第1 欠席,休暇及び修習停止を区別する
1 司法修習生には「休暇」という概念がない
司法修習生は,裁判所法67条2項により修習専念義務を負う。
司法研修所の「司法修習ハンドブック」は,司法修習が労働の提供と本質的に異なるため,司法修習生には休暇という概念がなく,土曜日,日曜日,祝日及び12月29日から翌年1月3日までの休日等以外の日に修習できない場合は,原則として欠席として扱うと説明している。
したがって,会社員の年次有給休暇のように,本人の請求だけで一定日数を自由に休める制度として理解することはできない。
病気,妊娠・出産,忌引又は就職活動で修習しない日も,まずは欠席に当たり,その欠席について正当な理由があるとして承認を受けられるかが問題となる。
2 承認欠席と無断欠席は異なる
正当な理由による欠席は,事前に欠席承認申請書を提出し,司法研修所長又は配属庁会の長の承認を受けるのが原則である。
急病その他の緊急かつやむを得ない事情があるときは,速やかに担当者へ連絡した上で事後承認を求めることになる。
これに対し,承認を得ない欠席は,修習期間に欠落を生じさせるだけでなく,それ自体が規律違反となり得る。
欠席の理由がもっともらしいかだけでなく,定められた申請・連絡を行ったかも重要である。
3 修習停止は懲戒的措置である
修習停止は,病気等のため一時的に修習を休む制度ではない。
裁判所法68条2項及び司法修習生に関する規則17条2項に基づき,品位を辱める行状,修習の態度の著しい不良その他これらに準ずる事由がある場合に,最高裁判所が命じる懲戒的措置である。
病気又は妊娠・出産によって必要な承認欠席と,非違行為を理由とする修習停止を混同してはならない。
病気等によって修習の継続が困難となる場合は,裁判所法68条1項に基づく罷免の問題となり得るが,これも同条2項の修習停止とは法的性質が異なる。
第2 欠席日数が修習終了と成績に及ぼす影響
1 45日は自由に休める日数ではない
司法修習生に関する規則6条は,病気その他の正当な理由によって修習しなかった45日以内の期間を,修習した期間とみなす。
この規定は,45日まで自由に休める権利を与えるものではなく,個々の欠席について正当な理由と承認が必要であることを前提に,修習期間の欠落を救済する規定である。
正当な理由があっても,修習しなかった日数が通算45日を超えると,超過部分について規則6条のみなし規定を利用できない。
もっとも,46日目に直ちに自動的に罷免されるという規定ではなく,履修状況,修習継続の見込み及びその後の手続を個別に確認する必要がある。
2 各修習単位には別の2分の1基準がある
通算日数だけでなく,分野別実務修習の各クール,集合修習その他の各修習単位における欠席割合も問題となる。
公開されている司法研修所文書は,一つの修習単位で修習を要する日の2分の1を超えて欠席した場合,その修習単位の成績を原則として「不可」と扱うと説明している。
したがって,通算45日以内であっても,短い修習単位に欠席が集中すれば成績に重大な影響が生じ得る。
特に,選択型実務修習の全国プログラム・個別修習プログラム,導入修習・集合修習の修習日,合同修習日及び家庭裁判所における修習日は代替性が乏しいため,欠席を承認できる場面が限られるとされている。
3 自由研究日と自宅起案日は休暇ではない
自由研究日は,出席及び具体的な修習課題を行うことを要しない日であり,通常は欠席として扱われない。
もっとも,自主的に修習の実を上げるための日であって,休暇ではない。
自宅起案日は,指定された課題を行って所定の日に提出することを前提に出席を要しない日である。
旅行その他の私的予定に自由に使える日ではなく,課題を行えなければ欠席の問題が生じる。
第3 病気・けがによる欠席
1 必要最小限度の期間について承認を求める
負傷又は疾病のため療養が必要であり,修習しないことがやむを得ないと認められる場合は,必要最小限度の期間に限って欠席承認の対象となる。
症状名だけで当然に一定日数が認められるわけではなく,療養の必要性と予定されている修習内容への支障が検討される。
2 長期化する場合は資料と履修見込みを早期に示す
司法修習ハンドブックは,5日以上連続して欠席する場合には,医師の証明書その他修習できない理由を十分に明らかにする書面の提出を求めている。
短期間で回復する見込みがない場合は,診断書を提出するだけでなく,各修習単位の残日数,代替可能な修習の有無及び通算欠席見込みを早期に確認する必要がある。
病気による承認欠席は,懲戒的な修習停止ではない。
一方,心身の故障により修習を継続することが困難となれば,裁判所法68条1項及び司法修習生に関する規則17条1項の罷免事由が問題となり得るため,長期欠席について「承認さえ得れば期間に制限がない」と考えることもできない。
第4 妊娠・出産による欠席
1 労働基準法上の産前産後休業とは別の制度である
司法修習は労働の提供と本質的に異なると説明されているため,妊娠・出産時の取扱いを労働基準法上の産前産後休業が直接適用される問題として説明することはできない。
司法研修所の公開文書は,国家公務員の特別休暇の例を参照して,出産前後に必要な欠席を承認する運用を示している。
平成30年4月25日施行の欠席承認運用基準は,出産予定日の6週間前,多胎妊娠の場合は14週間前からの申出及び出産した場合を挙げている。
もっとも,公開されている2024年1月の司法修習ハンドブックは,出産前後に欠席が認められる期間は特別休暇の例と基本的に同様であるとしつつ,各修習単位の欠席日数の制限に留意するよう求めている。
2 出産予定日と修習単位を重ねて確認する
妊娠・出産そのものは,非違行為を理由とする修習停止の事由ではない。
実際には,出産予定日,医師の指示,欠席見込み,その時期の修習単位,既に履修した日数及び代替可能性を一緒に検討する必要がある。
出産予定日が導入修習,集合修習,合同修習又は短期間の選択型実務修習と重なる場合は,欠席が成績又は修習終了へ及ぼす影響が大きくなりやすい。
体調が不安定になってから初めて相談するのではなく,見込みが分かった段階で司法研修所又は配属庁会の担当者へ連絡し,必要書類と選択肢を確認することが重要である。
第5 忌引及び就職活動による欠席
1 忌引は親族の範囲と必要な行事を確認する
配偶者,父母,子その他の一定の親族が死亡し,葬儀,服喪その他の行事のため修習しないことがやむを得ない場合は,国家公務員の特別休暇の例を参照して欠席が承認される。
一定範囲外の親族であっても,参列しないと社会的儀礼を欠く結果となる具体的事情があれば,承認される場合がある。
「忌引」という名称だけで日数が決まるのではなく,死亡した親族との関係,葬儀等の日程,移動の必要性及び当日の修習内容を伝えて承認を求めるべきである。
公開ハンドブックは一律の日数表を掲載していないため,必要日数はその時点の運用を担当者へ確認する必要がある。
2 就職活動は原則5日,事情により7日程度が目安となる
弁護士事務所訪問等の就職活動を理由とする欠席は,導入修習期間中を除き,合計5日間まで承認される。
遠方での就職を予定するなど,5日を超える欠席が必要と認められるときは,合計7日間程度が承認される場合もある。
公務員試験及び資格試験の受験も,就職活動の一環として承認の対象となる。
他方,内定先の勉強会又は内定者歓迎会のように採否と関係しない行事は対象とならず,夕方の面接のために朝から一日欠席するなど必要最小限度を超える申請も認められない場合がある。
就職活動の時期と修習開始前の準備については,司法試験合格後から司法修習開始まで―採用申込み,実務修習地,住居・社会保険及び就職活動の期限(AI作成)も参照されたい。
第6 修習停止の期間と欠席日数
1 期間は1日以上20日以下である
司法修習生に関する規則18条1項は,修習停止の期間を1日以上20日以下と定める。
停止の長さと開始日は一律ではなく,対象となる非違行為に応じて最高裁判所が定める。
修習停止を命じられた者は,停止期間中も司法修習生の身分を保有するが,修習をすることができない。
制度の根拠と公表例については,71期以降の司法修習生に対する戒告及び修習の停止(AIリライト)を参照されたい。
2 停止期間は欠席として通算される
修習停止により修習できなかった日は欠席として扱われ,改めて欠席承認を求める必要はない。
ただし,停止日数は,その他の正当な理由による欠席と合わせて45日基準を検討する際の修習しなかった日数に含まれ,各修習単位で2分の1を超えるかどうかの計算にも影響する。
修習停止が20日以下であっても,既に病気等の欠席がある場合や,停止期間が短い修習単位に集中する場合は,修習終了又は成績への影響が小さいとは限らない。
第7 修習給付金への影響
1 通常の承認欠席は日割り事由として列挙されていない
司法修習生の修習給付金の給付に関する規則は,基本給付金及び住居給付金を日割り計算する事由として,通常修習期間の末日の属する給付期間,司法修習生としての身分を保有しない期間及び修習停止期間等を定めている。
病気,妊娠・出産,忌引又は就職活動による通常の承認欠席は,それ自体では日割り事由として列挙されていない。
したがって,公開されている規則上,承認欠席の日数だけを理由として基本給付金又は住居給付金が日割りで減額される仕組みではない。
ただし,欠席が長期化して通常修習期間内に修習を終えられず,罷免,身分を保有しない期間又は再採用が生じる場合は,別の問題となる。
2 修習停止期間は基本給付金・住居給付金が日割りになる
修習停止期間を含む給付期間の基本給付金は,その給付期間の現日数を基礎として日割り計算される。
住居給付金も同様に,修習停止期間を含む給付期間について日割り計算される。
これは欠席一般の効果ではなく,裁判所法68条2項による修習停止に特有の給付上の効果である。
給付金額,税金及び社会保険の全体像については,司法修習生に給料はあるか―修習給付金の支給額・手取り,税金,国保・年金及び扶養判定(AIリライト)も参照されたい。
3 罷免後は身分非保有期間が日割り対象となる
給付期間の途中で罷免された場合は,罷免日の翌日から給付期間の末日までが司法修習生としての身分を保有しない期間となり,基本給付金及び住居給付金は日割り計算される。
再採用された場合も,給付期間の初日から再採用日の前日までの身分非保有期間が日割り計算の対象となる。
承認欠席,修習停止,罷免及び再採用では,身分の有無と給付金への効果が異なる。
個別の支給額は,最高裁判所の修習給付金案内に記載された担当窓口へ確認すべきである。
第8 欠席が必要になったときの確認手順
1 先に担当者へ連絡し,承認権者と様式を確認する
欠席が必要となる可能性が分かった時点で,司法研修所又は当該修習単位を担当する配属庁会へ連絡する。
申請先,提出期限,欠席承認申請書の様式及び診断書等の疎明資料は,修習段階によって異なり得るため,自己判断で後回しにしないことが重要である。
急病等で事前申請ができない場合も,まず電話等で連絡し,事後承認に必要な手続を確認する。
連絡があり,承認されるまでは無断欠席として扱われ得ることに注意を要する。
2 二つの日数と当日の修習内容を確認する
欠席の見込みを,①全修習期間の通算日数と,②現在の修習単位で修習を要する日に対する割合の二つに分けて計算する。
同じ一日の欠席でも,代替できない講義・見学の日か,他の日に補える実務修習の日かによって承認判断への影響が異なる。
病気又は妊娠・出産で長期化する可能性がある場合は,欠席日だけでなく,復帰見込み,医師の指示及び代替可能な修習も一覧にして相談する。
就職活動の場合は,面接等の開始時刻,移動時間及び他の日程を示し,必要最小限度の申請であることを説明できるようにする。
第9 出典・参考資料
1 法令・最高裁判所規則
①e-Gov法令検索「裁判所法」67条,67条の2及び68条(令和8年8月29日確認)。
②「司法修習生に関する規則」(昭和23年最高裁判所規則第15号)6条,17条及び18条。令和7年度第77期司法修習生考試委員会参考資料2に収録された令和7年2月12日改正表示の本文で確認。
③最高裁判所「司法修習生の修習給付金の給付に関する規則」1頁~2頁。
2 司法研修所・最高裁判所の公開文書
①司法研修所「司法修習ハンドブック」(2024年1月)17頁~25頁。
②司法研修所長「司法修習生の欠席承認に関する運用基準について」(平成30年4月3日付け,平成30年4月25日施行)1頁~4頁。
③最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和3年度(最情)答申第19号2頁。
④最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」(令和8年8月29日確認)。