権及び団体交渉権(団体協約締結権を含む。)が認められ,非現業職員には団結権及び団体交渉権(ただし,法的拘束力のない書面による協定を締結する権限までに限る。)が認められる。警察職員及び消防職員については,地方公務員法52条5項により,職員団体の結成及びこれへの加入が禁止されている。

地方公務員の場合も,民間企業の労働組合に相当するものとして職員団体がある(地方公務員法52条,53条)。管理職員等と管理職員等以外の職員とが同一の職員団体を組織することができない点は国家公務員と同様である(同法52条3項)。地方公共団体の職員団体は,人事委員会又は公平委員会に登録を申請することにより法人となることができる(職員団体等に対する法人格の付与に関する法律3条1項3号)。

4 司法修習生の場合

司法修習生は労働者ではないから,憲法28条の労働基本権は保障されない。国家公務員でも地方公務員でもないため,職員団体を結成して当局と交渉する制度も存在しない。修習の内容及び条件について司法修習生の側が制度的に意見を述べる仕組みは,法令上用意されていない。

第10 労働基本権の制約に対する代償措置

1 国家公務員の場合

行政機関の国家公務員については人事院が置かれ,給与,勤務時間その他の勤務条件について国会及び内閣に対する勧告又は報告を行う。全農林警職法事件に関する最高裁判所大法廷昭和48年4月25日判決(昭和43年(あ)第2780号)は,公務員の争議行為の制約について,次のとおり判示した(改行を加えた。)。

その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに公務員は、法律によつて定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであつて、人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。

そして、公務員たる職員は、個別的にまたは職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置要求をし、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれているのである。

このように、公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのである。

裁判所職員については,最高裁判所に行政不服審査委員会が置かれているものの,その権限は準司法的なものにとどまり,勤務条件についての勧告機能は有していない。

2 地方公務員の場合

都道府県及び指定都市は,条例で人事委員会を置くものとされ(地方公務員法7条1項),指定都市以外の市で人口15万以上のもの及び特別区は,条例で人事委員会又は公平委員会を置くものとされ(同条2項),人口15万未満の市,町,村及び地方公共団体の組合は,条例で公平委員会を置くものとされている(同条3項)。人事委員会は,人事行政に関する調査,研究,企画,立案及び勧告等を行い,職員の競争試験及び選考を実施し,並びに職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査するのに対し,公平委員会の権限は勤務条件に関する措置の要求及び不利益処分の審査等に限られる(地方自治法202条の2第1項,2項)。人事委員会及び公平委員会が処理する事務の詳細は地方公務員法8条に定められており,人事委員会については,勤務条件等に関する研究成果の提出,給与に関する報告及び勧告,職員の競争試験及び選考の実施並びに労働基準監督機関としての職権の行使等がこれに含まれる。

3 司法修習生の場合

司法修習生については,そもそも労働基本権が保障されていないため,その制約に対する代償措置という制度枠組みが存在しない。人事院勧告に相当する仕組みも,勤務条件に関する措置要求に相当する仕組みもない。修習給付金の額は最高裁判所規則で定められるが(裁判所法67条の2第3項),その額の改定を求める制度上の手続は司法修習生の側に用意されていない。

第11 民間労働者と司法修習生の対応関係

以上を整理すると,次のとおりである。

項目民間労働者司法修習生
労働基準法上の労働者性ありなし(労働基準法の適用なし)
採用原則として使用者に採用の自由がある欠格事由に該当しない限り採用される
休暇年次有給休暇(労働基準法39条)。年5日の時季指定義務あり休暇の制度はない。欠席承認の運用基準がある
傷病時の所得保障健康保険の傷病手当金(通算1年6か月)なし。修習給付金の支給が続くにとどまる
出産出産育児一時金50万円,出産手当金,育児休業給付国民健康保険からの出産育児一時金のみ
産後の就業禁止産後6週間は絶対的に就業禁止本人の希望と医師の診断書等により産後6週間以内でも修習可
最低賃金適用あり適用なし(基本給付金月額13万5000円)
労働時間規制労働時間の把握義務及び時間外労働の上限規制ありいずれも適用なし
ハラスメント事業主に雇用管理上の措置義務措置義務の対象外(指針上「望ましい取組」にとどまる)
労働基本権団結権,団体交渉権及び団体行動権なし
代償措置(制約されないため問題とならない)なし
社会保険料給与から控除。休職中も負担継続給与控除はないが国民健康保険料等を自己負担

第12 関連記事

司法修習生の地位及び取扱いについては,次の記事も参照されたい。

労災保険並びに休職及び症状固定後の社会保険の一般的な取扱いについては,労災保険休職期間中の社会保険及び税金及び症状固定後の社会保険及び失業保険で扱っている。

出典・参考資料

法令

  • ① 裁判所法(e-Gov法令検索)66条,67条,67条の2,68条
  • ② 労働基準法(e-Gov法令検索)3条,9条,32条,36条,39条,65条,109条,115条,附則136条,附則143条
  • ③ 最低賃金法(e-Gov法令検索)2条,4条,40条
  • ④ 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(e-Gov法令検索)9条,30条の2,同法施行規則1条の3
  • ⑤ 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)66条の8の3
  • ⑥ 健康保険法(e-Gov法令検索)39条,99条,101条,102条,同法施行令36条
  • ⑦ 介護保険法(e-Gov法令検索)9条
  • ⑧ 国民年金法(e-Gov法令検索)7条
  • ⑨ 厚生年金保険法(e-Gov法令検索)18条
  • ⑩ 雇用保険法(e-Gov法令検索)8条,9条
  • ⑪ 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(e-Gov法令検索)4条の2,15条
  • ⑫ 労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索)31条
  • ⑬ 育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(e-Gov法令検索)5条,9条,10条
  • ⑭ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(e-Gov法令検索)5条
  • ⑮ 障害者の雇用の促進等に関する法律(e-Gov法令検索)5条
  • ⑯ 労働組合法(e-Gov法令検索)1条,7条,27条
  • ⑰ 国家公務員法(e-Gov法令検索)108条の2,108条の3
  • ⑱ 地方公務員法(e-Gov法令検索)7条,8条,52条,53条
  • ⑲ 職員団体等に対する法人格の付与に関する法律(e-Gov法令検索)3条

裁判例

  • ① 最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件・昭和43年(オ)第932号・民集27巻11号1536頁)裁判所ウェブサイト
  • ② 最高裁判所第一小法廷平成15年12月22日判決(平成13年(行ヒ)第96号・各不当労働行為救済命令取消請求事件)裁判所ウェブサイト
  • ③ 最高裁判所第二小法廷昭和48年3月2日判決(昭和41年(オ)第848号・民集27巻2号191頁)裁判所ウェブサイト
  • ④ 最高裁判所第二小法廷平成12年3月31日判決(日本電信電話事件・平成8年(オ)第1026号)裁判所ウェブサイト
  • ⑤ 最高裁判所第一小法廷平成25年6月6日判決(八千代交通事件・平成23年(受)第2183号)裁判所ウェブサイト
  • ⑥ 最高裁判所第二小法廷平成5年6月25日判決(沼津交通事件・平成4年(オ)第1078号・民集47巻6号4585頁)裁判所ウェブサイト
  • ⑦ 最高裁判所第一小法廷平成10年4月9日判決(片山組事件・平成7年(オ)第1230号)裁判所ウェブサイト
  • ⑧ 最高裁判所第一小法廷平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件・平成7年(オ)第2029号)裁判所ウェブサイト
  • ⑨ 最高裁判所第二小法廷平成17年6月3日判決(関西医科大学研修医事件・平成14年(受)第1250号・民集59巻5号938頁)裁判所ウェブサイト
  • ⑩ 最高裁判所大法廷昭和48年4月25日判決(全農林警職法事件・昭和43年(あ)第2780号)裁判所ウェブサイト
  • ⑪ 最高裁判所第二小法廷令和4年3月18日判決(山形大学事件・令和3年(行ヒ)第171号)裁判所ウェブサイト
  • ⑫ 最高裁判所第一小法廷平成3年4月11日判決(三菱重工業神戸造船所事件・平成元年(オ)第516号)裁判所ウェブサイト
  • ⑬ 最高裁判所第二小法廷昭和42年4月28日判決(昭和38年(オ)第5号・民集21巻3号759頁)裁判所ウェブサイト
  • ⑭ 名古屋高等裁判所令和元年5月30日判決(司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求控訴事件・平成30年(行コ)第5号)裁判所ウェブサイト
  • ⑮ 東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号・訟務月報65巻5号767頁)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラスで全文を確認した。
  • ⑯ 東京高等裁判所平成30年5月16日判決(平成29年(ネ)第4781号・訟務月報65巻5号739頁)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラスで全文を確認した。
  • ⑰ 最高裁判所第二小法廷令和元年7月10日決定(平成30年(オ)第1231号,平成30年(受)第1511号)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラスで確認した。
  • ⑱ 大分地方裁判所平成29年9月29日判決(司法修習生給費制廃止違憲給費等請求事件・判例時報2363号47頁)裁判所ウェブサイト未掲載。D1−Law.com判例体系で全文を確認した。
  • ⑲ 福岡高等裁判所令和元年5月10日判決(司法修習生給費等請求控訴事件・平成30年(ネ)第438号)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラス及びD1−Law.com判例体系で全文を確認した。
  • ⑳ 大阪高等裁判所平成14年5月9日判決(平成13年(ネ)第3214号ほか・労働判例831号28頁)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラスで全文を確認した。
  • ㉑ 東京地方裁判所令和4年1月17日判決(ケイ・エル・エム・ローヤルダツチエアーラインズ事件・令和元年(ワ)第23599号ほか・労働判例1261号19頁)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラスで全文を確認した。
  • ㉒ 横浜地方裁判所川崎支部令和3年4月27日判決(平成28年(ワ)第481号ほか・労働判例1280号57頁)裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書プラス及びD1−Law.com判例体系で確認した。

公文書・国会答弁

  • ① 衆議院法務委員会(平成25年10月30日)における法務省民事局長の答弁(国会会議録検索システム
  • ② 衆議院法務委員会(平成22年11月16日)における最高裁判所事務総局人事局長の答弁(国会会議録検索システム
  • ③ 司法修習生の欠席承認に関する運用基準(平成30年4月3日付け司法研修所長通知,同月25日実施)
  • ④ 平成29年4月24日付け及び平成29年5月12日付けの各司法行政文書不開示通知書

行政資料

  • ① 厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」(令和6年10月時点)(厚生労働省
  • ② 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)
  • ③ 労働基準関係法制研究会報告書(令和7年1月)(厚生労働省
  • ④ 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)(厚生労働省
  • ⑤ 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日)(厚生労働省
  • ⑥ 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省
  • ⑦ 育児・介護休業法について(厚生労働省
  • ⑧ 埼玉県最低賃金は令和7年11月1日から時間額1141円に改正(埼玉労働局

裁判所・弁護士会資料

  • ① 裁判所ウェブサイト「司法修習生」(裁判所
  • ② 裁判所ウェブサイト「司法修習生の修習給付金について」(裁判所
  • ③ 東京弁護士会「LIBRA」2015年4月号54頁「湯島2期…「司法の危機」時代の青春」(東京弁護士会
  • ④ 愛知県弁護士会「特集『女性法曹に聞く法曹の魅力』」(愛知県弁護士会

文献

  • ① 芦原一郎『実務家のための労働判例読本 2023年版』(経営書院,2023年)224頁~226頁
  • ② Ishikawa M. Relationships between overwork, burnout and suicidal ideation among resident physicians in hospitals in Japan with medical residency programmes: a nationwide questionnaire-based survey. BMJ Open. 2022;12(3):e056283. PMID 35273058
  • ③ Nagasaki K, Nishizaki Y, Shinozaki T, et al. Association between mental health and duty hours of postgraduate residents in Japan: a nationwide cross-sectional study. Scientific Reports. 2022;12:10626. PMID 35739229